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2009年10月 7日 (水)

いよいよ10月9日はトライアイズ社株主総会(取締役VS監査役)

(追記; しかしトライアイズ社の臨時株主総会、8日じゃなくてよかったですね。大阪はいまとんでもない風雨です。私が代理人をしております裁判も、明日は期日延期が決定しております。東京も8日は朝から交通機関がマヒしてるんじゃないでしょうか?)

民主党政権下で法制化されるのではないか、と噂されている「公開会社法」でありますが、その原案のメダマとして「従業員代表監査役」の設置が謳われているようです。本来監査役は株主総会により選任されるわけですが、公開会社法では従業員が選出した監査役を監査役会の構成員とする、というものであります。なお、何度も当ブログで申し上げているとおり、監査役は「独任制機関」ですから、監査役会の多数決をもってしても、ひとりひとりの監査活動は妨害されませんので、監査役は単独で取締役の違法行為を差し止めたり、株主総会の開催を禁止する仮処分を申し立てることも可能となります。

そこで、このような従業員代表監査役制度を創設したり、現時点における監査役の権限強化や独立性強化の必要性を論じる方々には、ぜひともこのトライアイズ社の監査役であるF氏の活動について知っていただき、その感想をお聞かせいただきたい、と思います。当ブログでは以前から「監査役は有事には孤独である」と主張してまいりましたが、「企業価値向上のために(と信じて)監査役がその権利を行使する」場合には、当然のことながら代表者、取締役、他の監査役、会計監査人そして一般株主を敵に回すことが予想されるわけでありまして、唯一監査役としては司法判断に依拠せざるをえない場合がある、ということであります。(これは司法判断や株価変動、株主の目、証券取引所の自主ルールなど、会社および役員を取り巻くいくつかのエンフォースメントが錯綜する場面であることから当然の帰結であると考えております)監査役が表立って会社(取締役)と対峙することを決意した場合、このような四面楚歌の精神的・肉体的疲弊の極限状態に陥ってしまうこともあるわけでして、私は「公開会社法における従業員代表はこのような場面を当然に想定したうえで監査役に就任するのだろうか」「独立監査役は、そもそもこのような場面でも耐えうるほどの独立性を具備しておかねばならないのではなかろうか」との思いを抱かざるを得ません。

このたび、このトライアイズ社の件を当ブログでとりあげましたのは、いろいろな風評が出ているためであります。監査役に関する話題をとりあげる当ブログが(監査役にとって最もホットな話題である本件に)まったく触れないということは、F監査役と対立しているのではないか、とか、トライアイズ社から山口弁護士は何らかの口止めを求められているのではないか、といったうわさが私本人にも聞こえてくるようになりました。私はけっしてF監査役と対立しているわけでもなく、またトライアイズ社から何らの要求も受けておりませんことをあらかじめ、明言しておきたいと思います。ただ、実際にこの紛争のかなり近いところで事情を知っていることは間違いのないところであります。したがいまして、弁護士の守秘義務との関係であまりブログで意見を述べることは避けたい、という思いから、当話題は避けておりました。しかし「有事における監査役のあり方」は、かならずしも本件だけの特殊事情ではなく、こういったことが自社で発生する場合に「辞任の道」だけが監査役の本道なのか、皆様方にも真剣にご検討いただく機会になるのではないかと思いなおしまして、できるだけ客観的に意見を述べることといたしました。

いよいよ今週金曜日に(F監査役の解任決議その他に関する)臨時株主総会が開催されるわけでありますが、(もうすでにいろいろなブログでも話題になっているとおり)F監査役は自身の主張を一般株主に広く知ってもらうために「株式会社トライアイズ監査役古川孝宏 監査役の主張」なるWEBページを立ち上げ、広く株主に対して自身の意見開示を行っております。とりわけ、このページには株主総会招集通知に掲載している会社側意見への反論文が24頁にわたって展開されていること、監査役と代表取締役との取締役会終了後のやりとりが音声として聴取できることが特筆すべき点ではないかと思います。なお、本件を理解するためには、一方当事者たるF監査役のWEBだけでなく、トライアイズ社のWEBページにアップされている株主総会招集通知(参考書類)にも目を通しておかれたほうがよろしいかと存じます。

1 監査役の対外的意見開示の是非

監査役が会社法において「対外的意見開示」が義務化されているのは取締役の違法行為につき、監査報告を行う場合(会社法381条1項)、および総会提出議案調査の結果、違法性が認められる場合の総会での調査結果報告(同384条)等があります。しかし、その他にも(対外的意見開示として)監査役が解任される場合には、当該対象監査役には意見陳述権が認められております(会社法345条4項、1項)。また、監査役解任議案を上程する株主総会の参考書類には、当該監査役の氏名、解任理由のほかに、監査役自身の意見内容の概要も記載しなければならないことになっております。(会社法施行規則80条) 当初、F監査役の解任議案は株主提案として上程されておりましたところ、後日トライアイズ社が会社提案として追加したものであります。したがいまして、前記招集通知に添付された参考書類には、会社側提案理由のほかにF監査役の意見についてもその概要が示されております。そこで、そもそも監査役が一般株主に対して説明責任を果たすためWEB情報として自らの主張を開示することが監査役としての職務執行の範疇にあるのか・・・ということが問題になろうかと思われます。

