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2009年8月31日 (月)

内部統制報告制度ラウンドテーブルが開催されます

(一部訂正がございます)

8月29日、甲南大学(神戸市)におきまして開催された第2回日本内部統制研究学会に参加してまいりました。内部統制報告制度の効果に関する実態調査と実証研究からはじまり、内部統制報告制度の現状と課題、IFRS時代の内部統制、企業における財務報告内部統制への対応、企業開示課N氏による「一年を振り返って」、その後の統一論題報告など、たいへん盛りだくさんの内容でありました。私自身は、いま最も企業側から要望の多い「内部統制報告制度の効率化と会社法上の内部統制構築義務との関係」に対するヒントを得たい・・・という問題意識を持って当学会に臨みました。今月、日本公認会計士協会出版局より「COSO内部統制システム・モニタリングガイダンス」が出版されましたが、COSO理事会がモニタリングに注目したところも、内部統制報告制度の費用削減とシステムの効率化を図るためには、既存のシステムへのモニタリングの在り方を各企業が理解する必要がある・・・というところに出発点があるわけでして、制度2年目以降は、有効性と効率性の両立のための「運用評価と整備の見直し」こそ重要なポイントだと考えるからであります。

そういった問題意識をもって学会に参加させていただき、当学会の皆様の研究発表を拝聴させていただいて、多くの示唆を得ることができました。とりあえずいったんは、ほとんどすべての上場会社の経営者が「有効と評価」できる内部統制システムを構築した(遅くとも今年3月末時点で)わけです。そこで、この内部統制システムにつきまして、①これを受け身ではなく、企業がどのように能動的に活用することができるのか、また②投資家の判断に影響を与えるほどに重大な会計不正や誤謬に関するリスクの優先度をどのように適切に評価しなおして、キーコントロールを効率化させることができるか(このあたりが、日本技術システム事件の原審や最高裁判決、会計不正事件における第三者委員会報告の結論などの研究成果を参考としなければ企業担当者や監査人の方々が不安になってしまうところでありますが)、また③適切なモニタリングがいかにして「不備」の重要性や発生可能性に影響を及ぼしうるか、といったところを検討することが必要になってまいりますが、私としましては、このあたりを考えるための貴重な情報を当学会にて得ることができました。また、今後少しずつ当ブログにおきましても、2年目以降の課題として、私自身の考えるところを綴っていきたいと思っております。ともかく、内部統制報告制度の効率化を図るための(金商法上での)見直しにおいて発生するであろう、会社法上の財務報告内部統制の構築義務との混乱は極力回避する必要があろうかと思われます。

「過年度決算訂正を余儀なくされる場合の適正意見を出した内部統制監査人の責任」などを始め、いろんな興味深い議論がなされた研究報告でありましたが、また学会での報告内容は追ってご紹介することとして、とりあえず10月28日に11月5日にビックイベントとして「内部統制報告制度ラウンドテーブル」が東京で開催されることが理事会で決定いたしましたので、お知らせいたします。2004年にスタートした米国SOX法上の内部統制報告制度におきましても、費用対効果の問題や、「重大な欠陥」の市場に及ぼす影響、上場企業の規模別導入問題など、多くの課題につきまして、翌2005年にはSECを中心としてラウンドテーブルが開催され、見直しが図られたことはご承知のことと存じます。そこで日本におきましても、会計士、学者、市場関係者、企業実務家等14~15名のメンバーによって「日本版内部統制報告制度ラウンドテーブル」を2009年10月28日11月5日に開催することが理事会によって承認されました。(また、会員総会においても同日承認されました)金融庁、経産省などからもオブザーバーの方が参加される予定、とのことであり、また学会員やマスコミにも公開して討論を行う、というものでして、今後の内部統制報告制度の運用について大きな影響を及ぼす会合になるものと予想されます。ここのところ、新聞報道等におきましても、内部統制報告制度の「費用対効果」問題が批判的に報じられる機会が増えておりますが、今後はシステムの運用も含めて、さまざまな課題を真正面から検討する必要がありそうです。(ちなみに、金融庁のN氏のお話によれば、IFRSを任意に適用するためには4つの要件を満たす必要があり、そのうちの1つは、IFRSによって会計情報を開示できるだけの内部統制が具備されていること、だそうであります。具備されているか否かを、誰がどのように判定するのか・・・は私は存じ上げませんが。。。)

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2009年8月28日 (金)

いよいよ明日(8月29日)は日本内部統制研究学会

昨年7月の日本内部統制研究学会から早一年。青山学院で基調報告をさせていただき、突然の地震をアドリブで切り抜けた日からもう一年が経過いたしました。明日8月29日は朝10時より甲南大学で第二回日本内部統制研究学会が開催されます。概要はこちらのとおりでありますが、今年はとくに私自身が報告をすることもなく、また場所も地元関西ということもありまして非常に気楽に参加させていただきたいと思います。発表される方々は、研究会や実務書執筆事務局などをご一緒させていただいている方も多く、たいへん楽しみにしております。

本日届きました旬刊商事法務(1874号)は日本私法学会シンポジウムの資料が満載でして、テーマが「コーポレート・ガバナンスと実証分析-会社法への示唆ー」。うーーん、これは斬新でおもしろいです!(とくに私的に興味をそそられたのが「買収防衛策イン・ザ・シャドー・オブ株式持合い」・・・・・・・これ、かなり話題になるんじゃないでしょうか。株式持合いと買収防衛策との関係など、非常にタイムリーな話題ですし。。。)内部統制研究学会におきましても、ぜひぜひ本制度が財務報告に係る内部統制の有効性・効率性にどの程度影響を及ぼしているのか、また会計不正発生頻度にどの程度の効用を有しているのか、実証的な研究活動を続けていただきたい、と願っております。(ちなみに、この商事法務1874号の「スクランブル」」で先日、当ブログでも話題といたしました「議決権行使結果に関する開示ルール」が採り上げられておりまして、総会責任者の方々には参考になろうかと思われます)

また、私はどのような学会でも結構ですので、最近の法規制のエンフォースメント手法として活用されている「開示」制度が、本当に規制の目的達成に向けて効果があるのか(ないのか)ぜひとも検証していただきたい、と思っております。どうか内部統制にご関心のある関西の皆様、この土曜日は甲南大学まで足をお運びいただければ幸いです。

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2009年8月26日 (水)

監査役に対する責任追及訴訟(レックス事件)

最近、「監査役の有事対応」のひとつとして、監査役が法的な責任を追及される事件が増えておりますが、またまたレックスHDのMBOに関連する事件におきまして、当時のレックスHD社の監査役に対する損害賠償の訴えが提起されたようであります。(フジサンケイビジネスアイの記事はこちら)ネットニュースの報道内容以外に事実の詳細は不明でありますが、先日話題となりました価格決定申立事件(非訟事件)におきまして、レックスHD社のTOB価格(23万円)よりも10万円ほど高い価格が株式買取の「公正価格」と判断された(最高裁で確定した)ことから、このたびは公開買付会社が提示した価格でTOBに応じたり、第三者へ売却してしまったレックス社の元株主ら(104名だそうです)がレックス社の当時の取締役、監査役を相手として、不当に安い値段のTOBによって損害を被ったとして、その賠償を求める訴訟を提起した、とのこと。

