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2009年11月28日 (土)

監査役は辞任すれば免責されるのだろうか?

ここのところ連日のように重要な意義を有する最高裁判決が出ております。昨日(11月26日)は行政官(厚生省女性局長)ご出身の裁判長のもと、条例に対する取消訴訟が認められ、「紛争の成熟性」と「法の保護する利益(原告適格)」が最高裁において柔軟に判断される方向性が明らかになりました。

そして本日(11月27日)もまた、会社法上のコーポレート・ガバナンスに重要な意義を有する(と思われる)最高裁逆転判決が第二小法廷から出されております。(全文はこちら)監事監査については、私も不案内ではありますので、勘違いがございましたら指摘していただきたいのでありますが、おそらく農協の監事さんは、株式会社における監査役とほぼ同様の立場にあるものと思いますので、この最高裁判決の考え方は株式会社における監査役の任務懈怠に関する判断にも大きな影響を与えるのではないでしょうか?(金融機関の役員たる地位にあるため、経営判断原則の適用については厳格に解する場面もあろうかとは思いますが、ここではとくに金融機関の役員たる地位にあることは、あまり結論を左右する要素ではないものと思われます。また、「監事の忠実義務」が明文化されておりますが、監事の善管注意義務との関係では、あまり固有の意味があるものではないと思われます。)

小さな協同組合における監査慣行が存在していたとしても、監事は法律上、理事の職務執行の適法性を監査し、おかしなところがあれば理事会に報告し、さらに自ら調査を行い、理事の違法行為を差し止めることもできるのであるから、単に監査慣行に従っていればよいというわけではない、もし理事の職務において「善管注意義務違反が疑われることが明白な場合には」これを調査し、場合によっては義務違反行為を阻止するべきであり、これを怠った場合には監事に忠実義務違反(善管注意義務違反)の「任務懈怠」責任が発生する、という内容であります。

つまり、監査役は、目の前に取締役の善管注意義務違反が疑われるに十分な事態があれば、取締役会に出席して、当該取締役の職務には疑義があることを述べ、必要があれば自ら調査・確認する義務がある、そしてもし、この義務履行を怠った場合には損害賠償責任を負う、ということになりそうです。ここでは非常勤監事の任務懈怠が問題となっておりますが、常勤監査役のケースにおいても、基本的には「取締役の職務執行が善管注意義務違反の疑義を抱かせる明白な事情が存在していたかどうか、というあたりが検討すべき点であります。もし、監査役の業務監査において、その調査や報告受領により、取締役の職務執行の問題点を発見した場合には、自らの責任を免れるために「辞任」という道を選択して済む問題ではない、ということが結論としては言えそうな気がいたします。

今後、法律雑誌等で紹介されるかもしれませんが、監査役が業務監査上の任務懈怠として法的責任を負うためのメルクマールを(抽象的にでも)定立する判例として、たいへん貴重な判決となるのではないかと思いますが、いかがなものでしょうか。

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2009年11月26日 (木)

日本の社外取締役の役割-その「外観的独立性」

一昨日のエントリー「日本の社外取締役の役割-その有効性と効率性-」はたくさんの方にお読みいただきまして、ありがとうございました。m(__)m 私が日経新聞の「プロフィール」に顔写真入りで登場したことや、BLOGOSで「読まれているブログベスト10」に(めずらしく)ランクインしたことなどが重なったことによるものと思われます。

私自身はとくに意識していたものではありませんが、社外取締役の報酬が高いと独立性が保持できないのではないか?といった話題がコメントのなかで出てきておりましたので、ある方よりメールにてご意見を頂戴いたしました。ご意見は以下のとおりであります。

いつも「ビジネス法務の部屋」で勉強させて頂いています。

「日本の社外取締役の役割」というエントリーのコメント欄を拝見していて社外取締役の報酬は当該取締役個人が必ず受け取ることが自明のこととなっていることに少し違和感を感じました。

業務命令で他社の社外取締役に就任する場合には、相手先企業からの役員報酬は当該社外取締役が直接収受せず、自社(派遣元)企業が受取るという企業もあります。理由は自社の業務としての対価である自社からの給与を貰っているため、これに役員報酬を受け取ると二重取りになるためです。

