民主党・公開会社法素案への素朴な疑問
9月7日付けロイターの動画ニュースにおきまして、民主党大久保勉参議院議員のインタビューを拝見いたしました。公開会社法PT事務局長として、今後2~3年以内に制定するという「公開会社法」の中身について概要を述べておられます。(次の衆議院選挙までには施行するとか)現在新聞報道等で最も注目されている「監査役の従業員代表制」につきましては、大久保氏の論理は以下のとおりであります。
会社は株主のもの(アングロサクソン系の考え方)は否定されるべき、会社は従業員、経営者、取引先を含むステークホルダー全ての者のためにある→経営者の暴走を防ぐためには現在の監査役(監査役会)はあまりにも力が弱い→暴走に歯止めをかけるには監査役会の強化を図る必要があり、そのためには従業員からも監査役を選出する必要がある→ただし労働者の代表ではなく、あくまでも従業員の代表である。組合の代表ではない。→代表選出の方法については今後検討する。
なるほど、経営者の暴走を防ぐというために現在の監査役制度の補強という意味で従業員の代表者を監査役会に参加させることが目的のようであります。ところで、本日(9月14日)の日経新聞「法務インサイド」では、三宅編集委員の記事として、この民主党公開会社法素案について紹介されておりました。そのなかで、大久保議員は(民主党内には独立社外取締役の選任を上場ルールによって義務付けるべきだ、との声が少なくない、との記事をうけて)「独立社外取締役の数は・・・全体の3分の1以上が望ましい」「もしそれが嫌なら、委員会設置会社に移行すればいいではないか」と話しておられます。なお、PTの素案においては、社外取締役義務化に関する記述はない、とのことであります。あくまでもハードローではなく、ソフトローによって社外取締役の義務化を図ろう、ということのようであります。
少しビックリいたしましたが、このふたつのインタビューの内容は素朴に矛盾していないのでしょうか?社外取締役義務化の話は、ご承知のとおり株主と経営者(会社)との対話の促進を目的とするものであります。「所有と経営」の分離が極限まで進んでいる上場会社の場合、株主と経営者との直接の対話に限界がある以上、株主による経営監視(モニタリング)と役員から株主への説明責任の履行(アカウンタビリティ)という二つの重要な「対話要素」を代替できるのは社外取締役だけである、というのが「会社は株主のためのもの」という思想を強く主張される方々の意見ではないでしょうか。しかしながら、冒頭の動画インタビューにおきましては、大久保議員は明確に「会社は株主のものという思想は否定されるべき」と述べられており、ステークホルダーの利益調整(バランス、という言葉を用いておられますが)のために従業員代表制の監査役会制度を推進されておられるわけで、この「社外取締役義務化」と「監査役制度改革」とは制度を必要とするそもそもの思想のところで矛盾しているように思えるのですが、いかがなものでしょうかね?それとも社外取締役導入義務化は、(従業員代表者の監査役会参画と同様に)経営者の暴走を止めるため、ということを目的としているのでしょうか?私的にはコンプライアンス経営のための社外役員というのは歓迎したいところですが、一般には社外取締役は企業パフォーマンスの向上のため、ということですよね?
さらに、冒頭動画インタビューにおいて、大久保議員は親子上場は禁止する、と明言されており、その理由は子会社の少数株主保護の必要性が高いからだ・・・と述べておられます。この少数株主保護の問題につきましても、基本的には株主権強化を目指す方々の意見に近いものがありますので、やはり「ステークホルダーの利益調整云々」とは若干方向が違うように思えます。従業員代表監査役の利益相反問題や、会計基準の一本化問題など、詳細なところでの疑問点もいろいろとありますが、まずはこれまで行われてきた金融庁SGでの議論や、監査役協会における監査役制度改革の流れなどからみて、大きな思想のところでブレが生じないように議論の整理から始めていかなければならないと思うのでありますが、どんなもんなのでしょうか?