この訴訟についてはいろいろとご意見もあるかもしれませんが、私的には価格決定申立事件とほぼ同じ、いやひょっとするともっと重要な意味を持つ訴訟になるのではないか、と考えております。そもそも一般の株主が公開買付会社によるTOBに応じるか否かは原則として自己責任であり、TOBに応じることに納得がいかない株主には、最終的に(どのような価格が公正か、といった協議もしくは裁判の結果に対するリスクを負いつつ)株式買取請求権を行使する道が確保されている、ということであります。しかしながら、この「自己責任」というものも、株主が自己責任を負うのが当然といえるほどの「会社側からの情報開示」がなされていることが当然の前提でありますので、適時適切な情報開示が不足しているような場合には自己責任を問いえないのではないか?と考えられるわけであります。先の株式価格決定申立て事件では、東京高裁が(会社側からの)情報開示の不備を、非訟事件特有の「裁判所による価格決定」のプロセスと結びつけることによって会社側に不利な事情として斟酌しましたが、今回はモロに「株主に対する不法行為」(本来開示すべき情報を開示しなかったことを不法行為と構成するのでしょうか?)として開示違反を構成しているところが注目すべきところかと思われます。

あまり事件内容に深入りすることはルール違反と思いますので、これ以上は申し上げませんが、損害賠償請求の対象となった監査役さんの法的責任を議論するにあたっては、問題を少し整理する必要があるのではないでしょうか。要は監査役の善管注意義務違反もしくは注意義務違反(不法行為責任のケース)を基礎付けるものは何か?ということでありますが、ひとつはTOB価格の相当性に対する監査役の「適法性監査」の問題であり(そもそも監査役はTOB価格の妥当性について監査する権限はあるのか、あるとしても、どの程度に著しく不当である場合に適法性を欠くといえるのか)、もうひとつは法定開示もしくは適時開示の適法性に関する監査の問題であります。後者は株主に対する(会社法上の)監査報告の問題ではなく、上場会社の金商法もしくは取引所ルールにおける開示の適切性が問題となっておりますので、取締役の業務執行(投資家や株主に対する開示行為はそもそも取締役による業務執行です)の適法性監査の問題になろうかと思われます。これらを厳密に分けて検討することが必要だと思われます。

前者についてはMBOが「構造的利益相反行為」に該当するものであり、取締役による利益相反取引が行われやすい状況において、監査役がどこまで実質的なMBO価格の妥当性に踏み込んで監査役意見を述べるべきか、といったあたりが議論されるところかと思います。また後者の開示プロセスの適法性監査の観点からは、レックスHD社を対象会社とするTOBが開始された時期は、2006年12月施行にかかる改正金商法の適用直前の時期であったかと記憶しておりますが(まちがっておりましたらご指摘いただければと)、たとえ改正金商法適用後であっても、たとえば公開買付会社が依拠した第三者評価書面の開示は法的に要求されていたとしても、対象会社が賛同するか否かを決するための(自己が依拠すべき)第三者評価書面の開示までは要求されていなかったのでありまして、この金商法の趣旨をどう捉えるか、といったあたりが議論されるのではないでしょうか。いろいろと書きたいことがございますが、とりあえず「監査役とMBO」という非常に興味深い論点が提示された裁判でありますので、今後注目していきたいと思っております。とりいそぎ速報版のみにて失礼いたします。

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2009年8月25日 (火)

社外調査委員会もオピニオンショッピングの時代?

とも先生もご自身のブログで採り上げていらっしゃいますが、今朝(8月24日)の日経法務インサイド「不祥事企業の調査報告書~客観性揺れる社外委員会~」はたいへんおもしろかったです。不祥事を起こした企業は、最近不祥事の事実調査や原因分析、再発防止策などを社外専門家らによって構成される社外調査委員会に意見書を求め、これを基に社内処分や内部管理体制を再構築する、ということが増えましたが、この社外調査委員会の意見内容からみて、本来の独立性、公正性に問題があるケースが増えているのではないか、という話題であります。(先日も朝日新聞の記事をもとに紹介させていただいた話題ですね)フタバ産業社の件についても、意見書の変遷が「誰の依頼による委員会構成か?」ということにつき、薄々話題にはなっておりましたが、さすが日経新聞、取材に基づいてズバッと書いておられました。(個人の実名ブログではよほどの裏付けがないかぎりは書けません・・・)

本日の関西CFE(公認不正検査士)研究会でも、この記事が話題になっておりましたが、会員の某弁護士さん(元検事)によると、「事実調査という点からみれば、強制捜査権をもっていても、それほど変わらない。むしろ委員による社内調査のほうが事実調査が進むケースもありますよ。たしかになかなか口を開かない役職員が多い場合もありますが、社長さんの説得に成功して、(その社長さんが)この際すべてを公表して一から出直そう!と社員に向かってスピーチしたとたん、あっという間に事件の全容が判明することがあるんです」とのこと。まさに記事にもありますように、会社側の全面的な協力があれば成果は上がる、ということであります。(これは以前ご紹介したNBL889号、890号における調査委員会の運営に関する論文「社内調査はなぜ難しいか」でも指摘されていたところであります)

しかし記事の最後のほうで國廣先生が告白している内容、たいへんよく理解できます。不祥事発生企業からの委員就任の依頼がなされた場合、國廣先生の就任の条件を聞いた企業の3件に2件は同氏の就任を見送る、とのことだそうであります。※1いやいや関西にもいらっしゃいますよね。「社外取締役の鏡」のような先輩弁護士でいらっしゃいますが、(経営財務等にもたいへん詳しいにもかかわらず)その方の豪傑ぶりが有名で、各企業とも社外役員就任要請に二の足を踏んでしまっている・・・というもの。(この程度ならどなたかは特定されないと思いますが・・・(^^; )

※1 調査委員会報告には、「何を調査するのか」といった調査目的が限定されるのが通常ですので、調査目的の範囲に関して会社側と委員候補者側とで意見が相違する場合もあり、「就任見送り」がすべて会社側の体質を物語っている・・・というわけではないケースもありえますので念のため。

こういった國廣先生のようなケースも実際には頻繁にあるのかもしれませんが、そうなりますと、(日経記者さんもご指摘のとおり)著名な弁護士の委員就任を見送った企業は、今度は誰のところへ依頼されるのでしょうか?法律事務を含む業務ですので「非弁活動」にならないよう、弁護士資格を有する人への依頼ということになりますが、やっぱり会社(現経営陣)にとって、保身を容易とする意見を書いてくれそうな弁護士、経営陣による社内調査の正当性を担保してくれそうな弁護士のところへ依頼される、というのが筋なんでしょうか?そうなりますと、これって監査法人の世界における「オピニオンショッピング」に近いもののように思えてきますね。社外調査委員選任にもオピニオンショッピングなる概念があてはまるのでしょうか?しかしこれはちょっとマズイなぁと思います。社外調査委員会の報告内容は、あるときは行政当局の処分根拠になりますし、あるときは監査法人が(監査もしくはレビューにおける)適正意見を出すか否か、監査人を辞任するか否かの判断根拠にもなりますし、またあるときは株主が会社役員の法的追及を決断する資料にもなりうるわけであります。この社外調査委員会は公正性、独立性が担保されていることが重要なわけですので、やはり「調査スキルの有無はあっても、セカンドオピニオンはない」ということが前提とならざるをえないと思います。

