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2009年10月28日 (水)

トライアイズ元監査役が遺したものを無駄にしてはならない

昨年の12月24日、JASDAQ上場の京樽社が「当社連結子会社における不適切な会計処理に関する調査結果のご報告」と題する書面をリリースしております。この適時開示の内容がたいへん興味深いものであります。この京樽社の監査役さんは当該連結子会社の監査役も兼務されておりましたところ、当該連結子会社の経理責任者による資産流用の事実を発見し、本格的調査によって事実を確定し、会社は過年度決算訂正を伴う会計不正の公表に至ったようであります。

まず、当該子会社の売上高は例年通りであるにもかかわらず、売掛金が急増していることを不審に思い、監査役さんはこの経理責任者にヒアリングを行いました。要領を得ない回答ではありましたが「合理的な疑い」をはさむほどの確信も得られなかったので、そのままにしておいたそうです。しかし次年度決算において、この監査役さんは未清算消費税額が(子会社の売上規模と比較して)あまりにも大きいことに疑問を抱き、関連書類による説明及び再調査をこの経理責任者に求めたところ、当該経理責任者は失踪されたそうであります。その後、監査役さんは財務担当取締役および財務担当社員の協力を得て、本格的な調査に入り、昨年の調査結果のリリースとなったわけであります。(本体の調査であれば監査法人さんの協力を得るところだと思いますが、連結子会社、ということで社内の協力を優先されたのでしょうね)

この事例は、監査役による会計監査の「理想的な有事対応」に近いところにあると思います。何度も当ブログで述べたところでありますが、この監査役の発見力というところが予防(内部統制)、事後対応(危機管理)と同等あるいはそれ以上に監査役さんに期待されるところでありまして、「なんとなく怪しい」と感じる力(たとえば売上高と売掛金との変動率の比較、未精算消費税額の分析を通じて抱く疑問)こそ、会計不正の早期発見のために有益なものであると考えます。J-SOX的な発想からすれば、こういった監査役の対応があればこその「統制環境」ではないでしょうか。

おそらく京樽社の監査役さんとしては、こういった事実が公表されれば株価に大きく影響が出ることは承知のうえで、本格的調査に入ったものと思います。そこでは、会社側の協力もあり、日常における監査役と経営陣との信頼関係が横たわっていたことが想像できます。しかしながら、信頼関係がそこにない場合には、監査役としてはどうすべきか。やはりこれまでどおり、経営陣との意思疎通が図れないとして「一身上の都合により辞任」するしか方法がないのか。

そういった監査役の有事対応について、一石を投じたのが、このたびのトライアイズ社の一件であったと思います。10月26日、トライアイズ社の元監査役でいらっしゃる古川氏のHPが更新されており、株主の皆様へのごあいさつが追加されております。このHPも、あと1週間程度で閉鎖されるそうなので、是非とも全国の上場会社の監査役の皆様には、賛否両論あることは承知の上で、ぜひぜひご一読いただければと存じます。ご承知のとおり、監査役解任決議は株主の皆様の3分の2以上の賛成多数をもって可決され、古川氏は(元)監査役となりました。3時間に及ぶ質疑応答の末、総会の決議によって審判が下されたのですから、その結果につきましては真摯に受け止めざるをえません。(ただし、議決権行使書面による賛同を合わせても出席株主数は5000程度、とのことですから、これが「株主の総意」といえるかどうかは疑問がございます。また私自身はまだ例のクオカードの件については問題だと思っておりますが)しかし、監査妨害を理由として、会社(経営陣)と対立し、自らの主張を株主に理解してもらうための一連の行動、そして監査役に与えられた会社法上の権限を適正に行使しようとした一連の訴訟行為につきましては、誰からも文句を言われるものではなく、むしろ「有事における本当の監査役の理想の姿」を具現化したものだと確信しております。最近の石川遼選手の活躍をみて「ハニカミ王子」などと誰も言わなくなったのと同様、ここ数カ月の古川氏の活動は「監査役の乱」などとは到底表現できないほどに、その人生を賭けた攻防だったように思います。私は古川氏の勇気ある行動を(ささやかなブログ上ではありますが)評価し、監査役制度に関心のある者として、これからの監査役制度の充実のために、一連の事件の経過と顛末を心に留めておきたいと思う次第であります。(なお、一連の株主総会決議取消訴訟、そして監査役の前払費用請求訴訟につきましては、まだ東京地裁で続行していることを念のため付言しておきます。)

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コメント

監査役を務める者として古川監査役の行動に敬意を表します。ブログに記載された情報から見る限り、氏の行動には批議される点は全くなく、非常に厳しい環境で良くぞそこまで行動された、まさに監査役としてお手本であったと思うのですが、結果としてこの行動を支持しなかった株主が過半を占めたという事実。また監査役が起用した弁護士費用の会社負担を認めなかった裁判所。これが日本社会なのかと、あらためて寂しい思いを致しております。しかし、これに無力感を感じてはいけないわけで、一つ一つの事例の積み重ねが、真に社会としてのコンプライアンスを高めることになるのだろうと自戒しております。

投稿: OS | 2009年10月30日 (金) 09時12分

京樽の件はいい方向の話ですが、監査役が主導して不適切な会計処理に至った上場会社もありますよね(委員会報告書をご覧になればおわかりかと思いますが)

トライアイズ監査役の件は私も関心をもっておりましたが、無力感を禁じ得ませんでした。

ところで新日本瓦斯株式会社の社外監査役の方が「一身上の都合」により監査役を辞任されています。辞任は15日で開示が29日、しかも辞任によって法定監査役数に欠員が生じるということで仮監査役選任となるそうですが、これも何かあったのでしょうか?
トライアイズ監査役さんの残したものは、きっと日本の監査役制度のなかで生きていると思います。

投稿: unknown | 2009年10月30日 (金) 09時47分

私は、トライアイズ古川監査役が解任された臨時株主総会に出席した1株主です。この会社は、内部統制が全く機能していないと言っても過言ではないことが判明しました。常勤監査役発言で、「監査役会は執行部の一部」的な発言があるのには、正直驚きました。これが上場会社である当社の常勤監査役なのです。監査役の仕事を全うしているのは、古川監査役だけでしょう。執行部の言いなりに、ただ黙ってハンコを押せばそれで仕事はお終い、という監査役ばかりが実態です。個人株主が94%も占めることを奇貨として、クオカードで議決権行使書を総会開始時には85%も集め、株主の真摯な質問をはぐらかして、真面目に監査役としての義務を果たしている古川監査役を解任してしまう、日本の上場会社のガバナンスなんてこんなものなのでしょうね。無力感を感じます。証取や金融庁や監査役協会が「監査役の義務云々」言っても、一旦上場し、統制システムさえあれば、自由気儘に経営し、厳しく監査しようとする監査役を脅迫・恫喝して黙らせ、総会さえ乗り切れば良いとするのが、日本のガバナンスの実態なのでしょうか?監督官庁は何をしているのでしょうか?

投稿: トライアイズの1株主 | 2009年11月 3日 (火) 16時56分

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