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2009年7月30日 (木)

コンプライアンス違反を通報する社員はわずか26%(だそうです)

午後6時ころから異常なアクセス数になっていたので、リンク元を調べましたところ、このニュースとともに、私のブログ記事も紹介されておりました。スパイア社(大証ヘラ)と第一法規共同による「会社員1000名に聞いたコンプライアンス・アンケート」の結果がリリースされておりまして、なかなか興味深い結果が出ております。

コンプライアンスを意識している社員が半数程度に上るものの、コンプライアンス違反を上司や内部通報窓口に知らせると回答した方は26%にとどまった、とのこと。また、コンプライアンス研修を受講したことがある、とする社員は60%に上るものの、コンプライアンスに関する会社の方針を十分理解していると回答した方は34%にとどまった、とのこと。つまり①コンプライアンスを意識していても、なにがコンプライアンス違反かわからない、もしくは②法令違反の事実が社内に存在していても、そういった情報は社内に滞留している・・・ということなんでしょうね。「長年の恒例行事だから」とか「前任者がやっていたから」というだけで、おそらく一般の社員の方々はコンプライアンスの意識が希薄化している場合もあろうかと思いますので、「通報しなければならないと思っているが、通報などできない」と考える社員の方の数はそれほど多くはないのではないでしょうか。また社員の方が通報しないのは、通報することによるデメリット(制裁)をおそれてのことかもしれませんので、通報しないことが、直ちにコンプライアンス意識が欠乏していることには結びつかないように思います。ただ、やはり何が通報すべき事実か?ということは社員研修等で周知していかねばなりませんので、コンプライアンスに関する会社の方針が十分社内で理解されていないことについては、会社側も素直に反省しなければならないと思いますし、通報事実が増えるための対策(工夫)も検討する必要があると思います。

社員に関心の高いコンプライアンス問題としては、圧倒的に労働法関連事項(セクハラ・パワハラも含まれています)が多いようですが、これはやはり社員の目にとまりやすい法令違反事項だからだと思います。社内のコンプライアンス・リスクにつきましては、発生可能性を横軸とし、発生した場合の影響度を縦軸としてグラフ化している企業が多いと思いますが、労働問題については発生可能性は高いのですが、おそらく影響度(会社の存亡に関わる度合い)はそれほど高くないものと思われます。むしろ、社員の方々が「うちでは起こらないのではないか」と考えておられる反社会的勢力との癒着問題や、会計不正事件、製品安全事故、インサイダー取引などのほうが、影響度はよほど大きいのでありまして、そのあたりも(通報価値のあるものとして)社内教育の対象になってくるものと思われます。(アンケート結果によりますと、情報漏洩問題などは、影響度も発生可能性も高いコンプライアンス問題として位置づけられるようですね)ご関心のある方は、一度リリースの内容をご検討くださいませ。

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2009年7月29日 (水)

上場会社取締役・監査役必読!(フタバ産業・社外委員会報告書)

(7月29日午前 追記あり)

先日、「第三者委員会VS金融庁なる構図」というエントリーを書きましたが、そこでの議論がふっとんでしまうほどの報告書を目にしました。フタバ産業社の不正会計事件につきまして、責任追及委員会が報告書を提出し、同社のwebページにて公開されております。

7月28日付け責任追及委員会答申について

例のシャルレの社外第三者委員会報告書を拝読したときと同じほどの感動を覚えました。(ただし結論への賛否は別として、でありますが・・・)会計不正に係る内部統制構築義務違反の有無を論じる前提となる事実の認定、そして法的判断・・・。もちろんこの委員会の結論については賛否さまざまだと思いますが、おそらく旧経営陣は、この報告書によって多額の損害賠償請求訴訟を提起されることとなるかもしれません。上場企業の役員(取締役および監査役)の皆様、また法務、経理、総務スタッフの皆様方も是非本答申をご一読いただき、会計不正を防止するための内部統制構築義務とはどのようなものか、それぞれの会社でご議論されてはいかがでしょうか。つい先日出されました日本システム技術最高裁判決なども参考にしながら、また内部統制報告制度の実務の検証などとも関連させながら、検討してみると有益かもしれません。(とりいそぎ、備忘録程度にて失礼します)

PS 本日(7月28日)金融庁よりフタバ産業社に対して1800万円余りの課徴金納付命令が発令されましたが、こうやって課徴金の金額を眺めてみると、東証の上場制度違約金1000万円が大きな数字に見えてきました。(課徴金算定には違約金制度はなんら考慮されないのですね)

(7月29日 追記)朝日新聞ニュースで知りましたが、カブドットコム証券の社外調査委員会の報告書もインサイダー取引防止体制の構築・・という意味で、なかなかスゴイです。まだ全部を読む時間がありませんので、内容についてはコメントできませんが・・・

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セクハラ事件と企業の内部統制構築義務(コンプライアンスの視点)

本日(7月28日)の日経夕刊「ウォール街ラウンドアップ」によりますと、米国では企業統治の不調が今回の金融危機の発端となった、との見方が強まっているようで、これまでSOX法404条(企業改革法における内部統制ルール)の適用が猶予(延期)されてきた中小上場企業に対しても、ついに今年12月より適用されることが決まったようであります。(すでにSECは中小上場会社向けの内部統制ガイドラインを整備済み)もはや監査法人からも延期要請の声は聞かれなくなったとか。米国監査法人幹部の話では「内部統制ルールがなければ、米国証券市場も、もっと会計不信問題に悩まされていただろう・・」とのことで、ずいぶんと風向きが変わったようですね。(ほんまかいな?と思わず言いたくなりますが・・・)

さて本日は、最近当ブログでもトレンドな話題となってきましたセクハラ・パワハラ関連の話題でありますが、本日の読売新聞ニュースによりますと、東海大学においてセクハラ事件後の大学側の対応に問題があったとして、セクハラ被害を受けた女性を原告とする損害賠償請求訴訟において、東京地裁は(大学側に)330万円の賠償を命じたそうであります。ちなみに加害者は同大学の助教授(元)。大学側が助教授退職後に退職理由を明確にしなかったため、女性が周囲から「助教授が退職したことについて責任がある」とみなされ、これを原因として女性も大学を辞めた、とのこと。裁判所は「大学が被害女性が研究を続けるための配慮を怠った」と判断したようでして、これは通常の職場環境配慮義務(セクハラが起こらないような職場環境を作る)とは少し異なり、事件発生後の大学側の配慮義務を問題としたもののようであります。具体的な事件の内容がわかりませんので、軽々しく論じることはできませんが、セクハラというよりも、パワハラ(アカハラ?)があったとみるべき事案ではないかと思われます。大学側として(具体的には)、被害女性にも悪いところがあった、ということが疑われないように、助教授が退職した理由をきちんと開示する必要があった、ということなんでしょうか?ただ、逆に大学側としてどこまで理由を開示すればよいのか、かなりむずかしい判断を迫られるのではないでしょうか?そもそも理由を開示するとなりますと、その前提としてセクハラに関する詳細な事実調査が必要になりますよね。事案によっては被害女性の人権侵害につながることにもなりかねませんので慎重な配慮が必要だと思われます。

また、退職理由について、あまりにも具体的に事実を記載することになりますと、逆に助教授側から名誉棄損や信用毀損で訴えられる可能性も考えられます。たとえば7月10日の朝日新聞ニュースによりますと、関西学院大学の元名誉教授の方が、弁明の機会も与えられないまま女子学生へのセクハラ行為を(大学側から)認定されたことについて、神戸地裁は大学側の不法行為を認定して、この大学教授の方に対する220万円の損害賠償責任を認容しております。(ただしこの判決はセクハラ行為を認めたものの、大学側の処分が過度に厳しい、としているようです。ただ「弁明の機会も与えられなかった」とありますので、やはり事実認定についても問題があったのではないでしょうか。)これはセクハラ認定を学内(企業であれば社内)の事実調査委員会が行うことのリーガルリスクを示すものでありまして、先日ご紹介した「わかりやすいパワーハラスメント裁判例集」に収録されている裁判のなかにも、調査方法が不適切であることを理由に被調査対象者に対する名誉棄損(不法行為)の成立を認めた判例もあります。(クレジット債権管理組合事件 福岡地裁判決平成3年2月13日ただし、不法行為の成立が認められたのは個人としての調査担当者だけであります。)これらの事案をみるに、セクハラやパワハラ事件が刑事問題として先行して立件されているような事案であればともかく、民事事件に先行して社内(学内)調査で事実を認定したり、法的判断を下すことの困難性(リーガルリスク)を物語っております。

企業コンプライアンスの視点に立ち、セクハラ・パワハラ問題に対処するにあたっては、上記のようにいたるところにリーガルリスクが横たわっております。私も(何度も申し上げるように)10数社の企業・学校法人の内部通報窓口を担当しておりますが、匿名通報に基づく社内調査の結果、その被害女性が特定されてしまい、当該匿名女性から糾弾された経験がございます。(社内ではもっぱら「通報窓口である弁護士が通報女性の名前を漏らした」とのこと。もちろん事実無根でございますが、噂というものはホントにコワイですねェ・・・。だから最初の東海大学の事案について、被害女性が噂によって精神的にマイってしまうのは私も十分に理解できるところです)コンプライアンスの視点からではありますが、有事にバタバタするよりも、平時にきちんと社内調査マニュアルや、ガイドラインを作成したり、シミュレーションを行っておくことも有益かと思います。

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2009年7月28日 (火)

東証・上場制度整備要綱に対するパブコメ回答集

昨日のエントリーの続きのようになりますが、本日(7月27日)東京証券取引所WEBページにて東証2008上場整備要綱に対するパブリック・コメントおよび回答集がリリースされております。今年から意見を述べた企業や団体の固有名をきちんと公表することになったのですね。(ただし個人名は公表されておりませんが)どこの会社(団体)が、どういった質問や意見を提出したのか、はっきりとわかるようになりましたが、経団連さんのご意見やご質問内容とそれに対する東証さんのご回答を読みますと、昨日のエントリーのような疑問も、やはり素朴に湧いてくるのは私だけではない・・・と思いました。(それにしても経団連さんの最後のご意見はなかなかスゴイなぁ・・・(^^;;  )

ところで、不適切な第三者割当増資がなされるおそれがある場合、改訂される予定の企業行動規範では、当該企業の監査役さんは、自社の増資が不適切でないことを意見書において開示することが要求されるのでしょうか?(どうもそう読めるのでありますが)このあたりは日本監査役協会「コーポレート・ガバナンスに関する有識者懇談会報告書」においても、大規模第三者割当増資における監査役の意見表明としてとりあげられていたところであります。そうだとしますと、またまた「監査役の有事対応」のひとつとして第三者割当増資を行う際の適法性判断(およびその開示)という新たな対応が要求されることになりそうです。監査役制度はあくまでも会社法上の制度でありますが、「上場企業における監査役」ということになりますと、「情報開示」という取締役の重要な職務執行の監視を通じて、東証の自主ルールを遵守すべき立場となりうる、ということなんでしょうね。(本日は備忘録のみにて失礼いたします)

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2009年7月27日 (月)

東証ルールは「ソフトローとプリンシプルベースの狭間」?

