最高裁判所は変わったか(一裁判官の自己検証)
いよいよ、本日(8月3日)より、日本の司法制度が新たな一歩を踏み出すことになります。(裁判員制度による審理開始)そこで、裁判員制度を含め、これからの司法制度改革を考えるうえで、たいへん参考になる本が出版されました(7月31日)ので、ご紹介いたします。最近、株式買取価格決定申立て事件が話題になりますので、新刊の「類型別会社非訟」(東京地方裁判所商事研究会編)をご紹介する予定だったのですが、こちらのほうが当ブログにお越しの皆様方にはお勧めかと思いましたので。
大阪弁護士会ご出身の最高裁判事といえば、現在は田原裁判官でありますが、田原氏が任官されるまで(2002年から2006年まで)、最高裁判事を務められた滝井繁男先生(大阪弁護士会)の著書が出版されました。
最高裁判所は変わったか~一裁判官の自己検証~(滝井繁男著 岩波書店 2,800円税別)
これまであまり語られたことのなかった「最高裁判所裁判官の日常風景」から、合議の様子、事件はどうやって大法廷へ回付されるか、そして私的にはたいへん関心の高い「金融機関に対する文書提出命令認容事件」に関する議論まで、これまで類書のなかった分野を詳細かつわかりやすく紹介されているもので、貴重な一冊であります。(もちろん量刑問題など刑事事件に関連する話題も豊富であります。)
なお、当ブログでもエントリーいたしました、あの痴漢冤罪事件につきましても、滝井先生は「このような判断が示されたことは、最近の実務で広く行われていた手法への一つの警鐘ともみられ、今後の実務に少なからず影響を与えることになるのではないかと思われる」として、画期的な最高裁判決であったと評価されておられます。私のブログでも二度ほど近藤裁判官の見解には注目しましたが、滝井先生も近藤裁判官の見解を二度ほど、本のなかで紹介されておられます。やはりキャリア上がりの裁判官が、あまり保守的なスタイルではなく、斬新な発想で判決を書かれる(しかも個別意見付きで)ことに注目されるのではないでしょうか。
いまでは、最高裁が弁論期日を入れる・・・と聞くと「高裁の判断が見直される」とマスコミも我々もあたりまえのように認識いたしますが、ちょっと前までは、そんなことはなく、弁論を開いても結局結論が変わらなかった、という事件がけっこう多かったそうです。最近のような傾向になったのは、やはり最高裁へ上告される件数が増えてきたことと関係があるようです。大阪の水野先生、清水先生との対談は、滝井先生の発言に、ひときわ裁判官的なモノの見方が浮かび上がるところが興味深いのでありまして、とりわけ行政事件に関するお話は法曹の方々にとっても参考になろうかと思います。
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コメント
最高裁は何も変わっていない。換わるはずが無い。判例重視前例に倣う。
公務員の典型的な やり方だ。新しい考えを出して行動に移すものなら とたんに追い出される。元国家公務員の後期高齢者 何度も痛い目にあっている。
投稿: 多冶川 明文 75歳 | 2009年8月 3日 (月) 09時16分
はじめてコメントします。toshi先生とは面識はありませんが、同じ大弁の会員です。私も滝井先生の本、早速読みました。客観的に最高裁の真実の姿を国民に紹介しようとされる姿勢に納得しました。
さて「裁判所は変わるか」ということですが、滝井先生も著書で触れておられるように、現在の裁判官構成を変えないかぎりはなかなか変わらないのではないでしょうか。国籍法違憲判決や、今後予想される民法900条の違憲性判断といった前向きな評価もありますが、世の中のスピードにはついていけてないのが真実だと思います。(まったく個人的な感想です)
午後5時に退庁することの意味がよくわかりましたが、その分朝4時からまた記録読みを再開するとなると、本当にたいへんな苦労があることが理解できました。ただ、それだけの労力を、本当に必要な審理に集中的にあてるような体制はできないものでしょうかね。
投稿: downtown | 2009年8月 3日 (月) 09時33分
多治川さん、DOWNTOWNさん、コメントありがとうございます。
滝井先生の出版記念パーティというのが弁護士会で開催されるんですね。少しはこのブログのことも話題になりますかね?(たぶん誰もお読みになっていないかも・・・泣)
投稿: toshi | 2009年8月 7日 (金) 01時12分