政権交代と会社法制の行方-「公開会社法」の実現可能性
(7月25日 追記あります)
あまりブログではとりあげられていないので、それほど一般の関心は高くないのかもしれませんが、思わず反応してしまったのが(いくつかの新聞系ニュースで掲載されておりました)「公開会社法」制定に関する民主党のマニフェストであります。もう2年ほど前から、私の仕事上での知人でもある某民主党議員(会計士さんです・・・昔はけっこう事務所に遊びにきてくれましたが、今はもう、ずいぶん遠い人になってしまったようでして・・・(^^; )が、塩崎官房長官(当時)に「公開会社法制定の実現性」について代表質問をされておりましたので、民主党としても、ずいぶん前から勉強されていたはずであります。日経新聞朝刊によりますと、政権をとった場合にはただちに国会への提出準備に入る・・・とのことですから、この「公開会社法」の中身については真剣に検討してみたくなりますよね。(商法学者の皆様方はどのように構えておられるのか、どうも情報に疎いもので、よくわかりませんが)
日経新聞では、従業員の代表が監査役会に・・・ということで、従業員から選任された代表者が監査役会に参加することや、会計監査人の選任権、報酬決定権を監査役会に付与する、といった監査役会制度の改正や、連結経営時代に対応するグループ企業法制に関する概要が紹介されていましたが、東京新聞系のニュースはもっとすごいことが書いてありますね。あれだけ議論がなされた「社外取締役制度導入論」でありますが、(マニフェストによると)取締役会のうち3分の1程度を社外役員とし、外部から経営チェック機能を高める、社外取締役の条件も厳しくする、ということで、民主党は経営体制の強化のために社外取締役の導入義務化を大きな柱とする、とのことであります(ホントでしょうか??)さらに朝日新聞ニュースでは、①公開会社に適用される「特別法」として公開会社法を制定(情報開示・会計監査を強化)、②証券取引等監視委員会を改編して、金融商品取引監視委員会(日本版FSA)の創設、③投資家保護法制の整備(これは現在でも議論されている、「金商法の完成版」としての、いわゆる投資サービス法構想案のことではないでしょうか?)を推進する・・・とありまして、各新聞報道でもいろんな概要が紹介されております。
いろいろと感想はございますが、ちょっと気になりましたのは、従業員代表が監査役会入りへ・・・という報道はありますが、従業員代表が監査役就任へ・・・とは報道されていないところであります。念のため、日本取締役協会で議論されておりました公開会社法要綱案(11案)を確認しておりますが、どこにも従業員代表者が監査役会に参加したり、監査役に就任することは提言されておりませんので、これは民主党プロジェクトチームでの構想案で初めて盛り込まれた内容のようであります。実際に民主党マニフェストを読んでみないとわかりませんが、従業員代表が監査役会に参加することと、監査役に就任することとは相当意味合いが異なってきますし、基本的に監査役自身が独任制機関であることや、監査役会が多数決によって決議を行う機関であることなどから、「特別法」としての公開会社法上の監査役制度にどれだけのインパクトを与えるのかは未知数のところがあると思います。また、東京新聞ニュースによりますと、監査役会に従業員代表の選任を義務付けることとして、監査役制度を強化し、たとえば従業員にとって不利になるような事業売却については行えないようにする・・・とのことであります。しかし、監査役会が(取締役の職務執行に違法性が認められない場合にまで)事業売却に待ったをかけることができる・・・ということは、業務執行の一部を監査役会が担うということでありますから、そもそも監査役監査が違法性監査であること(つまり妥当性監査はできないこと)と、どのように折り合いをつけていくのか、よくわからないところであります。まさかポルシェとワーゲンの監査役会のように、ドイツ型のガバナンスを採用して会社の事業の命運を分けるほどの力が監査役会に付与される、というわけではないですよね?(^^;;
いずれにしましても、中央官庁の方々も戦々恐々とされているでしょうし、どなたか諸事情にお詳しい方がいらっしゃいましたら、なにか情報をお寄せいただけますと幸いです。政権交代劇が起こったとしても、会社法制が大きく変容することにつきましては、まだ私は疑心暗鬼であります。(甘いのかなぁ・・・。今月中にはマニフェストがリリースされるそうですから、早く読んでみたいですね。)
