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2009年10月29日 (木)

やっぱり気になる日本興亜損保の「支払い先送り問題」

いろいろなブログでもっと話題になるのかと思っておりましたが、意外にもほとんど採り上げられていないのが日本興亜損保の保険金支払い遅延問題であります。10月23日に業務改善命令が金融庁から発出されましたので、これで一件落着・・・ということかと思っておりましたが、日経だけが28日朝刊で報じている「専務さんの社内通知問題」であります。(ニュースはこちら)一部、記事の引用で申し訳ありませんが、

目標について「通常では達成が困難なレベル」としたうえで「『必要な無理』をして最大限の努力をすれば必ず達成できる」として、支払いの先送りを示唆したとも取れる内容となっている。

とのこと。もしこの報道内容が真実であるとすれば、文書にある「必要な無理」って、いったいどのような行動を指すのでしょうかね?普通に(自然に?)解釈すれば「たとえ違法行為と思われる行動に出ても、会社としては目をつぶるから、なんとかしろ!」という意味ですよね。社内広報部は「決して支払い遅延を示唆するものではない」と否定されているようですが、ではどういう意味なのか説明いただければ・・・と思いますが。しかも、この文書は金融庁には提出されていない、ということですが、もし私のような解釈が正しいのだとすれば、組織的な関与のもとで支払い遅延が推奨された、ということになってしまいますので、このたびの金融庁の解釈(支払いが放置されることがないような社内体制の構築を促す)とはずいぶんと違ったイメージの問題になってしまうのではないでしょうか。

とりわけ日本興亜損保の件は、お家騒動的なイメージで報道されているところでありますが、前会長さんが「当社の一部役員が、今年の2月か3月ころ、支払い遅延を指示したのではないか?」と会社側に詰め寄ったとのことでした。私的には「おそらく(前会長さんのご主張は)推測でのクレームではないか?」と考えるところでありました。(以前、朝日新聞ニュースでは当該専務さんのインタビューの一部が報道されておりまして、完全に否定していない様子はうかがえましたが・・・)しかし、この日経のニュース内容からしますと、前会長さんの言い分にも、かなり信憑性を帯びてくるところがありますので、どうも今後の展開に注目したくなるところであります。ともがく、この「必要な無理」っていったいどんなことを指すのか、興亜損保さん側の言い分も聞いてみたいところであります。この文書の存在を受けて、またどこかの新聞社でこの専務さんのインタビュー記事など、新たに掲載していただけないでしょうかね?

10月 29, 2009 コンプライアンス経営はむずかしい | | コメント (2) | トラックバック (0)

2009年10月28日 (水)

トライアイズ元監査役が遺したものを無駄にしてはならない

昨年の12月24日、JASDAQ上場の京樽社が「当社連結子会社における不適切な会計処理に関する調査結果のご報告」と題する書面をリリースしております。この適時開示の内容がたいへん興味深いものであります。この京樽社の監査役さんは当該連結子会社の監査役も兼務されておりましたところ、当該連結子会社の経理責任者による資産流用の事実を発見し、本格的調査によって事実を確定し、会社は過年度決算訂正を伴う会計不正の公表に至ったようであります。

まず、当該子会社の売上高は例年通りであるにもかかわらず、売掛金が急増していることを不審に思い、監査役さんはこの経理責任者にヒアリングを行いました。要領を得ない回答ではありましたが「合理的な疑い」をはさむほどの確信も得られなかったので、そのままにしておいたそうです。しかし次年度決算において、この監査役さんは未清算消費税額が(子会社の売上規模と比較して)あまりにも大きいことに疑問を抱き、関連書類による説明及び再調査をこの経理責任者に求めたところ、当該経理責任者は失踪されたそうであります。その後、監査役さんは財務担当取締役および財務担当社員の協力を得て、本格的な調査に入り、昨年の調査結果のリリースとなったわけであります。(本体の調査であれば監査法人さんの協力を得るところだと思いますが、連結子会社、ということで社内の協力を優先されたのでしょうね)

この事例は、監査役による会計監査の「理想的な有事対応」に近いところにあると思います。何度も当ブログで述べたところでありますが、この監査役の発見力というところが予防(内部統制)、事後対応(危機管理)と同等あるいはそれ以上に監査役さんに期待されるところでありまして、「なんとなく怪しい」と感じる力(たとえば売上高と売掛金との変動率の比較、未精算消費税額の分析を通じて抱く疑問)こそ、会計不正の早期発見のために有益なものであると考えます。J-SOX的な発想からすれば、こういった監査役の対応があればこその「統制環境」ではないでしょうか。

おそらく京樽社の監査役さんとしては、こういった事実が公表されれば株価に大きく影響が出ることは承知のうえで、本格的調査に入ったものと思います。そこでは、会社側の協力もあり、日常における監査役と経営陣との信頼関係が横たわっていたことが想像できます。しかしながら、信頼関係がそこにない場合には、監査役としてはどうすべきか。やはりこれまでどおり、経営陣との意思疎通が図れないとして「一身上の都合により辞任」するしか方法がないのか。

そういった監査役の有事対応について、一石を投じたのが、このたびのトライアイズ社の一件であったと思います。10月26日、トライアイズ社の元監査役でいらっしゃる古川氏のHPが更新されており、株主の皆様へのごあいさつが追加されております。このHPも、あと1週間程度で閉鎖されるそうなので、是非とも全国の上場会社の監査役の皆様には、賛否両論あることは承知の上で、ぜひぜひご一読いただければと存じます。ご承知のとおり、監査役解任決議は株主の皆様の3分の2以上の賛成多数をもって可決され、古川氏は(元)監査役となりました。3時間に及ぶ質疑応答の末、総会の決議によって審判が下されたのですから、その結果につきましては真摯に受け止めざるをえません。(ただし、議決権行使書面による賛同を合わせても出席株主数は5000程度、とのことですから、これが「株主の総意」といえるかどうかは疑問がございます。また私自身はまだ例のクオカードの件については問題だと思っておりますが)しかし、監査妨害を理由として、会社(経営陣)と対立し、自らの主張を株主に理解してもらうための一連の行動、そして監査役に与えられた会社法上の権限を適正に行使しようとした一連の訴訟行為につきましては、誰からも文句を言われるものではなく、むしろ「有事における本当の監査役の理想の姿」を具現化したものだと確信しております。最近の石川遼選手の活躍をみて「ハニカミ王子」などと誰も言わなくなったのと同様、ここ数カ月の古川氏の活動は「監査役の乱」などとは到底表現できないほどに、その人生を賭けた攻防だったように思います。私は古川氏の勇気ある行動を(ささやかなブログ上ではありますが)評価し、監査役制度に関心のある者として、これからの監査役制度の充実のために、一連の事件の経過と顛末を心に留めておきたいと思う次第であります。(なお、一連の株主総会決議取消訴訟、そして監査役の前払費用請求訴訟につきましては、まだ東京地裁で続行していることを念のため付言しておきます。)

10月 28, 2009 監査役の理想と現実 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2009年10月27日 (火)

内部統制報告制度ラウンドテーブル(11月5日)

ある事情により、先週金曜日から本日(月曜日)まで休みもとらず、ひたすら「不適切な会計処理の発覚」に伴う社外調査委員会報告書を約50本ほど、読みふけっておりました。(正確には、すべてが純粋な「社外調査委員会報告」ではなく、取引所提出用の「改善報告書」や弁護士が支援している「社内調査委員会報告」も含まれております)時期的には証券取引所の改善報告書縦覧期間分ですから、だいたい平成17年から最近までの分ということになります。もともとこういった報告書を読むのは好きなほうですが、さすがに一日平均12~13本となりますと、ヘロヘロになってきます。