東証は7月27日に取締役会を開催して、上場規則の改正案をまとめるそうですね。(8月に金融庁の認可を受けて、同月改正規則が施行される、とのこと)先週の日経新聞では、上場企業にルール違反が認められる場合、東証が公表措置、上場制度違約金、特設注意市場銘柄への指定、上場廃止などの各種罰則を選択的に採用できるよう規則を改正することが報じられておりました。大規模な第三者割当増資に関するルールや、適時開示ルールに反する上場企業に対しては、証券取引所による厳格な対応が期待されるところでありまして、投資家保護の強化を図られることが予想されます。

ただ、日経でも報じられておりましたが、対象企業への罰則適用の選択肢が増える、ということは、東証に罰則適用に関する裁量権の幅が拡大することになりますし、また監督権限の強化にもつながりますので、その分一般投資家に対しては、説明責任が強化されることにもなろうかと思われます。(西武鉄道と日興コーディアルを比較したときのように、マスコミも今後は罰則の選択については関心を寄せることが多くなるものと思われます)説明責任が強化されるだけなら良いのですが、罰則適用予定の対象企業から不服申立がなされるケースというものは増えないのでしょうか?法令遵守を第一に考え、誠実に企業活動を継続しているような企業であれば問題はないでしょうが、高橋篤史氏の「兜町コンフィデンシャル」に登場してくるような企業(かなりたくさんありましたが・・・)となりますと、会社の存亡をかけてでも取引所の罰則適用に対して反論するところも出てくるかもしれません。

当ブログでも、過去に何度か触れましたが、東証ルールというものは一般にはソフトローである、と言われています。法律のように、最終的に国家権力(裁判所の判決、決定等による強制執行力)によって担保されているルールではなく、あくまでも国家権力以外の社会的な権威によって遵守が担保されるところの典型的なルールのひとつとされております。したがいまして、法律改正を必要とすることなく、専門性が高く機動性が要求される市場ルールの整備においては、証券取引所や証券業協会による自主ルールに期待が高まるところだと思われます。そこでは規制する側である証券取引所も、説明義務さえ尽くしていれば比較的自由にペナルティを選択することもできますし、「民と民の世界」であるがゆえに、裁判所も処分の妥当性についてはそれほど深く介入することはなく、あくまでも民事事件として紛争を処理することになろうかと思われます。(ペイントハウス社の上場廃止に関する仮処分事件など)

しかし今年3月ころまで、いろんな団体でコーポレートガバナンスについて議論がなされておりましたが、そこで「エンフォースメントの在り方」として議論されていたのは、会社法や金商法改正によって市場の健全性を確保するべきか、証券取引所の自主ルールによって確保するべきか、というものでありました。そして結局のところ当面は自主ルールによって対応していこう、ということで一応議論は収まったものと記憶しております。現在でも金商法には証券取引所のルールに関する規定が存在しますし、上記のとおり規則改定には金融庁の認可が必要なわけですから、東証の自主ルールというものは純粋なソフトローではなくて、実質的には市場取締権限の一部が証券取引所に委託されている関係と捉えることもできそうであります。(さらに、今後はもっと証券取引所の規則に法的な権威を付与すべきである、との意見もあります)そうであるならば、東証の上場会社に対する罰則の適用問題はソフトローからプリンシプルベースによる金融規制の領域に踏み込むことになるのではないでしょうか?

ソフトローとプリンシプルベースによる法規制の問題は、企業コンプライアンスの視点からときどき検討されるところでありますし、決して相互に矛盾する概念ではありません。しかし、たとえば上記のような罰則の選択肢が取引所に付与されるとするならば、これが法規制の一環である(つまりプリンシプルベースによる規制である)とすると、たとえば上場企業への平等適用違反、罰則の濫用的行使(他事考慮)、比例原則違反(他の罰則で法目的を達成できるのに、それ以上の罰則を選択したことの違法性)などが対象企業から主張される可能性が出てくるでしょうし、また適正な監督権を行使しなかったことについての証券取引所の過失について、一般投資家や特定企業の株主から法的な責任を追及されるケースも増えてくるのではないでしょうか。また、そういった問題を真正面から裁判所も判断せざるをえないわけでして、「民と民」の関係として処理してもらえなくなってしまうことも考えられます。

「証券取引所の自主ルールはソフトロー」ということでそれほど問題がないのであれば議論にもなりませんが、今後の証券取引所の在り方次第では、プリンシプルベースによる規制との関係についても検討しておく必要があるのではないかと思う次第であります。

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2009年7月24日 (金)

政権交代と会社法制の行方-「公開会社法」の実現可能性

(7月25日 追記あります)

あまりブログではとりあげられていないので、それほど一般の関心は高くないのかもしれませんが、思わず反応してしまったのが(いくつかの新聞系ニュースで掲載されておりました)「公開会社法」制定に関する民主党のマニフェストであります。もう2年ほど前から、私の仕事上での知人でもある某民主党議員(会計士さんです・・・昔はけっこう事務所に遊びにきてくれましたが、今はもう、ずいぶん遠い人になってしまったようでして・・・(^^; )が、塩崎官房長官(当時)に「公開会社法制定の実現性」について代表質問をされておりましたので、民主党としても、ずいぶん前から勉強されていたはずであります。日経新聞朝刊によりますと、政権をとった場合にはただちに国会への提出準備に入る・・・とのことですから、この「公開会社法」の中身については真剣に検討してみたくなりますよね。(商法学者の皆様方はどのように構えておられるのか、どうも情報に疎いもので、よくわかりませんが)

日経新聞では、従業員の代表が監査役会に・・・ということで、従業員から選任された代表者が監査役会に参加することや、会計監査人の選任権、報酬決定権を監査役会に付与する、といった監査役会制度の改正や、連結経営時代に対応するグループ企業法制に関する概要が紹介されていましたが、東京新聞系のニュースはもっとすごいことが書いてありますね。あれだけ議論がなされた「社外取締役制度導入論」でありますが、(マニフェストによると)取締役会のうち3分の1程度を社外役員とし、外部から経営チェック機能を高める、社外取締役の条件も厳しくする、ということで、民主党は経営体制の強化のために社外取締役の導入義務化を大きな柱とする、とのことであります(ホントでしょうか??)さらに朝日新聞ニュースでは、①公開会社に適用される「特別法」として公開会社法を制定(情報開示・会計監査を強化)、②証券取引等監視委員会を改編して、金融商品取引監視委員会(日本版FSA)の創設、③投資家保護法制の整備(これは現在でも議論されている、「金商法の完成版」としての、いわゆる投資サービス法構想案のことではないでしょうか?)を推進する・・・とありまして、各新聞報道でもいろんな概要が紹介されております。

いろいろと感想はございますが、ちょっと気になりましたのは、従業員代表が監査役会入りへ・・・という報道はありますが、従業員代表が監査役就任へ・・・とは報道されていないところであります。念のため、日本取締役協会で議論されておりました公開会社法要綱案(11案)を確認しておりますが、どこにも従業員代表者が監査役会に参加したり、監査役に就任することは提言されておりませんので、これは民主党プロジェクトチームでの構想案で初めて盛り込まれた内容のようであります。実際に民主党マニフェストを読んでみないとわかりませんが、従業員代表が監査役会に参加することと、監査役に就任することとは相当意味合いが異なってきますし、基本的に監査役自身が独任制機関であることや、監査役会が多数決によって決議を行う機関であることなどから、「特別法」としての公開会社法上の監査役制度にどれだけのインパクトを与えるのかは未知数のところがあると思います。また、東京新聞ニュースによりますと、監査役会に従業員代表の選任を義務付けることとして、監査役制度を強化し、たとえば従業員にとって不利になるような事業売却については行えないようにする・・・とのことであります。しかし、監査役会が(取締役の職務執行に違法性が認められない場合にまで)事業売却に待ったをかけることができる・・・ということは、業務執行の一部を監査役会が担うということでありますから、そもそも監査役監査が違法性監査であること(つまり妥当性監査はできないこと)と、どのように折り合いをつけていくのか、よくわからないところであります。まさかポルシェとワーゲンの監査役会のように、ドイツ型のガバナンスを採用して会社の事業の命運を分けるほどの力が監査役会に付与される、というわけではないですよね?(^^;;

いずれにしましても、中央官庁の方々も戦々恐々とされているでしょうし、どなたか諸事情にお詳しい方がいらっしゃいましたら、なにか情報をお寄せいただけますと幸いです。政権交代劇が起こったとしても、会社法制が大きく変容することにつきましては、まだ私は疑心暗鬼であります。(甘いのかなぁ・・・。今月中にはマニフェストがリリースされるそうですから、早く読んでみたいですね。)

