吉本興業の非上場化に対する差止請求訴訟(これはオモロイ!)
またまた山口三尊氏(私の親戚ではございません)経由で知りましたが、10月19日に吉本興業株式会社の株主の方が、吉本興業および同社取締役らを被告として、①(吉本が)種類株式発行会社となること、②普通株式を全部取得条項付き種類株式に変更することに関する定款変更議案の上程差し止めを求めて大阪地裁に提訴されたようであります。現在、吉本興業さんはゴーイング・プライベートのための(ファンドによる)TOB期間中でありますが、このスキームによって締め出される一般株主の方々の中では、不満を持っておられる方も多いように聞いております。とりわけ吉本社の場合、子会社のファンダンゴ(大証ヘラ)が、わずか1年半で上場廃止とされたことが話題となりましたので、「またやったか」と思っておられる株主の方もいらっしゃるようであります。この裁判の原告である個人株主の代理人はあの株主オンブズマンで名高い阪口、松丸の両ベテラン弁護士を中心に、大阪の優秀な弁護士陣で構成されているようです。(ご自身方が原告株主となるのではなくて、今回は純粋な代理人として就任されているようですね)取締役の違法行為差止めに関する株主権の行使ではなく、民法709条に基づく差止請求権を根拠としているようであります。(めずらしいですね)
平成21年9月11日吉本興業リリースにかかる「当社株主に対する公開買付けに関するQ&A」のQ3におきましては、「本取引はMBO(マネージメントバイアウト)なのですか?」なる質問に対して、吉本側は本件はMBOには該当しません、と明確に回答しておられます。しかしながら、本訴訟において原告側は、これは形を変えたMBOである、と主張しておりますので、このあたりが裁判のうえでどのように判断されるのか、関心のあるところであります。とくにMBOの定義というものが示されるのかどうかは定かではありませんが、そもそも本件における経営者と株主との関係が、実質的に「構造的な利益相反関係」に該当するのかどうか、という点については何らかの裁判所の判断が示されるのではないでしょうか。(当然のことながら、構造的利益相反状況にあるとされれば、株主と経営者との間における情報の非対照性への配慮や、賛同根拠となる価格に対する精査方法等にも影響が出てくることいなります)
また、たいへんおもしろいのは「全部取得条項付き種類株式を用いたスクイーズアウト(少数株主の締め出し)」は違法であり、取締役らの不法行為を構成する・・・とする主張であります。これは以前から一部学説では「違法ではないか?」と有力に主張されていたものでありますが、MBO実務では、すでに当たり前のように活用されているスキームであります。ここに正面から切り込んでいく訴訟は「立法論の世界なのか解釈論の世界なのか、ちょっとよくわからないところだけど、いつか出てこないかな・・・」と思っておりましたので、裁判所の判断がたいへん楽しみであります。なお、このあたりの論点は、江頭憲治郎教授の還暦記念論文集「企業法の理論」に収録されております九州大学法学部の笠原准教授の論文「全部取得条項付種類株式制度の利用の限界(笠原武朗)」がかなり参考になるところであります。(ほかにも優れた論稿等ありましたらご教示いただければ幸いです)なお、三尊さんがコメントで紹介されているので、私も紹介させていただきますが、原告株主の方のHPが立ちあげられたようであります。(ブログもあるようですが・・・)おそらく著名な代理人の方々と今後は訴訟を維持していかれるものと思いますので、また更新されるのを楽しみにしております。(吉本興業側はやっぱりO法律事務所が法人も個人も代理人を務められるのでしょうかね?)
