第2期関西CFE(公認不正検査士)研究会いよいよ始動
先日のエントリー「裁判員制度はこれからですよね」につきましては、多数のご意見を頂戴し、どうもありがとうございました。私のエントリーよりはよっぽど有益なご意見がたくさん書かれておりますので、一度ご覧いただければ・・・と思います。このたびの東京地裁での判決が控訴審でどうなるのか、これが見えてきて初めて「裁判員制度」についての議論が開始されるところであります。
さて、8月5日の日経新聞にも記事になっておりましたが、経済産業省において新たな競争法関連の研究会が発足したそうで、経産省のWEBにて8月4日(第1回会合)の配布資料を拝見させていただきました。企業コンプライアンスという、理屈ではなかなか理解しづらい領域の問題を検討する、ということで今後の展開を楽しみにしておりますが、「競争法コンプライアンス体制に関する研究会」の今後の進め方のところで、以下のような記述がございます。
競争法コンプライアンス体制を実効性あるものとするために、競争法違反を未然に防ぐ「予防」の観点だけでなく、完全に競争法違反のリスクをなくすことはできないこという問題意識のもと、いち早く「違反の発見」をし、「発覚後の対応」につなげるという3つの観点から、企業における競争法コンプライアンス体制に盛り込むことが望ましい項目について検討を行う
リスク・アプローチの視点から企業コンプライアンスを捉える上記考え方についてはまったく同感であります。①予防、②発見、③危機対応という3つの観点は、私がいつも講演等でお話させていただく「出発点」であります。ただ、私の経験からいうならば、企業に潤沢な予算があり、経営トップがコンプライアンスの重要性を認識しておられるような企業であれば、①予防(→内部統制)と③危機対応(→リスクマネジメント)については、そこそこお金を出せば対応は可能だと思われます。(内部統制にせよ、リスクマネジメントにせよ、外部にはいいコンサルタントの方々はたくさんいらっしゃいます)
しかし残念ながら、②の「早期発見」につきましては、誰も外部からコンサルティングはできない、というのが実感であります。こればかりは社内で才能(意欲も才能のうち)のある担当者がたまたま存在する、という「運命」とか「偶然」に依存するところが大きく、外部コンサルティングを受けても、またどんなに立派なガイドラインを作ってみても、「早期発見」能力が向上することはないだろう、と考えております。 「早期発見」は、個々の会社(もしくはグループ企業)の業種、業績、成長過程、ガバナンス、企業風土、社内人事制度、全社的リスク、担当者の人脈、役員間の人間力学など、さまざまな要因によって発見方法が異なるわけでして、そのうえで担当者の「勘」や「経験」「度胸」に依存するところが大きいわけであります。こればかりは到底外部のコンサルタントがヒアリングや書類チェックなどで理解できるようなものではありません。(社外役員であればなんとか理解できる時期もくるかもしれませんが・・・)したがいまして、とくにコンプライアンスの予算に関係なく、つまり中小企業であっても、やる気さえあれば社内で「早期発見」のための工夫を検討することは可能であり、また大企業で予算が潤沢であっても、なにも工夫をしなければ、ほとんど「早期発見」のための体制というものは構築することはできないことになります。よく「内部通報窓口がしっかりしているので早期発見も可能だ」という意見をお聞きしますが、内部通報窓口はあくまでも発見のためのツールのひとつにすぎず、どのように活用すべきか、ということを工夫しなければ「早期発見」には結びつかないことはご承知のとおりであります。
この「早期発見」というものは実に企業の存亡に影響を与える要因であります。担当者としては、なにも「不正を発見」する必要はありません。「不正の兆候」さえ発見すればいいわけです。いや、不正の兆候の疑い、だけでもいいかもしれません。誰かが合理的な理由で「不正の兆候」を発見すれば、あとは内部監査室や監査役、会計監査人によって厳密な調査(非定例の深度ある調査)が行われ、不正が発覚するかもしれませんし、単純な事務ミスと認識されるかもしれません。また、大きな問題に発展するような場合には、発見者や内部監査室から外部の専門家に調査を依頼し、外部専門家によって大きな不正が発見されるかもしれません。(これらの調査は合理的な疑いがあるからこそ非定例的に調査が可能となります。したがって、監査役や内部監査室の定例調査では発覚しません。もし普段からこのような厳格な調査が行われるのであれば、非効率そのものですし、また性悪説に立つ調査はモニタリング機関と執行機関との信頼関係を喪失させてしまうこととなり、愚の骨頂であります。)しかし、これらの不正発見は、誰かが最初に「?」と思うことと、勇気をもって誰かが誰かに「おかしくない?」と語ることがなければ絶対に早期に不正を発見することはできないのであります。まさに経営トップが「私は知らなかった」と弁明しながら謝罪会見を開かねばならない事態に陥るのか、それとも社内調査と社内処分で済む事態で収束させるのか、大きな分水嶺になるのが「早期発見」体制であり、企業の実力差がもっとも大きく出るところであります。なお、早期発見のための体制作り・・・ということを再発防止策の一環として真剣に考え出しますと、会社と衝突する場合があります。3年ほど前のエントリーでも書きましたが、私が某会社のコンプライアンス委員を辞任した(辞任するしか方法がなくなった)のも、この場面での衝突でありました。
このように「早期発見」が外部からの指導等では対応困難なスキルであり、また社内担当社員の「勘」や「経験」に依存するところが大きい以上、社内担当者の方々もご自身のスキルを磨いて「勘」を養い「経験」を共有する以外には体制向上の方法がないのであります。しかし(残念ながら、といっては語弊がありますが)一般の企業の方々は、自社でほとんど「大きな不正」を経験したことがなく、またたとえ不正と向き合った経験があっても、自社かぎりのことであります。つまり「勘」を養い「経験」を共有することはほとんど困難な状況であります。もちろん、不正がないことはそれ自体、たいへん結構なことではありますが、そのことゆえに、早期発見のためのスキルを磨く機会は、現実問題としてほとんどないものと思われます。ときどき才能(素質?)として、この不正発見の勘をお持ちの社員の方に出会うことがありますが、この方が転勤で別の支店に異動するや、元の部署で不祥事が続発する・・・ということもこれまで何度か見聞しております。
そこで、関西不正検査研究会では、CFE(公認不正検査士)の資格を有する企業担当者や会計実務家、法曹などにより、この社内担当者による不正兆候の「早期発見」のためのスキルを磨くことを重視した研究会を目指したいと考えております。第1期(昨年)は、17名の研究会員のもとで研究活動を行いましたが、第2期は22名の研究会員をもって取り組むことになりました。今回は不正調査の経験をお持ちの会計専門職の方々に加え、情報セキュリティやIT系犯罪捜査を専門に担当されていた警察OBの方、捜査実務に詳しい元検事の方(現在は弁護士)などを加え、昨年以上にパワーアップいたしました。ぜひとも、「早期発見」という、企業コンプライアンスのなかで最も困難と思われるスキルの向上に向けて、各企業担当者のCFE資格保有者の方々と研究活動を継続していきたいと思っております。また、こういったスキル向上のご関心のある方々にも、今後ACFEの会員になっていただき、ぜひご参加いただければ・・・と思います。
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