来年の株主総会は準備がたいへんかも・・・(総会議案の議決結果の公表)
せっかく「日刊ココログガイド」でご紹介をいただいているにもかかわらず、マニアックな話題で恐縮なのですが、今年7月末までに株主総会議案の議決結果(賛否割合)を公表した上場会社が、昨年の8倍(4社→31社)に増加しているということのようであります。(8月9日付け読売新聞ニュースによる。)上場会社の株主総会において、議案が可決されたのか、否決されたのかは、実際には総会前日までにほぼ判明するので(書面による議決権行使)、総会当日には出席株主による拍手をもって賛否を問う、また全株主に対しては可決、否決の結果のみを通知するのが一般的でありますが、この総会前日までに集計した(賛否の票数をもとに)賛否割合を総会終了後にWEB上で公表する企業がかなり増加している、ということですね。
6月に公表されました金融庁SG(わが国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ)報告書におきましても、「開示によって企業のガバナンス向上を図るためには、株主や投資者の行動にかかっているので、株主や投資者による経営監視の機能を高めるために会社が説明責任を尽くす」ための手法として、この(上場会社による)議決結果(賛否の票数)の公表が提言されており、おそらく法定開示もしくは取引所ルールとして制度化されていくのではないか、と推測されます。なお、総会当日の議決権行使結果まで集計することは、ルール化としてはたいへんなところがありますので、(先のSG報告書のニュアンスからみても)前日までの書面行使、電子投票分の集計作業の結果を開示する、ということになるのでしょうね。
昨日の監査役協会長浜合宿におきまして、今年この議決結果開示を実際になされた会社の監査役さんと話をしておりましたが、前日までの議決権行使書面の集計内容を公開することについては、とくに事務上で大きな負担にはならなかったそうであります。ただ、問題となったのは、株主総会当日における「修正動議」に備えて、かなりの数の包括委任状をとりつけているわけで、この(包括委任状を提出した)大株主の方々の票数は(当然のことながら)事前集計の中には含まれない、ということであり、非常に悩ましいところだそうであります。つまりオーナー株主や日頃お世話になっている取引先大株主(本来もっとも会社議案に賛成されることが見込まれる株主)の賛同の意思表示が公表される議決結果に含まれない、ということであります。なお、最近出版されました「株主総会と投票実務」(中西敏和著 商事法務)では、たとえ包括委任状や大株主オーナーの株数を除外しても、(議決結果開示には)それなりの意味はある、とされております(同書38頁)。この著書のかかで中西教授がご主張されていらっしゃる「当日投票制度」まで進めば、本件課題は克服されることになるのでありますし、また株主側からも委任状勧誘がなされるような事案であれば、当日投票も行われることが予想されますのでそれほど問題はないと思われますが、やはり「賛否割合を示す」ということに意味があるとしますと、これをルール化するにはかなり問題は残るのではないでしょうか。(欧米では取締役選任議案などにおいて、この賛否割合が詳細に開示される、とのことですが、このあたりは問題なく運用されているのでしょうか?)
どれだけ反対票が集まったのか、という事実だけを問題とするならば、それなりに意味もあるかとは思いますが、ブルドックソース事件の最高裁判決のように「大多数の株主が賛成した」といった事実認定を行うためには「賛否割合」は重要でしょうし、また勧告的決議がなされるような場合でも、そこに「過半数」という概念を持ち込まずに、「多数の株主が望んでいる」とか「多数の株主が反対している」といった投票事実に意味を持たせる場合でも、やはり賛否割合が示されなければ、「議決結果の公表」はあまり意味がないのではないか、という疑問が生じます。たしかに金融庁SGの議事録などを拝見して、機関投資家による議決権行使結果の開示とならんで、上場企業による議決結果公表に関する議論もなされておりましたが、「議決結果における何を公表するのか」というところまで深く議論されてはこなかったのではないかと思います。これが「株主に対する説明責任」に関係する問題であれば、なおさら会社としては株主に誤解を与えないような説明をしなければならないと思われます。このあたり、また実務に詳しい方がいらっしゃいましたらご教示いただければ幸いです。
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