広告業界における取引慣行とコンプライアンス
今週末はオリンピック招致の失敗、著名な政治家の突然の訃報など、あまり良いニュースがなかったですね。
日曜日(10月4日)の朝日新聞朝刊一面記事は「日本郵政、368億円ずさん契約」という見出しで、日本郵政が民営化後、グループ5社の広告・宣伝を大手広告社「博報堂」に一括発注する独占契約を締結していたものの、同社との間で覚書や合意書などの契約書を一切取り交わしていないことを報じております。なお2年間の同社との契約額は368億円にも及ぶとのこと。(ネットニュースでも朝日、産経、毎日等でも同様に報じられています)これに対して原口総務相は
日本郵政の内部監査機能や法令遵守の姿勢が欠如している疑いがあり、「かんぽの宿」問題同様の構図を想起させる。郵政は国民共有の財産であり、契約書類もない不透明な契約でその財産が毀損されていないか確かめる必要がある
と述べているそうです(原口総務相の話は朝日新聞朝刊記事から引用)。
この記事だけを読みますと、日本郵政のコンプライアンスに問題があるようですが、これはむしろ博報堂さんとの契約というところにそもそも問題があるのではないでしょうか。日本郵政さんにとっては数ある取引先のひとつとの契約関係が問題となるわけですが、博報堂さんからすれば、広告主の多くとの関係で基本契約書は作成されていないのではないかと思われます。(博報堂HDの有価証券報告書にも、「事業上のリスク」として、広告主との契約書を作成していないので、契約関係から生じるリスクがあることが開示されております)つまり広告業界の取引慣行として、はたして基本契約書なるものを作成する慣行がないことは問題ではないのか?というところであります。博報堂さんは持ち株会社が上場会社(公開大会社)なので、業務の適正を確保するための情報の保存管理に関する内部統制を構築する必要があるわけですが、はたしてこのように広告主との基本契約書を作らない慣行なるものによって、この内部統制システムが構築されているのかどうか、という点に関心を持ちます。(財務報告内部統制の関係で、おそらく個別契約書は作成し、保存されているものと思われます)
たしかに大手広告代理店と広告主との関係は、基本契約書が締結されないケースがあることはコンプライアンス上の課題だと思いますが、なぜこういった契約書が締結されないのか、その原因を分析する必要がありそうです。ちなみに、公正取引委員会による広告業界の実態調査報告書によりますと(広告業界の取引実態に関する調査報告書(概要)平成17年11月8日公正取引委員会)、広告業界における取引慣行(テレビCM枠は大手広告代理店が押さえている、大手広告代理店は既存顧客優先主義、テレビ局の広告に関する情報開示の不足)に起因するとことが大きいように思えます。また、広告は企業の顔(アイデンティティ)であり、たとえばCM出演者の不祥事問題などで急きょオンエアが中止される、といったように、常に契約内容が見直され、その補償問題は、広告主と広告代理店との間で、「貸し借り」として逐次処理される関係でもあるようです。(逆にいえば、契約書がないために、広告主の損を代理店側がかぶる・・・ということもあるのでは?)したがいまして、もしこういった広告業界の取引慣行を是正するためには、広告主、広告代理店、媒介者、テレビ局等すべてにおける取引慣行是正に向けた取り組みが必要であり、ただ広告代理店や広告主のコンプライアンス上の問題または個別に内部統制上の構築問題として対応しようとしても困難なところがあるのではないでしょうか。
いまは大手広告代理店さんも、広告主である大企業の広告宣伝費の切り詰めや、ネット事業の発展による媒体の多様化によってかなり業績も厳しいようでありまして、広告主との力関係も変わってきつつあるのかもしれません。ただ、私が知るかぎりでは、大手広告代理店と広告主との関係は「人のつながり」を中心としたお付き合いであり、極めて属人的な取引関係を基本としているように思われます。だからこそ、「内部統制の時代」においては、社内における監視が届かない分、せめて契約等において担当者の行動の基本指針を決めておく必要があるのではないかと思います。
(広告)ビジネス法務の部屋が本になりました!
週末から、関西では大手書店で発売が開始されました。(旭屋書店、紀伊国屋、ジュンク堂等では平積みで売られております)ちょっと変わったブログ本です。ご一読いただけましたら幸いです。
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コメント
京王プラザから見た都庁と、紀伊国屋書店梅田店の写真ですね・・・。
私も昨日書店で平積みされているのを見て、購入しましたよ!
結構編集が大変だったのでは・・・? と思いました。
投稿: 武田公認会計士事務所 | 2009年10月 5日 (月) 12時20分
本来、ご献本させていただかなければならないのに、恐縮です。
また、「決算早期化の実務」増刷おめでとうございます。私の本は増刷など夢のまた夢だとは思いますが、とりあえず協同組合の皆様に喜んでいただくため、なんとか営業を続けております(笑)
しかし、どちらも正解です(写真の件)
日本内部監査協会の講演、そして今日は日本監査役会の講演と、ちょっとヘビーな日々が続き疲れ気味です。また研究会、時間がありましたらご参加ください。
投稿: toshi | 2009年10月 6日 (火) 00時36分