« 金融庁VS第三者委員会という構図 | トップページ | 内部通報窓口からみたパワハラ問題のむずかしさ・・・・ »

2009年7月14日 (火)

パンデミック対策として法律家(企業法務)に求められるものとは?

しつこいようで恐縮ですが、例の貴乃花親方名誉毀損損害賠償事件について、新潮社に続いて講談社についても内部統制構築義務違反を理由に社長個人の重過失が認定されたようですね。(また別エントリーで検討したいと思います)

きょう、ある経済団体の方とお話をしていて、いま一番会員企業の方々に関心が高い法律問題は?とお聞きしたところ、M&Aでもなく、社外取締役導入問題でもなく、反社会的勢力排除問題でもなく、「秋冬の豚インフルエンザ再来時における企業法務問題」がダントツの関心事だそうであります。(うーーーん、私的にはあんまり得意分野じゃないです。。。ちなみに会計における最大の関心事はIFRSかと思いきや、「企業開示の緩和、とりわけ四半期決算短信の緩和」だそうです。そういえばちょうど業績予想の任意開示問題など、四半期決算短信に関する提言書を経済団体が合同でリリースされたばかりだったんですね。)いま法曹界と経済界を結びつける最もホットな話題はパンデミック対策としての企業法務、ということのようであります。たしかに特定企業の利益や弁護士業界全体の利益といった「儲け」の領域を超えて、国民全体の生活を守ることを目的とした「社会的責任」を果たすための重要な課題なのかもしれません。有事になってからでは遅すぎる、平時である今だからこそ、速やかに法律家も検討してほしい、とのこと。

とりわけライフラインに関連する企業や交通機関など、法律で事業遂行上の稼働人数を決められているような企業において、もし従業員の多くがインフルエンザで休んでしまったり、休業を余儀なくされたり、交通が遮断されて会社や工場に出向くことができなくなる場合、企業はどうすればいいのか?社員に無理をいうわけにはいかず、かといって事業を停止するわけにはいかず、いわば法律違反を知りつつ事業を継続した場合に民事賠償の対象となったり、刑事罰の対象になるのか、ならないのか、非常にグレーな領域の問題として、企業は戦々恐々とされているそうであります。前例もなく、参考となる事例が存在しないため、多くの企業から経済団体に対して問い合わせがあるとのこと。

たしかに企業のリスク管理のひとつとして、パンデミック対策はだいぶ進んできたように思いますが、言われてみればなるほど「パンデミックと法律問題」というのは今まであまり聞いたことがなかったように思います。(いや、私が知らないだけで、ひょっとすると大学などで研究は進んでいるのかもしれませんが・・・)経済団体の方は、こういった問題こそ、法律家の方々が検討すべきリーガルリスクを明らかにしたうえで、企業としての対応ガイドラインのようなものを作ってほしい、とのことでした。稼働人数だけでなく、たとえば電力やガスの使用が制限されたり、商品の輸送手段に限界が生じた場合などにも想定されるそうでありまして、現在の刑法や民法などの条項を駆使して、緊急時の事業活動にまつわる法律問題を検討することも喫緊の課題と考えられているようです。(取締法規違反が問題となるのであれば、法曹界だけでなく行政上の問題にも発展するような気もいたします。なるほど・・・でも、緊急時にどのような法律問題が発生するのか想像するのはむずかしいなぁ。。。たいへん重いですが、勉強になりました・・・)

|

« 金融庁VS第三者委員会という構図 | トップページ | 内部通報窓口からみたパワハラ問題のむずかしさ・・・・ »

コメント

 発生時に質問させていただきました。豚インフルは低毒性だったため、深刻な判断場面がなくて助かりましたが、強毒・強感染性の場合、まず対内的には職務命令はどういう基準で出すべきなのでしょうか。ずっと懸念されている鳥インフルエンザの致死率は現在平均で40%程度(下がっています)かと思われます。先進国の医療体制下ではさらに抑えられると思いますので10%だったとしても、10人に1人の死者ですから出張などで罹患した場合、発令者の責任問題が発生してくることはないのでしょうか。
 今度ですら流行地への出張をすぐにストップしたところがかなりありましたが、パンデミックになればすべての地域に危険があり、不要不急の先ばかりではないでしょうから、判断は大変だと思います。戦争地域への航海に船員が乗船拒否をしたことがあったように記憶しますが、高い致死率であれば同じようなものではないだろうか、などと素人考えして、命令権者の判断は重いのだろうと思います。
 メキシコの初期の混乱をBBCへの投稿で読んでいましたが、致死率が高いケースのパニックが起きないことを祈るばかりです。
 回避策として海外駐在員の家族をいち早く引き揚げるパナソニック方式も一長一短を指摘されています。残された駐在員の精神的ストレスや罹患した場合の医療支援の問題が起きます。また、対外的には感染源となった従業員が出た場合、どこまで企業側が対策を取れば批判を浴びなくて済むのかも不鮮明です。
 さらに、ワクチンが作られて、企業が強制接種した場合の問題もあるように思います。副作用が内在していますから、1976年の米国での訴訟ラッシュがどうしても想起されます。ですから国は逃げ道を用意するはずですが、企業は接種を従業員の自由にするのでしょうか。
 患者の人権問題も深刻な様相を見せます。差別や攻撃は今回のような場合でも起きました。パニックの1要素にもなりますので、早めに人権救済の手を打つ必要があるように感じています。
 企業活動の継続の議論ばかり活発に行われていましたが、クライシスの1局面として、加害、被害、組織運営、信用、風評などさまざまな面から検討しておくべきではないかと、少数派でしたが思ってきました。それで、5月の時も実務的法律問題の一問一答を探したのですが、なかなか見つかりませんでした。というか関心のある弁護士の方があまりおられなかったという印象です。
 