(7月25日 追記)早速、ある方から情報をいただきました。(マニフェスト原案を読まれた方のようです)エントリーでは、「従業員代表が監査役会に参加」と書きましたが、やはり従業員代表が監査役として就任することが記載されているようです。また、どうも議員立法のような形で法案を提出するのではなくて、民主党が公開会社法の基本方針を示して、これを審議する努力義務のようなものを課す方法で検討する・・・ということになるようですね。ということは、会社法制に大きな変革の波が押し寄せる、ということにはならないのでは?と思います。

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2009年7月23日 (木)

わかりやすいパワーハラスメント裁判例集(21世紀職業財団)

Pawaharhon 先週は、内部通報窓口からみたパワハラ事件のむずかしさ についてエントリーを書きましたが、7月16日の朝日新聞で大きく紹介されていたパワハラに関する判例集が、ようやく手元に届きましたので、さっそく興味のあるところから読み始めております。この分野に精通された弁護士の方が裁判例の整理を担当され、一般企業の社員や役員の方々にもわかりやすいように判決文をまとめてありますので、お勧めの一冊です。もうすでに改訂版も出ているのかもしれませんが、 わかりやすいパワーハラスメント裁判例集(財団法人21世紀職業財団 編2100円) 。  セクハラにつきましては法令上の定義がありますが、パワハラには定義がないために、裁判におきましても、原告側(パワハラ被害者側)主張にどのように対応すべきか、手探りの状況にあることが認識できます。(名誉毀損や人格権侵害など、既存の枠組みが活用できるのであれば、パワハラの有無に関する判断よりも、そちらで優先的に解決したい、といった裁判所の苦悩も読み取れます)また過失相殺がなされている判例がいくつか掲載されておりますが、相殺の原因となった被害者(労働者)側の過失の捉え方によっては、この過失相殺の割合認定が今後も大きな争点になるケースもあるかもしれません。

実際には却下されておりますが、裁判所がパワハラ事例におきまして、人格権侵害の妨害排除請求権(物権的排他請求)を被保全権利として、集団いじめ行為の差止仮処分命令を求めうる余地があることを述べている(東京地裁決定)ことは初めて知りました。最近のパワハラ事例につきましては、何がパワハラなのか、といった判断だけでなく、精神疾患などといじめ行為との相当因果関係の有無、企業の安全配慮義務違反の判断などが争点となるケースが多いようですが、パワハラに仮処分が認容されるようになりますと、精神疾患などの実被害が発生する前からでも裁判所の判断を仰ぐことができますので、けっこう多くの事案において活用されることになるのかもしれませんね。ただ、(たしか機野さんがコメントされていたと思いますが)「パワハラ」なる用語が独り歩きしてしまって、なんとなくアプリオリに人格権として認知されているかのような風潮があるかもしれませんが、そのあたりはこの30ほどの裁判例をみていただければおわかりのとおり、なかなか裁判所は慎重な態度を崩してはいないように思われます。

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2009年7月22日 (水)

個人情報漏洩(情報管理上のミス)と企業の労働環境配慮義務

個人情報漏洩事件について、企業側より相談を受け、事実調査(担当者からのヒアリング)や会社リリース対応についての支援を行うのは本日が3回目だったのですが、私の乏しい経験からではありますが、情報漏洩事件というのは、ほとんど人災のような印象を受けております。(そういったわかりやすい事案だからこそ、会社にも個人情報漏洩の事実が判明するのかもしれませんが・・・そうでなかったら、外部からの指摘で判明するのかもしれません。)いずれも社員による管理ミスが原因でありまして、最初は多額の借金を背負っていて、パチンコで一発逆転を狙って夢中になっていたところでパソコン窃盗に遭った事例、2回目は幹部社員が会社に黙って機密情報の管理を外部委託している間に、その外注先で情報が勝手に盗まれた事例、そして本日の事例は、人員整理で労働環境が悪化して、人手不足のなか超過勤務が重なり、一日2時間しか寝ていないような状況が継続するなかで、深夜の駅構内で居眠りをしてしまった間に、パソコン入りのカバンを盗まれた事例、というものであります。(このブログでも以前に某企業の情報漏洩事件について、どうもいかがわしいWEBページを閲覧しているなかで、ウィルス感染してしまった事例というものがありましたよね。)ちなみに、いつもチェックさせていただいている丸山先生のブログで初めて知りましたが、経済産業省より「情報セキュリティ関連法令の要求事項集」なる「情報セキュリティと法律」との関連性を整理した秀逸な参考資料が最近リリースされておりまして、裁判例などの検索にも便利でして、たいへん参考になりました。

実際に、こうやって現実の事例に関与しますと、いわゆる「外部侵入型」ではない「管理責任型」の情報漏洩事件というのは、いろいろと指針を設けてみても、なかなか防止することは困難なように思えます。私の体験した事件では、どれも社員が普通の勤務状況であれば、情報漏洩には至らなかったようなものでありまして、とくに2例目、3例目は会社の経営環境の悪化に伴って労働条件が劣悪化していき、そのなかで発生してしまったものであり、どんなに立派な指針を策定してみても、現実には防ぎきれないものと確信いたしました。(社員研修を徹底しても、また機密情報の管理規程を厳格にしてみたとしても、社員のミスを防止することは困難だと思います)ただ、情報漏洩事件が発生しても、そのパソコンが外部からの侵入にはきちんと対応できるようなセキュリティが施されていたことが救いのようでありまして、おそらく被害者(個人データを漏洩されてしまった顧客の皆様)の方には実害が発生しないものと思われます。こういったセキュリティの問題によって会社の信用毀損の有無が決まればいいのですが、実際には社員の管理ミス≒企業の情報管理上の責任という図式で企業不祥事として評価されてしまうわけですので、やはり再発防止策を含めて、今後の対応を検討していかなければならないわけであります。よく内部統制システムの構築義務と企業の情報管理体制整備の関係について議論されますが、たしかにセキュリティの面では独立して論じることは可能ですが、人為的なミスに関連する面では、情報管理だけを独立で論じてもあまり意味がないように思います。結局は労働環境配慮義務のようなところとつながってくる議論になるのではないか・・・と思います。

つぎに「侵入者から情報を守る」という意味での企業情報管理につきましては、これも反社会的勢力防止のための仕組み作りと非常によく似たところがありますが、これはまた別の機会に論じたいと思います。

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2009年7月21日 (火)

内部統制を有効と報告した後で会計不正事件が判明したケース

旬刊経理情報の最新号(8月1日号)では、特別企画として「不正発覚で留意したい会計・法務上のポイント」が掲載されており、不正発生時における訂正報告書の書き方なども解説されております。もちろん不正発覚時におきまして、過年度有価証券報告書等の訂正報告書提出も重要でありますが、内部統制報告書の訂正ということも問題となってくるのではないでしょうか。内部統制報告書を提出した3月決算会社のうち、財務報告に係る内部統制は有効とはいえないものと判断した上場会社が56社ほどあった(提出遅延のない会社)とのことで、全体の98%ほどの上場会社においては「内部統制は有効と判断した」そうであります。金融庁Q&Aのタイムリーなリリースのおかげ(?)でかなり重要な欠陥が残存している、とされるケースが減少した、と評されておりますので、この2%という数字が多いのか少ないのかは、ちょっと私もよくわからないところであります。ただ、実際に「重要な欠陥あり」と報告書に記載した企業の多くは、過去に(とりわけここ1年以内に)役職員の関与した会計不正事件が発覚しているケースも多いわけでして、こういった実務上の運用からすると、やはり内部統制の訂正報告書が提出されるケースというものも想定されうるものかもしれません。

実際に、「当社の内部統制は有効である」とした判断結果を記した内部統制報告書を提出した後に、過去の会計不正事件が発覚したことにより、今回提出した内部統制報告書(および内部統制監査報告書)を訂正する必要が出てくるケースというのも今後予想されるところではないでしょうか。7月17日の適時開示では、JASDAQのT社が「当社元従業員による業務上横領についてのお知らせ」をリリースしており、これまで約3000万円程度の横領金額が判明した事実が発表されております。このT社の内部統制報告書を読みますと、事業プロセスについては、売上高の概ね3分の2を基準に重要な事業部の選定を行い、会社の事業目的に大きく関わる勘定科目(売上、売掛金、棚卸資産)に至る業務プロセスを評価範囲とした、とのことですから、ギフトショップ部門を有するT社としても、金券管理は棚卸資産の評価範囲に含まれるのではないかと思われます。

このT社のケースでは、おそらく本年3月時点では、判明しなかった会計不正事件が5月に判明したことで、3月末時点では内部統制上の不備が残っていたのではないか、という疑義が生じることや、他社の「重要な欠陥」事例においても、社員の資金流用事件を原因として内部統制は有効とは判断できない、とする事例も散見されるところから、内部統制は有効と報告したが、無効であったと訂正する報告書を出す必要はないのでしょうか?たしかに金融庁Q&Aでは、基準や実施基準に準拠して決定した評価範囲について評価を実施し、内部統制報告書を提出した後に、評価範囲外から重要な欠陥に相当する事実が発見されても、内部統制報告書に記載した評価範囲を訂正する必要はない、とされておりますので、この不正発見の業務プロセスが、そもそも適正に決定した評価範囲の外であるならば問題はなさそうであります。