(7月25日 追記)早速、ある方から情報をいただきました。(マニフェスト原案を読まれた方のようです)エントリーでは、「従業員代表が監査役会に参加」と書きましたが、やはり従業員代表が監査役として就任することが記載されているようです。また、どうも議員立法のような形で法案を提出するのではなくて、民主党が公開会社法の基本方針を示して、これを審議する努力義務のようなものを課す方法で検討する・・・ということになるようですね。ということは、会社法制に大きな変革の波が押し寄せる、ということにはならないのでは?と思います。
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コメント
公開会社法ですか。私はなかなか実現は難しいと思います。必要性もいまいち実感がありません。
公開会社/非公開会社の規律ならば会社法でも十分に対応できていると思います。
そうではなく、上場会社に特化した規律を設けるというだけのことなら、名前は「上場会社法」であるべきでしょうが、そもそも別個の法律にせずとも会社法の部分改正で足ります。
従業員代表を監査役会に入れるというのは面白いですが、そのような運用を許容するのはよいとしても、制度にしてしまうのはどうかと思います。会社制度の規律と使用者被用者関係の規律とがねじれてしまう気がします。
統治の素人がいきなり実行できる事ではありません。
民主党がやるべき仕事は他に山ほどあります。
個人的な思いとしては、自公が勝つか民主が勝つかはどちらでもよいですが、とにかく2/3以上を占める強い連立政権でもって、まずこの国の何が腐っているのかを聖域なくすべて国民に開示したうえで、国家の基礎と骨組を叩き直してほしいです。そうすれば、公開会社法(上場会社法)など二の次であることが明白になると思います。
投稿: JFK | 2009年7月24日 (金) 20時26分
日本の上場企業の多くで、取締役会と執行がほとんど一体。創業家とか親会社とかがいて、大株主が取締役会も執行部隊も支配している。そうでない会社も、取引先だとかグループ企業だとかが持ち合い株主として存在して執行部隊にチェックが働きにくい。一方、執行部隊と労働側(少なくとも正社員)が親しい。地元その他のステークホールダーの力も強い。とすると、一番力が弱いのは、仲良しクラブに入れない少数株主では?などと言うと(ちょっと前まではいろいろな人から良く言われていたことだと思いますが)、今日の日本では、小泉改革路線の冷たい資本主義の手先とか言われてしまうのでしょうか?
上記の構図のなかで、「会社全体の中長期的利益を守る」との理由で行われる執行部隊の怠慢(ちょっと言葉きついですが)が放置されているケースが多いのではないでしょうか? 監査役も多くのケースで全く歯止めにはなっていないのが、実情であろうと思います。この状況のなかで、監査役会にさらに労働側が参加するのが果たして良いことなのかどうか?
今後の上場企業のカバナンスを考えるとき、社外取締役の義務化しか、仲良しクラブの外側にいる株主の利益を守る体制にはならないのではないかと思います。
投稿: max | 2009年7月26日 (日) 21時58分
まあドイツの真似をしたのでしょうが、
以前或る弁護士さんに教わったことがあるのですが、
そもそもドイツ語の取締役を監査役と誤訳(?)したところから
日本の商法の迷走が始まったそうで…
そういう意味では労働者代表を監査役会にではなく、取締役会に
入れて一定の発言権を与える、というほうが理に適っています。
いずれにせよ、法律の改定は必要になりますが。
投稿: 機野 | 2009年7月27日 (月) 01時16分
その後、民主党のホームページを見ると、「INDEX2009」には公開会社法が登場しますが、「マニフェスト2009」には登場しませんね。
http://www.dpj.or.jp/policy/manifesto/seisaku2009/img/INDEX2009.pdf
http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2009/pdf/manifesto_2009.pdf
また、このINDEXは短くて、「・・・公開会社法の制定を検討します。」と結ばれているので、プライオリティーが低い扱いなのかもしれません。内部のプロジェクト・チームの報告書はもっと詳しいのですが。
投稿: ある方 | 2009年7月28日 (火) 07時42分
みなさま、コメントありがとうございます。
私も昨日、民主党のHPから覗いてみたのですが、ある方さんがおっしゃるとおりでございます。
マニフェストの「各論」部分に少し触れている程度だったんで、まあこんなものなのか・・・と。
その「プロジェクトチームの報告書」を読まないと、なんとも追加エントリーは書けないようですね。(笑)
投稿: toshi | 2009年7月28日 (火) 09時33分