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2009年8月24日 (月)

新上場廃止基準(株価基準)をマザーズに導入

日曜日(8月23日)の日経朝刊に「マザーズ、株価9割下落で上場廃止 東証改革案」なる見出しの一面記事が掲載されておりました。(ネットニュースはこちら)東証の有価証券上場規程第603条(マザーズの上場廃止基準-上場内国会社の廃止基準)には、株主数、流通株式時価総額や売上高、時価総額等に関する明確な廃止基準は存在しますが、公募価格比で株価が9割以上下落し、一定期間経過後も株価が回復しない場合には、これを上場廃止とする、というもの(株価基準)を追加するそうであります。

東証マザーズに新上場廃止基準を導入する、という話題はすでに今年4月22日に東証が見直し案を市場運営委員会に諮問して了承された時点から報道されておりましたが、そのときも(東証は)成長性が低下して株価が低迷している企業を対象に新たな上場廃止基準の導入を検討している、というものでした。その際の報道では、成長が見込めない企業に市場退出を促す仕組みを導入する、とのことで、①成長性の見込めない企業について、市場区分を設定する、②公募価格を大幅に下回り続ける企業は上場廃止とする、といったシステム案ではなかったかと記憶しております。結局このうち②の案が現実化する、ということなんでしょうか?(現実にはまだ改革案の中身をみておりませんので、どういったものかは不明でありますが)あと、年2回以上の会社説明会の4年目以降の義務付け、といった改革案も検討されておりましたが、これも含まれているのでしょうかね?

公募価格比での時価割合を基準とするとなりますと、大幅な株価下落につながるような資金調達手法が制限を受けることになりますので、そういった歯止めの意味もあるかとは思いますが(市場の健全性という視点からは歓迎すべきものと思います)、この上場廃止基準の追加がメインではなく、むしろ改革案においてメインなのは東証の営業活動の拡大であり、これはあくまでも「防波堤」としての役割にすぎない、といった見方も成り立つのではないかと思われます。そもそもIT企業の育成という趣旨でマザーズは当初開設されたかと思いますが、今後は老舗企業や製造業など幅広く上場させることとして、さらに内部管理体制の審査を緩和したり、証券会社の推薦状も一部免除、といった「緩和策」が検討されているようであります。大証とジャスダックとの市場統合をにらんだ東証の活性化こそ一番メインの目的だと思います。とりあえず広く上場させることで東証の市場を活性化させ、あとで何か株価低迷の時期が到来した際には、できるだけ機械的に退出のためのルールが適用できるような仕組みで「責任を回避するための活性化策」というあたりがひとつの狙いではないかと。

ただ、このような狙いがあるとしましても、ひとつの大きな課題が「内部統制報告書制度」であります。最近IPO企業の近くでお仕事をさせていただいて、この内部統制報告制度がIPO企業に及ぼしている影響はかなり大きいものと認識しております。(8月12日の日経夕刊記事では、2009年3月期に主要上場企業が支払った監査報酬は、前年比32%増とのことで、やはり内部統制義務化が影響している、と報じられております)いくら上場審査時において内部管理体制への審査基準が緩和されたとしましても、上場後直ちに適用される内部統制報告制度につきましては、新規株式公開企業にとっての成長性にブレーキをかける可能性もありそうです。なお、最近のトーマツ企業リスク研究所さんの調査によれば、今年の6月末までの時点におきまして、東証マザーズ上場会社のなかで「内部統制は有効ではない」と評価した会社はゼロだったようであります。これはマザーズ上場会社の組織上、比較的複雑な組織が少ないために、内部統制システムの構築および評価も比較的容易であったこともあるかもしれませんが、それでも「ゼロ」ということは、ある意味システム構築が過剰であった企業も多かったのでは、と推測してしまいます。(費用対効果の検証は強く望まれるところであります)現在多くの上場会社におきまして、内部統制のスリム化が検討課題とされているようにもお聞きしておりますが、このようにそもそも内部管理体制自体が重視されないような(簡素化される)上場審査になるとすれば、むしろ上場後の内部統制体制の構築はまた厳格なものが要求されるようになるのでは、との疑問も湧いてまいります。このあたりも、また今後話題になるのかもしれませんね。

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コメント

いつも拝見しております。初めてコメントいたします。

>なお、最近のトーマツ企業リスク研究所さんの調査によれば、今年の6月末までの時点におきまして、東証マザーズ上場会社のなかで「内部統制は有効ではない」と評価した会社はゼロだったようであります。これはマザーズ上場会社の組織上、比較的複雑な組織が少ないために、内部統制システムの構築および評価も比較的容易であったこともあるかもしれませんが、それでも「ゼロ」ということは、ある意味システム構築が過剰であった企業も多かったのでは、と推測してしまいます。

構築・評価が容易だった、システム構築が過剰であった、という点については、現場の監査に携わると、本当にそうなのかな、と思ってしまいます。
意見を出す監査法人の許容限度にも違いがあると思いますし。

7/3付けのブログに「今回、内部統制は有効である、と評価した企業において、そのような不正が発覚した場合、どういった理由をつけて「あのときは重要な欠陥はないと思いましたが、実際には大きな不備が存在していました。」と説明するのでしょうか?」と記載されておられますが、まさに2年目以降そのような不正は間違いなく発生すると思います。

監査をする私としては、2年目以降も油断ができないと考えており、いったん構築した制度をよりブラッシュアップしていかなければならない、と考えています。

投稿: ukkari | 2009年8月26日 (水) 22時24分

マザーズ上場企業に限らず、新興上場企業にとって内部統制報告を無難にやり過ごすことは死活問題です。
望まずして、内部統制の有効性が「目的」の一つになってしまっているということでしょう。
有効を得るためにシステムが過剰になったという(真面目な)企業もあるでしょうが、実体とは関係なく、どうすれば有効評価になるか、と逆算して最小限の投資でシャンシャンと済ませたところが多いのでは。

後々不正発覚事例については、根拠規範がない以上、遡及訂正の問題は生じないというのが私見です。
仮に訂正の必要があるとすると、監査方法に過誤があったケースとそうでないケースとで扱いが異なるはずです。
過去の報告内容の処理が問題になるのは前者の場合だけで、後者では合理的なチェックをすり抜けたのだから単なる個人的犯罪にすぎず過去の報告内容の処理は問題にならないと思います。
また、当時の一切の状況を前提に裁量的に決定された1年前・数年前の監査方法が妥当だったか否かを誰がどうやって判断するのか不明です。したがって前者のケースというのも現実には考えにくいと思います。構造的、組織的、大規模、等々の不正があったのに見逃した、という事実のみをもって方法の不備を推定ないし擬制するのでしょうか。
あるいは、著しい逸脱による方法不備に限るのでしょうか。だとすれば、そのような事態は現実には想定できません。
根拠ルールがあれば是非知りたいものです。
専門家による合理的な説明も期待します。

投稿: JFK | 2009年8月27日 (木) 23時38分

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