しかしながら、このたびのT社のリリースを読みますと、今回の資金流用事件の再発防止策として掲げられているのは、①業務監査の監視強化、②内部通報制度の周知徹底、③社内教育、内部管理体制の強化というものであり、これらはいずれも業務プロセスの改正というよりも、全社的統制に関わる問題点ばかりであります。ということは、そもそも業務プロセスの評価範囲を決定すべき全社的統制の評価自体を適正に行えなかったことに起因するものであり、先の金融庁Q&Aが適用される場面ではないと考えるのが素直ではないでしょうか?また、こういった再発防止策がとらなければ今回の資金流用を防止できないとすると、今回事件を防止できなかった業務プロセス上の不備の影響額というものは被害額である2900万円よりも相当に大きいものであり、他の評価範囲における業務プロセスの有効性にも影響を及ぼす可能性があるのではないでしょうか。

このように考えますと、今後は「重要な欠陥が実は残っていましたので、有効とは言えませんでした」といった訂正内部統制評価報告書が出されるケースというのもありうるかもしれませんし、たとえ訂正報告書を提出する必要がない場合であっても、会計不正事件発覚に関する報告書のなかで、評価範囲の外から重要な欠陥に相当する不備が見つかったとか、評価範囲の決定に影響は出ていないとか、再発防止策が具体的にどのように内部統制の有効性を補完するのか、といったあたりについて、相応の開示が必要になってくる場合もあるのではないでしょうか。1年目の内部統制報告書を総括するにあたっては、出された報告書がどのように修正(訂正)されるのか・・・といったあたりの運用上の問題点も検証してみる必要性があると考えております。

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2009年7月17日 (金)

続・監査役無機能論について考える-笹尾氏からのご回答

先日、こちらのエントリーにて元日本監査役協会会長(元旭化成代表取締役)でいらっしゃる笹尾恵蔵氏の論文「監査役無機能論について考える」(月刊監査役7月号に掲載)をご紹介し、また自論も述べさせていただきましたが、笹尾氏が当ブログをご覧になられたようで、昨日メールを頂戴いたしました。以下は、笹尾氏のご了解を得て、メールに添付されていた書簡の内容を掲載させていただく次第であります。

月刊監査役7月号に掲載された私の論文「監査役無機能論について考える」が山口先生のお目にとまり、先生のブログ「ビジネス法務の部屋」で取り上げて頂いて光栄に存じます。
先生のコメントの中の有事における監査役の職務執行のあり方に関してありますが、私は、会社経営の目的は、会社の持続的な成長によって、株主、従業員、取引先、地域など会社のステークホルダーに利益をもたらすことであると考えており、経営を委託された取締役の業務執行が、会社の持続的成長に重大な悪影響を及ぼしていると監査役が判断し、かつ、監査役の助言・勧告を無視されるような局面では、法廷闘争を含むあらゆる権限を行使して監査役の主張を貫き会社を守ることは監査役の当然の義務であると考えます。

問題は、監査役の主張の正当性は、何によって担保されるべきかであります。
一つには、日常、取締役の業務執行の現場に密着して公正な目で把握した事実に基づく主張であること、二つには、日常活動を通じて監査役の活動の公正性と有用性を取締役に理解させる努力をしていた上での主張であることが大事である。
個々のissueの解決は、それが会社の持続的成長につながることが大事で、そのissueについては監査役の主張が通ったが、後に不信の山が残って会社の持続的成長の妨げとなっては本末転倒となる。その意味で、平時があっての有事であり、有事の対応も平時の対応の裏付けがあって説得性を増すと思います。

以上                                

ご教示どうもありがとうございました。以前、監査役の有事対応の正当性につきまして、三権分立における司法のような役割(法の支配)ではないか?だからこそ、たとえ監査役が孤立しようとも、自身の考えを押し通すことに迷う必要はないのではないか?と当ブログで書かせていただきましたが、こうやって笹尾氏のご意見を拝見しますと、理念的にすぎるものであり、説得力に欠けていたことを反省しております。日常における監査役の監査業務(とくに公正な目で把握した事実)の重要性、そして普段からの監査役から執行部への信頼関係構築のための働きかけこそ、主張の正当性を担保する・・・という点は、正直なところ、私の意見には欠落していたところであります。

「平時があっての有事であり、有事の対応も平時の対応の裏付けがあって説得性を増す」

この言葉の意味を、(法律家の立場から)もうすこし具体的に考えていきたいと思っております。(たしかに監査役による有事対応が通った先のことまでは考えておりませんでした。本当に頭の下がる思いです。)

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2009年7月16日 (木)

ビックカメラ元会長による金商法・課徴金処分に対する初の審判手続き

ずいぶんと前から、行政法専門弁護士待望論なるカテゴリーでエントリーを書いてきましたが、ついに「開かずの扉」が開くときが来たようですね。朝日新聞ニュースによりますと、ビックカメラの元会長さんが、金商法に基づく課徴金賦課処分を不服とする初めての答弁書を提出されるようです。証券取引法に課徴金制度が導入された平成16年以降、これまですべての事件において金融庁の処分を認める旨の答弁書が提出されてきたわけですが、これで金融商品取引法の後ろの方に規定されている審判手続きが初めて活用されることになります。(そのまま行政訴訟にまで発展すると、課徴金の法的性質や、会計処理方法と公正なる会計慣行、金融庁の行政処分前例が法解釈に及ぼす意義、といった重要な論点についての司法判断が期待できるところです)外野の人間としては実に楽しみであります。

でも、法人としてのビックカメラは課徴金処分を争わないそうですが、これって、元会長さんの異議に影響はしないのでしょうかね?

私は警察行政(公安委員会)に関する審判手続きしか経験がないもので、エラそうなことは言えませんが、おそらく代理人(補佐人?)をされる弁護士の方々にとっても貴重な体験になると思います。もし本当に審判手続きが開始されるのであれば、以前の長銀事件のように、本ブログでは定期的にウォッチングすることになりそうです。(とりあえず備忘録程度で失礼いたします)

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2009年7月15日 (水)

ロッテリアの戦略は「食への冒涜」ではないか?

タイトルはずいぶんと批判的なイメージにとられるかもしれませんが、あくまでもコンプライアンス上の問題として客観的に考えてみたいと思います。ロッテリアが16日から31日まで「絶妙バーガー」なる新製品を販売するにあたり、買った人がおいしくないと判断した場合には代金(ただし単品価格のみ)を返却するとのこと。(日経ニュースはこちら)ブログ上でもずいぶんと話題になっているようです。

そもそも半分以下のハンバーガーを食べた時点において「おいしくない」と申し出た場合に代金を返す・・という商品売買契約の法的性質(契約内容)についてもかなり興味がありますが(たとえば2個買って1個食べた時点で1個返して代金全額の返却を請求した場合はどうなるのか?)、これは他の法務系ブロガーの方にお任せするとして、この「おいしくなければ代金返却」なる宣伝戦略はロッテリアにとってマズイことにはならないのでしょうか?コンプライアンスは「法令遵守」だけではない・・・というのは、すでに耳にタコができるほど聞いたフレーズですし、企業の社会的信用を低下させることを防止することこそがコンプライアンス経営の主流だと思います。現実にいろいろな場面を見てきた経験からしますと、法律に照らしてあれもダメ、これもダメと企業の創意工夫を元から毀損してしまうようなものがコンプライアンス経営とは言えない時代になってきたように感じております。

ただ、だからこそ、社内で「これでいこう」と創意工夫の下で作られた企業戦略が社会においてどう受け止められるか?という感覚(理屈ではなく)はとても重要ではないでしょうか。私としては、この「食べたのが半分以下ならば返金する・・・」という条件がとても気になってしまいます。私も外食産業の役員をしておりますので、食べ物に対する思い入れはとても強いほうだと認識しておりますが、最初から「食べ物を残す」ことを前提に商品を販売する、というのはとても違和感を覚えます。企業が自信をもって商品を開発し、お客様に提供するのであれば、到底「おいしくなかったら残してください」とは言えないですし、一生懸命ハンバーガーを開発し、また現場で売ってくれている社員の方々に対しても、役員として(そんなことは申し訳なくて)言えるものではないと思います。さらに、お客様が残されたハンバーガーは再利用できないわけで、最初から(報道によれば1%から5%程度は)廃棄されることを前提として販売する・・・というのは、あまりにも食への冒涜ではないでしょうか?私には、いっそのこと、全部食べた後でも「おいしくない」と感じたら返金するほうが、よっぽど企業理念としての「食へのこだわり」を感じます。また、美味しいものを提供したいと思って新商品を販売するのであれば、その商品は売り切って、代金を払った人のクレームを真摯な態度で拝聴するからこそ、その苦情を次の商品開発に生かせるのではないでしょうか。(よくよく考えると、返金してもらった代金で、さらに絶妙バーガーをその場で購入して「美味しいね!」と食べつくす方々のクレームというものは信用できるのでしょうか?・・・・・・(^^;  )

いえ、私はとくに上記のように憤っているわけではなく、あくまでも、そのように考える人たちも多いのではないかと推測いたしますと、この戦略は商品自体の広報戦略としては上出来だとしても、ロッテリアという伝統的な食品会社のイメージを毀損する戦略になるのではないかと考えますが、いかがなものでしょうか。長年、日本で培われてきたロッテリアの商品なのですから、絶妙バーガーが美味しくないわけがありません。(主観的な判断で足りるのか、また他社製品と比較して感じるものなのかはわかりませんが・・・)大阪地裁堺支部への行き帰りに、南海堺東駅下の店舗に立ち寄るロッテリアファンのひとりとして、今回の戦略がロッテリアの社会的評価を低下させることがないように祈念しております。テレビショッピングで「膝当てサポーター、もし効果がなければ2週間以内なら返品可能!」というものとは、食品の場合にはわけがちがいますし、また消費期限問題のように、「売りたかったけど消費期限が切れてしまって廃棄せざるをえない」場合とは状況があまりにも異なると思いますが、どんなものでしょうか。