すこしだけ気になりましたのが某証券取引等監視委員会幹部の方のお話。「英米では社外調査委員会の報告書は規制当局が依拠するほど質が高い。日本の場合はクオリティに問題があるケースがみられる」とのこと。一般的にはそのとおりかもしれませんが、私の経験からみると、規制当局(金融庁とは申しませんが)だって「当局に都合のよい意見があれば依拠する」のであって、クオリティが高いから依拠するとはかならずしも言えないと思います。企業不祥事の原因分析を一生懸命やればやるほど、そこに規制当局の問題点も浮かび上がってくるケースもあるわけでして、そうなると当局は一切、調査報告書の内容に触れずに処分する場合もあります。(まぁ、規制当局の立ち位置を確保するため、あたりまえと言えば当たり前の話ではありますが・・・・)

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2009年8月24日 (月)

新上場廃止基準(株価基準)をマザーズに導入

日曜日(8月23日)の日経朝刊に「マザーズ、株価9割下落で上場廃止 東証改革案」なる見出しの一面記事が掲載されておりました。(ネットニュースはこちら)東証の有価証券上場規程第603条(マザーズの上場廃止基準-上場内国会社の廃止基準)には、株主数、流通株式時価総額や売上高、時価総額等に関する明確な廃止基準は存在しますが、公募価格比で株価が9割以上下落し、一定期間経過後も株価が回復しない場合には、これを上場廃止とする、というもの(株価基準)を追加するそうであります。

東証マザーズに新上場廃止基準を導入する、という話題はすでに今年4月22日に東証が見直し案を市場運営委員会に諮問して了承された時点から報道されておりましたが、そのときも(東証は)成長性が低下して株価が低迷している企業を対象に新たな上場廃止基準の導入を検討している、というものでした。その際の報道では、成長が見込めない企業に市場退出を促す仕組みを導入する、とのことで、①成長性の見込めない企業について、市場区分を設定する、②公募価格を大幅に下回り続ける企業は上場廃止とする、といったシステム案ではなかったかと記憶しております。結局このうち②の案が現実化する、ということなんでしょうか?(現実にはまだ改革案の中身をみておりませんので、どういったものかは不明でありますが)あと、年2回以上の会社説明会の4年目以降の義務付け、といった改革案も検討されておりましたが、これも含まれているのでしょうかね?

公募価格比での時価割合を基準とするとなりますと、大幅な株価下落につながるような資金調達手法が制限を受けることになりますので、そういった歯止めの意味もあるかとは思いますが(市場の健全性という視点からは歓迎すべきものと思います)、この上場廃止基準の追加がメインではなく、むしろ改革案においてメインなのは東証の営業活動の拡大であり、これはあくまでも「防波堤」としての役割にすぎない、といった見方も成り立つのではないかと思われます。そもそもIT企業の育成という趣旨でマザーズは当初開設されたかと思いますが、今後は老舗企業や製造業など幅広く上場させることとして、さらに内部管理体制の審査を緩和したり、証券会社の推薦状も一部免除、といった「緩和策」が検討されているようであります。大証とジャスダックとの市場統合をにらんだ東証の活性化こそ一番メインの目的だと思います。とりあえず広く上場させることで東証の市場を活性化させ、あとで何か株価低迷の時期が到来した際には、できるだけ機械的に退出のためのルールが適用できるような仕組みで「責任を回避するための活性化策」というあたりがひとつの狙いではないかと。

ただ、このような狙いがあるとしましても、ひとつの大きな課題が「内部統制報告書制度」であります。最近IPO企業の近くでお仕事をさせていただいて、この内部統制報告制度がIPO企業に及ぼしている影響はかなり大きいものと認識しております。(8月12日の日経夕刊記事では、2009年3月期に主要上場企業が支払った監査報酬は、前年比32%増とのことで、やはり内部統制義務化が影響している、と報じられております)いくら上場審査時において内部管理体制への審査基準が緩和されたとしましても、上場後直ちに適用される内部統制報告制度につきましては、新規株式公開企業にとっての成長性にブレーキをかける可能性もありそうです。なお、最近のトーマツ企業リスク研究所さんの調査によれば、今年の6月末までの時点におきまして、東証マザーズ上場会社のなかで「内部統制は有効ではない」と評価した会社はゼロだったようであります。これはマザーズ上場会社の組織上、比較的複雑な組織が少ないために、内部統制システムの構築および評価も比較的容易であったこともあるかもしれませんが、それでも「ゼロ」ということは、ある意味システム構築が過剰であった企業も多かったのでは、と推測してしまいます。(費用対効果の検証は強く望まれるところであります)現在多くの上場会社におきまして、内部統制のスリム化が検討課題とされているようにもお聞きしておりますが、このようにそもそも内部管理体制自体が重視されないような(簡素化される)上場審査になるとすれば、むしろ上場後の内部統制体制の構築はまた厳格なものが要求されるようになるのでは、との疑問も湧いてまいります。このあたりも、また今後話題になるのかもしれませんね。

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2009年8月21日 (金)

来年の株主総会は準備がたいへんかも・・・(総会議案の議決結果の公表)

せっかく「日刊ココログガイド」でご紹介をいただいているにもかかわらず、マニアックな話題で恐縮なのですが、今年7月末までに株主総会議案の議決結果(賛否割合)を公表した上場会社が、昨年の8倍(4社→31社)に増加しているということのようであります。(8月9日付け読売新聞ニュースによる。)上場会社の株主総会において、議案が可決されたのか、否決されたのかは、実際には総会前日までにほぼ判明するので(書面による議決権行使)、総会当日には出席株主による拍手をもって賛否を問う、また全株主に対しては可決、否決の結果のみを通知するのが一般的でありますが、この総会前日までに集計した(賛否の票数をもとに)賛否割合を総会終了後にWEB上で公表する企業がかなり増加している、ということですね。

6月に公表されました金融庁SG(わが国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ)報告書におきましても、「開示によって企業のガバナンス向上を図るためには、株主や投資者の行動にかかっているので、株主や投資者による経営監視の機能を高めるために会社が説明責任を尽くす」ための手法として、この(上場会社による)議決結果(賛否の票数)の公表が提言されており、おそらく法定開示もしくは取引所ルールとして制度化されていくのではないか、と推測されます。なお、総会当日の議決権行使結果まで集計することは、ルール化としてはたいへんなところがありますので、(先のSG報告書のニュアンスからみても)前日までの書面行使、電子投票分の集計作業の結果を開示する、ということになるのでしょうね。

昨日の監査役協会長浜合宿におきまして、今年この議決結果開示を実際になされた会社の監査役さんと話をしておりましたが、前日までの議決権行使書面の集計内容を公開することについては、とくに事務上で大きな負担にはならなかったそうであります。ただ、問題となったのは、株主総会当日における「修正動議」に備えて、かなりの数の包括委任状をとりつけているわけで、この(包括委任状を提出した)大株主の方々の票数は(当然のことながら)事前集計の中には含まれない、ということであり、非常に悩ましいところだそうであります。つまりオーナー株主や日頃お世話になっている取引先大株主(本来もっとも会社議案に賛成されることが見込まれる株主)の賛同の意思表示が公表される議決結果に含まれない、ということであります。なお、最近出版されました「株主総会と投票実務」(中西敏和著 商事法務)では、たとえ包括委任状や大株主オーナーの株数を除外しても、(議決結果開示には)それなりの意味はある、とされております(同書38頁)。この著書のかかで中西教授がご主張されていらっしゃる「当日投票制度」まで進めば、本件課題は克服されることになるのでありますし、また株主側からも委任状勧誘がなされるような事案であれば、当日投票も行われることが予想されますのでそれほど問題はないと思われますが、やはり「賛否割合を示す」ということに意味があるとしますと、これをルール化するにはかなり問題は残るのではないでしょうか。(欧米では取締役選任議案などにおいて、この賛否割合が詳細に開示される、とのことですが、このあたりは問題なく運用されているのでしょうか?)

