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2009年7月 1日 (水)

英国流パネルと司法謙抑主義

6月26日の日経朝刊に小さな記事が掲載されておりましたが、財団法人日本証券経済研究所内の英国M&A制度研究会より報告書がとりまとめられ、6月30日に公表されております。日本型ライツプランに頼る割合が多ければ多いほど、外国投資家からは「日本は透明性の低い市場だと認識される(後述対談におけるF弁護士の言葉)ことになってしまいますが、TOBルールを整理することも含め、英国流のM&Aルールをきちんと理解しよう、というのが本研究会発足の趣旨のようであります。

つまり、敵対的買収防衛ルールについては、これまで米国流ライツプランが主流でありますが、この対極にあるといわれております英国流テイクオーバーパネル(通称パネル)におけるテイクオーバー・コード(通称コード)に関する研究会報告というものであります。それほど話題になっていないのかもしれませんが、報告書の末尾をご覧になればおわかりのとおり、日本を代表する商法学者の方々と金融庁、経産省の方々による研究会でありまして、買収防衛の在り方を企業自身による防衛から市場の環境整備へと傾斜させるひとつのきっかけになるのではないか、と言われているところですね。

「MARR(マール)」の2009年1月号におきまして、東大のK教授とM&A弁護士として名高いF弁護士との対談「防衛策の検証と日本の企業買収ルールの今後のあり方-世界金融危機とグローバル化の中で-」を拝見したときから、この英国M&A制度研究会における議事内容が気になっておりましたが、本研究会報告書を読ませていただき、パネルコードが日本における資本市場の環境整備に役立つものになるのかどうかは、英国と日本の職業文化や司法制度の違いを考えますと、まだまだこれから検討すべき点は多いのではないかと感じました。

パネル自身が2006年の英国改正会社法に基づくようになりましたので、コードが純粋なソフトローとは言えなくなりましたが、こういった自主ルール(一般原則と細則からなる)が我が国におけるM&Aルールとして定着するのかどうか、また民間組織による裁定について、我が国における司法判断は謙抑主義を貫くのかどうか、「合法的村八分」のようなものが職業選択の自由を制限する正当性を有するのか、民間組織の裁定に反する行為を行った者へのアドバイスを完全に拒否しうるほど、日本のM&Aアドバイザーには職業人としての名誉を重んじる気風があるのだろうか・・・など、いろいろな疑問が湧いてくるところであります。(そもそも、これってプリンシプルベースによる規制が社会規範として成り立ちうる文化がまず先にありき、では?)問題の切り口はいろいろあるのでしょうが、私的には(英国のような膨大な審決の先例を持たない日本においての)民間裁定の正当性、そしてソフトローのエンフォースメントの在り方ですね。先日のレックスHD事件などをみましても、裁判所は企業価値研究会のMBO報告書などをかなり尊重しておりましたので、こういった分野におけるソフトローにつきましても、司法謙抑主義の基礎ができつつあるのではないか、とも考えております。

参考書としては、「市場取引とソフトロー」(有斐閣 編集代表中山信弘)における渡辺教授の論文がお勧めです。

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コメント

ご無沙汰しています。

(最近思うのですが)敵対的買収にしろ、モノ言う株主にしろ、ルール整備もさることながら、株主そのものも重要じゃないかと感じます。

英国の大企業間の敵対的M&Aで、(知っている限り)パネルまで出てくるケースも実際あまりないので、ルールの比較だけだと具体性もなさそうな感あり。

何より、株主の機関投資家が進んでいるので、提案を簡単に退けられないし、株主の意見は無視できない、という風土を被買収ターゲット企業からは感じます。これをわけのわからん抽象論で「株主は分をわきまえろ」という風土になっていることがそもそも違いますね(持合いの解消もなかなか進みませんし)。

おっしゃる通り、「プリンシプルベースによる規制が社会規範として成り立ちうる文化がまず先にありき」かもしれません。

株主が機関投資家ばかりでいいのか、というのは別の議論でしょうが。

入口(ルール)と出口(株主の声)の両方の整備を並行してほしいですね。

また、我々個人株主もより合理的に企業を見る目を養う必要性があるかもしれません。今回のロームの様な例が通ってしまうのは、ちょっと非合理的。

閉鎖的な資本政策の企業はそうでない企業より成長性に劣る、とかいう事実が今後積み重なれば(あるいは上場廃止とか)、などのインセンティブもいいかもしれません。ルールはどうせ抜け穴ができるでしょうから。

投稿: katsu | 2009年7月 1日 (水) 12時31分

katsuさん、ご意見ありがとうございます。

たしかこの報告書においても、英国市場における機関投資家の力については指摘されていたように記憶しています。英国市場においても米国流の買収防衛策が禁止されているわけではなく、ただ機関投資家の力が強いので、そもそも通らないのだ・・ということですね。

個人株主もより合理的に企業を見る目を養う、とのことですが、たとえば議決権行使の結果開示や、機関投資家の議決権行使結果の開示などが進むことについては、そういったところを補う効果を見出すことはできないでしょうか?(もちろん、すぐに効果が出るとは思いませんが。どうも私は個人株主の企業を見る目というものについて懐疑的なもので・・・)

投稿: toshi | 2009年7月 5日 (日) 22時23分

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