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2009年8月17日 (月)

企業における内部通報制度への取組み(活性化に向けて)

内部通報に関する研究というものは、事の性質上なかなか事例集積が難しいために困難な部類に属する作業だと思います。このたびリスクマネジメント会社であるSPNさんが「企業における内部通報制度の取り組み編(要約版)」なるレポートをリリースされておられます。SPNさんでは、ずいぶんと以前から外部通報窓口業務(リスクホットライン)を各企業に提供しておられ、このたび扱った内部通報案件が1000件を超えたことで、これらの分析を行ったそうであります。要約版ですので、A4で6枚程度の報告ではありますが、分析結果はなかなか興味深いものです。とくに、導入した内部通報制度が有効に機能しているのかどうかを評価する「通報比率曲線モデル」につきましては、実際に私自身の体験にも通じるところがあり、企業の自浄作用(といいますか、内部通報制度活用に対する企業の本気度)を理解するためにはおもしろい分析だと感じました。これが正しいかどうかはこれからの更なる分析を必要とするでしょうが、いろいろな意見も出てきそうですし、新たな試みとして、評価されるべきものではないでしょうか。

外部窓口であるために、社内窓口よりも通報がなされやすいことや、通報というよりも不満や悩みの窓口として通報がなされるケースもありますが、対象従業員の増減にかかわらず、従業員100人あたり1件の割合で内部通報案件が生起し得る、との調査結果につきましては、現状では内部通報制度がまだまだ社内で活用されていないとみるべきか、それとも不祥事が少ないことを適切に示しているものと理解すべきか、意見は分かれるところだと思います。(また、先日ご紹介した第一法規さんとスパイアさん共催アンケートの結果から、不祥事を知っても実際に通報する社員はわずか26%程度にすぎない、という点も考慮すべきだと思います)ただ、更なる活用のための工夫はこれからも必要だと思います。とくに今後の課題としましては、重複する内部通報の取扱いに関する点です。ある特定の社員から通報がなされた場合、その事実調査や調査による対応、そして通報者に対する処分結果の説明などによって完結することがイメージされるわけですが、今後もっと通報制度が活用されるようになりますと、同様の不祥事に対して複数の社員から通報がなされる、という事態が想定されます。(現に私自身も経験をしております)いろいろな動機で内部通報がなされることが避けられない現実でありますので、同一の問題について別々の社員から別々に内部通報がなされますと、通報事実に関する客観性が大きくアップします。事実調査の信用性も高まることになりますので、不祥事の早期発見や早期対応に対する寄与度は大きくなります。たとえ通報内容は「会社の存亡の危機に陥れるような事実」ではなくても、小さな相談事例をいくつか集積するなかから、そういった不祥事の予兆を感じ取ることが可能となりますので、やはり通報対象事実は広く、かつ通報案件ができるだけ多く、というのが理想の「内部通報窓口」の在り方ではないでしょうか。

内部通報制度も、スタート時には通報が集まるものの、その後はさっぱり活用されなくなり形骸化している、といった話を耳にしますが、そういった企業の方々も、本レポート(要約版)を参考とされてみてはいかがでしょうか。

8月 17, 2009 内部通報の実質を考える |

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コメント

初めまして。企業でコンプライアンスや内部統制に関する仕事をしております。内部統制報告書の各社の状況を検索する過程で、先生のブログを知り、以来、時折、拝見しております。
内部通報制度ですが、オリンパス社の訴訟に見られますように、公益通報者保護法に通報者に万一、会社などから不利益がもたらされた場合、その会社(個人なら報復者等)に対して、罰則規定が無いことが非常に問題なのだと思います。現状では、外部への内部告発は今後も発生しても、本来的に企業の自浄対応として解決を図るべき内部通報制度は形骸化しており、無いものに等しいと言えると思います。
とにかく、オリンパス社のような事例があっては、通報しようとする人は今後まず出てこないのではないでしょうか。
ご承知のとおり、内部統制報告制度の全社統制の中には内部通報制度などによる、いわゆる風通しの良さについて問う項目がありますが、オリンパス社は今回堂々と「有効」として報告書を提出しており、内部統制報告制度の評価の甘さの問題を含め、今後、まだまだ修正されるべき問題点、課題が残されている、と考えております。

投稿: 伊藤晋 | 2009年8月17日 (月) 23時50分

私も同レポートを拝読しました。要約版過ぎて分かりにくいところもありますが、私もこれはこれで面白い分析がなされていると思います(ごめんなさい、SPNさんという名前は、内部通報窓口設置の際には選択肢に入っていませんでした。反社対策のエキスパートということは聞いたことがありますが・・・)。

幅広く通報を受け付けると、上司への不満やパワハラに関する事案が、38%にも上るというのも、何となくうなずける気がします。ただ、先生が書かれているように、統計をどう分析、解釈するか、意見の分かれるところもあるとは思いますが、通報比率曲線を含め、こういう切り口のレポートはあまり見かけませんし(私の勉強不足かもしれませんが)、内部統制の理念(企業の自浄作用を働かせる)という観点からは、通報比率曲線が何となく実証しているようにも思え、非常に勉強になりました。

6年間で1000件というのが、多いのか少ないのか分かりませんが、内部通報窓口が形骸化している現状が多いことを考えると、年間175件近い通報を受けているというのも凄いのかなと思えてきます。アンケート調査ではなく、ある意味実際に対応した1000件の実例を元にしているというのは、私は凄く説得力があると思います。

でも、要約版には、内部通報窓口の活性化の方法などは書かれていませんでした。このあたりは正式版にも書かれていないんでしょうか?過去のデータの分析だけでは、自社の内部通報窓口の活性化のヒントが見つけにくいので、せっかくなら、要約版にもそのあたりを書いてもらえると良かったのですが。

投稿: め組 | 2009年8月19日 (水) 01時37分

め組さんのご指摘、当レポートの長所・短所をずいぶんと鋭く分析されているなあと感心いたしました。たしかに「要約版」であっても、もう少し問題解決的な意見なども開示されていればいいなぁと私も思いました。(報告書そのものには問題解決の糸口なども記述されているものと思いますよ。たぶんまだ報告書自体はどこにも公開されていないものと思います)

伊藤さん、ご意見ありがとうございました。
オリンパス事件の及ぼす影響、たしかにご指摘のとおりかと思います。単に社員の気持ちの問題だけでなく、そういった制裁的な報復が通報増加につながらないネックになっているのは事実だと思います。最近では、ヘルプライン規程のなかで、抽象的に報復禁止条項を盛り込むだけでなく、そういった報復措置自体を個別具体的に禁止するような規定内容も出てきているものと思います。そういったところへのケアも含めて、不祥事防止体制の一環(統制環境の整備)として考えておく必要がありますね。

投稿: toshi | 2009年8月19日 (水) 02時13分

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