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内部通報窓口からみたパワハラ問題のむずかしさ・・・・

昨日のパンデミックと法律問題につきましては、TETUさんから耳の痛いコメントを頂戴しましたが、もうひとつ、企業の安全配慮義務に関わる問題をエントリーしておきたいと思います。これも精神疾患に対する労災認定基準の緩和によって、今後ますます大きな企業リスクになるであろうと思われる「パワー・ハラスメント(パワハラ)」問題であります。パワハラといいますと、新聞報道などではたいへん痛ましい事件が報道されておりますが、そこまで大きな事件でなくても、「職場のいじめ問題」として、結構通報事実に占める割合は多いものと理解しております。グーグル検索や大きな書店でお探しになるとわかりますが、法律家が執筆した本としてはセクハラに関するものはあっても、労働者側にせよ、企業側にせよパワハラに関する本というのはほとんど見当たらないのが現実であります。(代表的なのは水谷英夫弁護士による「職場のいじめ」くらいではないでしょうか?)しかしながら、学校法人や企業の内部通報窓口をやっておりまして、パワハラ(アカハラ)に関する告発がたいへん増えているのが現実でありまして、「労働問題はわかりまへん」とも言っておれず、それなりに法律家らしく検討する必要性に迫られております。(実際、全国の労働局に設置されている総合労働相談センターに持ち込まれるパワハラ相談の件数は、6年前と比べると約5倍に増えているようであります)法律関係は(企業の場合を例にとりますと)以下のとおりであります。

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被害者と加害者の関係について「不法行為」と書きましたが、ここは上司と部下の関係もあれば、同僚による集団いじめ、というものもあります。また正社員による派遣従業員いじめもあります。企業にとってむずかしいのは、パワハラによる被害者従業員に対する安全配慮義務(労働環境配慮義務)の中身については、きわめて曖昧な点であります。ここはセクハラの場合も同様ですが、セクハラにつきましては男女雇用機会均等法の改正によって配慮措置義務が明確化され、ガイドラインも豊富に出されているところですので、まだ規範化はパワハラよりも容易かもしれません。なお、企業からは安全配慮義務と書きましたが、民事賠償問題としては、不法行為(使用者責任)も問題となります。ただ、債務不履行責任の追及が容易となれば、今後は安全配慮義務違反をもって被害者側から追及されるケースが増えると思われます。労働審判の場合にも、基本的には同じような構図になるのではないでしょうか。

さらに企業の安全配慮義務の側からみて、セクハラよりも困難と思われるのは「グレーゾーンをどうするか?」という問題であります。たとえばガイドラインを作成する場合、セクハラ行為というものは、企業にとって「あるまじき行為」ですので、セクハラなのかどうかよくわからない行為というものも一応禁止行為としてガイドラインで規範化しても問題はそれほど発生しないものと思われます。(もちろん加害者と被害者との民事上の問題は別として、ここではあくまでも安全配慮義務との関係で、ということですが)しかしながら、パワハラの場合、対象行為となるのは、上司による指揮命令権の行使だったりするわけでして、単純にグレーゾーンだからといって禁止するわけにはいかないのであります。(適切な指揮命令権の行使を委縮させてしまうおそれがあります)いまのところ、内部通報で上がってくるパワハラ事件というものが「誰がみても明らかないじめ」と認定できるのは、被害者本人からではなく、同僚や部下、パート社員など「職場のいじめ」を目にした第三者からの通報が多く、事実認定のための証拠も比較的容易に収集できるから(いわゆる公開型のパワハラ)でありますが、これがセクハラ通報のように閉鎖型のもの、つまり被害者本人から上がってくるパワハラ通報が増えてきますと、この判断の困難性に悩むケースが増えてくるものと思います。(ただ、パワハラのケースでは、被害者本人が「自分が悪いからしかたがない」とか「通報したら制裁がこわい」ということからなかなか上がってこない傾向があり、これもパワハラの根を深くしている事情のひとつだと思われます)

といいつつも、内部通報窓口をやっていて、「むずかしいなぁ」などと弱音を吐いて思考を停止させるわけにもいきませんので、自己流でもなんとか判断していかないといけないわけでして、とりあえず以下のような判断基準をもって臨むようにしております。

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おそらく裁判ともなりますと、パワハラ問題は属性要件と行為要件の総合的判断によって不法行為責任や使用者責任、安全配慮義務違反(債務不履行)が問われることになると思われます。その総合的判断の中身を整理しますと、図のように行為要件と属性要件に分類できるのではないでしょうか。そもそもパワハラもセクハラと同様、個人の人格権の侵害を意味するので、被害者の主観的判断を無視するわけにはいきません。しかしながら、企業側からみた場合、パワハラの成否が被害者の主観的な要素に左右されてしまっては、そもそも配慮すべき内容が不明確となり、対策を立てることが困難になってしまいます。そこで、被害者の主観的な要素は「属性要件」として、たとえば加害者と被害者との関係とか、事件発生までの経過(以前加害者には同様の行動があったかどうか、いじめの原因になるような問題が被害者にあったのか等)として考慮することにして、客観的な加害者の行動については「行為要件」としてその是非を検討することにしています。つまり、企業がパワハラを認定するにあたっては、被害者の主観的な判断は二の次として、平均的な社員であれば当該行為を「指揮命令の裁量を超えた個人的ないじめ」と判断するかどうか、といった客観的な判断基準を基礎とすべき、と考えております。(結局、ガイドラインを策定する場合も、この客観的な判断に基づくしか方法がないように思いますし、加害者と被害者との民事問題は別として、たとえばパワハラを認定して懲戒処分を検討するような場面でも、この行為要件を中心に考えるべきなのかな・・・と。)閉鎖型のいじめにつきましては、なかなか企業側にとっても情報収集が困難であり、自主申告があれば配置転換等の対応を個別にやっていくしかなく、原則としましては、研修や内部通報窓口の充実、ガイドラインの設定等をもってパワハラの未然防止に努めるのが原則ではないかと考えております。

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2009年7月14日 (火)

パンデミック対策として法律家(企業法務)に求められるものとは?

しつこいようで恐縮ですが、例の貴乃花親方名誉毀損損害賠償事件について、新潮社に続いて講談社についても内部統制構築義務違反を理由に社長個人の重過失が認定されたようですね。(また別エントリーで検討したいと思います)

きょう、ある経済団体の方とお話をしていて、いま一番会員企業の方々に関心が高い法律問題は?とお聞きしたところ、M&Aでもなく、社外取締役導入問題でもなく、反社会的勢力排除問題でもなく、「秋冬の豚インフルエンザ再来時における企業法務問題」がダントツの関心事だそうであります。(うーーーん、私的にはあんまり得意分野じゃないです。。。ちなみに会計における最大の関心事はIFRSかと思いきや、「企業開示の緩和、とりわけ四半期決算短信の緩和」だそうです。そういえばちょうど業績予想の任意開示問題など、四半期決算短信に関する提言書を経済団体が合同でリリースされたばかりだったんですね。)いま法曹界と経済界を結びつける最もホットな話題はパンデミック対策としての企業法務、ということのようであります。たしかに特定企業の利益や弁護士業界全体の利益といった「儲け」の領域を超えて、国民全体の生活を守ることを目的とした「社会的責任」を果たすための重要な課題なのかもしれません。有事になってからでは遅すぎる、平時である今だからこそ、速やかに法律家も検討してほしい、とのこと。

とりわけライフラインに関連する企業や交通機関など、法律で事業遂行上の稼働人数を決められているような企業において、もし従業員の多くがインフルエンザで休んでしまったり、休業を余儀なくされたり、交通が遮断されて会社や工場に出向くことができなくなる場合、企業はどうすればいいのか?社員に無理をいうわけにはいかず、かといって事業を停止するわけにはいかず、いわば法律違反を知りつつ事業を継続した場合に民事賠償の対象となったり、刑事罰の対象になるのか、ならないのか、非常にグレーな領域の問題として、企業は戦々恐々とされているそうであります。前例もなく、参考となる事例が存在しないため、多くの企業から経済団体に対して問い合わせがあるとのこと。

たしかに企業のリスク管理のひとつとして、パンデミック対策はだいぶ進んできたように思いますが、言われてみればなるほど「パンデミックと法律問題」というのは今まであまり聞いたことがなかったように思います。(いや、私が知らないだけで、ひょっとすると大学などで研究は進んでいるのかもしれませんが・・・)経済団体の方は、こういった問題こそ、法律家の方々が検討すべきリーガルリスクを明らかにしたうえで、企業としての対応ガイドラインのようなものを作ってほしい、とのことでした。稼働人数だけでなく、たとえば電力やガスの使用が制限されたり、商品の輸送手段に限界が生じた場合などにも想定されるそうでありまして、現在の刑法や民法などの条項を駆使して、緊急時の事業活動にまつわる法律問題を検討することも喫緊の課題と考えられているようです。(取締法規違反が問題となるのであれば、法曹界だけでなく行政上の問題にも発展するような気もいたします。なるほど・・・でも、緊急時にどのような法律問題が発生するのか想像するのはむずかしいなぁ。。。たいへん重いですが、勉強になりました・・・)

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2009年7月11日 (土)

金融庁VS第三者委員会という構図

あまり他のブログではとりあげられておりませんが、コンプライアンスを論じる当ブログとしては気になりましたのが朝日新聞ニュースの「企業の『うそ』監視役が上塗り 証券取引等監視委員会が改善要求へ」なる記事であります。会計不正などの不祥事が発覚した後に弁護士や公認会計士から構成される「社外第三者委員会」の調査について、金融庁が問題視しており、金融庁の調査では経営トップが関与していたにも関わらず「関与なし」と結果報告したり、もっと過去までさかのぼって不正会計がなされているのに、踏み込んだ再調査がなされていないなど、「うその上塗り」が横行している、との指摘がなされているそうであります。(なんだかTETUさんが喜びそうな記事ですね・・・・・(^^;  )