どれだけ反対票が集まったのか、という事実だけを問題とするならば、それなりに意味もあるかとは思いますが、ブルドックソース事件の最高裁判決のように「大多数の株主が賛成した」といった事実認定を行うためには「賛否割合」は重要でしょうし、また勧告的決議がなされるような場合でも、そこに「過半数」という概念を持ち込まずに、「多数の株主が望んでいる」とか「多数の株主が反対している」といった投票事実に意味を持たせる場合でも、やはり賛否割合が示されなければ、「議決結果の公表」はあまり意味がないのではないか、という疑問が生じます。たしかに金融庁SGの議事録などを拝見して、機関投資家による議決権行使結果の開示とならんで、上場企業による議決結果公表に関する議論もなされておりましたが、「議決結果における何を公表するのか」というところまで深く議論されてはこなかったのではないかと思います。これが「株主に対する説明責任」に関係する問題であれば、なおさら会社としては株主に誤解を与えないような説明をしなければならないと思われます。このあたり、また実務に詳しい方がいらっしゃいましたらご教示いただければ幸いです。

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2009年8月19日 (水)

来年の株主総会は準備がたいへんかも・・・?(その2)

本日(8月18日)は、監査役協会長浜合宿におきまして、新任監査役の方々の全体研修にて講演をさせていただきました。今年で第24回目となる長浜合宿ですが、世話役の方々との昼食会、そして新任監査役の方々との懇親会とも参加させていただき、多くの会社の方々とお話をさせていただく機会に恵まれました。つい先日まで取締役だった方々が、株主総会を境にして監査役という立場に変わることに違和感を覚えていらっしゃる方々が多かったようです。「これくらいのリスクなら大丈夫!と思って導入したシステムだったけど、いまこうやって監査役になってみると、このシステムの話に触れたくないんだよなぁ・・笑」とか「昔、監査役さんというと朝から晩まで経済紙を読んで暇そうにしていたイメージがありましたが、こうやって監査役になってみると、朝から晩まで忙しい。イメージがずいぶんと変わったんじゃないでしょうか」といった感想をお持ちの監査役さんもいらっしゃいました。

さて、そんな監査役さんと「これからの株主総会」についてお話をしておりましたところ、何名かの方から同じような感想を聞かせていただきました。「これからの株主総会で何が一番たいへんかって、そりゃもうOB株主さんからの質問でしょう」とのこと。今年の6月総会でも、ずいぶんとたいへんだったそうであります。ともかく、①内情に詳しいためにあまり公表したくないような社内事情も平気で暴露されてしまう、②現在の役員さん方の「昔の上司」だったりするために、いい加減な回答では済まない、③趣味で株を購入しているものではなく、定年後の資産運用の一環として株式を保有しているので、批判も激励も真剣そのもの、ということであります。ともかく今後は「団塊の世代」の方々の退職が増加する一方ということで、どこの会社さんもこの「OB株主対策」には真摯に対応する必要があり、想定問答集の作成につきましても、OB株主さんからの質問の傾向を十分に検討する必要があるとのことです。

その検討の一環として、「インサイダー規制と株主総会の質疑応答」に留意する必要があります。OB株主さんの質問がやたらとスルドイために、これに真摯に対応しようとするあまり回答責任のある取締役さんが思わず中期経営計画の実現可能性を示す具体的な事業内容とか、業績見込みに影響のありそうな関連事項について、反論の意味を込めて口走ってしまいそうになることがあり、冷や汗が出るケースがあるとか。たしかに一般の株主さんからの(想定の範囲内での)質問であれば、冷静に「インサイダー情報に関わるものですから、発言は控えさせてください」と回答できるはずですが、社内事情に詳しい方、とりわけ財務部門にいらっしゃったOBの方などからのスルドイ指摘に対しましては、逃げ腰の回答だけは避けたい、といった気持になるのかもしれません。ちょっと注意すべき課題なのかもしれませんね。新任監査役さんの長浜合宿は8月20日開始組もありますので、私ももう一回長浜に出向くことになりますが、財務報告内部統制や株主総会の課題など、最近の上場企業をとりまく法律トピックスを入手でき、たいへん有意義な機会となりますので、また楽しみに出向いてまいりたいと思っております。

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2009年8月17日 (月)

企業における内部通報制度への取組み(活性化に向けて)

内部通報に関する研究というものは、事の性質上なかなか事例集積が難しいために困難な部類に属する作業だと思います。このたびリスクマネジメント会社であるSPNさんが「企業における内部通報制度の取り組み編(要約版)」なるレポートをリリースされておられます。SPNさんでは、ずいぶんと以前から外部通報窓口業務(リスクホットライン)を各企業に提供しておられ、このたび扱った内部通報案件が1000件を超えたことで、これらの分析を行ったそうであります。要約版ですので、A4で6枚程度の報告ではありますが、分析結果はなかなか興味深いものです。とくに、導入した内部通報制度が有効に機能しているのかどうかを評価する「通報比率曲線モデル」につきましては、実際に私自身の体験にも通じるところがあり、企業の自浄作用(といいますか、内部通報制度活用に対する企業の本気度)を理解するためにはおもしろい分析だと感じました。これが正しいかどうかはこれからの更なる分析を必要とするでしょうが、いろいろな意見も出てきそうですし、新たな試みとして、評価されるべきものではないでしょうか。

外部窓口であるために、社内窓口よりも通報がなされやすいことや、通報というよりも不満や悩みの窓口として通報がなされるケースもありますが、対象従業員の増減にかかわらず、従業員100人あたり1件の割合で内部通報案件が生起し得る、との調査結果につきましては、現状では内部通報制度がまだまだ社内で活用されていないとみるべきか、それとも不祥事が少ないことを適切に示しているものと理解すべきか、意見は分かれるところだと思います。(また、先日ご紹介した第一法規さんとスパイアさん共催アンケートの結果から、不祥事を知っても実際に通報する社員はわずか26%程度にすぎない、という点も考慮すべきだと思います)ただ、更なる活用のための工夫はこれからも必要だと思います。とくに今後の課題としましては、重複する内部通報の取扱いに関する点です。ある特定の社員から通報がなされた場合、その事実調査や調査による対応、そして通報者に対する処分結果の説明などによって完結することがイメージされるわけですが、今後もっと通報制度が活用されるようになりますと、同様の不祥事に対して複数の社員から通報がなされる、という事態が想定されます。(現に私自身も経験をしております)いろいろな動機で内部通報がなされることが避けられない現実でありますので、同一の問題について別々の社員から別々に内部通報がなされますと、通報事実に関する客観性が大きくアップします。事実調査の信用性も高まることになりますので、不祥事の早期発見や早期対応に対する寄与度は大きくなります。たとえ通報内容は「会社の存亡の危機に陥れるような事実」ではなくても、小さな相談事例をいくつか集積するなかから、そういった不祥事の予兆を感じ取ることが可能となりますので、やはり通報対象事実は広く、かつ通報案件ができるだけ多く、というのが理想の「内部通報窓口」の在り方ではないでしょうか。

内部通報制度も、スタート時には通報が集まるものの、その後はさっぱり活用されなくなり形骸化している、といった話を耳にしますが、そういった企業の方々も、本レポート(要約版)を参考とされてみてはいかがでしょうか。

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2009年8月14日 (金)

来年の株主総会は準備がたいへんかも・・・?

