社外調査委員会もオピニオンショッピングの時代?
とも先生もご自身のブログで採り上げていらっしゃいますが、今朝(8月24日)の日経法務インサイド「不祥事企業の調査報告書~客観性揺れる社外委員会~」はたいへんおもしろかったです。不祥事を起こした企業は、最近不祥事の事実調査や原因分析、再発防止策などを社外専門家らによって構成される社外調査委員会に意見書を求め、これを基に社内処分や内部管理体制を再構築する、ということが増えましたが、この社外調査委員会の意見内容からみて、本来の独立性、公正性に問題があるケースが増えているのではないか、という話題であります。(先日も朝日新聞の記事をもとに紹介させていただいた話題ですね)フタバ産業社の件についても、意見書の変遷が「誰の依頼による委員会構成か?」ということにつき、薄々話題にはなっておりましたが、さすが日経新聞、取材に基づいてズバッと書いておられました。(個人の実名ブログではよほどの裏付けがないかぎりは書けません・・・)
本日の関西CFE(公認不正検査士)研究会でも、この記事が話題になっておりましたが、会員の某弁護士さん(元検事)によると、「事実調査という点からみれば、強制捜査権をもっていても、それほど変わらない。むしろ委員による社内調査のほうが事実調査が進むケースもありますよ。たしかになかなか口を開かない役職員が多い場合もありますが、社長さんの説得に成功して、(その社長さんが)この際すべてを公表して一から出直そう!と社員に向かってスピーチしたとたん、あっという間に事件の全容が判明することがあるんです」とのこと。まさに記事にもありますように、会社側の全面的な協力があれば成果は上がる、ということであります。(これは以前ご紹介したNBL889号、890号における調査委員会の運営に関する論文「社内調査はなぜ難しいか」でも指摘されていたところであります)
しかし記事の最後のほうで國廣先生が告白している内容、たいへんよく理解できます。不祥事発生企業からの委員就任の依頼がなされた場合、國廣先生の就任の条件を聞いた企業の3件に2件は同氏の就任を見送る、とのことだそうであります。※1いやいや関西にもいらっしゃいますよね。「社外取締役の鏡」のような先輩弁護士でいらっしゃいますが、(経営財務等にもたいへん詳しいにもかかわらず)その方の豪傑ぶりが有名で、各企業とも社外役員就任要請に二の足を踏んでしまっている・・・というもの。(この程度ならどなたかは特定されないと思いますが・・・(^^; )
※1 調査委員会報告には、「何を調査するのか」といった調査目的が限定されるのが通常ですので、調査目的の範囲に関して会社側と委員候補者側とで意見が相違する場合もあり、「就任見送り」がすべて会社側の体質を物語っている・・・というわけではないケースもありえますので念のため。
こういった國廣先生のようなケースも実際には頻繁にあるのかもしれませんが、そうなりますと、(日経記者さんもご指摘のとおり)著名な弁護士の委員就任を見送った企業は、今度は誰のところへ依頼されるのでしょうか?法律事務を含む業務ですので「非弁活動」にならないよう、弁護士資格を有する人への依頼ということになりますが、やっぱり会社(現経営陣)にとって、保身を容易とする意見を書いてくれそうな弁護士、経営陣による社内調査の正当性を担保してくれそうな弁護士のところへ依頼される、というのが筋なんでしょうか?そうなりますと、これって監査法人の世界における「オピニオンショッピング」に近いもののように思えてきますね。社外調査委員選任にもオピニオンショッピングなる概念があてはまるのでしょうか?しかしこれはちょっとマズイなぁと思います。社外調査委員会の報告内容は、あるときは行政当局の処分根拠になりますし、あるときは監査法人が(監査もしくはレビューにおける)適正意見を出すか否か、監査人を辞任するか否かの判断根拠にもなりますし、またあるときは株主が会社役員の法的追及を決断する資料にもなりうるわけであります。この社外調査委員会は公正性、独立性が担保されていることが重要なわけですので、やはり「調査スキルの有無はあっても、セカンドオピニオンはない」ということが前提とならざるをえないと思います。
すこしだけ気になりましたのが某証券取引等監視委員会幹部の方のお話。「英米では社外調査委員会の報告書は規制当局が依拠するほど質が高い。日本の場合はクオリティに問題があるケースがみられる」とのこと。一般的にはそのとおりかもしれませんが、私の経験からみると、規制当局(金融庁とは申しませんが)だって「当局に都合のよい意見があれば依拠する」のであって、クオリティが高いから依拠するとはかならずしも言えないと思います。企業不祥事の原因分析を一生懸命やればやるほど、そこに規制当局の問題点も浮かび上がってくるケースもあるわけでして、そうなると当局は一切、調査報告書の内容に触れずに処分する場合もあります。(まぁ、規制当局の立ち位置を確保するため、あたりまえと言えば当たり前の話ではありますが・・・・)
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コメント
この問題の根源には、経営陣と取締役会が一体化している点、日本の多くの会社にみられるコーポレート・ガバナンスの限界に、原因の大きな一端があると思います。経営陣が認めれば、動く、認めなければ隠ぺいが続く、という点に集約されます。ガバナンスの意義の理解がなかなか進みませんが、表面的な議論に終始しても仕方ないだろうな、と思います。
投稿: 辰のお年ご | 2009年8月25日 (火) 07時27分
このあたりは辰のお年ごさんが造詣の深いところだと思いますし、問題の根源がガバナンス問題にある、というのは大いに同意いたします。
なお、第三者委員会の在り方について、いろいろと当局と日弁連での動きが活発になっているように聞いております。実は、いま大阪弁護士会でも少し話題になっているところです。また少し注目をしておきたいと思っております。
投稿: toshi | 2009年8月31日 (月) 02時21分