上記記事では施行後はじめて上場違約金制度によって違約金を課されたフタバ産業さんの事例や、ビックカメラさんの事例などが紹介されております。たしかにフタバ産業さんのケースでは後日、別の調査委員会が発足して、社長紹介案件の問題点が指摘されており、興味深い報告書だったことを記憶しておりますが、民間人の調査にはその権限にも限界があり、また時間的制約もありますので、調査が不十分となることもやむをえないところがあるのではないでしょうか。ただ、たしかに会社自身が特定の弁護士や会計士に依頼をして調査が開始されるところはあるわけでして、はたして外観的な独立性が確保されているかといえば「?」というところもあるかもしれません。金融庁と日弁連が意見交換をする、とのことでありますが、たとえば日弁連としても、こういった調査に参加できる人材バンクのようなものを設立して、そこから派遣する・・・という形にすれば、(能力の有無は別として)とりあえずは外観的な独立性は確保されるのかもしれません。

私自身、CFEとしての不正検査や、社外第三者委員会委員としての調査の経験もありますが、ヒアリングやそのタイミング、不正発見の場合にどこまでさかのぼるか?(もしくは別の部署での同様事例まで踏み込んで調査するか?)といったあたりは、かなりスキルを要するものでありまして、職業倫理としましても、常に依頼先企業にとって有利な報告書を出すわけではないのは当然と考えておりますので、もう少し今後の進行についてフォローしておきたいと思います。(とりいそぎ備忘録ということでアップしておきます)

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2009年7月10日 (金)

(速報版)日本システム技術事件について最高裁逆転判決

おそらく商事法務さんのメールマガジン等でも紹介されると思われますが、上場会社の代表者に内部統制構築義務違反(過失)を認めた判例として注目されておりました日本システム技術事件につきまして、昨日(7月9日)最高裁(第一小法廷)は、原審および第一審の判決を覆して、代表者について不法行為は成立しないとする判断を出しております。(すでに最高裁のWEBより判決全文がご覧になれます)

日本システム技術事件は、すでに何度も本ブログにおいてとりあげておりましたが(たとえばこちら)、代表者のリスク管理体制の構築義務の有無を真正面からとりあげた最高裁判決は、これが初めてではないでしょうか。ちなみに、代表者個人の法的責任を追及しておられた株主の方は本人訴訟として訴訟を遂行されていたようですが、最高裁の弁論も同様だったのでしょうか?会社の取締役の方にとりましては、ちょっと胸をなでおろしたくなる判決内容ですし、企業経営の現実を客観的に見据えたものだと思われます。また、監査役は財務報告に係る内部統制の整備運用について、(取締役の職務執行の)適法性を判断することになりますが、監査役の職務にも影響を与えるものであります。また監査法人による適正意見への信頼が法的に保護されるか?といった問題も出てくるように思われます。(この最高裁判決により、会社法上の内部統制に関する理論的な深化がはかられそうであります)

今後いろいろな法律雑誌等でまた本判例が検討されると思われますので、とりいそぎ速報版としてご紹介しておきたいと思います。

(追記)えらそうに「速報版!」などとタイトルに書いてしまいましたが、今朝の日経新聞でも報じられていたんですね。(社会面はあまり熱心に読んでいなかったので・・・。しかし社会面で採り上げるほど、この判決は影響力があるんでしょうか?)

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日債銀粉飾事件・最高裁判断への展望と「公正なる会計慣行」

平成9年3月当時における銀行貸出金について、貸倒引当金の計上基準は大蔵省銀行局通達および法人税基本通達によるべきであるとされ、これに従って貸倒引当金を計上すべきであるにもかかわらず、計上しなかった日債銀について、これまで原審(高裁判決)、第一審では、経営陣に有価証券虚偽記載罪が適用され有罪とされておりました。その事件の最高裁弁論が開かれるそうであります。(朝日ニュースはこちら)つまり昨年7月の長銀事件同様、日債銀事件も最高裁で逆転無罪判決が出される可能性が高まった、ということになります。なお、長銀事件のケースでは、判断が分かれておりました刑事事件、民事事件につきまして、いずれも上告され統一的な判断が下されたことになりましたが、日債銀事件でも刑事と民事では判断が分かれていたものの、こちらは民事事件が高裁判断で確定しております。したがいまして刑事事件だけが純粋に判断される・・・ということになります。

ところで7月8日の日経新聞朝刊に記事が掲載されておりましたが、私もメンバーとして参加させていただいておりました会計制度監視機構が「公正なる会計慣行とは何か?」という報告書をリリースしておりまして、よろしければ提言要旨だけでもお読みいただけましたら幸いです。実はこの報告書の7ページの注22において、日債銀損害賠償請求控訴事件(大阪高裁の判決)の判決内容に触れておりまして、この監視機構の提言内容に最も近い判断をした裁判例として紹介をしております。平たく言えば、公正なる会計慣行と会計基準との関係につきまして、ある企業において、公正なる会計慣行というものは、それに妥当する会計基準が二つ以上併存する場合もありうるのであって、会計処理方針の適用方法まで含めて「公正なる会計慣行」として包摂する概念であることを判決は示しております。つまり「公正なる会計慣行」なる概念はある程度幅のある概念でありまして、ゆえに「唯一の会計慣行」とか「公正なる会計慣行と罪刑法定主義」とか「公正なる会計慣行が二つ以上併存する」といったところが誤解にすぎないのではないか、といった議論へと発展するわけであります。(このあたりは企業会計法に詳しい法律家の先生方のご意見、ご異論が多数出されることを大いに期待したいところであります。)来年にも出されるであろう日債銀事件の最高裁判断は刑事事件に関するものではありますが、昨年の長銀事件以上に踏み込んだ判断をしていただき、この「公正なる会計慣行」の概念を法律の世界がどう受けとめるのか、明確に示されることに大いに期待をしております。

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2009年7月 9日 (木)

JR西日本事故の立件にみる「不作為の過失」と企業犯罪

いくつかの新聞社の取材を受けましたので、ひょっとすると私のコメントが朝刊に出ているかもしれません。(追記;朝日9面の上村教授のコメントの後に出てましたね。)非常に痛ましい事故に関する話題ですから真摯に言葉を選ぶ必要がありますし、新聞のコメント記事は(誌面に限りがありますので)誤解を招くおそれもありますので、とりあえずブログで私の見解を述べておきたいと思います。ご承知のように、7月8日、JR福知山線事故において、JR西日本社の現社長が業務上過失致死傷罪で在宅起訴され、これを受けて現社長は辞意を表明されたそうであります。(朝日新聞ニュースの深夜版が詳しく報じているようです)各メディアでは、取締役が鉄道事故によって刑事責任を問われることは極めて異例である、と報じております。

1年ほど前(2008年6月)に「不作為の過失」と経営者の刑事責任(JR西日本事故)なるエントリーをアップしておりますが、私としては、この1年前のエントリーで申し上げたことがそれほど間違っていなかった、と認識しております。1カ月ほど前の報道では、最高検と神戸地検とで起訴すべきか否か、見解が分かれていたと報じられておりましたが、過失犯の実行行為時(カーブの付け替え)に取締役鉄道本部長だった現社長さんだけを立件して、歴代の社長さん方については不起訴とする判断につきましては、結局のところ経営トップの「不作為の過失」を立件するのは困難との判断に至ったものと理解しております。現社長さんが立件されたのは、あくまでも取締役という地位からではなく、「鉄道本部長」という現場責任者のトップだったことに起因するからだと思われます。

過去に何度か申し上げましたが、自動車の運転ミスによって事故を発生させたような場合においては、過失犯の実行行為は「危険な運転」という作為を客観的に観察することで、運転者の責任を問うことは容易でありますが、鉄道事故が発生した際に、「安全配慮を怠っていた」という経営トップの不作為が、この「運転ミス」のような作為と同等の規範違反と評価できるかどうか、というところに大きな問題が横たわっていると思われます。もちろん安全配慮を怠ることは非難すべき問題です。しかしその非難すべき不作為が、果たして刑法が予定している過失犯の実行行為性を有するかどうかは慎重に判断する必要があります。(これを慎重に判断しなければ、いわゆる「後だしじゃんけん」であり、人や法人の日常の行動を委縮させてしまうことになります)

そこで、ここ1カ月ほどで、検察は異例の強制捜査に乗り出し、不作為の過失の実行行為性判断について検討を重ねてきたものであります。私が思うに、不作為の過失が立件されるためには、①事故発生への予見可能性、②予見可能性があることを前提とした結果回避義務、③結果回避行動に出たことで実際に結果を回避できたかどうか(因果関係)という点を精査のうえ、評価される必要があると考えます。そして、JR西日本の歴代社長さん方につきましては、新聞報道では「予見可能性」の問題とされているようでありますが、(たしかに予見可能性が十分ではなかったという面もあろうかと思いますが)そもそも取締役会において安全対策に関する責任者を現社長に担当させていたわけですので、事故発生の可能性を認識していたとしても、その認識を安全対策に生かす(結果回避義務を履行する)ことまでの現実の行動は期待できなかった、つまり安全配慮を怠っていた、という「経営トップの不作為」は、過失犯の実行行為性ありと評価できなかったことに帰着したのだと思われます。そしてカーブ改築時において「鉄道本部長」たる現場責任者のトップであった現社長については、事故の予見可能性がある場合には、その職責からみて直ちに自動安全装置を現場に設置する行動に出ることが可能であるため(つまり具体的な事故回避のための行動に出る義務が認められるから)そこに不作為の過失を立件するに耐えうるだけの「過失犯の実行行為性」が認められるものと判断されたのではないでしょうか。このように考えますと、現社長だけが立件された大きな要因としては、取締役という地位にあり、事故発生の可能性を判断するだけの情報を入手しうる地位にあったことよりも、むしろそういった情報を入手したのであれば、直ちに安全配慮のための行動に出るべき地位(鉄道本部長)にあったことが重視されているのではないかと推測いたします。