とくに株主総会対策を論じることができるほどの者ではありませんが、いろいろと考えてみると来年の株主総会は準備がたいへんそうですね。当ブログでは、それほど株主総会対応のエントリーを書く機会も少ないのですが、社外役員という立場で来年の総会を展望してみますと、ちょっと現時点では「どのように準備したらいいのかわからない」と感じています。法律雑誌などでみかける「総会対応」に関する論稿などを拝見して気がつきましたが、総会対策準備事項については、総会担当者向けのものと役員向けのものに分類・整理することができますよね。そこで、勝手ながら「リスクマップ」のように、総会担当者の関心度を横軸に、そして会社役員の関心度を縦軸として、以下のとおり重要事項を整理してみました。右上にいくほど、事前準備のレベルが高くなることになります。また、ここで表現している「株主総会」とは、実際に株主が集まる「株主総会」だけではなく、招集通知を発送してから実際の総会が終了するまでの一連の流れ(広義の株主総会)を示しています。(なお、分類項目は私の勝手な推測に基づくものでありますので、あまり気になさらないでください。ただし、こういった分類整理が来年の総会準備には必要になってくるのではないでしょうか。)

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役員の関心度を分類する判断基準は情報開示、説明義務、善管注意義務など、株価変動や企業のレピュテーションに影響を及ぼす事象や、自身の法的責任に関わる問題などを重視しています。また、総会担当者の関心度を分類する判断基準は、法的瑕疵なく、シャンシャンと総会が終了するために、手続瑕疵の重大性やマニュアル依存度、そして準備に要する人的・物的資源(前倒し準備の必要性)などを重視しています。もちろん、想定問答集の作成や、総会準備のためのリハーサルなど、例年重要視されている項目もありますが、とくに来年の総会対策として、これは十分に議論されるだろうなぁと予想されるところを中心に項目として挙げています。右下の会社法関連の政省令改正対応問題などは、ここだけでもおそらくいろんな項目が出てくると思いますが、とりあえず株懇モデルや経団連ひな型などで対応されるケースも多いでしょうし、そこではたいへん著名な法律家の方々が議論のうえ策定されるものですので、詳細は省いています。

さて、何が一番たいへんか?といいますと、経営環境がどうなるのかわからないところに、「公開会社法」問題とか、金商法(内閣府令)の改正、東証自主ルールの改正など、今後企業開示に関する法制に変化が生じる兆しがあって、株主総会の運営にも大きな影響が出てくる可能性がある、ということだと思います。たとえば3月決算(6月総会)の上場会社の場合には、12月ころまでには役員人事なども決まるところが多いと思いますので、そのあたりまでにはおおよその流れは判明すると思いますが、情報開示によるガバナンス規制などは、次回の株主総会におけるひとつの特色ではないでしょうか。そもそも株主総会は会社法上の(組織法上の)意思決定ルールのひとつであって、一つの事業年度における企業活動を承認し、その承認のもとに将来の経営を委託する者を決定することが原則だと思いますが、「情報を開示する」ことが(株主の監視を可能として)そもそも会社役員の行動を規律するのであれば、有価証券報告書前倒し提出など、総会直前までの事実をもとに経営活動を株主が承認する必要性も認められるわけでして、そのあたりの流れが総会準備にも多大な影響を及ぼすように思います。

私的には、総会決議の意味を大きく変えるものとしての「議決権行使結果の開示」、そして法的にも未解決な論点が多く、またたとえ裁判にならなくても、大きな話題になる株主提案権問題を最重要課題として挙げました。今年の総会では、アデランスHD以外はあまり大きな事例はなかったのかもしれませんが、レナウンとネオラインキャピタルとの役員選任に関する交渉経過などをみると、これからも大株主と経営陣との交渉道具としての株主提案権行使は(委任状勧誘事例に発展するか否かは別として)経営陣にとっても、また総会担当者にとっても重要な課題でしょうね。

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2009年8月12日 (水)

A君のこと

(今日は企業法務関連のエントリーではございません)

先日、大学時代の友人(A君)の25回忌に出席しました。阪大ボート部で一緒に対抗エイトを漕いでいたA君の実家(大阪府茨木市)に久しぶりに伺いました。A君の親戚の人たちとも食事を共にしました。彼が日航機事故で亡くなってから月日が経ちましたが、お母さんが元気で過ごしておられるのをみて、少し安心しました。

ボートは過酷なスポーツです。年間の合宿日数は300日程度。主力選手が次々と故障で倒れ、私も最後の夏合宿で腰の骨を折り戦線離脱するなか、A君は最後まで故障することなく対抗エイトを支えていました。あんなに丈夫な体の人間が、一瞬のうちにこの世を去って行ったことを当時不思議に思いました。

最後にA君と話をしたのは、事故の2か月前、私が司法試験の勉強を始めたころでした。「メシでも食べにいこや」と誘ってくれたときでした。彼は経済学部から興銀(日本興業銀行)に就職し、大阪出張の折に、ごちそうになりました。「三和にも住友にもいかんかったんやなぁ。まぁ、何年かかるかわからんけど、(司法試験に)合格するのを信じてるわ。そんときはお祝いやな!」

3回忌までは興銀時代の友人も出席されていましたが、今回は法要にはおみえになっていなかったので、みなさんの様子はわかりません。A君もあのまま興銀で勤務していたら、いまごろどうしてたのかな。金融再編の波の中で頑張っていたのか、それともバブルの後始末を済ませてから転職して別の道を歩んでいたのか。。。ごちそうになって、そのまま借りを返すことなく、ここまで来てしまったんですが、この日が来ると、かならずA君のことを思いだします。不思議なもので、年齢を重ねるにしたがって、またいつかA君と再会するのだから、彼に恥ずかしくない報告ができるようにしよう・・・という思いが強くなりましたね。

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2009年8月11日 (火)

第2期関西CFE(公認不正検査士)研究会いよいよ始動

先日のエントリー「裁判員制度はこれからですよね」につきましては、多数のご意見を頂戴し、どうもありがとうございました。私のエントリーよりはよっぽど有益なご意見がたくさん書かれておりますので、一度ご覧いただければ・・・と思います。このたびの東京地裁での判決が控訴審でどうなるのか、これが見えてきて初めて「裁判員制度」についての議論が開始されるところであります。

さて、8月5日の日経新聞にも記事になっておりましたが、経済産業省において新たな競争法関連の研究会が発足したそうで、経産省のWEBにて8月4日(第1回会合)の配布資料を拝見させていただきました。企業コンプライアンスという、理屈ではなかなか理解しづらい領域の問題を検討する、ということで今後の展開を楽しみにしておりますが、「競争法コンプライアンス体制に関する研究会」の今後の進め方のところで、以下のような記述がございます。

競争法コンプライアンス体制を実効性あるものとするために、競争法違反を未然に防ぐ「予防」の観点だけでなく、完全に競争法違反のリスクをなくすことはできないこという問題意識のもと、いち早く「違反の発見」をし、「発覚後の対応」につなげるという3つの観点から、企業における競争法コンプライアンス体制に盛り込むことが望ましい項目について検討を行う