一方、社外取締役の賠償責任の上限は役員報酬にリンクするという規定になることが多く、かつ社外取締役としての責任はあくまで当該個人が追うという法律の建付けのため、派遣先の会社と交渉し社外取締役報酬を可能な限り引き下げてもらうこともあります。だからといって、当該社外取締役のモチベーションが下がることはなく(自社から貰っている給与に変わりは無いので)、中立の立場で真摯に社外取締役としての業務をそれらの人は勤めています。以上ご参考まで。

ご意見どうもありがとうございました。そうなんですか・・・。社外取締役の報酬は派遣先企業からは支給されず、派遣元(親会社?)から支給される、という上場企業さんもある、ということなのでしょうか。賠償責任の問題まで配慮して派遣先からの給与も引き下げる・・・ということですが、そういった話は存じ上げませんでした。要は派遣元である企業の常勤業務の対価をもらっているのだから、派遣先である企業の社外取締役としての職務執行の対価は派遣先からはもらわない、ということなんでしょうね。

たしかに社外取締役が報酬をもらわない・・・ということは、高額の報酬をもらっている場合と比較すれば「会社に迎合しない」ようにも思われます。つまり一般株主の利益のために行動することが期待できる・・・ということなんでしょうね。ただ、ひとつ疑問が生じますのが、ここで上げられている例は親子上場のケース、もしくは親会社が非上場(子会社が上場会社)のケースだと思われます。親会社の業務の一環として子会社の社外取締役に就任されている方など、表面上は無報酬での業務かもしれませんが、親会社の利益と子会社の一般株主との利益が相反するようなケースの場合、はたして子会社取締役の方に公正な立場での職務執行を期待できるのでしょうか?社外取締役の独立性を議論する場合、企業内からの不当なコントロールの排除の問題と、企業外からの不当なコントロールの排除の問題が分けて議論されますが、ここでは後者の問題であります。

たとえば今年6月17日に公表されました経産省企業統治研究会報告書の立場では、社外取締役の実効性と独立性のバランスが重視されており、親会社から派遣されている、というだけで社外取締役に就任できない、というのは企業価値向上ということ(実効性)からみると妥当ではなく、たとえ親会社出身者であっても、上場子会社の一般株主保護を十分に期待できるような独立性を確保できればいいのではないか・・・ということが趣旨だったように記憶しております。この趣旨からすると、親会社の役員(もしくは従業員)が、上場子会社の社外取締役に就任することは、それだけでは禁止されるべきではないけれども、公正性を疑われないような外観的な独立性については配慮されるべきではないかと考えられます。そして社外取締役として就任している企業から報酬をもらっていない(逆にいえば親会社から業務対価として、その分の報酬をもらっている)ということであれば、どう考えましても親会社と子会社との利益相反関係が生じるような経営問題につき、親会社の利益を最重要視することにはならないでしょうか?もちろん、誠実で人格の高い方が社外取締役に就任され、そのようなことはない、と言われるケースもあるでしょうが、ここで問題となりますのは「外観的独立性」であり、「公正さが疑われるような外観」が認められれば禁止せざるをえないように思われます。

金融庁の内閣府令の改正により、今後は役員報酬の開示方法が変わるようでありますが、役員ごとの報酬の決定方法を明記する、といった改正により、社外取締役の報酬がゼロであるかどうかは、今後外からもわかるようになりそうです。本来役員報酬がゼロであるにもかかわらず役員に就任するということは、逆にいえば常勤として勤務する会社と当該会社との関係が問題視されることになるでしょうし、社外取締役として公正な職務執行は期待されないような事態になりそうであります。海外ではあまり親子上場などが認められていないものと聞き及んでおりますが、その原因が親会社と子会社一般株主間における利益相反状況にある以上は、むしろ子会社の社外取締役に就任する親会社出身者としては、正当な範囲内の役員報酬は受領すべきでしょうし、このあたりが社外取締役の実効性と独立性のバランスをはかるべきポイントではないかと考えております。

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2009年11月24日 (火)

