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2009年8月26日 (水)

監査役に対する責任追及訴訟(レックス事件)

最近、「監査役の有事対応」のひとつとして、監査役が法的な責任を追及される事件が増えておりますが、またまたレックスHDのMBOに関連する事件におきまして、当時のレックスHD社の監査役に対する損害賠償の訴えが提起されたようであります。(フジサンケイビジネスアイの記事はこちら)ネットニュースの報道内容以外に事実の詳細は不明でありますが、先日話題となりました価格決定申立事件(非訟事件)におきまして、レックスHD社のTOB価格(23万円)よりも10万円ほど高い価格が株式買取の「公正価格」と判断された(最高裁で確定した)ことから、このたびは公開買付会社が提示した価格でTOBに応じたり、第三者へ売却してしまったレックス社の元株主ら(104名だそうです)がレックス社の当時の取締役、監査役を相手として、不当に安い値段のTOBによって損害を被ったとして、その賠償を求める訴訟を提起した、とのこと。

この訴訟についてはいろいろとご意見もあるかもしれませんが、私的には価格決定申立事件とほぼ同じ、いやひょっとするともっと重要な意味を持つ訴訟になるのではないか、と考えております。そもそも一般の株主が公開買付会社によるTOBに応じるか否かは原則として自己責任であり、TOBに応じることに納得がいかない株主には、最終的に(どのような価格が公正か、といった協議もしくは裁判の結果に対するリスクを負いつつ)株式買取請求権を行使する道が確保されている、ということであります。しかしながら、この「自己責任」というものも、株主が自己責任を負うのが当然といえるほどの「会社側からの情報開示」がなされていることが当然の前提でありますので、適時適切な情報開示が不足しているような場合には自己責任を問いえないのではないか?と考えられるわけであります。先の株式価格決定申立て事件では、東京高裁が(会社側からの)情報開示の不備を、非訟事件特有の「裁判所による価格決定」のプロセスと結びつけることによって会社側に不利な事情として斟酌しましたが、今回はモロに「株主に対する不法行為」(本来開示すべき情報を開示しなかったことを不法行為と構成するのでしょうか?)として開示違反を構成しているところが注目すべきところかと思われます。

あまり事件内容に深入りすることはルール違反と思いますので、これ以上は申し上げませんが、損害賠償請求の対象となった監査役さんの法的責任を議論するにあたっては、問題を少し整理する必要があるのではないでしょうか。要は監査役の善管注意義務違反もしくは注意義務違反(不法行為責任のケース)を基礎付けるものは何か?ということでありますが、ひとつはTOB価格の相当性に対する監査役の「適法性監査」の問題であり(そもそも監査役はTOB価格の妥当性について監査する権限はあるのか、あるとしても、どの程度に著しく不当である場合に適法性を欠くといえるのか)、もうひとつは法定開示もしくは適時開示の適法性に関する監査の問題であります。後者は株主に対する(会社法上の)監査報告の問題ではなく、上場会社の金商法もしくは取引所ルールにおける開示の適切性が問題となっておりますので、取締役の業務執行(投資家や株主に対する開示行為はそもそも取締役による業務執行です)の適法性監査の問題になろうかと思われます。これらを厳密に分けて検討することが必要だと思われます。

前者についてはMBOが「構造的利益相反行為」に該当するものであり、取締役による利益相反取引が行われやすい状況において、監査役がどこまで実質的なMBO価格の妥当性に踏み込んで監査役意見を述べるべきか、といったあたりが議論されるところかと思います。また後者の開示プロセスの適法性監査の観点からは、レックスHD社を対象会社とするTOBが開始された時期は、2006年12月施行にかかる改正金商法の適用直前の時期であったかと記憶しておりますが(まちがっておりましたらご指摘いただければと)、たとえ改正金商法適用後であっても、たとえば公開買付会社が依拠した第三者評価書面の開示は法的に要求されていたとしても、対象会社が賛同するか否かを決するための(自己が依拠すべき)第三者評価書面の開示までは要求されていなかったのでありまして、この金商法の趣旨をどう捉えるか、といったあたりが議論されるのではないでしょうか。いろいろと書きたいことがございますが、とりあえず「監査役とMBO」という非常に興味深い論点が提示された裁判でありますので、今後注目していきたいと思っております。とりいそぎ速報版のみにて失礼いたします。

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コメント

みつたかです。
トシアキ先生が以前、「レックス株主は被害者などではなく、単に情報開示の問題にすぎない」と書いていたのを見て、当時はかなり反発を感じたのを覚えています。
が、まさに、第二次訴訟は、情報開示のあり方が真正面から問われています。
株主が公開買付に応じるか、応じないで価格の決定を申し立てるかを決定するに当たっては、「自己責任」との関係で、十分な情報開示が必要であり、仮に情報開示が十分でないなら、「損害」を公平に分担すべきではないか、というわけです。
情報開示義務の内容を具体的に判示する画期的な判例になることを期待しています。

投稿: 山口三尊 | 2009年8月27日 (木) 12時56分

三尊さん、コメントありがとうございます。どうしてもガバナンスの視点から司法判断に注目してしまいますので、今回も「監査役の法的責任」に焦点を当てて検討してみたいと思っております。三尊さんとは立場が違うかもしれませんので、また反感を買うエントリーになるかもしれませんが、このブログも一般論としての意見しか書けないという限界がありますので、そのあたりはご理解いただければ、と思います。
いずれにしましても、大いに注目いたしております。

投稿: toshi | 2009年8月31日 (月) 02時27分

http://blog.livedoor.jp/advantagehigai/archives/65353981.html
サンスターMBO事件で、株主が勝訴しました。
650円→840円です。
本人訴訟で勝ちました。

投稿: 山口三尊 | 2009年9月 8日 (火) 01時24分

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