リスク・アプローチの視点から企業コンプライアンスを捉える上記考え方についてはまったく同感であります。①予防、②発見、③危機対応という3つの観点は、私がいつも講演等でお話させていただく「出発点」であります。ただ、私の経験からいうならば、企業に潤沢な予算があり、経営トップがコンプライアンスの重要性を認識しておられるような企業であれば、①予防(→内部統制)と③危機対応(→リスクマネジメント)については、そこそこお金を出せば対応は可能だと思われます。(内部統制にせよ、リスクマネジメントにせよ、外部にはいいコンサルタントの方々はたくさんいらっしゃいます)

しかし残念ながら、②の「早期発見」につきましては、誰も外部からコンサルティングはできない、というのが実感であります。こればかりは社内で才能(意欲も才能のうち)のある担当者がたまたま存在する、という「運命」とか「偶然」に依存するところが大きく、外部コンサルティングを受けても、またどんなに立派なガイドラインを作ってみても、「早期発見」能力が向上することはないだろう、と考えております。 「早期発見」は、個々の会社(もしくはグループ企業)の業種、業績、成長過程、ガバナンス、企業風土、社内人事制度、全社的リスク、担当者の人脈、役員間の人間力学など、さまざまな要因によって発見方法が異なるわけでして、そのうえで担当者の「勘」や「経験」「度胸」に依存するところが大きいわけであります。こればかりは到底外部のコンサルタントがヒアリングや書類チェックなどで理解できるようなものではありません。(社外役員であればなんとか理解できる時期もくるかもしれませんが・・・)したがいまして、とくにコンプライアンスの予算に関係なく、つまり中小企業であっても、やる気さえあれば社内で「早期発見」のための工夫を検討することは可能であり、また大企業で予算が潤沢であっても、なにも工夫をしなければ、ほとんど「早期発見」のための体制というものは構築することはできないことになります。よく「内部通報窓口がしっかりしているので早期発見も可能だ」という意見をお聞きしますが、内部通報窓口はあくまでも発見のためのツールのひとつにすぎず、どのように活用すべきか、ということを工夫しなければ「早期発見」には結びつかないことはご承知のとおりであります。

この「早期発見」というものは実に企業の存亡に影響を与える要因であります。担当者としては、なにも「不正を発見」する必要はありません。「不正の兆候」さえ発見すればいいわけです。いや、不正の兆候の疑い、だけでもいいかもしれません。誰かが合理的な理由で「不正の兆候」を発見すれば、あとは内部監査室や監査役、会計監査人によって厳密な調査(非定例の深度ある調査)が行われ、不正が発覚するかもしれませんし、単純な事務ミスと認識されるかもしれません。また、大きな問題に発展するような場合には、発見者や内部監査室から外部の専門家に調査を依頼し、外部専門家によって大きな不正が発見されるかもしれません。(これらの調査は合理的な疑いがあるからこそ非定例的に調査が可能となります。したがって、監査役や内部監査室の定例調査では発覚しません。もし普段からこのような厳格な調査が行われるのであれば、非効率そのものですし、また性悪説に立つ調査はモニタリング機関と執行機関との信頼関係を喪失させてしまうこととなり、愚の骨頂であります。)しかし、これらの不正発見は、誰かが最初に「?」と思うことと、勇気をもって誰かが誰かに「おかしくない?」と語ることがなければ絶対に早期に不正を発見することはできないのであります。まさに経営トップが「私は知らなかった」と弁明しながら謝罪会見を開かねばならない事態に陥るのか、それとも社内調査と社内処分で済む事態で収束させるのか、大きな分水嶺になるのが「早期発見」体制であり、企業の実力差がもっとも大きく出るところであります。なお、早期発見のための体制作り・・・ということを再発防止策の一環として真剣に考え出しますと、会社と衝突する場合があります。3年ほど前のエントリーでも書きましたが、私が某会社のコンプライアンス委員を辞任した(辞任するしか方法がなくなった)のも、この場面での衝突でありました。

このように「早期発見」が外部からの指導等では対応困難なスキルであり、また社内担当社員の「勘」や「経験」に依存するところが大きい以上、社内担当者の方々もご自身のスキルを磨いて「勘」を養い「経験」を共有する以外には体制向上の方法がないのであります。しかし(残念ながら、といっては語弊がありますが)一般の企業の方々は、自社でほとんど「大きな不正」を経験したことがなく、またたとえ不正と向き合った経験があっても、自社かぎりのことであります。つまり「勘」を養い「経験」を共有することはほとんど困難な状況であります。もちろん、不正がないことはそれ自体、たいへん結構なことではありますが、そのことゆえに、早期発見のためのスキルを磨く機会は、現実問題としてほとんどないものと思われます。ときどき才能(素質?)として、この不正発見の勘をお持ちの社員の方に出会うことがありますが、この方が転勤で別の支店に異動するや、元の部署で不祥事が続発する・・・ということもこれまで何度か見聞しております。

そこで、関西不正検査研究会では、CFE(公認不正検査士)の資格を有する企業担当者や会計実務家、法曹などにより、この社内担当者による不正兆候の「早期発見」のためのスキルを磨くことを重視した研究会を目指したいと考えております。第1期(昨年)は、17名の研究会員のもとで研究活動を行いましたが、第2期は22名の研究会員をもって取り組むことになりました。今回は不正調査の経験をお持ちの会計専門職の方々に加え、情報セキュリティやIT系犯罪捜査を専門に担当されていた警察OBの方、捜査実務に詳しい元検事の方(現在は弁護士)などを加え、昨年以上にパワーアップいたしました。ぜひとも、「早期発見」という、企業コンプライアンスのなかで最も困難と思われるスキルの向上に向けて、各企業担当者のCFE資格保有者の方々と研究活動を継続していきたいと思っております。また、こういったスキル向上のご関心のある方々にも、今後ACFEの会員になっていただき、ぜひご参加いただければ・・・と思います。

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2009年8月 6日 (木)

本当の裁判員制度はこれからですよね?

とくに刑事事件に詳しい弁護士・・・ということではありませんので、単なる感想ではありますが、裁判員制度第1号事件は懲役15年(検察官の求刑は16年)という量刑判断で終了したそうでありますが、これから本当の「裁判員制度」が始まるものと考えております。

とりあえず裁判員(ならびに補充裁判員)の方々も、記者会見を終え、ホッとされていらっしゃるかと思います。しかし求刑16年のところを判決は15年という厳しいものでしたので、おそらく被告人は控訴をするかと。そして控訴審では、これまでどおり三人の職業裁判官によって続審となるわけです。もし、裁判員制度のもとでの判決が厳しいと感じたら、今後も当然控訴がなされる事件は増えますよね。公判前整理手続を採用していますので、事実認定はそこそこ証拠制限されてしまうかもしれませんが、量刑判断については、被告人として軽減されることに期待を持つでしょうし。(その可能性がある限り、弁護人は控訴を勧めなければ懲戒されてしまうかもしれませんし。)

さて、そこでは裁判員による評議はありませんので、これまで通りの量刑相場に従って判決が言い渡されるのでしょうか?それとも、高裁の裁判官の方々は、何らかの理由によって地裁(第一審)の量刑判断に拘束されるのでしょうか?しかし、裁判官の独立は憲法で保障されていますから、原則として第一審の量刑判断には拘束されることはないですよね。いっぽうで高裁が何らの拘束もなく、いままでどおりの量刑基準にしたがって控訴事件を処理するのであれば、いったい何のための裁判員制度なんでしょうか?

判例タイムス1296号において、高裁裁判官らの(裁判員裁判の控訴審について)協議内容が示されているそうですが、このあたりを解決する指針のようなものは出されたのでしょうか?