これは企業犯罪を検討するうえで極めて重要な視点であると思います。たとえば経営トップの「不作為による過失」の刑事責任が追及されているエキスポランドの社長さんについては、エキスポランドという企業が比較的小さな組織であり、社長さんが安全面への配慮(配慮に伴う安全対策の具体化)についても目が届くことが前提にあるわけでして、またそもそも危険性の高い乗り物を稼働させることで収益を上げている企業としては、営業面よりも安全面を最優先しなければならない理由についても明確であります。したがいまして、比較的容易に経営トップの刑事責任を追及しうるところでありますが、パロマの社長さんとなりますと、たしかに非上場会社であり、ワンマン経営に近い組織であったとしましても、安全面への予見可能性が認められたうえで、そこから具体的な事故回避のための措置を直ちにとるべき結果回避義務が認められるかどうかは微妙なところではないかと思います。そしてJR西日本の場合では、上場会社であり、また取締役会における職務分掌が明確に決められているような組織でありますので、具体的な結果回避義務というものが、役員のどこまで認められるのか、非常に微妙な問題を抱えているものと思われます。全社的なリスク管理と結びついた(会社法上の)内部統制の構築という観点からは、整備運用が進むにつれて、経営トップの予見可能性は高まる可能性が高くなるのではないかと考えますが、一方で予見可能性に基づく結果回避可能性は、(現場統括者たる)取締役もしくは幹部担当者には認められても、経営トップには認められないようなケースも出てくるのではないでしょうか。

今後ますます立件が問題とされるであろう「不作為の過失」に関する点につきまして、このJR西日本の経営幹部の刑事責任追及は、今後の同様の企業犯罪についても大きな影響を与えることになるものと思います。また立件された現社長につきましては、まだ起訴された段階ですので、業務上過失致死傷罪の実行行為性について大いに議論の余地がありそうですから、今後の刑事裁判の行方については注視していきたいと思っております。

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2009年7月 8日 (水)

「監査役無機能論について考える」-笹尾氏の論文

今年6月25日付けのアルファ・トレンド・ホールディングス(札証)のリリース「監査役会の監査報告における付記意見に対する当社の是正措置について」などを読みますと、当該事例は監査役の個別監査意見が取締役の職務執行、ひいては会社の内部統制システムの是正に寄与することになったモデルケースのように思われます。ひょっとすると、リリースされていないケースにおきまして、こういったアルファ社のように監査役の意見によって内部統制の是正が図られている企業もあるのかもしれません。しかし株主や一般投資家に見える監査役の活動というものは非常にレアケースであり、なかなか監査役の活動が企業価値の向上に役立っているのかどうかを判断することは困難なのが現状ではないでしょうか。

月刊監査役7月号では、旭化成の元代表取締役で、日本監査役協会の会長も務められた笹尾慶蔵氏の論文「『監査役無機能論』について考える」が掲載されており、非常に感銘を受けました。まず昭和25年当時の松本丞治、石井照久という両東大教授(当時)の監査役論争について紹介され、「監査役無機能論」はいつの時代も米国の制度をテンプレートとする考えの商法学者や資本市場関係者から唱えられ、経済界は一貫して監査役制度の廃止に反対するのであるが、その経済界の反対にも二面性があり、真摯に監査役制度の有用性を評価する者と、社外から取締役メンバーに介入されたくないことの口実として監査役制度の有用性を評価する者がいる、とのことであります。(いまの議論とほとんど同じ議論が昭和25年当時からなされていた、といっていいようであります)

とくに最近の議論では監査役制度の運用面を検証してみよう・・・という風潮が出てきておりますが、笹尾論文では監査役の活動は「そもそも外からは見えないのだ」とされており、私もまったく同意見です。また監査役監査は属人性の強い職務であり、監査役の人格、見識、能力に、大いに左右される傾向にある、という解説にもうなづけます。最近、日本監査役協会作成による「監査役監査基準」の法的性格・・・のようなものが、監査役の法的責任論とともに話題になることがありますが、笹尾論文では、会計監査人とは異なり、監査役制度は能力の差があることを前提とした制度であるために、監査役監査の法的な注意義務の水準を示すものではなく、「監査手続のガイドブック」的なものであると述べられており、このあたりも穏当なご意見ではないかと思っております。このように、笹尾論文で指摘されているような監査役制度の特徴からしますと、たしかに有事における監査役の職務執行のあり方というものも、「こうすべきである」と明確に説明できないところもあり、やはり監査役制度の運用を検証するにあたっても、なかなか目に見える形での実例というものを探し出すことは困難なようであります。また「運用を検証する」といいましても、それは笹尾氏が追求するような「取締役との信頼感(経営理念)を共有しながら、ときに耳の痛い提言を行う」姿を検証するのか、それとも「取締役との信頼関係が破壊されても、断固として監査役としての使命(と信じるところ)を貫く」姿を検証するのか、検証対象が合意されていなければ議論が前に進まないように思われます。

笹尾氏の論文は示唆に富むものであり、勉強になるところが多いのでありますが、NOVAの事例、三洋電機の事例、そして私が代理人を務める某会社の事例にみられるような「監査役自身の任務懈怠について損害賠償責任が追及される事例」というものは、これまであまりなかったのでありまして※1、果たして有事における監査役の対応を、その人格、見識、能力だけに依存していて良いのだろうか・・・と思案するところもあります。先日、トライアイズ社の監査役の方が監査費用請求訴訟をトライアイズ社相手に提起したことがリリースされ、また一部報道されました。取締役の違法行為差止の仮処分や、株主総会決議取消訴訟提起には監査役を支援する代理人弁護士は不可欠であり、その弁護士費用等は当然に会社が負担するものであるとして前払費用請求をしたところ、会社は費用にうち、一部しか支払を認めなかったことにより、上記訴訟が提起されております。「日本の文化と合致した監査役制度」という面からみて、法廷闘争も辞さない監査役の対応というものについては異論もあるかもしれません。しかしながら、「企業の継続性に疑義があり、株主共同の利益が毀損されてしまいかねないような事態」に陥った企業におきましては、そもそも取締役との間で共有すべき「信頼関係もしくは経営理念」は構築する前提を欠くのでありまして、法廷闘争をもってしてでも会社を守ることは株主から負託された監査役の使命ではないでしょうか。(この考え方は、差別的行使条件付きの新株予約権の無償割当が、株主平等原則の趣旨に悖ることになるけれども、買付者による大量取得行為を放置することで企業の存続に影響を与えかねないような場面において、厳格に必要性・相当性の要件をクリアする場合には防衛策の発動も許容される、というブルドックソース事件の最高裁判決の考え方に近いものと思います)こういった監査役の権利行使が濫用されないように、法的な観点から権利行使の必要性、相当性を判断するのも監査役を支援する代理人弁護士の役割でもあるわけでして、これは会社における監査費用の一部として認容されるべきものだと思われます。

※1 もちろん、これまでも監査役の責任が認められた判例はありますが、監査役が取締役の違法行為に加担していたものや、知っていながら放置していた、名義貸し監査役だった、といったものばかりであり、「見逃し責任」を問われたケースはほとんどないのが実際であります。

もちろん、監査役による法廷闘争を勧めるつもりは毛頭なく、むしろ監査役の有事における権限はできるだけ謙抑的に行使されるべきである、と考えております。しかしながら、監査費用の前払いも満足に請求できない(監査役が自腹を切らなければ法廷闘争もできない)状況では、そもそも監査役の権限は絵に描いた餅にすぎず、「謙抑性」すら議論する必要性もないわけでして、ましてや「監査役制度の運用を検証する」前提すら欠くことになることに留意すべきであります。また、監査役は自らの主張をきちんと議事録に記載して、経営理念を共有できなければ辞任すればよいではないか?といった議論も成り立つところではありますが、この月刊監査役7月号では、別の方の論文で「監査役の一斉辞任は職務の放棄ではないか?それが株主から職務を負託された監査役の職務として適正なのか?」と疑問が呈されているところでありまして、これもまた別エントリーにおいて考えてみたいと思っております。

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2009年7月 6日 (月)

日本監査研究学会報告「会計不正に係る判決と課題」

7月4日土曜日、第32回の日本監査研究学会西日本部会(於 あずさ監査法人)におきまして、「会計不正に係る判決と課題」というテーマで特別報告をさせていただきました。私の報告内容につきましては、また「現代監査」第20号で改めて掲載されるようでして、詳細はそちらでご覧いただきたいのですが、報告要旨は以下のとおりです。

1 司法と会計 この異質なるもの

  相対的真実、重要性の原則、リスク・アプローチと絶対的真実、当事者主義、善管注意義務

2 会計監査上の過失が問題とされた最近の判決より

  ナナボシ判決と東北文化学園大学判決を題材として法律要素たる「善管注意義務」と会計監査要素たる「リスク・アプローチ」の関係を考える

3 医療過誤訴訟におけるチーム医療訴訟と会計監査訴訟

  高度な資格保有者間における協働作業上の法的責任論につき、信頼の原則はどこまで適用されるか

4 弁護過誤訴訟と会計監査訴訟

  金融庁の懲戒処分と自主規制ルールによる懲戒処分の関係(それぞれの処分の目的、会計処理方法の妥当性は誰が判断するのか)

5 法律家からの提言

  鉄道事故調査委員会、医療事故調査委員会のような会計不正事件における事実認定・原因分析を行う委員会の設置、民事・刑事事件における専門委員会の設置、会計監査上の責任を問うエンフォースメントの多様性(ハードローとソフトローの使い分け等)

会計士協会の増田会長曰く、「(一学会員として)たいへん勉強になりました。でも、証拠(証憑)の評価については先生が言われるよりも、会計士はもっと厳密に精査していますよ。弁護士さんとはそんなに変わらなと思うけどなぁ。ちょっとあれは異論があるなぁ。。。」

