カブコム証券元社員によるインサイダー取引事例の衝撃
このたびのカブドットコム証券元社員の方のインサイダー取引(課徴金勧告事例)については、いろいろと考えさせられる点がありますね。事例そのものは典型的な他人名義利用による自社株取引ということでありますが、ちょっと理解に苦しむのが社長さんによる事前のメール送信(社員全員への)というものであります。これ、本当に「ついうっかり」なのでしょうか。
今回の事案が2007年3月から11月ころまでの重要事実(自社に対するTOB)に関するものであり、ほぼ2年前の出来事ではありますが、2年前といえば、すでにインサイダー規制についてのリーガルリスク(社内から犯罪者を出さないためのインサイダー防止体制の構築)は世間でも話題になっていたところですし、ましてや金融機関ということになりますと、率先して体制整備を行っていたところではないでしょうか。かくいう私も、2006年の12月には某企業の役員として「企業統合に関する重要事実」を約2週間ほど抱えていたわけでありまして、定期的に決算情報を抱えるのとは比べ物にならないほどのインサイダーの恐怖に耐えながら正月を迎えた記憶があります。一般の上場企業の役員でさえ、あれだけ恐怖におののいていたインサイダー規制であるにもかかわらず、どうして金融機関の社長さんは重要事実が公表される前にTOBに関する重要事実を全社員にメール送信してしまったのでしょうか?こうやって、後から冷静に批評するのは簡単でありますが、なにかよほどの事情があったのではないかと推測するのでありますが、どうも解せません。自社株売買管理規定によって、おそらく全役職員に対しては自社株売買に関する事前届出が義務付けられていたものと思われますので、まさかあわてて「重要事実が公表されるまでは自社株の売買はしてはいけません」と告知した・・・というわけでもないですよね。
そしてもうひとつきちんと頭で整理できないのが証券取引等監視委員会(SESC)の調査方法であります。先日の某大手証券社員と会計士さんによるインサイダー事例の場合には、社内の情報を社外に持ち出したことで、社外の会計士さんが課徴金処分の対象となったわけですから、調査の段階で社外の会計士さんが対象者として浮上してくることについてはなんら問題はありません。しかし、このたびは親戚でもない社外の知人(昔からの友人)の取引口座を用いて、この知人とともに情報提供者側も割り出された、ということでありまして、そうしますと、どうやってこの金融機関側の対象者を特定できたのでしょうか。この知人に対する事情聴取のなかで、「○○さんから情報を教えてもらった」とか「○○さんから、一緒にやらないかと誘われたからやってしまった」との事情を入手したために調査が進展した、ということなんでしょうか。それとも、インサイダー情報の漏えいが1回きりであったら調査困難だったが、2回も漏えいされたことによって、調査対象が絞られたのでしょうか。もしくは普段から二人が「共同投資家」であったがゆえに、偶然にも社内の人物が特定できた・・・というものなのでしょうか?いずれにしましても、おそらく今回のパターンにつきましては、「これならインサイダー情報を活用して儲けても、バレることはない」と一般の方が安心してインサイダー取引をやってしまうパターンの典型だと思いますので、私的には「こういった情報入手者であっても、こうやって調査することでバレてしまいますよ」といった調査の仕組みについても、公表されたほうが「一般予防的には」意義があるのではないか、と思います。
このたび、カブコム社では、著名な弁護士の方によって構成される特別調査チームを組成したそうであります。この委員会の調査目的によって公表される事実については制限されてしまうかもしれませんが、再発防止策だけではなく、発覚に至った経過などについての詳細な調査結果や、他の社員についても(発信されたメールをもとに)インサイダー取引をしていなかったのか、といったあたりの調査報告などを、厳格に開示していただけたら・・・と期待しております。
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コメント
私は、特別調査委員会の調査結果を見る必要があると思いました。何故なら、微妙なタイミングが絡んでいると思いましたので。