この50本は、いわゆる経営者主導(経営者関与)型の会計不正(粉飾、違法配当)事案は含まれておらず、経理担当職員や営業社員等による資金流用事件を選択しております。つまり内部統制の限界事例ではなく、いわゆる典型的な内部統制欠乏型事例というものです。(したがいまして、社外委員の再発防止策として、ほとんどに内部統制システムの充実・・・と出てきます)取引所による指導などもあってか、平成17,18年当時よりも最近の報告書は格段に内容が充実しております。以前はインダイレクトレポーティング型(社内調査委員会報告書に対する検証を主たる目的とするもの)が多かったのでありますが、最近は社内調査とは別に社外調査委員が何度となくヒアリングを行って、独自に事実調査などを詳細に行うもの(ダイレクトレポーティング型)が増えているのが事実であります。内部統制というと、いわゆる「日本システム技術事件」が有名でありますが、こうやって日本システム技術社の改善報告書を改めて読んでおりますと、多くの会社が日本システム技術社と同等の内部統制レベルであることが理解できます。(たまたま株主から損害賠償請求訴訟を提起されなかっただけ、ということですね)

また平成17年ころからの報告書を読みながら「どっかで聞いたことがある会社だな」と考えておりましたところ、今年の内部統制報告書におきまして「重要な欠陥あり」と公表している会社が(やっぱり)多いんですね。この1年に会計不祥事が発覚した会社だけでなく、過去数年内にそういった会計不祥事が発覚した会社も、やはり開示体制に不十分なところを残しつつ事業を継続していることがよくわかります。(そう簡単には財務報告の信頼性が確保される体制にはならない、ということなんでしょうか。)先日ご紹介した日経シンポでもこの第三者委員会の在り方が話題になっておりましたが、なるほどこうやっていろんな報告書に接しますと、プリンシプルベースによる市場規制のなかでの第三者委員会の在り方のようなものも、おぼろげながら理解できるところであります。

さて、すでに何度かこのブログでもご紹介いたしました「内部統制ラウンドテーブル」でありますが、いよいよ来週(11月5日)となりました。予想以上の反響でありまして、ラウンドテーブルの傍聴券200枚のところ、すでに300名以上の申し込みがあるため抽選で傍聴券が配布されるそうであります。以前ブログでご紹介した際には、まだ報告者やオブザーバーの名前が決定しておりませんでしたが、(どういうわけか)私自身も法律家代表(いや、ブロガー代表?)として、このテーブルに参加させていただくことになっております。皆様方を高揚させるような意見なのか、それとも落胆させてしまう意見なのかはわかりませんが、私なりに2年目に向けた内部統制報告制度の課題について考えていることをそのまま素直に述べるつもりであります。コメントをいただいた「答えは風の中」さんや「いたさん」「tonchanさん」のご意見、そして「とも先生(池永朝昭弁護士)」から示唆いただいた見解なども参考にさせていただくつもりであります。

10月 27, 2009 内部統制の費用対効果 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2009年10月24日 (土)

吉本興業の非上場化に対する差止請求訴訟(これはオモロイ!)

またまた山口三尊氏(私の親戚ではございません)経由で知りましたが、10月19日に吉本興業株式会社の株主の方が、吉本興業および同社取締役らを被告として、①(吉本が)種類株式発行会社となること、②普通株式を全部取得条項付き種類株式に変更することに関する定款変更議案の上程差し止めを求めて大阪地裁に提訴されたようであります。現在、吉本興業さんはゴーイング・プライベートのための(ファンドによる)TOB期間中でありますが、このスキームによって締め出される一般株主の方々の中では、不満を持っておられる方も多いように聞いております。とりわけ吉本社の場合、子会社のファンダンゴ(大証ヘラ)が、わずか1年半で上場廃止とされたことが話題となりましたので、「またやったか」と思っておられる株主の方もいらっしゃるようであります。この裁判の原告である個人株主の代理人はあの株主オンブズマンで名高い阪口、松丸の両ベテラン弁護士を中心に、大阪の優秀な弁護士陣で構成されているようです。(ご自身方が原告株主となるのではなくて、今回は純粋な代理人として就任されているようですね)取締役の違法行為差止めに関する株主権の行使ではなく、民法709条に基づく差止請求権を根拠としているようであります。(めずらしいですね)

平成21年9月11日吉本興業リリースにかかる「当社株主に対する公開買付けに関するQ&A」のQ3におきましては、「本取引はMBO(マネージメントバイアウト)なのですか?」なる質問に対して、吉本側は本件はMBOには該当しません、と明確に回答しておられます。しかしながら、本訴訟において原告側は、これは形を変えたMBOである、と主張しておりますので、このあたりが裁判のうえでどのように判断されるのか、関心のあるところであります。とくにMBOの定義というものが示されるのかどうかは定かではありませんが、そもそも本件における経営者と株主との関係が、実質的に「構造的な利益相反関係」に該当するのかどうか、という点については何らかの裁判所の判断が示されるのではないでしょうか。(当然のことながら、構造的利益相反状況にあるとされれば、株主と経営者との間における情報の非対照性への配慮や、賛同根拠となる価格に対する精査方法等にも影響が出てくることいなります)

また、たいへんおもしろいのは「全部取得条項付き種類株式を用いたスクイーズアウト(少数株主の締め出し)」は違法であり、取締役らの不法行為を構成する・・・とする主張であります。これは以前から一部学説では「違法ではないか?」と有力に主張されていたものでありますが、MBO実務では、すでに当たり前のように活用されているスキームであります。ここに正面から切り込んでいく訴訟は「立法論の世界なのか解釈論の世界なのか、ちょっとよくわからないところだけど、いつか出てこないかな・・・」と思っておりましたので、裁判所の判断がたいへん楽しみであります。なお、このあたりの論点は、江頭憲治郎教授の還暦記念論文集「企業法の理論」に収録されております九州大学法学部の笠原准教授の論文「全部取得条項付種類株式制度の利用の限界(笠原武朗)」がかなり参考になるところであります。(ほかにも優れた論稿等ありましたらご教示いただければ幸いです)なお、三尊さんがコメントで紹介されているので、私も紹介させていただきますが、原告株主の方のHPが立ちあげられたようであります。(ブログもあるようですが・・・)おそらく著名な代理人の方々と今後は訴訟を維持していかれるものと思いますので、また更新されるのを楽しみにしております。(吉本興業側はやっぱりO法律事務所が法人も個人も代理人を務められるのでしょうかね?)

10月 24, 2009 企業価値研究会「MBO報告書」 | | コメント (4) | トラックバック (1)

2009年10月22日 (木)

「資本市場と弁護士の関係」は両刃の剣

おおすぎ先生のブログでも早速紹介されておりますが、日経の三宅伸吾さんがコーディネートしておられる「変貌する資本市場-適正な市場ルールと執行の行方を探る-」(9月29日日経ホール)の議事内容が日経WEBでも公開されましたので、とりわけパネルディスカッションを中心に読ませていただきました。いや、実にオモシロイ。当ブログにお越しになられる方々ならすぐにおわかりになると思いますが、どのテーマも私的には非常に関心のあるものばかりでして、パネリストの方々のご発言につきましては、ビンビン反応してしまいますね(笑)もちろん「公開会社法」に関する議論にも関心がございますが、とりわけディスカッション後半部分の「資本市場と弁護士の役割」につきましては、プリンシプルベースを中心とした規制のなかで弁護士に期待されるもの、第三者委員会報告書の現状を踏まえたうえで、委員としての役割に期待されるものなど、読んでおりまして私自身の考え方と「大きな開き」がないことについて意を強くした次第であります。