私はこれは監査役の職務執行の範囲内にあるものと考えます。まず、たしかに株主総会においては、自らの解任議案に対して自由に意見陳述はできるわけですが、議決権を書面行使できる会社の場合、ほぼ総会前日には賛否が決定している場合が多く、いかに総会当日に自由な意見陳述が認められるとしても、実際には賛否の数に影響を及ぼすことができないわけであります。したがいまして、議決権の書面行使が採用される会社、インターネット投票が採用されている会社におきましては、少なくとも一般株主がその議決権行使を行う前には監査役自身の意見が株主に届かなければ、株主に対する説明責任を履行したことにはなりません。そこで次に、参考書類に「監査役の意見内容の概要が書かれていれば、反対意見を株主も知ることができるのでいいではないか」とも考えられるところであります。しかし、そもそも会社が監査役を解任する理由への反対意見となりますと、結局のところ反対の理由も「監査役としてふさわしい資質、能力があるかどうか」「組織の円滑な活動に支障を来すか否か」といった、解任に関する法律上の正当性の有無ばかりが問題になるところであります。これは明らかにおかしく、監査役が取締役と対峙した場合には、法律上の問題だけでなく、一般株主からは「みっともないお家騒動」と罵られ、またそのようなガバナンスの会社であるとして株価にも影響が及ぶわけであります。このような企業価値の低下を最小限度に抑えるために監査役に認められる行動としては、辞任するか、自らの主張の正当性を一般株主に開示するしか選択肢はないわけでして、もし辞任の道を選択しないというのであれば、一般株主への広報活動が唯一正当な対応となることは明らかであります。(先に述べた通り、監査役と取締役が対峙した場合には、さまざまなエンフォースメントが錯綜する以上、法律上の課題だけでなく、企業価値毀損防止のための課題にも監査役は対処することは株主から負託された義務を履行するものとして当然のことであります。たしかに監査役は「違法性監査」を執行することで株主への負託にこたえるわけでありますが、その違法性監査を行う能力や資質がないとか、そもそも監査を行っていないと主張されれば、これにきちんと反論することも説明責任の履行であると考えます。)たとえばなぜ監査役と取締役が対峙するに至ったのか、その原因について株主は知りたいところでありますし、またなぜ「辞任」と言う道を選ばず、解任議案が上程される事態になったのか(たとえば親会社の意向なのか、監査役の取締役に対する私怨によるものなのか)、また実体上の問題ではなく手続き上の問題(たとえば監査妨害の有無など)なども、株主に対して伝えるべき重要な課題であります。

なお、会社提案対株主提案の関係(委任状勧誘の場面)ではありませんので、監査役が個別に株主に反対票を投じるように勧誘する(面会する)ことは適切ではありません。また、会社法では株主総会参考書類についてはWEB開示(WEB修正ではございません)を活用することが(定款変更によって)認められておりますので、とくに株主に限定される広報ではなく、株主以外の者でも閲覧可能な方法による「一般株主への広報手続き」は許容されているものと考えられます。さらには、会社側から株主に対する何らかの追加意見がリリースされた場合、これに対応するためには監査役自身が即時追加意見を株主に広報できる体制がなければフェアとはいえず、「意見内容の概要」だけを記載した書面で十分とは言えないことも確かなところであります。したがいまして、監査役の職務執行の一環としては、このような監査役による一般株主向け広報も「職務執行の範囲内」と思われますので、一般個人であれば社会的信用を毀損するような内容が含まれていたとしても、それは監査役による一般株主に対する説明義務の範囲内のものとして、けっして名誉毀損だとか信用毀損の違法性を帯びるようなものではないものと考えます。

2 音声ファイルの公開について

本件は多くのブログで話題になっておりますが、そのなかで最も反響が大きいのがこの「音声ファイル」がF氏のWEBページに添付されていることであります。音声ファイルの内容は短いながらも、F監査役と代表者との会話の雰囲気が特徴的に把握できるものであり、一般の閲覧者だけでなく、一般株主であってもいろいろな印象をお持ちになるかもしれません。本件音声ファイルについて、私がここで意見を述べるのはルール違反だと思いますので、以下はあくまでも一般論としての私の見解であります。

私は基本的には音声ファイルがどのような目的で使用されるのか、という点を明確にする必要があると考えております。たとえば取締役の悪性立証を目的として自身のWEBページに開示することは監査役としての職務範囲を逸脱したものではないか、と考えます。監査役はあくまでも違法性監査が基本であり、「取締役としてふさわしくない人を糾弾する」こと(つまり妥当性監査)までその職務の範囲内にある、とはいえないものと考えます。もちろん、社内で「あなたは取締役としてふさわしくない」と糾弾することは、その方法が適切であるかぎりは許容されるものではありますが、対外的な意見陳述権は認められないものと思います。したがって音声ファイルを用いて取締役の悪性立証を可能とするのは、裁判上で取締役の違法行為差止請求がなされ、その司法の場において証拠として提出するようなケースに限られるのではないでしょうか。

