企業の社会的責任論(CSR)とソフトローの親和性
経団連では毎年10月を企業倫理月間とされているそうで、会長さんによる企業倫理推進のためのメッセージも発信されておりますが、このたび(9月15日) 「日本経団連:CSR(企業の社会的責任)に関するアンケート調査結果」が公表されましたので、概要版だけですが拝見させていただきました。(ちにみに437社からの回答結果ということですので、かなり客観性は保持されているのではないでしょうか)
そもそも社会的責任に関する基本的な考え方として、アンケート結果では「法令遵守を超えた社会的良識の範囲での活動」とか、「持続可能な社会の創造に向けた活動と」理解されていらっしゃる企業が多いところから、CSRはあくまでも法令遵守とはそれほど親和性はなく、社会的な貢献のひとつであると認識するのが一般的なところだと思われます。自社のCSR活動をWEBページなどでほとんどの企業が公開している(95%)、とのことでして、法令遵守という範疇にはないからこそ進んで広報できるのでしょうね。しかしながら、概要版を仔細に見ていきますと、たとえばサプライチェーン・マネジメントとして「(CSRを)契約条項に盛り込んでいる」企業が40%近くに上っておりますし(このあたりの問題点は以前のエントリー「CSRは法律を超えるのか?」をご参照ください)、CSRに関する情報開示としては「自社の不祥事への対応状況を広報する」企業が51%もあり、さらにCSRを推進する上で参考にしているガイドラインとしては「ISO26000の社会的責任に関する規格を参考にしている」企業が24%もある、とのこと。こういったアンケート調査結果を眺めてみますと、やはりCSRは法令遵守とは無関係とは言えないものであり、たとえばISO26000規格などがもっと国際規格として普遍化していけば、そのうちソフトローとして法規範化するのではなかろうか・・・との疑問が湧いてきます。
こういった疑問が私だけの素朴な疑問であれば、とくにブログで述べるほどのこともないかもしれませんが、早稲田大学の商法の大先生が同様のことを疑問に思っていらっしゃるとすれば、皆様方の関心度も少し変るかもしれません。ご興味のある方は、直接原文を参照していただければと思いますが、最新の「金融・商事判例」(9月15日号)「金融商事の目」のコーナーで、元早大総長の奥島先生が「社会的責任の国際規格と会社法」と題する意見を述べておられます。ご承知のとおり、ISO26000は特に企業組織だけを対象とした国際規格ではありませんが、奥島先生は実質的にみるとISO26000は会社法との関連性は決して小さくはないとされています。ISO26000が目指す社会的責任の原則が、直ちに法的レベルまで引き上げられることはないが、近い将来、企業経営に関するある部分はソフトロー化するのではないか・・・と予想されております。(適正な経営のための内部統制システムの整備が会社法で法制化されていることからしても、今後その可能性は十分にある、と論じられております)奥島先生の言われるCSR原則のソフトロー化の重要な結論としては、社会的責任の原則が規格化して、これが社会で強い支持を集めることになれば、やがてソフトローとして善管注意義務の判断基準を底上げする方向に進むのではないか・・・といったあたりかと思われます。
このあたりは、とりわけ企業社会における規制の手法が事後規制的、原則主義的に変わりつつあるなかで、とても重要な問題意識ではないかと私も勝手に共感いたします。法律と自主的な行動規範との境界が、取締役の法的責任を論じるうえで明確にならないケースが今後増加することになるでしょうし、その境目のモノサシとして今後使われる可能性があるのが、ある程度規格化されたCSR活動(CSRの考え方)ではないでしょうか。CSRについては、私もあまり普段研究しておりませんが、もし奥島先生が指摘されているように、今後ソフトロー化(つまり法的責任との関連性あり)との関連性が認められるのであれば、興味深く今後の議論の進展をみていきたいと思う次第であります。
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