 

投稿: TETU | 2009年7月14日 (火) 21時27分

うーん、法律の問題を持ち出してこられること自体違和感があります。
課題の本質が歪んでしまうような気がします。

普段は嫌がっているのに、危機感に襲われたらすぐに戒厳令だの国民
総動員法だのを欲してしまうのは国民性でしょうか(笑)。
「法令遵守が国を滅ぼす」(郷原氏)代表例かと。

各企業や行政府が最低限のことを考えておき、後は臨機応変に対応する、
これしかありませんし、そういうことが出来るような思考・行動の
訓練こそが大事なのだと思います。

投稿: 機野 | 2009年7月14日 (火) 23時47分

すみません。全然関係ない話題で恐縮です。

「「即決裁判手続き」が違憲かどうかが争われた事件の上告審判決」で
これが違憲ではないという判決が下りましたが、
ひょっとしてこれはとんでもない大問題ではないでしょうか?
事実誤認を理由とした控訴が認められないということなのですが、
いくら被告人が同意していたとはいえ何らかの理由で後になって事実
誤認が判明しても控訴できない(しても意味がない?)というのは
おかしいような気がしますし、それを違憲ではないというのは
さらに輪を掛けておかしいと思えてなりません…

投稿: 機野 | 2009年7月14日 (火) 23時54分

TETUさんの問題提起に共感します。
法律家や経営者が今なすべきことは、今回の新型インフルエンザ事例を好素材として想像力の源泉とすることだと思います。
弱毒性であったがゆえに、世界(WHO)・政府・地方行政・企業・家庭あらゆる方面でリハーサルできたわけですから、仮に強毒性が流行った場合にどうなるか、どうすべきかをイメージしつつ今できる最低限のことを実施することでしょう。
少なくとも、今回の事例からは、行政による行動計画とリンクした企業内対策本部を実行力と機動力の備わった形で機能させることが必要だとわかりました。もっとも、今回は弱毒性ゆえに難しいリハーサルだったともいえるわけで、強毒性であれば世論的にも社内的にも、割り切った(強権発動的な)施策が許容されやすいかなと思います。

法律とのかかわりでは、①労働分野と②契約分野が頭に浮かびます。
①労働分野では、感染地への出張命令、帰国者の出社阻止(待機期間の長短と期間中の給与問題)、咳などの症状がある社員を帰宅命令に付すことができるか(逆に、明らかにひどい咳をしている者に帰宅命令を出さないことが他の社員との関係で妥当か)、子供の学校が一斉休校になった場合の親の休暇等の問題が深刻だと思います。
②契約分野では、いわゆる不可抗力条項の適用不適用の問題があります。今回のような中途半端な?パンデミックの場合はあまり深刻な問題は生じませんでしたが、強毒性となると適用場面が出てくるはずです。それに備えて、「新型インフルエンザ流行による事業の一時停止…欠員等に因る履行障害…」等々、これまでよりも具体的かつ現実に適用できる形で盛り込んでおくことも検討する必要がありそうです。

投稿: JFK | 2009年7月15日 (水) 00時56分

ご意見どうもありがとうございます。(そうでした。TETUさん、ずいぶんと前から問題提起されていましたよね。すいません、きちんと把握しておりませんでした)
機野さんのご意見も、もっともかと思います。私自身もどこか「超法規的措置」というものが頭をめぐっているのが現実です。「不可抗力条項」というものも、どっかに超法規的措置を置いた議論なのかもしれません。ただ、JFKさんがおっしゃるように(無い知恵を絞ってでも)想像力をめぐらせて、可能な限り社会秩序の平穏のためにお役にたてるような仕事をすることが、法律家のはしくれとしてのせめてもの社会的貢献ではないかなと。
そういえば平成7年の神戸震災のときも、罹災借地借家法という特別法をにわか勉強して、神戸の住吉で青空法律相談を担当しました。あのときの気持ちはいつまでも忘れないようにしたいものです。(平成18年ころまで、罹災借地借家法関連の裁判が続いていたんですよ)


投稿: toshi | 2009年7月15日 (水) 01時36分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: パンデミック対策として法律家(企業法務)に求められるものとは?:

« 金融庁VS第三者委員会という構図 | トップページ | 内部通報窓口からみたパワハラ問題のむずかしさ・・・・ »