ただ、IPO支援をしたり、第三者委員の補佐をした経験からみて、たしかに弁護士も資本市場のルール作りや執行の実効性確保のために、今後は更なる関与の必要性が高いことは理解できますが、一方におきまして弁護士には監査法人(公認会計士)さん方のように監督官庁(金融庁)がないものですから、弁護士の活動というものにはほとんど規制がかからない・・・ということは結構重大な問題である、と認識しております。ときどき引用させていただいている高橋篤史氏の「兜町コンフィデンシャル」などを読んでおりましても、裏の紳士達の仲をとりもつのも、また裏の紳士達に形の上での法令順守(どのような手法を用いれば市場ルールには形式的に反しないことになるのか?)を指南するのも弁護士であることがすぐに理解できるところであります。また、証券取引所の方々と、まじめにお話をしておりますと、(これまで痛い目に合っていらっしゃるからなのか)どうも弁護士という職業に対しては、どこまで信用性が置けるのか?ちょっと疑心暗鬼になっておられるようなイメージを抱きます(いや、ひょっとして私だけがそのように抱いているだけなのかもしれませんので、あくまでも「そんな感じがする」という程度のことなのですが・・・・・)

ご承知のとおり、弁護士には監督官庁がないので、そのぶん日弁連や単位弁護士会が所属弁護士に対して厳格な懲戒処分を下すことになります。(公表されるだけでも毎月10名程度かそれ以上の弁護士が懲戒処分の対象となっていることはあまり知られていないと思いますが、これは組織強制における自治権をもつ団体としてはかなり健全な姿なのではないでしょうか?)ただ、懲戒審査を行う立場の人たちがどれだけ証券市場ルールを認識しているかといえば、(失礼ながら)専門家集団である金融庁とは比較にはならないものと思いますし、また基本的には市民(もちろん法人も含みますが)による懲戒請求がなければ綱紀・懲戒の対象にはならないものと思います。したがいまして、こと「資本市場と弁護士の関係」という点に限って申しますと、「グレーゾーンで暗躍する法律専門家」というものは、直接当局が動かないかぎりは弁護士の強制加入団体自身による自浄作用がうまく機能するものではないのでは?・・・と(私的には)考えたりしております。(こんなこと言うとまた大阪弁護士会の副会長あたりから叱られそうですが・・・(^^;; )

ということで、資本市場に精通する弁護士が増えることはたいへん良いことなのではありますが、このパネルディスカッションのなかで石黒先生が申しておられるように「弁護士の倫理観」(誰のために仕事をするのか)といったあたりを合わせてしっかりと認識していかなければ、プロフェッションとしてのスキルが意外な方向で使われてしまう・・・ということになりかねないのでありまして、私も心して(そのような誘惑を断ち切る)仕事に臨む必要がある、と自戒しておくことにいたします。(このパネルディスカッションにつきましては、ほかにもたくさん申し上げたいことがございますが、とりあえず本日はこのへんで・・・)

PS 

最近、「BLOGOS」に転載される関係で、あまり他の話題には触れないことが多いのでありますが、南田洋子さんのご逝去につきましては、謹んでご冥福をお祈りいたします。長門さんの会見をみて、私の両親の死と重なってしまったせいか、理屈抜きに号泣しました。長門さんのこの4年間の幸せと、舞台が終了するまで南田さんを「氷漬け」にしておく気持ちは、おふたりにしかわからないのかもしれません。私がいままで視たテレビの歌番組のなかで、一番レベルが高かったのがご夫妻で司会を務めておられた頃の「ミュージック・フェア」でした。見事なほどのボケ(長門さん)とツッコミ(南田さん)がたいへん印象的でした。それほどの宗教観を持たない私自身が、最愛の人の「認知」や「死」を、長門さんのように真正面から受け入れることができるのかどうか、いまのところまったく自信がありません。

10月 22, 2009 証券業界の自主規制ルール | | コメント (2) | トラックバック (0)

2009年10月21日 (水)

ガバナンス評価委員会の威力が発揮されたのか?

名古屋市に本社を置く佐藤食品工業(新潟市のサトウ食品ではございません)の監査役3名は、同社元取締役ら6名を相手取って損害賠償請求訴訟を提起することを(監査役会で)決定したそうであります。(当社元取締役らに対する損害賠償請求訴訟提起にかかる監査役会決議のお知らせ)今年8月に、同社の一般株主より監査役に対して「当社取締役らの経営判断には、会社に損害を与えたことについて善管注意義務違反が認められるので、会社として損害賠償請求訴訟を提起されたい」との提訴請求がされていたようです。そこで監査役らは、今年初めに倒産した親会社のCP、社債を(その安全性について十分な検討をすることなく)同社が購入していたことについて、取締役らには法的に問題のある行為があった(善管注意義務違反があった)として、役員個人らによる賠償責任を追及することを決議した、とのこと。なお、佐藤食品工業さんには、もともと4名の監査役さんがいらっしゃったようですが、リリース直前に元常勤監査役の方は「一身上の都合」により辞任されておられるようですので、実質的には弁護士、税理士、元みずほインベスターズ証券代表者ら社外監査役3名で責任追及を決議されたようであります。(元常勤監査役さんとしては、被告である取締役の方々とは旧知の仲でしたので、監査役として責任追及することは忍びないことだったのかもしれません)いずれにしましても、株主からの提訴請求を受けて、監査役さん方が自ら会社を代表して取締役らの責任追及訴訟を提起することは非常に珍しいケースであります。

問題は、一般的にみればなかなか動かない監査役さんが、どうして株主からの提訴請求に応じたのか・・・という点であります。佐藤食品工業さんの余剰資金運用のため、56億円もの資金をSFCGグループのCP・社債購入に充当したことにつきましては、その当否判断は取締役会の書面決議をもって審議していたようでありまして、もともとそのころから監査役らは書面決議が不適切であるとして問題を指摘しておられたようです。(社内調査委員会報告書 参照)しかしながら、そういった監査役らの意見を無視して、書面決議をもって重要な財産の処分を決めてしまっていたわけですから、ひょっとすると社外監査役らの一存で元取締役らへの提訴を決意したのかもしれません。また、ずさんな資金運用に関する問題発覚後(2009年3月期45億円の特損計上)に、社内調査委員会を立ち上げて(といっても、社外の専門家が加入しているもの)、詳細な調査報告書が提出されておりまして、そのなかで経営判断に関する法律問題にまで踏みこんだ意見がリリースされておりますので、これを根拠として提訴に踏み切ったものとも思われます。

ただ、社外監査役(いずれも60代から70才代の方々ばかりです)の方々の提訴決議について、もっとも大きな影響を与えたのは、ガバナンス評価委員会の存在ではないでしょうか。この委員会は、問題発覚後に組織されたものでありますが(ガバナンス体制の強化について)、今後の取締役、監査役らの権限行使の在り方について厳格にチェックすることが目的・・・とされております。(しかも委員のメンバーは錚々たる法律・会計の専門家の方ばかりですね)50億円もの会社の損害金について、元取締役ら個人においてどの程度の回収が可能であるのか不明ではありますが、ここで過去の親会社との利益相反的取引を清算するべく、毅然として監査役としての権限行使を決意したものと思われます。そこにガバナンス評価委員会の存在意義があるのかもしれません。ガバナンス評価委員会そのものがガバナンスを構成するひとつになってしまっているのかもしれませんね。(このあたりは、また当事者に近い方々のご意見を一度聞いてみたいものであります。)

10月 21, 2009 社外取締役・社外監査役 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年10月19日 (月)

日本興亜損保報道にみるOB株主の「発見力」

企業コンプライアンス関連の報道としては、ここのところ連日のようにJR西日本(事故調査委員会)関連のニュースが続いておりますが、日本興亜損保の支払保険金先送り問題も、なかなか興味を惹く事例であります。今年5月元役員の株主の方が、「会社は2008年に支払うべき保険金をわざと遅らせているのであり、指示した取締役を提訴せよ」と監査役に請求したところ、当該監査役は弁護士、公認会計士を含む調査チームを組織して調査したうえで、「そのような事実はない」とのことで提訴しない決定をしておりました。ところが、金融庁からの調査指示が出されて、あらためて社内調査をしたところ、合計40件、総額7億円分の支払遅延があった、とのこと。(なお、調査対象は自動車保険に関する500万円以上の大口契約分だそうであります)

