内部統制 総括するには早すぎる・・・(ような気がします)
コメント欄におきまして、すでに内部統制報告制度に関する総括的なご意見も出てまいりました。(みなさま、ご意見どうもありがとうございます。)プリンシプルベースによる規制手法に慣れていない日本の企業にとりまして、内部統制報告制度の初年度にいろいろと問題が呈示されるのは、制度趣旨としてはとても良いことだと認識しております。良い見本が見つかれば、そこに集約されていくわけで、また制度自体に欠陥が見つかれば大幅な改廃もあって良いと考えております。したがいまして、まだまだ総括には時間が早すぎると考えております。
さて、当ブログにおきましても約10日間にわたり「内部統制報告書の検討シリーズ」を続けてまいりましたが、本日(7月2日)の日経新聞朝刊にて「内部統制に欠陥、56社」(開示会社の2%)という見出しで、とりあえずの総括記事が掲載されておりました。(※ 正確には「重要な欠陥あり」と開示したのは55社、「内部統制は有効ではない」と開示したのが1社で合計56社ということになります)フリード社とフォーバル社の報告書の内容から、これを一つの重要な欠陥の開示と括りますと、私のこれまでのエントリーで表示しております企業とピッタリ56社一致しておりましたのでホッといたしました。(^^;ちなみに、日経朝刊のQ&A記事は一般読者向けにはタイムリーな解説だと思いますし、またプロティビティ・ジャパンの神林さんのご意見につきましても、(金融庁や監査法人が用意周到に進めた結果として2%にとどまったのかどうかは、ちょっと異論もありそうですが・・・)概ね賛同するものであります。(結局、重要な欠陥があり、内部統制は有効ではない、とする報告内容(予定を含めて)を適時開示として公表したのは岩崎通信機さんとBB太田昭和さんだけだったのでは?)なお、内部統制報告書につきまして、監査法人が「意見を表明しない」とした9社(7月1日リリースのJDC信託まで含め)についても、やはり内部統制に問題を残した企業として含めるべきでしょうから、内部統制に欠陥があったのは合計では65社とみるのが正確ではないでしょうか。
ところで内部統制における「重要な欠陥」とその是正について各社報告書を研究することも重要でありますが、今後注目されるのは、今回「当社に重要な欠陥は認められず、内部統制は有効であると判断した」と報告している企業につきまして、過年度決算訂正を必要とするような、財務報告に重要な影響を与えるような企業不正(不正とまでは言えない誤謬も含む)が発覚したときにはどうなるのか?という点であります。これは内部統制を評価した企業の経営トップおよび内部統制監査を担当した(適正意見を表明した)会計監査人の対応に関する問題であります。7月2日の内部統制報告書関連の記事の横に有限責任監査法人トーマツさんの調査結果が掲載されておりましたが、そこには512社のうち21%の上場企業において資産流用行為や不正な財務報告などの不正が発生していた、とのことであります。(また、70%ほどの企業が、内部統制報告制度対応が、不正防止や発見に一定の効果があった、とのこと)不正の財務報告に対する影響度にもよりますが、これだけ多くの上場企業において経理面に影響のある不正が発生しているということは、これからも当然のこととして、従来から継続していた会計不正事件が発覚することは100%間違いないと思われます。今回、内部統制は有効である、と評価した企業において、そのような不正が発覚した場合、どういった理由をつけて「あのときは重要な欠陥はないと思いましたが、実際には大きな不備が存在していました。」と説明するのでしょうか?それとも、そういった場面において、はじめて「内部統制の限界論」が登場してくるのでしょうか?
また、今後増加するであろう会計不正に関する法的責任追及訴訟におきまして、内部統制報告書はどのように活用されるのでしょうか?経営者の内部統制構築義務を具体的に根拠付ける「経営トップが管理すべきリスク」や、会計監査において「通常実施すべき監査手続き」を裁判上特定するための「固有リスク」や「統制リスク」を裁判官に説明するにあたり、文書提出の申立てによってかなり「おいしい」文書が出てくるはずであります。(実施基準によって保存期間は5年と定められておりますので、「紛失した」「廃棄した」とは言えないはずであります)今後露見するであろう「内部統制報告制度リスク」といったものが、どのような形で法的に問題となるのか、そのあたりが判明することでやっと総括ができるのではないでしょうか?
