日債銀粉飾事件・最高裁判断への展望と「公正なる会計慣行」
平成9年3月当時における銀行貸出金について、貸倒引当金の計上基準は大蔵省銀行局通達および法人税基本通達によるべきであるとされ、これに従って貸倒引当金を計上すべきであるにもかかわらず、計上しなかった日債銀について、これまで原審(高裁判決)、第一審では、経営陣に有価証券虚偽記載罪が適用され有罪とされておりました。その事件の最高裁弁論が開かれるそうであります。(朝日ニュースはこちら)つまり昨年7月の長銀事件同様、日債銀事件も最高裁で逆転無罪判決が出される可能性が高まった、ということになります。なお、長銀事件のケースでは、判断が分かれておりました刑事事件、民事事件につきまして、いずれも上告され統一的な判断が下されたことになりましたが、日債銀事件でも刑事と民事では判断が分かれていたものの、こちらは民事事件が高裁判断で確定しております。したがいまして刑事事件だけが純粋に判断される・・・ということになります。
ところで7月8日の日経新聞朝刊に記事が掲載されておりましたが、私もメンバーとして参加させていただいておりました会計制度監視機構が「公正なる会計慣行とは何か?」という報告書をリリースしておりまして、よろしければ提言要旨だけでもお読みいただけましたら幸いです。実はこの報告書の7ページの注22において、日債銀損害賠償請求控訴事件(大阪高裁の判決)の判決内容に触れておりまして、この監視機構の提言内容に最も近い判断をした裁判例として紹介をしております。平たく言えば、公正なる会計慣行と会計基準との関係につきまして、ある企業において、公正なる会計慣行というものは、それに妥当する会計基準が二つ以上併存する場合もありうるのであって、会計処理方針の適用方法まで含めて「公正なる会計慣行」として包摂する概念であることを判決は示しております。つまり「公正なる会計慣行」なる概念はある程度幅のある概念でありまして、ゆえに「唯一の会計慣行」とか「公正なる会計慣行と罪刑法定主義」とか「公正なる会計慣行が二つ以上併存する」といったところが誤解にすぎないのではないか、といった議論へと発展するわけであります。(このあたりは企業会計法に詳しい法律家の先生方のご意見、ご異論が多数出されることを大いに期待したいところであります。)来年にも出されるであろう日債銀事件の最高裁判断は刑事事件に関するものではありますが、昨年の長銀事件以上に踏み込んだ判断をしていただき、この「公正なる会計慣行」の概念を法律の世界がどう受けとめるのか、明確に示されることに大いに期待をしております。
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