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2009年6月11日 (木)

金商法157条と課徴金処分との親和性(金融審SG報告書案)

経産省企業統治委員会の報告書案につづき、本日金融審議会「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」の「~上場会社等のコーポレート・ガバナンスの強化に向けて~」報告書案がリリースされております。(当ブログにお越しの方でしたら、もうすでにお読みになった方もいらっしゃるでしょうね)日経ニュースによりますと、この報告書案でほぼメンバーの同意が得られた、と報じられておりますので、(株式持合いに関する検討に関する文案を除き)このような内容で報告書が公表される・・・ということになるようであります。金融審SG再開の頃に、もっとも話題となっておりました社外独立取締役の設置義務化の件につきましては、やはり経産省企業統治委員会と同じく、制度義務化は見送りということのようでして、メンバーの方々のご意見について「最大公約数」的な内容で落ち着いた・・・というところなのでしょうか。

この報告書を読んで、ふと「法則」めいたものに気づきました。20ページに及ぶ報告書のなかには数々の提言が盛り込まれておりますが、その提言ひとつひとつの最後の決め台詞(締めの言葉)が「・・・べきである」と「・・・する必要がある」と「・・・に期待したい」に分類できるんですね。これは私の推測でありますが、おそらく「・・・・べきである」と提言されている内容は、近々証券取引所自主ルールの改訂によって、実現される(もしくは強く実現を求める)規制内容でして、「・・・・する必要がある」と表現されている内容は、証券取引所ルールによる早急な改訂までは求めるものではないが、会社法や金融商品取引法(政省令も含む)など、法律改正によって実現を求める規制内容を示しているようであります。そして「・・・に期待したい」なる提言は、金融審としてはすぐに実現することへの要求というわけではないが、今後のさまざまな議論の高まりのなかで実現の方向で検討したい、という「他力本願」にも近い提言内容を示しているのではないでしょうか。(おそらくお読みになって、ムッとされている方もいらっしゃるかもしれませんが・・・・・・あくまでも私の推論にすぎません・・・)こういった「法則」があるからこそ、さきほどの日経ニュースにありますように、「銀行と取引先企業との株式持ち合いについては早急に禁止や保有制限をすべきだ」といった委員の意見が相次いだ・・・という記事内容と「報告書の一文をめぐって、意見が相次いだ」という記事内容とが結びつくように思います。(そういえば、6月9日の日経新聞の「許せる減配・許せぬ減配」~一目均衡~ は、株式の政策的保有に関連してなかなかオモシロイ内容でした)

そこで、かりに私の推測が正しいとするならば、金商法157条規制のエンフォースメントとして課徴金制度をとりいれる・・・ということは、報告書(案)5ページの記述からしますと「期待したい」という締め言葉になっておりますので、日経さんが報道されているほどに、課徴金制度が早急に活用されることはないものと思われます。

(不正行為の禁止)
第157条  何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
1  有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等について、不正
 の手段、計画又は技巧をすること。
2  有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等について、重要な事項について虚偽の表示があり、又は誤解を生じさせないために必要な重要な事実の表示が欠けている文書その他の表示を使用して金銭その他の財産を取得すること。
3  有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等を誘引する目的をもつて、虚偽の相場を利用すること。

しかし、こういった包括条項に課徴金制度を導入することが検討される、ということはあまり意識しておりませんでした。インサイダー規制や有価証券報告書虚偽記載への課徴金制度導入ということになりますと、そもそも(ある程度明確な)刑事罰の構成要件が存在するわけでして、また課徴金として賦課されるべき金額の算定基準もそこそこ明確ですから、大きな不安はないわけですが、そもそもどういった行為が157条の規制対象となるのか明確ではないうえに、いったい何をもって(どんな算定方法で)課徴金の金額を決めるのか、という点も曖昧であります。また、課徴金制度は金融庁には原則として摘発するか否かの裁量がない・・・とされておりますので、そういった制度運営上の問題も出てくるでしょうし、(ひょっとしたら)正々堂々と課徴金と憲法違反の論点を争ってくる企業や個人も出てくるかもしれません。ということで、この金商法157条と課徴金導入問題は、ちょっと検討課題が多いのでありまして、やはり「期待したい」の部類に属するのではないかなぁと感じた次第であります。

