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2009年9月22日 (火)

監査役の「常勤性」に関するビミョーな問題(監査役の乱?)

連休明けの金曜日(9月25日)、ひそかに注目している定時株主総会が開催されます。マニアックに商事法務さんのメールマガジンをチェックしていらっしゃる方ならばご承知かもしれませんが、ビューティ花壇社(東証マザーズ、以下「B花壇」といいます)の株主総会における株主提案権の行方がたいへん気になっております。 花卉(かき)業は、このところ景気の波に押されて業績悪化のところが多いと聞いておりますが、唯一、婚礼や葬儀などの分野では利益が厚く今後の生花の伸びも期待できる、ということで今後の業績が期待できる会社のように思われます。現在、B花壇社のガバナンスは取締役3名、監査役3名(監査役会設置会社)体制でありますが、昨年の総会で退任された創業者(大株主)のA氏が(1)A氏自身を含む取締役2名追加選任の件、(2)今総会で退任予定の2名の監査役の再任の件を株主提案しており、現執行部はこれに猛反対、ということだそうであります。大株主(創業者であるA氏)側は、親族を含めますと42%の議決権を有しておりまして、昨年のB花壇社の総会実績(議決権行使状況)からみますと、もし昨年同様の総会出席者数と仮定しますと創業者側が過半数を握ることになりそうですし、さらに別の大株主の方(元常務)の動向もかなり現執行部には苦しいのではないか、という状況でありますので※1、今後の経営支配権の行方はかなり微妙なところではないでしょうか。B花壇社のヤフー板などを拝見しますと、この9月15日から17日ころにかけて、双方から一般株主宛てに意見書が送られている模様でして、いよいよバトルが本格化しているようであります。

※1 B花壇社はたいへんIRに熱心な会社のようで、昨年の株主総会における株主からの質問と、会社側回答の要旨が閲覧できます。元常務の方は、この株主総会に欠席されていたようでして、このことからの推測であります。

私は現執行部にも、また創業者側にも中立公平な立場でありますので、どちらかに肩入れする気持ちはまったくございませんが、監査役という職務に関心のある者として、このB花壇社の株主総会で非常に注目されるのは、退任予定のおふたりの監査役さんの後任が決まらないおそれがある、ということであります。会社側リリースを読みますと、会社は新しい事業展開をはかろうとしたところ、ことごとく現監査役のおふたりに妨害された、これでは適切な経営ができないと判断して、新たに弁護士(48歳)と公認会計士(38歳)に社外監査役として就任してもらう予定であった、ところが監査役の選任議案については監査役会の同意が必要であるところ、このお二人の監査役さんは、株主提案として自分たちの再任議案が上程される予定であり、自分たちはこれを受諾する予定である、そしてそのような立場にある以上は、新任監査役の選任議案に立場上同意はできない、として多数決(2対1)により、監査役会の同意が得られなかったそうであります。つまり退任する監査役に代わる新たな監査役さんの選任議案を上程できない、といった珍しいケースとなったわけであります。※2(これもやっぱり監査役の乱と呼ぶべきなんでしょうね・・・)そして、もし大株主側(A氏)の提案しているお二人の監査役再任議案が否決された場合には、結局監査役会設置会社において必要な監査役の人数(3名)が欠けることになりますので、会社側としては一時監査役選任を裁判所に申し立てる事態になってしまいます※3。(補欠監査役さんの任期も、この定時総会終了時までですので、こちらも役に立たないことになってしまいます)

※2 新たな監査役を選任する場合、監査役会は、その選任手続きに関与することができます。

※3 なお、一時的に監査役の法定員数が欠ける場合には、それが監査役の退任によるものであっても、退任監査役は(たとえば仮監査役選任に至るまで)監査役としての権利を有し義務を負うものであります(いわゆる権利義務監査役)。

会社側の株主提案に対する反対意見の中身(監査役2名は私利私欲のために選任議案に反対しているので、これは許されない・・・・とか、現執行部は若返りをはかったのだから、72歳の監査役が2名就任していることは経営のスピードを欠く・・・など)につきましては、この会社のこれまでの経営状況を詳細に知らなければコメントはできないものと思っております。(本当は自説を述べたいのでありますが、ちょっと差し控えさせていただきます)ただ、ちょっと私が気になりましたのが、会社法上も少し漠然としていて微妙な問題が横たわっている(と思える)監査役さんの「常勤性」に関する点であります。B花壇社は、昨年の総会で経営陣の若返りを図ると同時に、監査役として1名、IPO(新規株式公開)コンサルティング会社の代表取締役のC氏(40代前半の方)に就任してもらい、そのまま常勤監査役となっておられます。つまり今回退任される監査役の1名の方に代わってC氏は昨年B花壇社の「常勤」監査役に選任されたものであります。ところで、今回会社が監査役選任議案において候補とされていた弁護士の方と会計士の方につきましては、まちがいなく「非常勤社外監査役」として就任予定だったものと思われますので、このコンサルタント会社の社長でいらっしゃるC氏はそのまま常勤社外監査役として就任される予定だったものと思われます。