太陽○SG監査法人の某会計士の方曰く「相対的真実主義の取り上げ方がちょっと違和感があった。70%で正しいとする合理的な心証の問題というよりも、複数の会計基準選択の余地がある場合に、どれを選択しても正しい・・・という例の方がわかりやすかった」

有限責任監査法人○ーマツの某会計士の方曰く「うーーーん、そういわれてみると、たしかに私もリスク・アプローチってようわかりまへん(笑)」(←たぶんご冗談でしょ・・・)

等々、ご意見をいただきました。(どうもありがとうございます)西日本部会としては、これまで以上に多くの方にご参加いただいたそうでして、大証の○○さんや、新○本有限責任監査法人の○○先生、また私が監査役を務めるフ○ンドリーの常勤監査役の○○さん、○○新聞の○○さんなど、応援にかけつけていただいた方もいらっしゃって、たいへんうれしかったです。また、とりわけチーム医療訴訟における医師の過失責任の考え方と会計監査人の責任との比較については、みなさま非常に関心が高いことがわかりました。

しかし、一番うれしかったのは、昨年の7月青山学院における日本内部統制研究学会の基調報告の際、かなり厳しいご意見を頂戴しましたT北大学のT田教授より、(懇親会の席上)「いや~、今日の報告は良かった! キミ、ずいぶんと成長したね~。去年は幼稚なこと言っとったけど・・・」←( ̄∇ ̄ ;)
とおほめの言葉(ですよね?)を頂戴したことであります。(なんか雪辱を果たしたような気分♪)この歳になって人様から「成長したね」などと言われることは、ほとんどありませんので、ホント嬉しかったですね。(あっ、でも私は部外者ですから、これからもホンネでお話させていただきますね)

学会員以外の者に、1時間も特別報告をさせていただき、またパネリストとして討論に参加させていただいた(開かれた)日本監査研究学会に敬意を表するとともに、貴重な勉強の機会を与えていただいた関係者の皆様(特にあずさの佐伯先生と北山先生)に、この場を借りて厚くお礼申しあげます。(東日本部会も盛会となりますよう祈念しております。そういえば、監査学会の会長選挙も「直接投票」に変わったそうですね。H田先生からお聞きしました)

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2009年7月 3日 (金)

内部統制 総括するには早すぎる・・・(ような気がします)

コメント欄におきまして、すでに内部統制報告制度に関する総括的なご意見も出てまいりました。(みなさま、ご意見どうもありがとうございます。)プリンシプルベースによる規制手法に慣れていない日本の企業にとりまして、内部統制報告制度の初年度にいろいろと問題が呈示されるのは、制度趣旨としてはとても良いことだと認識しております。良い見本が見つかれば、そこに集約されていくわけで、また制度自体に欠陥が見つかれば大幅な改廃もあって良いと考えております。したがいまして、まだまだ総括には時間が早すぎると考えております。

さて、当ブログにおきましても約10日間にわたり「内部統制報告書の検討シリーズ」を続けてまいりましたが、本日(7月2日)の日経新聞朝刊にて「内部統制に欠陥、56社」(開示会社の2%)という見出しで、とりあえずの総括記事が掲載されておりました。(※ 正確には「重要な欠陥あり」と開示したのは55社、「内部統制は有効ではない」と開示したのが1社で合計56社ということになります)フリード社とフォーバル社の報告書の内容から、これを一つの重要な欠陥の開示と括りますと、私のこれまでのエントリーで表示しております企業とピッタリ56社一致しておりましたのでホッといたしました。(^^;ちなみに、日経朝刊のQ&A記事は一般読者向けにはタイムリーな解説だと思いますし、またプロティビティ・ジャパンの神林さんのご意見につきましても、(金融庁や監査法人が用意周到に進めた結果として2%にとどまったのかどうかは、ちょっと異論もありそうですが・・・)概ね賛同するものであります。(結局、重要な欠陥があり、内部統制は有効ではない、とする報告内容(予定を含めて)を適時開示として公表したのは岩崎通信機さんとBB太田昭和さんだけだったのでは?)なお、内部統制報告書につきまして、監査法人が「意見を表明しない」とした9社(7月1日リリースのJDC信託まで含め)についても、やはり内部統制に問題を残した企業として含めるべきでしょうから、内部統制に欠陥があったのは合計では65社とみるのが正確ではないでしょうか。

ところで内部統制における「重要な欠陥」とその是正について各社報告書を研究することも重要でありますが、今後注目されるのは、今回「当社に重要な欠陥は認められず、内部統制は有効であると判断した」と報告している企業につきまして、過年度決算訂正を必要とするような、財務報告に重要な影響を与えるような企業不正(不正とまでは言えない誤謬も含む)が発覚したときにはどうなるのか?という点であります。これは内部統制を評価した企業の経営トップおよび内部統制監査を担当した(適正意見を表明した)会計監査人の対応に関する問題であります。7月2日の内部統制報告書関連の記事の横に有限責任監査法人トーマツさんの調査結果が掲載されておりましたが、そこには512社のうち21%の上場企業において資産流用行為や不正な財務報告などの不正が発生していた、とのことであります。(また、70%ほどの企業が、内部統制報告制度対応が、不正防止や発見に一定の効果があった、とのこと)不正の財務報告に対する影響度にもよりますが、これだけ多くの上場企業において経理面に影響のある不正が発生しているということは、これからも当然のこととして、従来から継続していた会計不正事件が発覚することは100%間違いないと思われます。今回、内部統制は有効である、と評価した企業において、そのような不正が発覚した場合、どういった理由をつけて「あのときは重要な欠陥はないと思いましたが、実際には大きな不備が存在していました。」と説明するのでしょうか?それとも、そういった場面において、はじめて「内部統制の限界論」が登場してくるのでしょうか?

また、今後増加するであろう会計不正に関する法的責任追及訴訟におきまして、内部統制報告書はどのように活用されるのでしょうか?経営者の内部統制構築義務を具体的に根拠付ける「経営トップが管理すべきリスク」や、会計監査において「通常実施すべき監査手続き」を裁判上特定するための「固有リスク」や「統制リスク」を裁判官に説明するにあたり、文書提出の申立てによってかなり「おいしい」文書が出てくるはずであります。(実施基準によって保存期間は5年と定められておりますので、「紛失した」「廃棄した」とは言えないはずであります)今後露見するであろう「内部統制報告制度リスク」といったものが、どのような形で法的に問題となるのか、そのあたりが判明することでやっと総括ができるのではないでしょうか?

※ ノオトさんより「通常実施すべき監査手続き」なる用語が古い・・・というご指摘を受けましたが、(もちろん以前の裁判上でも用語は問題となりましたので、従来の監査用語としては古いことは承知しておりますが)リスク・アプローチが採用される現在でも、一般に専門家としての注意義務を尽くして監査を行うこと示す用語としては用いられることになるんじゃないでしょうか。適切な言葉がございましたらお教えいただければと。

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2009年7月 1日 (水)

英国流パネルと司法謙抑主義

6月26日の日経朝刊に小さな記事が掲載されておりましたが、財団法人日本証券経済研究所内の英国M&A制度研究会より報告書がとりまとめられ、6月30日に公表されております。日本型ライツプランに頼る割合が多ければ多いほど、外国投資家からは「日本は透明性の低い市場だと認識される(後述対談におけるF弁護士の言葉)ことになってしまいますが、TOBルールを整理することも含め、英国流のM&Aルールをきちんと理解しよう、というのが本研究会発足の趣旨のようであります。

つまり、敵対的買収防衛ルールについては、これまで米国流ライツプランが主流でありますが、この対極にあるといわれております英国流テイクオーバーパネル(通称パネル)におけるテイクオーバー・コード(通称コード)に関する研究会報告というものであります。それほど話題になっていないのかもしれませんが、報告書の末尾をご覧になればおわかりのとおり、日本を代表する商法学者の方々と金融庁、経産省の方々による研究会でありまして、買収防衛の在り方を企業自身による防衛から市場の環境整備へと傾斜させるひとつのきっかけになるのではないか、と言われているところですね。

「MARR(マール)」の2009年1月号におきまして、東大のK教授とM&A弁護士として名高いF弁護士との対談「防衛策の検証と日本の企業買収ルールの今後のあり方-世界金融危機とグローバル化の中で-」を拝見したときから、この英国M&A制度研究会における議事内容が気になっておりましたが、本研究会報告書を読ませていただき、パネルコードが日本における資本市場の環境整備に役立つものになるのかどうかは、英国と日本の職業文化や司法制度の違いを考えますと、まだまだこれから検討すべき点は多いのではないかと感じました。

パネル自身が2006年の英国改正会社法に基づくようになりましたので、コードが純粋なソフトローとは言えなくなりましたが、こういった自主ルール(一般原則と細則からなる)が我が国におけるM&Aルールとして定着するのかどうか、また民間組織による裁定について、我が国における司法判断は謙抑主義を貫くのかどうか、「合法的村八分」のようなものが職業選択の自由を制限する正当性を有するのか、民間組織の裁定に反する行為を行った者へのアドバイスを完全に拒否しうるほど、日本のM&Aアドバイザーには職業人としての名誉を重んじる気風があるのだろうか・・・など、いろいろな疑問が湧いてくるところであります。(そもそも、これってプリンシプルベースによる規制が社会規範として成り立ちうる文化がまず先にありき、では?)問題の切り口はいろいろあるのでしょうが、私的には(英国のような膨大な審決の先例を持たない日本においての)民間裁定の正当性、そしてソフトローのエンフォースメントの在り方ですね。先日のレックスHD事件などをみましても、裁判所は企業価値研究会のMBO報告書などをかなり尊重しておりましたので、こういった分野におけるソフトローにつきましても、司法謙抑主義の基礎ができつつあるのではないか、とも考えております。

参考書としては、「市場取引とソフトロー」(有斐閣 編集代表中山信弘)における渡辺教授の論文がお勧めです。

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