それと、裁判員制度に積極的に参加したい、と考えておられる市民の方々は、(思想として)「被害者の人権重視」なのか「被告人の人権重視」なのか、どっちの意識をお持ちの方々が多いのか、一度アンケートなどをとってみてはいかがでしょうか。(もちろん偏りがなければ問題ないのでありますが・・・)積極的に参加したい、とされる方々が結局のところ裁判員や補充裁判員に選出されるのであれば、このあたりの意識の偏りというものは問題になってくるんじゃないでしょうか。これは国民の参加といいつつ、運用において辞退の自由を事実上認めたり、また重大事件に限って裁判員制度を採用する、ということを前提とするのであれば当然について回る問題点かと思います。今後、裁判所の運用においてますます「辞退を事実上緩やかに認める」方向に進むのであれば、当然に検討すべき課題かと思いますが。

また、市民感覚による評議についてはとくに申し上げることはありませんが、評議が成り立つためには、裁判員の皆様方が、「懲役刑って何をするのか」「15年って、かならず15年たたないと刑務所を出られないのか」(仮出獄制度-たとえばどういったことを刑務所でやれば早く仮出所できるのか?)といったあたりが基本的に知識として共有されていることが前提ですよね。(そうでないと、そもそも「何年が妥当か」といった議論は不可能なはずですし。これは刑罰を応報的刑罰観で考えても出てくる問題ですよね。)量刑判断について、いろいろと議論したとしても、裁判員ひとりひとりの知識の差はどう埋めるのか?(事前に裁判官がひととおり説明するだけでは到底無理ですよね?)このあたり、裁判所はどう考えておられるのでしょうか?

病院長の脱税事件を最後に、ここ数年、刑事事件から遠ざかっておりますので、なにもえらそうなことは言えませんが、きれいごとではなく、「司法が裁判員制度についてどう考えているのか」が評価されるのはこれから(控訴審から)ですよね。本当の裁判員制度はここから始まるのではないかと。

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プリンシプルベースによる規制と経営判断原則の適用(その1)

Cocolog_oekaki_2009_08_06_01_39 企業会計におけるIFRS(国際財務報告基準)適用問題は、最近の経済雑誌においてトレンドな話題でありますが、企業法務とIFRS導入問題に関する話題というのは、いまひとつ盛り上がっておりません。しかしながら「ビジネス法務9月号」(中央経済社)のトレンドアイにおきまして、ようやく著名な弁護士の方(47thさん)が「IFRS導入がもたらす企業法務の地殻変動」なるタイトルでIFRS導入が及ぼす企業法務上のリスクについて警鐘を鳴らしておられ、内容は誠に卓見だと思います。

とりわけIFRS導入によるプリンシプルベース(原則主義)の採用について、不可避的にダイバージェンス(同じ経済事象について、複数の会計処理が成り立ちうる事態)を発生させるものであり、企業における会計処理の選択に関する法的責任問題については、「後だしジャンケン」的な責任追及をしない制度的な枠組みが必要である、と解説されております。(たとえば金融商品取引法上の不実開示責任など)IFRS導入は大きな問題でありますが、そもそもプリンシプルベースによる規制手法が採用される領域において、取締役の法令遵守体制に関する法的な枠組みについて、私自身若干の疑問がございます。(IFRSも将来的には国内法によるエンドースメントがなされるものと思われますので、その際にはプリンシプルベースによる規制問題が発生するはずであります。)取締役の法的責任の有無を判断する基準として代表的な「経営判断原則」は、このプリンシプルベースによる規制がなされている場合、どのように適用されるのか、といった問題であります。

「最新金融レギュレーション」(西村あさひ法律事務所編 商事法務)の第一章(第1講)では、この「ルールベースの規制とプリンシプルベースによる規制」がとりあげられておりまして、たとえばプリンシプル、という用語が用いられていても、法令の上位概念として位置づけられるもの(たとえば「金融サービス業における14項目のプリンシプル)と、法令のなかにプリンシプルベースの考え方を採り入れているもの(たとえば「内部統制報告制度における11の誤解」や、平成20年度金商法改正による利益相反管理体制の整備義務など)が整理されております。(これは私も以前から整理されるべきである、と考えておりました)このうち、後者の「法令のなかにとりこまれている」プリンシプルベースによる規制手法につきましては、もし法令解釈に誤りが生じた場合には、「具体的法令違反行為」が生じてしまうことになります。

そもそも会社法上の「経営判断原則」につきましては、何度かこのブログでもご紹介したとおり、ビジネスとしてリスクをとりにいく取締役の経営判断については、たとえビジネスに失敗して会社に多大な損害が発生したとしても、判断当時の状況からみて取締役には大きな裁量の余地があるのであって、著しく合理性を欠くような判断をしないかぎりは、その法的責任は問われないものとされております。(日米では若干、司法判断のあり方に差がありますが)しかしながら、具体的な法令違反行為がなされた場合には、「そもそも法令違反行為を犯してまで、ビジネスを進めることについての取締役の裁量権はない」とするのが最高裁の判断でありまして、取締役の業務執行行為は具体的な法令違反に該当するような場合には、そもそも経営判断原則の適用はなく、取締役には任務懈怠(もしくは不法行為責任上の過失)が認められる、とされております。それでは、たとえばプリンシプルベースによる規制のように、行為規制の内容も不明瞭であり、また判断権者の判断基準も不明瞭ななかで「法令違反」と認定されたような場合でも、やはり具体的な法令違反行為があったことだけで経営判断原則の適用が排除されてしまうのでしょうか?

このあたりは、どなたかのご意見がすでに論文等で発表されているのではないか、と思ってグーグルで検索してみたのでありますが、どうも見当たりませんでした。金融行政だけでなく、今後は消費者行政などにおいても、企業の経営の自由度を上げながら、なおかつコンプライアンス経営の実効性を確保する手法として、ますますプリンシプルベースによる規制手法が増えるものと思われます。そこで、(その2)において、このプリンシプルベースによる規制と(取締役の法的責任に関する)経営判断原則の適用について、IFRSと内部統制報告制度を例にとって若干検討してみたいと思っております。(以下、つづく)

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2009年8月 5日 (水)

インサイダー取引防止体制に向けてのCFE的発想

8月3日、東証のWEBページに第二回全国上場会社内部者取引管理アンケートの調査報告書がアップされましたので、一応すべてに目を通しました。各上場企業において、インサイダー取引に関わるリスクをどのように低減しているか、その試みなどがアンケート結果とともに記載されておりまして、他社の状況などを参考にしたい、とお考えの役職員の方々にはお勧めの報告書であります。(冒頭に「報告書要旨」が掲げられておりますが、ここはあまりおもしろくありません。むしろ報告書の本文における取引所の解説部分が知識の再確認になりますし、回答企業の個別回答の部分が情報管理や売買管理における工夫の跡がみられ、もっとも参考になります)

ところでインサイダー取引リスクも、企業のコンプライアンス・リスクのひとつである、と考えれば、「どんなに頑張ってみても組織を動かすのが生身の人間である以上、インサイダーリスクを完全に防止することはできない。社内で内部統制を構築するのであれば、発生回数を減らすとか、発生したら早期に発見するとか、発生したインサイダー事件によるレピュテーションリスクを低減するとか、具体的なリスク低減目的を掲げて、その低減のためには具体的にはどうすればよいか」というアプローチが必要ではないでしょうか。たとえば上記報告書の問21以下(48ページ以下)では、役職員への啓発活動についての具体的な方法が紹介されておりまして、各社いろいろな啓発活動を実際に行っていることがうかがわれます。しかし意外にも、インサイダー取引防止に関する社内研修というものは定期的に開催している企業は少ないようで、取引所の解説でも「少なくとも定期的に研修を行うこととするなど、研修体制の充実にも取り組むことが望まれ」る、とされております。