報道では、監査役の調査対象は「取締役による指示の有無」ではなく「問題とされている支払遅延の有無」だったようですから、おそらく監査役が説明した不提訴の理由も「株主が指摘するような支払遅延の事実はなかった」ことによるものと思われます。ただ、そうなりますと、「弁護士や公認会計士まで投入した内部調査までして、いったい監査役は何を見ていたのか?」といわれそうな気がいたします。朝日新聞ニュースの記事によりますと、今回「支払い遅延」が判明したのは、全国の主要損害調査部門から事情を聞いたところによるものだ、ということでありますが、それくらいのことは当然に社内調査が済んでいるはずでありますから、「なぜいまごろ・・・」といった疑念はぬぐいきれません。とりわけ日本興亜損保社は、平成19年3月14日には「支払管理に関する内部管理体制の不備」を理由に業務改善命令と一部業務停止命令を受けているわけですから、支払管理の不備に関するリスクは十分に認識されていたものと思われます。そのような中で、株主からの請求に対しては「事実はなかった」とする反面、金融庁からの調査指示に対しては「支払遅延があった」とする報告につきましては、どうも納得がいかない方もいらっしゃるかもしれません。ひょっとすると、失効返戻金の取扱などについて会社側と金融庁側との間で「不払いに該当するか」「交渉が長引いていることを『遅延』とみるか」といった解釈の違いがあり、監査役側としては、これを「不払い」には該当しない、といった扱いにしていたのかもしれません。ただこれも、おそらく2007年の業務停止命令を受けた後であれば、会社としても十分に不払いとみなされないような配慮はされていたものと思われます。

金融庁の調査指示は、(報道によりますと)この元役員の方の指摘を発端としたもの、ということですが、たとえ役員ではなくても、これからのコンプライアンス問題として、こういった会社を退職された方々(OB、OG株主の方々)の存在は株主総会や代表訴訟などにおいて無視できない存在になってくるのではないでしょうか。以前にも少し書きましたが、上場会社の監査役の方々とお話をしていて、こういった「OB株主」の方々は団塊の世代のリタイアとともに大きくクローズアップされているようであります。(1)OB株主の総会出席が急増している、(2)一株主として、当時の上司(役員)へ不満をぶつける、(3)社内の事情に精通しており、爆弾発言もありうる、(4)生計のための資産運用なので必死、(5)なんといっても時間があるため、総会における質問準備も万全・・・といったあたりが話題となっておりました。たしかに、産経WEBの特集記事(日本興亜損保株主総会の実況中継)などを読みましても、元役員の他にもOB株主が熱心に社長さんへ質問をされていたようであります。

保険会社は金融庁による厳格な監督を受ける立場ゆえに、報道のような事態になったのかもしれませんが、一般の上場会社におきましても、OB株主による総会質問や提訴請求権行使などにより、コンプライアンス問題が一気に表面化する可能性もあろうかと思われます。(内部通報窓口を担当している立場からすると、やはり労務コンプライアンスについては通報件数も多く、企業グループ全体の社会的評価を毀損しかねないような話題も多いように感じております)地味な考えかもしれませんが、最近少なくなったと言われている「OBとの懇親会」などにおいて、きちんと現経営陣が話を聞き、説明義務を尽くすことが必要なのかもしれませんね。「腹に収めておく」「墓場まで持っていく」などという言葉は(期待される向きもあるかもしれませんが)もはや死語になりつつあるのかもしれません。。。

10月 19, 2009 株主代表訴訟と監査役の責任 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2009年10月15日 (木)

株主総会の議決結果、賛否票数開示義務化?

(TYさんのコメントを受けて、若干トーンダウンした内容にしております。さすが「BLOGOS」の編集者の方も、そのあたりを意識してか、私のブログのタイトルが修正してある・・・・・笑 いやいや、ホント実名ブログってコワイですね。。。汗)

10月14日の日経朝刊の記事によりますと、東証は株主総会の議決結果について、可決・否決の結果だけでなく、賛否票数まで公表するよう上場会社に要請する方針である、と報じられております。(来年6月の株主総会から実施を求める方針、とのこと)ただし、「要請」とありますが、義務とするのか、努力義務、とするのかはよくわかりません。

今年6月17日にリリースされた金融庁スタディグループ報告(~上場会社等のコーポレート・ガバナンス強化に向けて~)でも「議決権の行使を通じた適切なガバナンスの発揮」の一環として「上場会社等による株主総会議案の議決結果の公表」として賛否票数の開示が速やかに実行されるべき・・・と提言されており、これを受けた東証「上場整備プログラム2009」のなかでも「速やかに実施されるべき事項」として含まれておりました。なお、2009年の株主総会でも、議案への株主の賛否公表企業は31社(2008年は4社 大和総研さんの調査による)と大幅に増えておりますので、議決結果の賛否票数開示の流れは予想通りのところかもしれません。

ただ、この記事では「前日までの議決権の書面行使に関する結果の公表」なのか、「当日の株主総会の場における出席株主の議決権行使結果までの公表」なのかは定かではありません。たしかに投資家(株主)に対して透明性の高い経営を促す、という趣旨からすると、総会当日における議決権行使の結果までを(後日WEB上にて)開示することまでを要請することが妥当ではありますが、前記金融庁スタディグループでも議論されていたところですが、当日出席株主の賛否票数の開示となりますと、その迅速かつ正確な集計は非常にしんどい作業を伴うところであります。(たとえば先に書面で行使したり、ネットで議決権を行使した人が、委任状を渡して代理出席したり、本人自ら出席してきた場合の確認作業や、議案に対する修正動議がなされた場合の議決権行使書面による投票者の賛否の解釈など。まあ、現実には株主提案権が通りそうな株主総会では、実際に当日の集計作業までやっているわけですから、やれないわけではないとは思いますが・・・・・)また、前記スタディグループ報告でも、とりあえず前日までの議決結果の公表だけでも意味がある・・・との記載がなされており、当日の賛否票数まで集計することまで絶対に必要とまでは求められていないニュアンスが感じられます。

いっぽう、以前にも述べました通り、経営者と株主との対話を促進し、株主への説明責任を尽くすための「賛否票数の開示制度」ということであれば、前日までの議決結果の公表ということになりますと、たとえば大株主の議決権(10%)について包括委任状をとりつけている場合(たとえば当日の手続き的動議がなされた場合に備えて)とか、取締役たる創業者が当日出席株主として名を連ねているケースでは、(それらの票数が前日までの行使結果には含まれておりませんので)真実の議決結果の開示とは言えないはずであり、透明性を向上させるために説明責任を尽くした・・・とは言えないことになりそうです。

私が情報に疎いだけかもしれませんが、もし当日出席株主の賛否票数まで開示する・・・ということになりますと、株主総会決議取消事由が発生しないよう、それなりの準備が必要かと思います。私がいつも参考にさせていただいている「株主総会ハンドブック」(商事法務)あたりにも、このへんの対策は記述されていないようですが、三菱UFJ信託に在籍されていた中西先生(現 同志社大学教授)の「株主総会と投票の実務」(商事法務1,600円 税別)は、このあたりの投票実務の事務手続きをかなり詳細に解説しておられますので、参考になろうかと思います。(中西先生は、当然のこととして、当日の賛否票数も開示すべきである・・・との立場で執筆されているようですね。最近活用実績が伸び悩んでいるとされるプラットフォーム制度や、これからの電子株主総会の可能性などにも言及されており、コンパクトな本ですが、株式実務にとっては貴重な一冊であります。)

10月 15, 2009 株主総会関連 | | コメント (9) | トラックバック (0)

2009年10月13日 (火)