※ ノオトさんより「通常実施すべき監査手続き」なる用語が古い・・・というご指摘を受けましたが、(もちろん以前の裁判上でも用語は問題となりましたので、従来の監査用語としては古いことは承知しておりますが)リスク・アプローチが採用される現在でも、一般に専門家としての注意義務を尽くして監査を行うこと示す用語としては用いられることになるんじゃないでしょうか。適切な言葉がございましたらお教えいただければと。
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コメント
お久しぶりです。tonchanです。
toshi先生のおっしゃるとおり「内部統制報告制度」を総括するには
まだ早すぎるように思います。確かにとりあえず初年度が終了し、社内
プロジェクトも終了した会社も多いことだと思います。
しかし、当社のような小さな会社では運用にも当初予定より大きな工数
がかかるようです。(私は整備に対して1/10の工数と考えて対応してき
ましたが、業務改善や作業手順の整備を考えるととてもそのような工数
ではおさまりません)
このような状況の中でtoshi先生のおっしゃるような後出しじゃん
けんのようなリスクまで考慮した対応ができたとはとても考えられませ
ん。少なくとも私には自信がありません。
業務プロセスに係る統制をいくら評価してもそれだけでは内部統制
リスクは削減できませんが、少なくとも全社的な統制の統制環境を整える
ひとつの大きな支柱のように思います。
その意味で日々の独立的モニタリングの積み重ねこそが今回のJ-SOX
が残した大きな遺産ではないでしょうか?そう考えながら日々内部統制
と内部監査を行っています。
是非、次回お会いできるのを楽しみにしております。
投稿: tonchan | 2009年7月 3日 (金) 11時30分
内部統制の総括には早すぎますので、事実関係を一点だけ。
現時点での開示では、「重要な欠陥」の開示が55社で、内部統制が有効ではないと評価した会社が56社のようですね。1社は、「内部統制に不備があり、有効ではない」と内部統制報告書に記載されています。(デジタルアドベンチャー)
投稿: 迷える会計士 | 2009年7月 4日 (土) 10時01分
>tonchanさん、コメントありがとうございます。またお会いしたときにでも、とりあえず現時点での「総括」について、ご教示ください。よろしくお願いいたします。
>迷える会計士さん、ご指摘ありがとうございました。さっそく本文のほうを修正(加筆)させていただきました。
投稿: toshi | 2009年7月 4日 (土) 10時09分
ちょっと遅い気がしますが、金融庁からも提出状況が報告されていましたね。http://www.fsa.go.jp/news/21/syouken/20090707-6.html
投稿: KY | 2009年7月 8日 (水) 13時10分
ご案内ありがとうございます>KYさん
「総括するには早すぎる」などと言いながら、私が参加している関西の内部統制研究会では、昨日(とりあえずの)総括が行われました。企業規模や業種によって、その効果や2年目への取組姿勢などにも意識の差があったようです。またエントリーのなかで検討したいと考えています。
投稿: toshi | 2009年7月 8日 (水) 13時56分
重要な虚偽表示のリスク要因は企業によって異なるし,リスクに対応する手続は,監査人が職業的専門家としての判断に基づいて策定・実施するものであるので,監査手続が一般化できるような意味に捉えられてしまう「通常」という言葉は,監査手続にはそぐわないと思います。
監査人が実施すべき監査手続は,監査リスクを合理的に低い水準に抑えつつ,監査意見を形成するに足る合理的な基礎を得るための十分かつ適切な監査証拠を入手するために実施する手続です。
監査基準委員会報告30号の文言を借りるなら,「監査リスクを合理的に低い水準に抑えるために監査人が実施する監査手続」(14項)になるでしょうか。
実施基準によって保存期間が5年と定められているというのは,企業が財務報告に係る内部統制について作成した記録の保存期間のことを言っておられるのだろうと思われますが,文脈からは監査人が内部統制監査において作成した監査調書の保存期間を指しているように読めましたので,監査調書の保存期間は5年ではないはずとブログに書きました。
誤解があるようでしたらご教示ください。
投稿: ノオト | 2009年7月 8日 (水) 18時23分
ノオトさん、いろいろとご教示ありがとうございました。たいへん勉強になります。
誤解はないと思いますよ。
法律上で会計監査人の法的責任が議論される場合、たとえば善管注意義務違反の有無を判断するにあたって、「一般的なレベルの能力をもった監査人であれば当然に配慮すべき注意を尽くすこと」という概念を用いますので、私としましては「通常実施すべき監査手続き」というものを法律上で使用するのであれば今後も(純粋な監査上の意味ではなく、法的評価を行う際の意味として)使用可能だと認識しております。「監査リスクを・・・監査人が実施する手続き」では、法的な評価として「過失」や「債務不履行」を基礎付けるには弱いと思います。
保存期間の点につきましてはご指摘のとおりです。誤解を招く表現であればご容赦ください。
投稿: toshi | 2009年7月11日 (土) 01時54分