コンプライアンス違反を通報する社員はわずか26%(だそうです)
午後6時ころから異常なアクセス数になっていたので、リンク元を調べましたところ、このニュースとともに、私のブログ記事も紹介されておりました。スパイア社(大証ヘラ)と第一法規共同による「会社員1000名に聞いたコンプライアンス・アンケート」の結果がリリースされておりまして、なかなか興味深い結果が出ております。
コンプライアンスを意識している社員が半数程度に上るものの、コンプライアンス違反を上司や内部通報窓口に知らせると回答した方は26%にとどまった、とのこと。また、コンプライアンス研修を受講したことがある、とする社員は60%に上るものの、コンプライアンスに関する会社の方針を十分理解していると回答した方は34%にとどまった、とのこと。つまり①コンプライアンスを意識していても、なにがコンプライアンス違反かわからない、もしくは②法令違反の事実が社内に存在していても、そういった情報は社内に滞留している・・・ということなんでしょうね。「長年の恒例行事だから」とか「前任者がやっていたから」というだけで、おそらく一般の社員の方々はコンプライアンスの意識が希薄化している場合もあろうかと思いますので、「通報しなければならないと思っているが、通報などできない」と考える社員の方の数はそれほど多くはないのではないでしょうか。また社員の方が通報しないのは、通報することによるデメリット(制裁)をおそれてのことかもしれませんので、通報しないことが、直ちにコンプライアンス意識が欠乏していることには結びつかないように思います。ただ、やはり何が通報すべき事実か?ということは社員研修等で周知していかねばなりませんので、コンプライアンスに関する会社の方針が十分社内で理解されていないことについては、会社側も素直に反省しなければならないと思いますし、通報事実が増えるための対策(工夫)も検討する必要があると思います。
社員に関心の高いコンプライアンス問題としては、圧倒的に労働法関連事項(セクハラ・パワハラも含まれています)が多いようですが、これはやはり社員の目にとまりやすい法令違反事項だからだと思います。社内のコンプライアンス・リスクにつきましては、発生可能性を横軸とし、発生した場合の影響度を縦軸としてグラフ化している企業が多いと思いますが、労働問題については発生可能性は高いのですが、おそらく影響度(会社の存亡に関わる度合い)はそれほど高くないものと思われます。むしろ、社員の方々が「うちでは起こらないのではないか」と考えておられる反社会的勢力との癒着問題や、会計不正事件、製品安全事故、インサイダー取引などのほうが、影響度はよほど大きいのでありまして、そのあたりも(通報価値のあるものとして)社内教育の対象になってくるものと思われます。(アンケート結果によりますと、情報漏洩問題などは、影響度も発生可能性も高いコンプライアンス問題として位置づけられるようですね)ご関心のある方は、一度リリースの内容をご検討くださいませ。
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コメント
ひとつご教示ください。
「コンプライアンス違反」という言い方が出てきましたが、単純に和訳すると「法令順守(遵守)違反」となりますが、どのように理解したらよいのでしょうか。「違反」と聞くと単純に法令違反=違法行為と使うのかと思ってしまいました。
compliantの反対語はincompliantですが、なんと表現するのが適切なのかよくわからなくなってきました。本来、コンプライアンスには法律のみならず公序良俗・常識のような概念も含まれるとの説も聞いたことがありますし、「コンプライアンス問題」「コンプライアンス・リスク」という言い方も難しいですね。不勉強で申し訳ありません。
投稿: ひとりごと | 2009年7月30日 (木) 03時50分
ご無沙汰しております。コンピュータ屋です。
コンプライアンスの現状おっしゃるとおりと思います。
山口先生のブログをきっかけにコンプライアンスの勉強をしております。
そして、内部通報制度のIT上での運用を提案し始めて1年半。
提案状況は
・「一般の社員の方々はコンプライアンスの意識が希薄化」はもとより
・社内窓口の担当の方もいまいち関心なし(インサイダー事件が発生したところ)
・外部窓口の専門会社、単にセクハラ、パワーハラの延長のような扱い(最近、社長の半生がテレビドラマ化しました)
など
やはり、
「反社会的勢力との癒着問題や、会計不正事件、製品安全事故、インサイダー取引など」重要な通報価値のあるものと認識したいものですね。
コンピュータ屋としても、一番役に立てる分野と思っているのですが、まだまだです。
投稿: コンピュータ屋 | 2009年7月30日 (木) 08時51分
まずは素人から...