企業不祥事の防止と監査役の「発見力」

今年の企業不祥事に関する代表的事例としては、①H社の冷蔵庫エコ原材料使用に関する景表法違反(エコ大賞返上)、②N建設政治献金問題、③N郵便関連事件、④J社幹部による鉄道事故調査会問題そして⑤K社「エコナ」(特保許可失効届提出)事件などが印象的なところでしょうか。とくに消費者庁設置後に大きな問題となったK社の事例につきましては、企業側があくまでも「食の安全」ではなく「食の安心」にこだわり、消費者庁による特別チームの「再審査」を前に自主的に許可失効届を提出する事態となり、消費者問題に対応する企業の姿勢を示す象徴的な事件となりました。

消費者関連法や独禁法関連法等の改正により、ますます企業不祥事の防止に向けて、コンプライアンスへの取り組みが要請されるところかもしれませんが、「あれもやらねば・・・、これもやらねば・・・」となりますと、体制整備事項ばかりが肥大化していき、「ほんの少しの不祥事発生の可能性のために、どうしてこんなに多くの統制活動をしなければならないのだろうか」(ある監査役の方のご意見)といった疑問も生じてくるところではないでしょうか。

10月9日に日本監査役協会(ケーススタディ委員会)より「企業不祥事の防止と監査役」なる報告書がリリースされ、アンケート結果集計、集計結果の解説、ケーススタディの研究成果等がまとめられております。(この内容は今年の監査役全国大会での研究課題にもなっているところであります)個人的には不祥事事例の研究(第2章)がとても興味深いところでありますが、企業不祥事の防止に関するインターネットアンケートの結果につきましても、なかなか読みごたえがあり、この連休中もかなり熱心に読ませていただきました。(非常勤社外監査役へのアンケート調査結果というものもありますね)

このなかに、監査役が自社の企業不祥事をどのように知ったのか?というアンケート項目がありまして(153ページあたり)、その回答結果によると「監査役が自ら不祥事を発見した」のはわずか7.3%にすぎない、ということだそうであります。(担当取締役や関係部署からの報告を受けて知った、というのが88%の圧倒的多数)おそらく、この結果をみるかぎりでは、内部監査室や会計監査人との連携によって、担当取締役よりも早く不祥事を知った、ということもなさそうですので、現状の監査役体制においては、監査役さんによる不祥事発見力というものはそれほど大きなものではないのかもしれません。しかし、私は常々この「不祥事発見力」の養成こそ不祥事防止体制の効率化にとってもっとも大切である、と考えておりますし、講演等でも力説させていただいているところです。内部統制の整備(構築と運用)や、監視力も重要であることは当然ではありますが、この「発見力」がないと不祥事を早期に発見するための「情報の選択」(何が合理的な疑いを抱かせる情報か?)もできませんし、また何を監視すればよいのかもわかりません。また、人的、物的資源に乏し監査役さんが何か疑惑を発見したとしても、それが不祥事なのかどうかは、内部監査人との連携や、会計監査人との連携などの信頼関係がなければ明らかにはなりません。このアンケート結果のなかで、監査役自ら不祥事を発見した人は、在任3年未満よりも4年以上の監査役のほうが多い(5.8%→9.5%)ことからも、そういった「不祥事発見力」は監査役の能力であることがわかると思われます。

内部統制の整備や監視体制の強化、そして不祥事発生後におけるクライシスマネージメント(危機管理)につきましては、企業がそれなりにコンサルタントや人的体制強化など、お金をかけることによって「いいもの」を作り上げることは可能であります。しかしながら、監査役にかぎらず、社内で不祥事発見機能を向上させるためには、お金をかけるだけでは困難であります。(逆にいえば、もっともお金をかけずに不祥事防止体制を構築するために有用なのが「発見力の向上」であります。不祥事を早期に発見すれば、企業の損害も最小限度に抑制でき、また大事に至るまでに不祥事対策をとることができますので、不祥事を隠ぺいする動機も少なくなります。)社内における経験と勘を持った人材が育成されなければ発見力は養成されないものであり、そのためにはまず、どのような情報を集めてくれば「疑惑」が合理的に説明できるのか、といったことを地アタマで考える思考力が必要であり(これができないと、被定例の調査へ移行することについての関係者の協力が得られません)、避けがたい情報の滞留を解消できるだけの行動力も必要である(たとえば「歩きまわる監査役」)と考えます。些細な内規違反から取締役の異常行動を発見したり、アトランダムに数値が並んでいるところから規則性のある数値の並びを発見したり、事実不明のまま調査が終了している内部通報のファイルをいくつか眺めてみて新たに疑惑を発見するなど、監査役さんも訓練や研修によってこの「発見力」を高めることが可能であります。発見するのはなにも「不祥事」である必要はなく、「不祥事の疑惑」で十分であります。(疑惑→不祥事は、内部監査や会計監査人、外部の法律・会計専門家に任せればいいわけであります)企業不祥事と監査役との関係では、このあたりも今後の課題ではないかと考えております。

10月 13, 2009 監査役の理想と現実 | | コメント (8) | トラックバック (0)

2009年10月 9日 (金)

公認会計士協会「監査提言集」への素朴な疑問

(追記; 私の素朴な意見に対しまして、chageさんよりたいへん貴重なコメントを頂戴しております。おそらく日本公認会計士協会さんもほぼ同様のご意見、もしくは支持されるご意見かと推測されますので、ご一読ください。なるほど、契約リスクですか。。。ちょっと勉強させてください。就任要請の点については、私自身またまたちょっと異論、疑問のあるところですが・・・・また別の機会に。chageさん、どうもありがとうございました!m(__)m)

会計士さんと仕事をご一緒する機会が多いことから、私は「監査提言集(平成21年7月1日改訂版)」をときどき参照させていただいておりますが、10月7日、日本公認会計士協会監査業務審査会作成にかかる「監査提言集」(正確には「監査提言集について」)が一般の方にも公開されることとなりました。(同意のうえで会計士協会のWEB上で閲覧可能であります)本来の「監査提言集」は、具体的な事例をもとに、実施した対応状況や改善すべき点、提言等の解説が付されているところがもっとも(監査業務の指南書として)有用かと思われますが、残念ながらその部分については(事例が「どこの企業の事件なのか」特定されてしまうおそれがある、とのことで)一般向けには割愛されております。ただ、<提言概観>だけでも、監査判断の適切性について、一般的にはどのように会計士協会が考えているのか?という点を垣間見ることができ、一般の経理担当者の方々にも是非お勧めの小冊子であります。

会計監査人の法的責任が問題になるケースでは、会計監査人の注意義務違反の有無を判断するにあたり、「標準的(一般的)な会計専門職として通常備えるべき注意義務を尽くしたかどうか」といったレベルがどの程度のものなのか、主たる争点となるわけでありますが、そういったレベル感を知るうえでも、この監査提言集は参考となるところであります。(なお、この監査提言集はあくまでも会員会計士の監査業務の指導を目的としたものであり、会則に基づく懲戒処分の判断資料として用いられることを目的としたものではありません)こういった監査業務指導のための提言集がある以上、一般的な会計監査人は、この提言にあるところを尊重して監査業務に当るのが通常である・・・と考えてよいものと思われます。

参照させていただくたびに「よくできてるなぁ」と感心させられるのでありますが、以前から外野の人間として素朴な疑問を持つところがございました。この監査提言集が平成20年7月以来、会員以外には公開しない・・・ということでしたので、ブログでも触れておりませんでしたが、一般向けに公開されたことで、若干の「素朴な疑問」を記しておきたいと思います。何点かあるのですが、今日はそのうちのひとつである「時間的制約のある監査人交代の監査リスク」に関する記述であります。「監査リスク」というのはなんとなく理解できます。前任の監査人が退任して、前任監査人からの引き継ぎや当該会社の潜在的リスク、前任監査人の退任理由などに鑑みて、十分なリスク評価、リスク認識をしなければならない、またとりわけ監査受嘱から意見表明まで超短期間かつ引き継ぎ不十分な状況での交代に関しては、とりわけ慎重にリスク評価をすべきである・・・という内容については理解できるところであります。証憑の慎重な評価、意見の慎重な表明の根拠として、この「監査リスク」の捉え方が基本となるように思います。