そしてもうひとつ、エンフォースメントに関する検討課題として金商法192条に基づく裁判所による禁止・停止命令制度の活用が指摘されている点は注目であります。

(裁判所の禁止又は停止命令)
第192条  
裁判所は、緊急の必要があり、かつ、公益及び投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣及び財務大臣の申立てにより、この法律又はこの法律に基づく命令に違反する行為を行い、又は行おうとする者に対し、その行為の禁止又は停止を命ずることができる。
2  裁判所は、前項の規定により発した命令を取り消し、又は変更することができる。
3  前二項の事件は、被申立人の住所地の地方裁判所の管轄とする。
4  第一項及び第二項の裁判については、非訟事件手続法 (明治三十一年法律第十四号)の定めるところによる。

なぜこれに目がとまったかと言いますと、東京のある「金融商品取引法に詳しい」弁護士の方が、だいぶ前から「この制度を活用すべきである」と自身の著書や法律雑誌の対談などでご主張されていたからであります。(こうやって金融審のSGで提言されるということで、先見の明があったんでしょうね・・・いや、きちんと金融審の議論の流れや法案審議の経過を見続けていらっしゃるからでしょうか・・・)法律違反行為があれば必要な処分をすることができるとしましても、投資家保護の観点からは、それだけでは十分ではない場合がありますので、法は行政庁の申立てに基づいて、裁判所が禁止・停止を命じる制度であります。金商法の平成20年改正で、金融庁が証券取引等監視委員会に申立てを委任できるようになったことで、今後の活用が期待される、ということなんでしょうか。いずれにしましても、この金商法192条はこれまで一度も活用されたことがありませんが、外資系投資銀行の日本法人が「ひょっとして財産を海外に持ち出すかも・・・」といった場面で緊急措置として財産保全をかけるように、また「NTTの株式を51%保有しました」なる大量保有報告書が提出されたような場合の開示への対処が求められるように、公益または投資家保護のために機動的な対応が必要な場面というのも、いろいろなところで考えられるでしょうから、今後の議論の深化に文字通り「期待」しております。

本当はもうちょっと報告書案の本論について感想を書きたかったのですが、ずいぶんと長くなってしまいましたので、別の機会とさせていただきます。

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コメント

たしかに法則のようなものが見受けられますね。
「・・・が適当である」というのも散見されますが、これはどういったニュアンスの提言でせうか?

投稿: unknown | 2009年6月11日 (木) 14時40分

今週号(6月15日号)のアエラに、日本の公募増資の独自の慣行と
ルールの盲点(15日以上の周知期間)を突いて、外資がぼろ儲けし
ているという記事が掲載されています。
一般株主が犠牲となっているルールは、即刻、見直すべきではないし
ょうか。

投稿: YAMAYA | 2009年6月11日 (木) 22時05分

yamayaさん、情報ありがとうございました。こういった情報にはすぐ反応してしまう性格なので、普段はほとんど週刊誌は読まないのですが早速購入しました。
いや、なかなか面白いですね。(わずか2頁ではありますが)これ、ブログのネタにしますね。

あと、アエラを読んであの「粉飾の論理」の著者が、新刊書を出されたのを知りました。こっちも早く読みたいです。

投稿: toshi | 2009年6月13日 (土) 16時28分

古い話題で恐縮ですが、公表前の決算情報漏えい事件について15日の日経にこういう記事がありました。


Q 不公正な売買に見えるが、取り締まる法律はないのか。

 A 証券取引等監視委員会は当初、不正な株取引を包括的に禁止した同法の規定に該当しないかどうかを検討し、告発に向け検察当局とも協議していた。ただ今回は企業の情報管理の不徹底で事態が引き起こされた面もあると判断して、立件を見送ったようだ。


とりあえず刑事事件での立件は見送った模様ですが、157条での課徴金処分ということもありえるのでしょうか。

投稿: unknown | 2013年3月17日 (日) 01時58分

unknownさん、ご意見ありがとうございます。
157条のバスケット条項を用いて立件・・・ということですね。
私も可能ではないか、とも思うわけですが、またまた罪刑法定主義との関係で、少し気になるところはあります。
インサイダー取引という形で刑事罰が規定されていますが、これは情報伝達によって情報を受領した場合を処罰するわけで、そこには情報伝達のない場合は刑事罰にあたらない、とも考えられます。また企業の情報管理が適正であれば「不正アクセス法」によって処罰できますが、では情報管理が甘かったら処罰されない、という意味も含まれているのではないか、といった解釈ですね。いくら157条が不正な手段によって市場の公正を害する行為を処罰対象としていても、このように「そもそも罪にはならないのでは」といった行為の疑いがあればどうでしょうね。
最近の日興証券インサイダー事件にも似たところがあるように感じます。

投稿: toshi | 2013年3月20日 (水) 16時09分

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