compy という言葉には「応じる、順守する」といった意味しかありません。
ただ、「順守する」という言葉には暗黙のうちに「●●を」という言葉が付いてきます。「●●を」という部分は、使う場面に応じて法律・条例、規則、ガイドライン、校則、規格、契約など、規範的なものは何でも入りうることになります。
そうすると企業分野でcomplianceと言う場合、企業経営において守るべき規範が「●●を」の部分に相当します。
法令を守るのは個人でも企業でも当たり前のことですから、むしろその他の規範(ガイドラインや慣習法等)をも対象に含めることに意義があるのではないでしょうか。
「コンプライアンス」という言葉が固有の表意語であるならば、「法令だけでなく、企業が守るべきルール一般を守って経営すること」ということが抽象的な定義になるのだと思います。具体的定義は人によって異なるのではないかと想像します。
私見では、そこに感情的なものを盛り込みすぎると、結局何を守ればいいのか不明確となり、当初の意図・意義が薄まってしまうと思ってます。さらに、極端な場合には、独自の企業努力や駆け引き、独自の主義主張といったことまでコンプライアンスの一言で封殺されかねません。
有識者の意見を知りたいところです。
投稿: JFK | 2009年7月30日 (木) 10時52分
雇用の流動化が進んでいる中で、通報することは勇気のいることです。《ちくる》ことを組織に対する反逆のようにとらえる企業内文化は健在です。言ったことで得になることはまずないのではないでしょうか。そもそも自浄作用的に是正されるような風通しのいい組織なら、こうした問題が発生することは少ないはずです。26%《も》いたことが驚きです。建前回答でないなら、社員の正義感は十分高いのではないでしょうか。10人の部署なら約3人が通報する姿勢ですから、不正・違法は顕在化されるでしょう。
ただ、ヘルプラインの活用実態と比較するとそんなに通報者は多くないように感じていますが。
投稿: TETU | 2009年7月30日 (木) 23時25分
jfkさんのおっしゃるとおりかと思います。>ひとりごとさん
コンプライアンス・リスクというところから出発しますと、役員の責任問題という面からみれば「法令違反」に近いことになりますし、企業の社会的評価の低下という面からみれば「世論やマスコミの論調」にも影響される概念です。法令違反行為自体はそれほど大きなリスクでなくても、その法令違反を隠ぺいしたり、公表が遅れると、そっちのほうがマスコミの格好の餌食になって社長さんが辞任する事態になりますし、法令違反行為自体がそれほど大きな問題でないケースでも、その立ち入り調査の際に、別の形式的な法令違反がみつかって、そっちで大きな社会問題になったりしますので、コンプライアンス・リスクの評価というものは、なかなか難しいですね。最近はコンプライアンス経営が企業の効率的活動を阻害している、といった主張も聞かれるとこですから、私はその調和点をどこに見出すか・・・というあたりを考えるのが好きですね。
投稿: toshi | 2009年7月31日 (金) 01時35分
JFKさん、Toshi先生、ご教示いただきありがとうございました。
「応じる、順守するという意味しかない」言葉に「違反」という言葉がくっついていることに違和感を覚えてしまったものでお聞きした次第です。
法令違反、規則違反、校則違反はしっくりくるのですが、順守違反とはあまり言わないですよね。
最近社内では我田引水の議論を展開するために「何に違反しているか」を触れることなく「お前のやろうとしていることはコンプライアンス違反だ」といった語法を見聞きします。
違反を指摘をするときは「○○法違反」とか「○○規定に抵触する」とか、目的語をはっきりさせて議論しないといけないかなと思いました。
「コンプライアントではない」という状態を示す形容詞はありかもしれませんね。外来語の活用は難しいですね。
投稿: ひとりごと | 2009年7月31日 (金) 04時23分