即ち、証券取引等監視委員会が指摘したのは、平成19年3月5日のカブドットコム証券26株の総額5,101,000円の買い付けと、平成19年11月14日のカブドットコム証券7.5株の総額1,147,500円の買い付けです。
これを、MFUGのプレスリリースで追いかけると、平成19年3月5日と平成19年11月14日の取締役会におけるTOB決定と同日の発表です。
即ち、全て同じ日であり、時間的な経過を見ないと判断がつかないからです。そして、まさか公表前に、社内メールを送付するなんてことは信じられないからです。私だったら、そんな恐ろしいこと、絶対にしません。せいぜい、社員に文句を言われないために、その日のうちに、メールを発信はするようにしますが。(マスコミの情報源が不明なので、書いてみました。)
投稿: ある経営コンサルタント | 2009年6月 8日 (月) 12時14分
経営コンサルタントさん、ありがとうございます。
そうですよね。従業員を不幸な犯罪に陥れる可能性のあることですから、私も常識的に考えると「絶対にしない」と思います。しかし脇が甘かったということで済むものなのでしょうか?私には、どうしてもメール送信してしまった動機があるのではないかと思うのでありますが。。。いずれにしましても、私も特別調査委員会の報告結果を楽しみにしております。
投稿: toshi | 2009年6月10日 (水) 02時15分
ご指摘の調査するということを公表する仕組みの有効性は賛成です。どこまで行われているかはともかくかなりは実質的に周知されているのではないでしょうか。株価操縦事件に比べ、ある意味シンプルで、重要情報を知っててなのか、知らないか、がポイントです。モロモロの古典的なスタイルは影を潜め、それでも仮名などなんらかカモフラージュしたとしても、SESCは経験ノウハウを蓄積、売買形態やそのタイミングなどをヒントに端緒を掴む。属性把握し、そこにパターン化した、実践に活用しているか知りませんが銘柄及び関与可能者抽出システムが加われば、かなりのところ絞られると思います。
大海から魚を漁獲するというよりは、池の魚を必要なら水抜きして鯉が
うなぎかどじょうか救い上げ、目的の魚を捕らえるイメージでは。
複数銘柄の関与者の重複、同一主幹事案件、事案のタイプなどもヒント
になるような気がします。
さらに言えば、口座設定のタイミングや買付け売却タイミングも行為者の心理を伺う参考になるでしょうし、注文発注の方法も案外心理が出るのではないでしょうか。
投稿: yomoda | 2009年6月10日 (水) 22時55分
Webで公表された特別調査委員会報告書を読みました。100名程度の会社規模で、急成長を遂げ、上場し、上場維持をしたままTOBを受けた会社の運命を見た気もしました。
ガバナンスは社長ワンマン体制で、社内はイエスマンのみ、それを牽制する者はなし。ISOや/IECは箔を付けるためだから、機能しない。
BTMUは、どう思っていたのかな?ガバナンスが機能していない会社を友好的TOBで取得する場合の情報漏れリスクを感じてしまいました。
(特別調査委員会報告書は、常識外の世界を読んでいるようでした。それが、第一種金融取引業の会社で発生している。委員会設置会社の弱さも感じました。)
投稿: ある経営コンサルタント | 2009年7月30日 (木) 22時53分
私も報告書を読みました。
S社長はどういう気持ちでこれを読んだのでしょうか。
彼のことを賞賛してきた一部のひとはどう思われているか…
モノの本によりますと、アメリカでCEOの独走に関して
警告が発せられ始めたのは今から約10年前からだそうですね。
日本もようやく気づきだしたということでしょうか。
投稿: 機野 | 2009年7月30日 (木) 23時47分
経営コンサルタントさん、機野さん、ご意見ありがとうございます。
私も読みました。委員の方も、またこの報告書に登場される方も存じ上げておりますので、ちょっとコメントは差し控えさえてください。ただ、普通はこういった報告書が出ますと、「誠実に対応いたします」と社長のリリースがあったりしますが、そういったリリースはありませんね。
この報告書を受けて、会社側としてどう対応されるのか、今後が注目されますね。
投稿: toshi | 2009年7月31日 (金) 01時41分