ただこの監査提言集のなかに(リスク評価の箇所に)「監査受嘱リスク」なる用語が出てきますが、これは一体どのようなリスクなのか、勉強不足の私にはちょっと理解できないところであります。(提言集をみても、監査受嘱リスクに関する定義が見当たりません。かろうじて、公表されていない後段の事例解説のなかでの「受嘱リスク」の使用状況から判断しますと、引き継ぎ以後、法定開示期限までの間に会計専門職として意見を表明するための十分な心証形成ができないリスク・・・ということかもしれません。)あるいは「監査を受嘱することによる法的リスク」を指すものなのでしょうか?ともかく、いわゆるリスク・アプローチにおけるリスクとは違った意味で用いられているものと思われます。このように監査受嘱リスクなる概念がどのようなものかは正確には理解しておりませんが、前任監査人から引き継ぎ間もない時期に意見を表明しなければならない場合には、たしかに就任された会計監査人の方にとって監査リスクは高いものの、そこで平均的な会計専門職としての監査手続きを履行したうえで結果的に不適切な意見表明に至ったとしても、そのことがリーガルリスクを高めることにはならないのではないか?と考えております。

これは監査研究学会のときにも基調報告のなかで申し上げましたが、会計士さん方の会社に対して負っている善管注意義務(もしくは注意義務)は、結果債務ではなく、手段債務であります。これはよく医療過誤が問われている医師の患者に対する治療行為の場面と同じであります。たとえば救命救急に携わる医師の施術については、時間との勝負、手持ち駒との勝負(大病院ではなく、小さな施設でできる施術には限界がある)ということですから、瀕死の患者さんへの施術には自ずと限界があるわけでして、その状況において医師としての一般的な注意義務を尽くすことができれば法的な責任は問われないわけであります。これと同様に、ある上場企業が、潜在的なリスクはあるにせよ、前任監査人が退任し、もはや法定開示の期限が迫っているような事態におきましては、たしかに後任の監査人にとっては監査リスクは極めて高いものではありますが、これを誰かが法定の証明業務に従事することの「社会的正義」は認められるような気がいたします。そして、そこに社会的な正義が認められる以上は、これに「後だしじゃんけん」的な会計士責任を問うような司法判断はなじまないのではないか、と考えます。

たしかに、人命を救助することと、上場会社につき「上場廃止」とならないように証明業務に従事することとは、ちょっと状況が異なる(人の命を救うことは、どのような場合でも正しい医師の行動だが、そもそも上場する価値のない会社を会計士が救うことに正義は認められない)ようにも思えるのでありますが、しかしどのような理由があるにせよ、上場会社には多数の一般株主や従業員、取引先が存在し、上場廃止によって多数の利害関係人の利益が喪失されてしまうおそれがありますので、これらの方々を(とりあえず)救うことはやはり社会正義にかなう行動ではないでしょうか。また、「上場する価値のない会社」かどうかは、いったん会計監査人に就任した後において、その会社の継続企業としての価値を精査したうえで判断しても遅くはないわけでして、そういった矢面に立った場面において、会計監査人の意見が会社の帰趨に影響を及ぼすことで、「期待ギャップ」と言われている会計士さんの社会的な地位向上にも資することになるのではないでしょうか。この提言集では「監査を受嘱せず、市場からの退場を促すことが社会に対する(会計士としての)責任を果たすことになる場合もありうる」とされておりますが、私はむしろ監査を受嘱し、監査人としての注意義務を尽くした監査業務を行ったうえで、市場からの退出を促すことこそ、会計士としての社会に対する責任を果たすことになるのではないか、と考えますが、いかがなものでしょうか。(なお、このあたりは公表されていない事例集のうち、ふたつほどの事例において引き継ぎ後任監査人の適切な行動を解説しているものがありますので、こういった事例をもとに検討するのが一番おもしろく、わかりやすいものかもしれません)

問題企業から監査人就任の要請を受けた場合、監査報酬で折り合いがつかず、後任監査人就任を拒絶することはやむをえないものと思います。また、後任監査人がそういった事態における適切な監査の方法を会社側に伝えたことで、監査契約が解消されてしまうことも考えられ、これもやむをえないものと思います。しかし監査リスクが大きいからといって就任を拒絶することについては、もしそれが監査人として懲戒処分リスクや法的責任追及リスクが高まることへの不安などによるものだとすれば、それは「公認会計士に対する責任追及の在り方」に関する認識に若干のズレが生じているのではないか、と考えます。私はIFRSの強制適用の時代に突入すれば、フォレンジック(会計不正への法的対応)は会計専門家の方々に委ねられる部分が極めて多くなるものと推測(確信)しております。そういった場面において、会計士の方々が中心的役割を担うためにも、今から「(会計監査上の)監査リスクと(法律上の)監査人の手段債務の関係」について十分検討しておく必要があると思います。

10月 9, 2009 公認会計士の日 | | コメント (6) | トラックバック (0)

2009年10月 7日 (水)

いよいよ10月9日はトライアイズ社株主総会(取締役VS監査役)

(追記; しかしトライアイズ社の臨時株主総会、8日じゃなくてよかったですね。大阪はいまとんでもない風雨です。私が代理人をしております裁判も、明日は期日延期が決定しております。東京も8日は朝から交通機関がマヒしてるんじゃないでしょうか?)

民主党政権下で法制化されるのではないか、と噂されている「公開会社法」でありますが、その原案のメダマとして「従業員代表監査役」の設置が謳われているようです。本来監査役は株主総会により選任されるわけですが、公開会社法では従業員が選出した監査役を監査役会の構成員とする、というものであります。なお、何度も当ブログで申し上げているとおり、監査役は「独任制機関」ですから、監査役会の多数決をもってしても、ひとりひとりの監査活動は妨害されませんので、監査役は単独で取締役の違法行為を差し止めたり、株主総会の開催を禁止する仮処分を申し立てることも可能となります。

そこで、このような従業員代表監査役制度を創設したり、現時点における監査役の権限強化や独立性強化の必要性を論じる方々には、ぜひともこのトライアイズ社の監査役であるF氏の活動について知っていただき、その感想をお聞かせいただきたい、と思います。当ブログでは以前から「監査役は有事には孤独である」と主張してまいりましたが、「企業価値向上のために(と信じて)監査役がその権利を行使する」場合には、当然のことながら代表者、取締役、他の監査役、会計監査人そして一般株主を敵に回すことが予想されるわけでありまして、唯一監査役としては司法判断に依拠せざるをえない場合がある、ということであります。(これは司法判断や株価変動、株主の目、証券取引所の自主ルールなど、会社および役員を取り巻くいくつかのエンフォースメントが錯綜する場面であることから当然の帰結であると考えております)監査役が表立って会社(取締役)と対峙することを決意した場合、このような四面楚歌の精神的・肉体的疲弊の極限状態に陥ってしまうこともあるわけでして、私は「公開会社法における従業員代表はこのような場面を当然に想定したうえで監査役に就任するのだろうか」「独立監査役は、そもそもこのような場面でも耐えうるほどの独立性を具備しておかねばならないのではなかろうか」との思いを抱かざるを得ません。

このたび、このトライアイズ社の件を当ブログでとりあげましたのは、いろいろな風評が出ているためであります。監査役に関する話題をとりあげる当ブログが(監査役にとって最もホットな話題である本件に)まったく触れないということは、F監査役と対立しているのではないか、とか、トライアイズ社から山口弁護士は何らかの口止めを求められているのではないか、といったうわさが私本人にも聞こえてくるようになりました。私はけっしてF監査役と対立しているわけでもなく、またトライアイズ社から何らの要求も受けておりませんことをあらかじめ、明言しておきたいと思います。ただ、実際にこの紛争のかなり近いところで事情を知っていることは間違いのないところであります。したがいまして、弁護士の守秘義務との関係であまりブログで意見を述べることは避けたい、という思いから、当話題は避けておりました。しかし「有事における監査役のあり方」は、かならずしも本件だけの特殊事情ではなく、こういったことが自社で発生する場合に「辞任の道」だけが監査役の本道なのか、皆様方にも真剣にご検討いただく機会になるのではないかと思いなおしまして、できるだけ客観的に意見を述べることといたしました。

