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2009年10月19日 (月)

日本興亜損保報道にみるOB株主の「発見力」

企業コンプライアンス関連の報道としては、ここのところ連日のようにJR西日本(事故調査委員会)関連のニュースが続いておりますが、日本興亜損保の支払保険金先送り問題も、なかなか興味を惹く事例であります。今年5月元役員の株主の方が、「会社は2008年に支払うべき保険金をわざと遅らせているのであり、指示した取締役を提訴せよ」と監査役に請求したところ、当該監査役は弁護士、公認会計士を含む調査チームを組織して調査したうえで、「そのような事実はない」とのことで提訴しない決定をしておりました。ところが、金融庁からの調査指示が出されて、あらためて社内調査をしたところ、合計40件、総額7億円分の支払遅延があった、とのこと。(なお、調査対象は自動車保険に関する500万円以上の大口契約分だそうであります)

報道では、監査役の調査対象は「取締役による指示の有無」ではなく「問題とされている支払遅延の有無」だったようですから、おそらく監査役が説明した不提訴の理由も「株主が指摘するような支払遅延の事実はなかった」ことによるものと思われます。ただ、そうなりますと、「弁護士や公認会計士まで投入した内部調査までして、いったい監査役は何を見ていたのか?」といわれそうな気がいたします。朝日新聞ニュースの記事によりますと、今回「支払い遅延」が判明したのは、全国の主要損害調査部門から事情を聞いたところによるものだ、ということでありますが、それくらいのことは当然に社内調査が済んでいるはずでありますから、「なぜいまごろ・・・」といった疑念はぬぐいきれません。とりわけ日本興亜損保社は、平成19年3月14日には「支払管理に関する内部管理体制の不備」を理由に業務改善命令と一部業務停止命令を受けているわけですから、支払管理の不備に関するリスクは十分に認識されていたものと思われます。そのような中で、株主からの請求に対しては「事実はなかった」とする反面、金融庁からの調査指示に対しては「支払遅延があった」とする報告につきましては、どうも納得がいかない方もいらっしゃるかもしれません。ひょっとすると、失効返戻金の取扱などについて会社側と金融庁側との間で「不払いに該当するか」「交渉が長引いていることを『遅延』とみるか」といった解釈の違いがあり、監査役側としては、これを「不払い」には該当しない、といった扱いにしていたのかもしれません。ただこれも、おそらく2007年の業務停止命令を受けた後であれば、会社としても十分に不払いとみなされないような配慮はされていたものと思われます。

金融庁の調査指示は、(報道によりますと)この元役員の方の指摘を発端としたもの、ということですが、たとえ役員ではなくても、これからのコンプライアンス問題として、こういった会社を退職された方々(OB、OG株主の方々)の存在は株主総会や代表訴訟などにおいて無視できない存在になってくるのではないでしょうか。以前にも少し書きましたが、上場会社の監査役の方々とお話をしていて、こういった「OB株主」の方々は団塊の世代のリタイアとともに大きくクローズアップされているようであります。(1)OB株主の総会出席が急増している、(2)一株主として、当時の上司(役員)へ不満をぶつける、(3)社内の事情に精通しており、爆弾発言もありうる、(4)生計のための資産運用なので必死、(5)なんといっても時間があるため、総会における質問準備も万全・・・といったあたりが話題となっておりました。たしかに、産経WEBの特集記事(日本興亜損保株主総会の実況中継)などを読みましても、元役員の他にもOB株主が熱心に社長さんへ質問をされていたようであります。

保険会社は金融庁による厳格な監督を受ける立場ゆえに、報道のような事態になったのかもしれませんが、一般の上場会社におきましても、OB株主による総会質問や提訴請求権行使などにより、コンプライアンス問題が一気に表面化する可能性もあろうかと思われます。(内部通報窓口を担当している立場からすると、やはり労務コンプライアンスについては通報件数も多く、企業グループ全体の社会的評価を毀損しかねないような話題も多いように感じております)地味な考えかもしれませんが、最近少なくなったと言われている「OBとの懇親会」などにおいて、きちんと現経営陣が話を聞き、説明義務を尽くすことが必要なのかもしれませんね。「腹に収めておく」「墓場まで持っていく」などという言葉は(期待される向きもあるかもしれませんが)もはや死語になりつつあるのかもしれません。。。

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コメント

確かにOB株主には「要注意」(笑)ですね。

(1)社員持ち株会で長年買ってきた株価が低迷している、配当がない。
(2)年金の支給水準の切り下げ、期間の限定
(3)65歳まで勤めるつもりが、認められなかった
など長年企業戦士であった団塊の世代には不満が鬱積し、現役の社長や役員に「お前ら何にやってんだ!」と言いたくもなるものと思われます。
企業の隅から隅まで知っていて、事情通の元部下も居るとなれば、監査役も知らない事実が暴露されることも考えられます。

だから、退職金や年金、再就職の3点セットとOB会は必須だったのでしょう。
OB会での叱咤激励や暴露で済んでいたのが、OB会がなくなったり、現役社長が出席しなかったりで?株主総会が絶好の機会になっているのかもしれません。

投稿: 品川のよっちゃん | 2009年10月19日 (月) 11時03分

品川のよっちゃんさん、コメントありがとうございます。私より圧倒的に企業実務に精通していらっしゃる方がそのようにおっしゃるので、やはり問題はこれから表面化してくるのかもしれませんね。
そうなんです、このまえ噂になっていたのがOB会に現役社長が出席していない!という不満だったんです。ある大手の化学メーカーさんですが、そういったOB軽視の会社の姿をみて「総会で文句を言ってやろう」ということになってきたようでして・・・

投稿: toshi | 2009年10月21日 (水) 02時34分

 株主総会でOB(時には現役従業員)が要注意株主というのは、昔からあることですが、特殊株主が減った現在では、特に注意をしなければならないところですね。社内の実情を知っている訳ですから、真実を指摘する可能性もある訳ですし、相当手強く、場合によっては、取締役側からの前向きな回答が必要なケースもあると思います。
 そうした意味で、今回の日本興亜損保の件は、新聞社のHPで読みましたが、議長は、なぜあのような対応を取ったのでしょうか。保険金不払いについて知っていたのでしょうか、それとも、知らなかったのでしょうか。どうも、前社長の反乱みたいな受け止め方をして真剣に取り合ってなかったような印象を受けるので・・・。まさか金融庁が動き出すとは思っていなかったでしょうね。

 また、大きな経営上の判断などは、OB株主の賛同が必要かもしれませんね。創業以来の事業を他社に譲渡する、というときなどは特に難しそうです。

投稿: Kazu | 2009年10月27日 (火) 17時33分

Kazuさん、こんばんは。

またまた金融庁が再度動きだしそうな事情が日経新聞で報道されていますね。まだこの問題は目が離せないと思います。とくにコンプライアンス経営という立場からはどうも今回の行政処分でシャンシャンというわけにはいかないように思うのですが・・・・

投稿: toshi | 2009年10月29日 (木) 01時44分

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