いっぽう、弾劾目的(つまり、相手が主張している事実や判断内容の信用性を減少させる目的)で音声ファイルを持ち出す場合には、これは許容されるものと思われます。あくまでも弾劾のための使用ですから、相手方に反論の機会を付与せずともフェアではない、ということまでは言えないはずですし、また「事実の有無」を判断するための資料として活用されるのであれば、とくに「取締役としてふさわしいかどうか」「監査役としてはどうか」といった「職務執行の妥当性」に関する問題点はクリアできるからであります。もちろん、相手に無断で録音をしている点については別途、新たな法律問題が発生する可能性はあり、これを公開することが、はたして監査役の職務執行の範囲内にあるかどうかは検討する必要があります。

3 議決権を行使した株主に対するクオカードの贈呈

最後にひとつ気になる点があります。トライアイズ社のWEBページを閲覧したところ、10月9日の臨時株主総会において議決権を行使した株主には500円分のクオカードを贈呈する、とあります。しかしこれは2007年のモリテックス事件判決(東京地裁)の考え方を前提とすると「株主への利益供与」に該当しないのでしょうか?たしかトライアイズ社には約2万人もの一般株主がいらっしゃるようですので、皆様がたが議決権を行使した場合には相当な金額の出費になるでしょうし、また会社対株主という委任状勧誘規則が妥当する場面とは異なるものの、会社側の議案が可決されるためには出席株主の3分の2以上の賛同票を集める必要がある場面であります。会社提案に反対する監査役が会社側と対立してWEBページまで公開しているのが現状でありますから、たとえ賛成、反対どちらに票を投じてもクオカードがもらえます・・・と言ってみても、会社側としては賛成票を集める目的をもってクオカードを贈呈する、と評価される可能性があるのではないでしょうか。(これは例年、クオカードを贈呈している事実が認められるとしても、株主の議決権行使をめぐって紛糾している事態となれば一般的な社会的儀礼の範囲を超える可能性があり、禁止すべきではないか・・・ともいわれている課題であります)

もしこれが「利益供与」に該当するならば、監査役解任議案は3分の2以上の賛同が必要とされるところですので、その議決権行使結果次第では、クオカードの配布によって賛同票が増えたことが解任決議の結果に影響を及ぼした・・・とされ、いわゆる(株主総会決議取消訴訟における)裁量棄却にはならない可能性も出てくるかもしれません。それとも私のモリテックス事件東京地裁判決の理解不足により、モリテックスの事例と本件とでは状況は明らかに違う・・・とする理屈がわかっていないだけなのでしょうか。たいへん気になったところですので、このあたりも、問題の整理がついていらっしゃる方からのご意見がございましたらご教示いただきたいところであります。本件につきましては、株主総会決議取消訴訟の提起後の新たな臨時株主総会であることなど、まだまだ検討すべき問題点は残っておりますが、あくまでも客観的な私見として述べることができる範囲で記したような次第であります。

10月 7, 2009 監査役の理想と現実 |

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コメント

 監査役の費用償還請求の裁判と共に、要注目ですね。
個人的には、今回の総会のクオカードにつきましては、決議取消のリスクが相当高いのではないかと考えております。
 モリテックス事件との相違は、
1.厳密な意味での委任状獲得合戦はない(但し、会社経営に関する重大な意見対立が当該議案の当事者との間にあるため、委任状獲得合戦下に準じて考えてもよいかと思います。)
2.対立関係が発生する前から、クオカードの提供をしている。

 という点くらいで、共通点がとても多いと思います。また、クオカード提供の実質として「監査役解任議案の賛成票を会社のお金で買っている。」と評価されないよう、つまり会社法120条第2項の推定をどのように覆すのか、とても気になるところです。「ずっと前からクオカードを配っている」ことについて、これを重視するのか、単なる要件の一つに過ぎないと考えるのか、どちらなのでしょうか。
 この総会を指導される弁護士の先生は、どうされるのでしょうか。
当該監査役さんの報告を心待ちにしたいと思います。

投稿: Kazu | 2009年10月 7日 (水) 14時41分

kazuさん、ご意見ありがとうございます。(同様のご疑問を抱いておられるようで少しホッといたしました)また相違点まで教えていただき、参考にさせていただきます。
Kazuさんの疑問点については、たしかに重要だと思いますが、ブログで(この時期に)論じるのはちょっとマズイかもしれませんので(笑)、ともなくまず総会の結果をみることにしたいと思います。ちなみに本日のエントリーはかなりアクセスが増えております。。。

投稿: toshi | 2009年10月 8日 (木) 00時48分

監査役さん、残念でしたね。
しかしずいぶんと盛り上がった総会でしたよ。

投稿: kureba | 2009年10月 9日 (金) 21時26分

古川さん、残念でしょう。

投稿: 監査役支持 | 2009年10月11日 (日) 12時53分

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