いよいよ今週金曜日に(F監査役の解任決議その他に関する)臨時株主総会が開催されるわけでありますが、(もうすでにいろいろなブログでも話題になっているとおり)F監査役は自身の主張を一般株主に広く知ってもらうために「株式会社トライアイズ監査役古川孝宏 監査役の主張」なるWEBページを立ち上げ、広く株主に対して自身の意見開示を行っております。とりわけ、このページには株主総会招集通知に掲載している会社側意見への反論文が24頁にわたって展開されていること、監査役と代表取締役との取締役会終了後のやりとりが音声として聴取できることが特筆すべき点ではないかと思います。なお、本件を理解するためには、一方当事者たるF監査役のWEBだけでなく、トライアイズ社のWEBページにアップされている株主総会招集通知(参考書類)にも目を通しておかれたほうがよろしいかと存じます。

1 監査役の対外的意見開示の是非

監査役が会社法において「対外的意見開示」が義務化されているのは取締役の違法行為につき、監査報告を行う場合(会社法381条1項)、および総会提出議案調査の結果、違法性が認められる場合の総会での調査結果報告(同384条)等があります。しかし、その他にも(対外的意見開示として)監査役が解任される場合には、当該対象監査役には意見陳述権が認められております(会社法345条4項、1項)。また、監査役解任議案を上程する株主総会の参考書類には、当該監査役の氏名、解任理由のほかに、監査役自身の意見内容の概要も記載しなければならないことになっております。(会社法施行規則80条) 当初、F監査役の解任議案は株主提案として上程されておりましたところ、後日トライアイズ社が会社提案として追加したものであります。したがいまして、前記招集通知に添付された参考書類には、会社側提案理由のほかにF監査役の意見についてもその概要が示されております。そこで、そもそも監査役が一般株主に対して説明責任を果たすためWEB情報として自らの主張を開示することが監査役としての職務執行の範疇にあるのか・・・ということが問題になろうかと思われます。

私はこれは監査役の職務執行の範囲内にあるものと考えます。まず、たしかに株主総会においては、自らの解任議案に対して自由に意見陳述はできるわけですが、議決権を書面行使できる会社の場合、ほぼ総会前日には賛否が決定している場合が多く、いかに総会当日に自由な意見陳述が認められるとしても、実際には賛否の数に影響を及ぼすことができないわけであります。したがいまして、議決権の書面行使が採用される会社、インターネット投票が採用されている会社におきましては、少なくとも一般株主がその議決権行使を行う前には監査役自身の意見が株主に届かなければ、株主に対する説明責任を履行したことにはなりません。そこで次に、参考書類に「監査役の意見内容の概要が書かれていれば、反対意見を株主も知ることができるのでいいではないか」とも考えられるところであります。しかし、そもそも会社が監査役を解任する理由への反対意見となりますと、結局のところ反対の理由も「監査役としてふさわしい資質、能力があるかどうか」「組織の円滑な活動に支障を来すか否か」といった、解任に関する法律上の正当性の有無ばかりが問題になるところであります。これは明らかにおかしく、監査役が取締役と対峙した場合には、法律上の問題だけでなく、一般株主からは「みっともないお家騒動」と罵られ、またそのようなガバナンスの会社であるとして株価にも影響が及ぶわけであります。このような企業価値の低下を最小限度に抑えるために監査役に認められる行動としては、辞任するか、自らの主張の正当性を一般株主に開示するしか選択肢はないわけでして、もし辞任の道を選択しないというのであれば、一般株主への広報活動が唯一正当な対応となることは明らかであります。(先に述べた通り、監査役と取締役が対峙した場合には、さまざまなエンフォースメントが錯綜する以上、法律上の課題だけでなく、企業価値毀損防止のための課題にも監査役は対処することは株主から負託された義務を履行するものとして当然のことであります。たしかに監査役は「違法性監査」を執行することで株主への負託にこたえるわけでありますが、その違法性監査を行う能力や資質がないとか、そもそも監査を行っていないと主張されれば、これにきちんと反論することも説明責任の履行であると考えます。)たとえばなぜ監査役と取締役が対峙するに至ったのか、その原因について株主は知りたいところでありますし、またなぜ「辞任」と言う道を選ばず、解任議案が上程される事態になったのか(たとえば親会社の意向なのか、監査役の取締役に対する私怨によるものなのか)、また実体上の問題ではなく手続き上の問題(たとえば監査妨害の有無など)なども、株主に対して伝えるべき重要な課題であります。

なお、会社提案対株主提案の関係(委任状勧誘の場面)ではありませんので、監査役が個別に株主に反対票を投じるように勧誘する(面会する)ことは適切ではありません。また、会社法では株主総会参考書類についてはWEB開示(WEB修正ではございません)を活用することが(定款変更によって)認められておりますので、とくに株主に限定される広報ではなく、株主以外の者でも閲覧可能な方法による「一般株主への広報手続き」は許容されているものと考えられます。さらには、会社側から株主に対する何らかの追加意見がリリースされた場合、これに対応するためには監査役自身が即時追加意見を株主に広報できる体制がなければフェアとはいえず、「意見内容の概要」だけを記載した書面で十分とは言えないことも確かなところであります。したがいまして、監査役の職務執行の一環としては、このような監査役による一般株主向け広報も「職務執行の範囲内」と思われますので、一般個人であれば社会的信用を毀損するような内容が含まれていたとしても、それは監査役による一般株主に対する説明義務の範囲内のものとして、けっして名誉毀損だとか信用毀損の違法性を帯びるようなものではないものと考えます。

2 音声ファイルの公開について

本件は多くのブログで話題になっておりますが、そのなかで最も反響が大きいのがこの「音声ファイル」がF氏のWEBページに添付されていることであります。音声ファイルの内容は短いながらも、F監査役と代表者との会話の雰囲気が特徴的に把握できるものであり、一般の閲覧者だけでなく、一般株主であってもいろいろな印象をお持ちになるかもしれません。本件音声ファイルについて、私がここで意見を述べるのはルール違反だと思いますので、以下はあくまでも一般論としての私の見解であります。

私は基本的には音声ファイルがどのような目的で使用されるのか、という点を明確にする必要があると考えております。たとえば取締役の悪性立証を目的として自身のWEBページに開示することは監査役としての職務範囲を逸脱したものではないか、と考えます。監査役はあくまでも違法性監査が基本であり、「取締役としてふさわしくない人を糾弾する」こと(つまり妥当性監査)までその職務の範囲内にある、とはいえないものと考えます。もちろん、社内で「あなたは取締役としてふさわしくない」と糾弾することは、その方法が適切であるかぎりは許容されるものではありますが、対外的な意見陳述権は認められないものと思います。したがって音声ファイルを用いて取締役の悪性立証を可能とするのは、裁判上で取締役の違法行為差止請求がなされ、その司法の場において証拠として提出するようなケースに限られるのではないでしょうか。

いっぽう、弾劾目的(つまり、相手が主張している事実や判断内容の信用性を減少させる目的)で音声ファイルを持ち出す場合には、これは許容されるものと思われます。あくまでも弾劾のための使用ですから、相手方に反論の機会を付与せずともフェアではない、ということまでは言えないはずですし、また「事実の有無」を判断するための資料として活用されるのであれば、とくに「取締役としてふさわしいかどうか」「監査役としてはどうか」といった「職務執行の妥当性」に関する問題点はクリアできるからであります。もちろん、相手に無断で録音をしている点については別途、新たな法律問題が発生する可能性はあり、これを公開することが、はたして監査役の職務執行の範囲内にあるかどうかは検討する必要があります。