社内研修の内容として、そもそも社内でインサイダー取引の犯罪者を一人も出さない、といった目的で行われているはずでありますが、そこに記載された研修内容を拝見しますと、「本当に社内で犯罪者を出さないことを願っているのだろうか、どっちかといえば『いちおう会社としても、ここまで体制を構築しています』と、責任を全うしていることの証左として行われているのではないか」とも思えるのでありますが、いかがなものでしょうか。先日リリースされましたカブドットコム証券特別調査委員会報告書におきまして、インサイダー取引をやってしまった社員の方が「まさかここまで証券取引等監視委員会の調査がすごいものだとは思ってもみなかった」と証言されたそうですが、もし社員研修をされるのであれば、一般社員の方々にこの「まさかバレるとは・・・」といった感覚を十分認識していただくことが重要なのではないでしょうか。また、「感覚」の問題ですから、シートベルト着用や路上喫煙のように、何度も繰り返し定期的に周知徹底の機会を設けることも必要だと思います。

何度か当ブログでもご紹介しましたが、CFE(公認不正検査士)の「不正」研修におきまして、人が職場で計画的に不正を犯してしまう要因として「不正のトライアングル」(動機、機会、正当化根拠)を学ぶわけですが、このインサイダー取引防止体制構築のためにも、このインサイダー取引における不正のトライアングルを検討してみると、ひょとすると役職員の方々にも理解していただく役立つかもしれません。たとえば役職員がその職務に関して公表前の重要事実を入手し、この情報を利用して、第三者名義で自社株を即時購入し、あとで売却益を山分けする、といった事案を考えますと、①動機はお小遣い稼ぎとか、おもしろ半分の出来心、②機会は他人名義での自社株取得だし、金額も小さいので発覚しない③正当化根拠は、他人名義での取引なのでインサイダーにはあたらない、とか、そもそも自分程度の人間にはインサイダー取引規制は及ばない(法律の不知)ので罪にはならない(かもしれない)、といったあたりに整理できると思います。

しかし実際には(現在の課徴金処分事案がすべて2007年の事件であることからおわかりのとおり)インサイダー取引に関する捜査は長期間に及ぶものであり、家族や名義を貸した第三者にも捜査の手が及ぶのが通常であります。つまり「お小遣いかせぎ<家族の取り調べによる苦痛」ということで、発覚時の事実上のペナルティを考えますと、とうていお小遣いかせぎとは割に合わない苦痛を味わうことになりますので、現実の取調を認識した場合には、この動機自身がなくなってしまうかもしれません。また、先のカブコム証券の社員の証言のように「ここまでバレるとは・・・」といった感覚は、まさに本人たちが認識しているほど「機会」は存在しないのであって、まさに「たとえお小遣い稼ぎ程度の金額であっても、不正はすべて摘発する」といった証券取引等監視委員会の捜査状況を正確に理解することにより、この認識のギャップは埋められるのではないでしょうか。そして、社内研修によって、他人名義での自社株買付けや一般社員から情報提供を受けた者であっても構成要件該当性がある、といったことを周知することで、自分たちのやろうとしていることが実は刑事罰に該当する(つまり刑事訴追を受けるおそれのある)行為であることを認識するに至り、いわゆる「正当化根拠」が消滅してしまうことになるのではないか、と思います。

そして問題は、こういった不正のトライアングルからみて、インサイダー取引は割に合わない犯罪である、と役職員が認識するための説明方法であります。ただ漠然と解説しても、ほとんど自身には無関係であるとか、自分はそもそも情報受領者たる立場にはならないとか、あまり現実味を帯びて考えることはしないように思われます。したがいまして、ここでは最近の課徴金事例や刑事罰適用事例など、具体的な事件の解説を通じて、「実際にはあなたも、同じような立場に陥る可能性がある」ということを説得的に説明することが肝要ではないかと思われます。たとえば外部から研修講師を招へいするのであれば、こういった事例から分析をして、インサイダー取引がなぜ悪いことと一般に認識されているのか、出来心でやってしまったことが後でどれだけ後悔することになってしまうのか、といったあたりを現実の事件のなかから抽出し、解説するだけの能力をもった方に依頼されるのがよろしいのではないでしょうか。(あくまでもCFE的発想に基づくものではありますが)

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2009年8月 3日 (月)

最高裁判所は変わったか(一裁判官の自己検証)

いよいよ、本日(8月3日)より、日本の司法制度が新たな一歩を踏み出すことになります。(裁判員制度による審理開始)そこで、裁判員制度を含め、これからの司法制度改革を考えるうえで、たいへん参考になる本が出版されました(7月31日)ので、ご紹介いたします。最近、株式買取価格決定申立て事件が話題になりますので、新刊の「類型別会社非訟」(東京地方裁判所商事研究会編)をご紹介する予定だったのですが、こちらのほうが当ブログにお越しの皆様方にはお勧めかと思いましたので。

Saikousaikawatta 大阪弁護士会ご出身の最高裁判事といえば、現在は田原裁判官でありますが、田原氏が任官されるまで(2002年から2006年まで)、最高裁判事を務められた滝井繁男先生(大阪弁護士会)の著書が出版されました。

最高裁判所は変わったか~一裁判官の自己検証~(滝井繁男著 岩波書店 2,800円税別)

これまであまり語られたことのなかった「最高裁判所裁判官の日常風景」から、合議の様子、事件はどうやって大法廷へ回付されるか、そして私的にはたいへん関心の高い「金融機関に対する文書提出命令認容事件」に関する議論まで、これまで類書のなかった分野を詳細かつわかりやすく紹介されているもので、貴重な一冊であります。(もちろん量刑問題など刑事事件に関連する話題も豊富であります。)

なお、当ブログでもエントリーいたしました、あの痴漢冤罪事件につきましても、滝井先生は「このような判断が示されたことは、最近の実務で広く行われていた手法への一つの警鐘ともみられ、今後の実務に少なからず影響を与えることになるのではないかと思われる」として、画期的な最高裁判決であったと評価されておられます。私のブログでも二度ほど近藤裁判官の見解には注目しましたが、滝井先生も近藤裁判官の見解を二度ほど、本のなかで紹介されておられます。やはりキャリア上がりの裁判官が、あまり保守的なスタイルではなく、斬新な発想で判決を書かれる(しかも個別意見付きで)ことに注目されるのではないでしょうか。

いまでは、最高裁が弁論期日を入れる・・・と聞くと「高裁の判断が見直される」とマスコミも我々もあたりまえのように認識いたしますが、ちょっと前までは、そんなことはなく、弁論を開いても結局結論が変わらなかった、という事件がけっこう多かったそうです。最近のような傾向になったのは、やはり最高裁へ上告される件数が増えてきたことと関係があるようです。大阪の水野先生、清水先生との対談は、滝井先生の発言に、ひときわ裁判官的なモノの見方が浮かび上がるところが興味深いのでありまして、とりわけ行政事件に関するお話は法曹の方々にとっても参考になろうかと思います。

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