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コメント
こんにちは。直接先生のエントリーとは関連しないかもしれませんが。
「少数株主の保護」というテーマは考えると複雑に感じます。
同じ投資家としては、そもそも「しっかりした会社に投資しろ」と言いたくなります(バリュー投資という側面も否定はしませんが)。したがってそんな「のろま」を保護する必要はないと。
一方、MBO(「もどき」を含む)は利益相反だ、ファンドが儲けるだけだろ(必ずしも儲かるとは限らないようですが)、という論調はやや一方的かなとも。
上場子会社の非公開化もMBOと同じ利益相反の構造を抱えているのに、前者は(騒ぐ少数株主がいない点とすでに大株主たる大企業がいるため)少数株主があまり何も言わない点が違いますね。
しかし、実際行われている最近の上場子会社の非公開化のTOB価格に失望する案件は散見されます(あえて個別案件は申し上げませんが)。
MBOの場合、少なくとも資本も人的にも「赤の他人」でその人が評価した金額であるのに対して、(人事的にも密接につながりがあるケースの多い)上場子会社の非公開化はいわば、「業務命令」に近い部分もあるかもしれません。
かつて、いろいろ(マスコミを含めて上場すれば一人前みたいな)そそのかされて上場したものの、実際上場後は売るに売れないオーナー株主のEXITとしての非公開化はひとつの手段として機能しやすい道を残してあげた方が結局は株式市場の活性化につながるのになあ、と考えたりもします。
MBOは胡散臭く、上場子会社の「安易な」非公開化は目をつむる、という雰囲気が今はあるような気がいたします(MBOの場合は対抗TOBのリスクが残っている。上場子会社非公開化はすでに親がかなりの%を握っていて逆転できる余地が極めて小さい)。
(米国のように)株主目線の独立委員会が提案を判断するというのがいいような気もしますが、買収防衛策を見ても機能するか疑わしい。
制度の問題と運用の問題といたちごっこになりますね。難しい。
投稿: katsu | 2009年10月27日 (火) 11時47分
上場子会社の非公開化について、おっしゃる問題意識はよくわかります。吉本本体より、子会社のF社の件の方がよっぽど悪質です。
MBOに比べ、問題意識が低いのは、訴訟になっていないからだと思います。なぜ、訴訟になってないかというと、「お前がサボっているからだろ」と言われそうですが。〔笑〕。
一般論で言うと、子会社は株主の数が少なく、立ち上がる人がいない確率が高いのだと思います。
決してMBOだけを問題視しているわけではないし、子会社非公開化の悪質性を軽視しているつもりもございません。
http://blog.livedoor.jp/advantagehigai/archives/65372127.html
投稿: 山口三尊 | 2009年10月28日 (水) 01時24分
katsuさん、三尊さん、コメントありがとうございます。
88%の株主がTOBに応募した、ということで、とりあえずおめでとうございます>△△さん(笑)
今回のスキームをMBOと呼ぶべきか否かはおいておくとしまして、88%というのはこれまでのMBO事案のなかでも、賛同数が決して多いとは言えないのではないでしょうか?反対株主がこれだけ多いとなりますと、今後のスクイーズアウトまでの吉本側の事務手続きもかなり煩雑になることが予想されますよね。本件に関する今後の手続がどのように進んでいくのは、その動向を楽しみにしております。
投稿: toshi | 2009年11月 3日 (火) 19時11分
テクニカルにMBOと呼ばないのかもしれませんが、経営者が銀行借り入れ300億円に連帯保証している点は見逃せません(法的な性格はさておき、実質的側面を考えると、保証能力とは別次元の(経営の継続性を示す)表明保証や「決意表明」といった感じでしょうか? きびしい条件ですね)
(おそらく個人的には、経営陣にストックオプションとかがあると思っていますが。でないとこんなバクチに賛成できませんね)
88%の賛同というのは、個人株主が40%もいるので、告知不足の可能性もあります。IR担当者の電話連絡不足とか ほふり未設定 とかで、実質所有者がわかりにくいとか。
300億円の連帯保証を引き受けたので、意地でもあと2%ぐらいはかき集めることでしょうね。
http://www.kabupro.jp/code/9665.htm
(私なら)長引かせるより、サッサとTOBに応募して、損益明確にして次の投資に移ります。確定申告すれば売却損は3年間繰り越せますので、あれこれ言っても仕方がない。
損切りというのも株式投資では重要な戦術です。裁判所に株価を決めてもらうやり方の方が、しっくりきません。
投稿: katsu | 2009年11月 4日 (水) 10時01分