3 議決権を行使した株主に対するクオカードの贈呈

最後にひとつ気になる点があります。トライアイズ社のWEBページを閲覧したところ、10月9日の臨時株主総会において議決権を行使した株主には500円分のクオカードを贈呈する、とあります。しかしこれは2007年のモリテックス事件判決(東京地裁)の考え方を前提とすると「株主への利益供与」に該当しないのでしょうか?たしかトライアイズ社には約2万人もの一般株主がいらっしゃるようですので、皆様がたが議決権を行使した場合には相当な金額の出費になるでしょうし、また会社対株主という委任状勧誘規則が妥当する場面とは異なるものの、会社側の議案が可決されるためには出席株主の3分の2以上の賛同票を集める必要がある場面であります。会社提案に反対する監査役が会社側と対立してWEBページまで公開しているのが現状でありますから、たとえ賛成、反対どちらに票を投じてもクオカードがもらえます・・・と言ってみても、会社側としては賛成票を集める目的をもってクオカードを贈呈する、と評価される可能性があるのではないでしょうか。(これは例年、クオカードを贈呈している事実が認められるとしても、株主の議決権行使をめぐって紛糾している事態となれば一般的な社会的儀礼の範囲を超える可能性があり、禁止すべきではないか・・・ともいわれている課題であります)

もしこれが「利益供与」に該当するならば、監査役解任議案は3分の2以上の賛同が必要とされるところですので、その議決権行使結果次第では、クオカードの配布によって賛同票が増えたことが解任決議の結果に影響を及ぼした・・・とされ、いわゆる(株主総会決議取消訴訟における)裁量棄却にはならない可能性も出てくるかもしれません。それとも私のモリテックス事件東京地裁判決の理解不足により、モリテックスの事例と本件とでは状況は明らかに違う・・・とする理屈がわかっていないだけなのでしょうか。たいへん気になったところですので、このあたりも、問題の整理がついていらっしゃる方からのご意見がございましたらご教示いただきたいところであります。本件につきましては、株主総会決議取消訴訟の提起後の新たな臨時株主総会であることなど、まだまだ検討すべき問題点は残っておりますが、あくまでも客観的な私見として述べることができる範囲で記したような次第であります。

10月 7, 2009 監査役の理想と現実 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2009年10月 5日 (月)

広告業界における取引慣行とコンプライアンス

Image0081_320 今週末はオリンピック招致の失敗、著名な政治家の突然の訃報など、あまり良いニュースがなかったですね。

日曜日(10月4日)の朝日新聞朝刊一面記事は「日本郵政、368億円ずさん契約」という見出しで、日本郵政が民営化後、グループ5社の広告・宣伝を大手広告社「博報堂」に一括発注する独占契約を締結していたものの、同社との間で覚書や合意書などの契約書を一切取り交わしていないことを報じております。なお2年間の同社との契約額は368億円にも及ぶとのこと。(ネットニュースでも朝日、産経、毎日等でも同様に報じられています)これに対して原口総務相は

日本郵政の内部監査機能や法令遵守の姿勢が欠如している疑いがあり、「かんぽの宿」問題同様の構図を想起させる。郵政は国民共有の財産であり、契約書類もない不透明な契約でその財産が毀損されていないか確かめる必要がある

と述べているそうです(原口総務相の話は朝日新聞朝刊記事から引用)。

この記事だけを読みますと、日本郵政のコンプライアンスに問題があるようですが、これはむしろ博報堂さんとの契約というところにそもそも問題があるのではないでしょうか。日本郵政さんにとっては数ある取引先のひとつとの契約関係が問題となるわけですが、博報堂さんからすれば、広告主の多くとの関係で基本契約書は作成されていないのではないかと思われます。(博報堂HDの有価証券報告書にも、「事業上のリスク」として、広告主との契約書を作成していないので、契約関係から生じるリスクがあることが開示されております)つまり広告業界の取引慣行として、はたして基本契約書なるものを作成する慣行がないことは問題ではないのか?というところであります。博報堂さんは持ち株会社が上場会社(公開大会社)なので、業務の適正を確保するための情報の保存管理に関する内部統制を構築する必要があるわけですが、はたしてこのように広告主との基本契約書を作らない慣行なるものによって、この内部統制システムが構築されているのかどうか、という点に関心を持ちます。(財務報告内部統制の関係で、おそらく個別契約書は作成し、保存されているものと思われます)

たしかに大手広告代理店と広告主との関係は、基本契約書が締結されないケースがあることはコンプライアンス上の課題だと思いますが、なぜこういった契約書が締結されないのか、その原因を分析する必要がありそうです。ちなみに、公正取引委員会による広告業界の実態調査報告書によりますと(広告業界の取引実態に関する調査報告書(概要)平成17年11月8日公正取引委員会)、広告業界における取引慣行(テレビCM枠は大手広告代理店が押さえている、大手広告代理店は既存顧客優先主義、テレビ局の広告に関する情報開示の不足)に起因するとことが大きいように思えます。また、広告は企業の顔(アイデンティティ)であり、たとえばCM出演者の不祥事問題などで急きょオンエアが中止される、といったように、常に契約内容が見直され、その補償問題は、広告主と広告代理店との間で、「貸し借り」として逐次処理される関係でもあるようです。(逆にいえば、契約書がないために、広告主の損を代理店側がかぶる・・・ということもあるのでは?)したがいまして、もしこういった広告業界の取引慣行を是正するためには、広告主、広告代理店、媒介者、テレビ局等すべてにおける取引慣行是正に向けた取り組みが必要であり、ただ広告代理店や広告主のコンプライアンス上の問題または個別に内部統制上の構築問題として対応しようとしても困難なところがあるのではないでしょうか。

いまは大手広告代理店さんも、広告主である大企業の広告宣伝費の切り詰めや、ネット事業の発展による媒体の多様化によってかなり業績も厳しいようでありまして、広告主との力関係も変わってきつつあるのかもしれません。ただ、私が知るかぎりでは、大手広告代理店と広告主との関係は「人のつながり」を中心としたお付き合いであり、極めて属人的な取引関係を基本としているように思われます。だからこそ、「内部統制の時代」においては、社内における監視が届かない分、せめて契約等において担当者の行動の基本指針を決めておく必要があるのではないかと思います。

(広告)ビジネス法務の部屋が本になりました!

Image0121_320 週末から、関西では大手書店で発売が開始されました。(旭屋書店、紀伊国屋、ジュンク堂等では平積みで売られております)ちょっと変わったブログ本です。ご一読いただけましたら幸いです。

10月 5, 2009 独占禁止法関連 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2009年10月 2日 (金)

金融商品取引法における国際会計基準のエンフォースメント

ブログの書籍化に関しまして、たくさんの方よりコメントをいただきました。(どうもありがとうございます)ということで少し浮かれ気味でありましたが、私的にたいへん関心のあるテーマとしまして、東京大学法科大学院ローレビュー(第4巻)、松尾教授の「金融商品取引法における国際会計基準のエンフォースメント」なる論文が公表されておりました。IFRS適用時におけるエンフォースメントの在り方につきまして、刑事処分や課徴金付加に係る諸問題がわかりやすく書かれているようです。(迷える会計士さん、ご教示ありがとうございました。早速勉強させていただきたいと思っております。)

東証からも、この9月29日、(上場会社の適切なコーポレート・ガバナンスの実現に向けて、極めて重要なものと思われる)「上場制度整備の実行計画2009」がリリースされておりました。どちらも資本市場の在り方に重大な影響をもつ報告書だと思いますので、ゆっくり時間をかけて拝読させていただこうかと思っております。またいつもの当ブログのトーンで更新していきたいと思っております。(とりひそぎ、本日は備忘録までにて)

10月 2, 2009 金融商品取引法案関連 | | コメント (0) | トラックバック (0)