PS 東京の大手法律事務所さんは早速、著名弁護士さんによる「民主党公開会社法解説セミナー」を開催されるんですね。(さすが、スゴイなぁ・・・・・)
| 固定リンク
コメント
この話題に関しては一貫して発言しつづけてきているので今回も思いを羅列します。
先生のおっしゃる「矛盾」はそのとおりだと思います。
実務的な視点を入れるのは当たり前として、(正統派の)法律家なり学者が入ってきちんと議論すべきです。
経営者でもなく組合の代表でもない「ややこしい」組織を生み出しても何の解決にもなりません。そもそも解決すべき課題は何なのか、今の日本の会社法制のどこにどのような欠陥があるのか、まったく疑問です(ややこしい手術が必要なほどの問題があるとは考えない)。
多様なステークホルダー論には誰も反対しない、当たり前のこと。
ステークホルダーが居て彼らとコミュニケートする必要があることは現実世界の現象にすぎず、会社法制とは次元の異なる問題。
地元町内会や下請企業も経営組織に加えよ、と言ってるのと同じ。
労働関係と会社法制(機関論)を混同してはいけない。
抱える使用人の動向を見ながら上手くコントロールするのが経営者であり、使用人は客体にすぎない。
それでも労働者代表というなら、すでに日本型取締役が居るではないか。
独立社外取締役の義務化に関しては、義務化の必要性自体が立証されていないので論外。何が問題なのか?誰が望んでいるのか?これに妥当な答えがない以上、方法の議論に進むはずがない。
投稿: JFK | 2009年9月15日 (火) 22時38分
親子上場禁止について
理由とされる「少数株主の保護」はちょっと視点がずれていると思います。
上場会社を前提に議論しているわけですから、少数株主に甘んじるのがイヤなら買わなければよいし売ればよいでしょう。
投資対象として魅力がなければ淘汰されるはずであって、淘汰されないということは市場を構成する資格があるということです。禁止するのではなくて、淘汰されるべき親子上場が自然淘汰されるような仕組みを考えればよいと思います。マーケットをゆがめてはなりません。
ところで、事後的に親子上場になった場合はどうするのでしょうかね?
間接支配ならOKなんでしょうかね?
投稿: JFK | 2009年9月15日 (火) 23時34分
ご無沙汰しています。
こんな民主党を選んだのも国民ですね(亀井氏にあのポストを任せるとは腰が抜ける)。
個人投資家といたしましては、株主を尊重しない会社には投資しない、というシンプルな発想があるのみです。
機関投資家ならば他人のお金(年金を含む)、個人は自分のお金、「どうぞ投資してください」というスタンスを崩すトレンドを強調すると、「ではさようなら」となる以外に選択はないです。
それを制度化しようとすると、やはり自己矛盾を感じます。民主党の内閣にはパナソニックやトヨタの労組出身の方が候補にいますが、こんな制度にしたら経営が混乱して結局最終的に労働者にしわ寄せがくることぐらいは理解されていると思いますが。労働者の地位か上がった企業ほど業績が低迷する(かつての欧州の鉄鋼、現在の米国航空、自動車会社、ついでに鶴のマークのエアライン)という歴史がありますね。
業績が悪化すると困るのは従業員のはず。
投稿: katsu | 2009年9月16日 (水) 11時47分
取締役は従業員から、監査役は株主や社外からのほうがいいんじゃないですかね?
監査役を従業員からというのは意味がわかりません。もともと従業員は企業内部者なので監査役には向いていない。社外取締役も取締役は業務に密接に関わるので実は社外の人間がやるのは向いていない仕事です。
取締役は企業内部者で固めて、お目付け役として社外から監査役を呼ぶ。こんな形が自然だと思います。
社外役員を呼ぶと、仕事の割りに報酬が高すぎるので小規模の企業には負担が重過ぎます。かといって大企業だと分業が進みすぎて監視監督も出来ません。そもそも呼んでくる役員は通常お飾りなので仕事はしません。
形式的にいかに不正が起こらないようにシステムを作っても、実際に機能しないケースが多すぎるのですから、公開会社法は理念先行型の机上の空論に過ぎない結果になりそうです。
投稿: う | 2009年9月17日 (木) 00時46分
皆様、コメントありがとうございました。(レスが遅れまして申し訳ございません)
民主党の監査役観は、どうも有事を想定されているようですが、内部統制の相当性判断など、平時における法令遵守体制の構築や、企業価値判断に関わるところも監査役の重要な職務に含まれますので、このあたりと従業員代表という考え方とが整合するのかどうか、私は懐疑的です。それと所管問題も、やはり大きな課題になるんでしょうね。
投稿: toshi | 2009年9月19日 (土) 21時57分