しかし、この常勤社外監査役の方は、バリバリのIPOコンサルティング会社(2社)の代表取締役を務めていらっしゃるうえに、さらに別の3社の非常勤監査役も兼務されていらっしゃる、ということで、その職務内容は本当に「常勤監査役」なのでしょうか?ちなみに、江頭「株式会社法(第2版)」485頁によりますと、常勤監査役(会社法390条3項)とは、他に常勤の仕事がなく、会社の営業時間中原則としてその会社の監査役の職務に専念する者である、とされております。もちろん、「常勤性」に反する勤務形態の常勤監査役さんがいらっしゃったとしても、監査行為自体の有効性には影響することはなく、ただ監査役の善管注意義務違反の問題が生じるだけであります(上記江頭485頁)が、やはり法令違反の問題は生じうることになりますし、そもそも監査役の職務というのは、実質的な常勤監査役さんがいらっしゃらない状態で公開会社における一般株主から委託された趣旨を全うできるものなのでしょうか?たしかに会社法における事業報告の記載内容からすれば、他社役員が社外監査役を兼務することは当然に認められているところでありますので、その旨きちんと開示されていれば問題はなさそうにも思われます。しかし、それは通常、非常勤監査役の兼務に関するものであり、「常勤監査役」が他社の代表取締役やグループ外の複数の監査役を兼務する・・・ということは通常考えられるところなのでしょうか?フルタイムを常勤監査役に努める会社で過ごすのであれば、むしろ代表者をしている会社の業務について、クライアントから専心義務違反を問われることはないのでしょうか?私はB花壇社の監査役さん方の職務内容を十分に認識しているわけではございませんが、もし今後、純粋な非常勤社外監査役さんを2名選任するような事態となる場合、この「常勤性」に関する株主への説明責任はきちんと尽くすべきではないかと思います。いずれにせよ、連休明けの24日時点での議決権行使書面のとりまとめによって、ほぼ総会の行方(株主提案の可否)は判明するのでしょうね。

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コメント

株主提案が通っちゃいましたね
懸念された問題は、とりあえず出なかったみたいです

投稿: cross | 2009年9月27日 (日) 14時38分

常勤監査の兼業についての問題は非常に重要であるのと指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社においての常勤監査委員不要がコンサルタントやロビイストのようなアメリカ型天下りを志向する連中のロビー活動の結果という気もします

投稿: 流星 | 2016年5月19日 (木) 23時52分

常勤監査役になると、他社での常勤という形は難しいですね。というか、つじつまが合わなくなると思います。
しかし、他社での非常勤監査役、他社での非常勤取締役は可能かと思います。むしろ、そのような機会は、好ましいようにも思います。
ただ、同業他社はよろしくねいでしょう。明確な基準はないと思いますが、各社が内規で決めるなどするべきか、と思います。
一方、異業種は好ましいと思います。コーポレートガバナンス上の視点や常識、はたまた、レベル感・相場観が、異業種間で差があると思うからです。
転職渡り鳥の方の意見でもそのようでした。会計監査人として複数社をご覧になった場合の意見でもおそらく同様ではないでしょうか。

投稿: 浜の子 | 2016年6月 1日 (水) 01時14分

連投失礼いたします。

流星様のおっしゃる「指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社においての常勤監査委員不要がコンサルタントやロビイストのようなアメリカ型天下りを志向する連中のロビー活動の結果」とは、どういうことでしょうか。
アメリカ型で、「天」とはどこで、その「天」からどちらへ下るのでしょうか。米国事情に疎く、ご教示いただけると幸いです。

監査委員会委員や、監査等委員会委員が、常勤取締役に限るとされるようなら、たしかに、天下り(?)しにくいですが、非常勤も許容されるならば、それほど差支えはないのでは、と考えております。この分野に知見が薄く、
私の見落としなど、ご助言頂けると幸いです。

最近といいますか、5月30日の日経新聞朝刊にて「社外取締役」の記事がありました。弁護士の遠藤先生のコメントとして、監査等委員会に常勤取締役を置くように助言している、とのことでした。その常勤者が社外取締役であるかどうか、どちらにしても結構なことだと思います。この話は、指名委員会等設置会社の監査委員会にも当てはまるかと思います。私が、指名委員会等設置会社(いや、当時は、指名委員会設置会社)に関わっていたころ、常勤取締役を置くべし、というのは私の持論でもありました。

投稿: 浜の子 | 2016年6月 2日 (木) 01時49分

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