日本の社外取締役の役割-その有効性と効率性

JR西日本社の社外取締役の方々は、同社監査役らとともに、このたびの福知山線脱線事故の報告書漏洩問題で報酬を自主返上されるそうであります。JR西日本社内では、上記脱線事故の調査報告書が公表される前に、すでに127名もの社員が非公式な報告書入手の事実を知っていたそうでありますので(10月24日日経新聞朝刊1面)、ひょっとすると同社の社外取締役や監査役の方々も、鉄道事故調査委員会とJR幹部との非公式な接触の事実を認識されていたのかもしれません。本来、社外取締役や監査役に期待される行動に出ることができなかったことへの反省なのか、それとも耳に入っていれば対応できたはずの大切な情報を収集できなかったことへの反省なのかは不明でありますが、いずれにしましても、世間一般に社外取締役に対して期待されるところの行動がとられなかったことにつきましては、非常に残念であります。

会計士さんの会計監査の在り方につきまして、「期待ギャップ」(世間における不正発見に向けての会計監査人への期待とは裏腹に、実際の職務は情報監査としての財務報告の適正性をチェックすることに向けられ、粉飾決算を暴くことは二次的な役割にすぎない)という言葉で表現されることがありますが、そろそろ社外取締役や監査役についても「期待ギャップ」という言葉で表現される時代が到来するのではないでしょうか。これまでは「御用監査役」「モノ言わぬ監査役」「お飾り取締役」などと揶揄される反面で、粉飾や企業不祥事が発生しても、経営者の暴走にブレーキをかけることができなかった責任などは厳しく問われることはなかったのかもしれません。しかしながら、昨今のガバナンス論議でも俎上に上るとおり、とりわけ社外取締役の役割につきましては、世間でもそれなりに適切な職務執行に対して期待されるようになり、ボードにおける社外役員の数や、その独立性判断などが厳格に問われるようになってきたものと思われます。

今朝(23日)の日経新聞一面では、経営コンサルティング会社の調査結果が紹介され、これによると平成21年8月末現在における東証一部上場会社のうち、社外取締役が在籍する全企業の約4割の取締役が大株主出身ということだそうであります。(取引銀行から派遣されている社外取締役を含めると過半数となります)また10月21日の同じコンサルティング会社による調査結果によると、社外取締役に就任されておられる方は著名人が多く、2社から5社程度兼務されている方も結構な比率でいらっしゃいます。実際このような就任状況をみますと、相変わらず「大所高所からのご意見番」的な社外取締役選任理由がうかがわれるところであります。しかしながら、数社兼務されていらっしゃるほどの著名な社外取締役の方々が、顧問や相談役としての職務と変わらないお立場で取締役としての職務をされているとすれば、これは少し「社外取締役としての効率性・有効性」の観点からみると物足りないのではないでしょうか。少数株主など幅広い利害関係者への配慮や、昨今の事業提携ブームや増資ラッシュなどの有事における独立公平な第三者としての意見表明など、資本市場から社外取締役に期待されるところは、これまでとはずいぶんと変わってきているものと思います。

独立公正な立場で重要な業務執行の決定権限を有するという社外取締役の重要な職務に鑑みるならば、その有効性・効率性を検討すべきは当然であり、有事においては広い意味でのコンプライアンスへの配慮だと思います。たとえば今回のJR西日本の件につきましても、当ブログでも述べたとおり、社内取締役の方々は、いくら平時は誠実な役員さんであっても、有事になればバイアス(偏見)が働くわけでして、社会一般の常識的判断から遠ざかっていくのが常であります。そこに「辞任しても食べていける」社外役員の偏見から解放された冷静な「社会常識の目」が必要となるのであり、企業を救う場面もあろうかと思います。JR西日本の情報漏洩問題については、「外観的独立性」の重要性を説く場面もあれば、非公式な接触が「ばれる可能性」について説く場面もあるかもしれません。また平時におきましては、日本の取締役会制度の補完、つまり非業務担当役員としての有効活用であります。取締役会や経営会議のおける取締役の監督機能が発揮できないのは、おそらく業務担当役員の集まりだからではないでしょうか。(もちろん例外もあるでしょうけど)私は内部統制の重要な構成要素たる「情報と伝達」を推進できるのは社外取締役をおいて他にはないと考えておりますが、いかがなものでしょうか。

民主党政権や証券取引所ルールが独立役員の数の増加や独立性の強化に向けた動きに出ている、とのことでありますが、せっかく上場企業全体において、社外取締役制度を強化するというのであれば、「数合わせ」や「アリバイ工作」に終始することなく、その有効かつ効率的な役割を検討し、実践していく必要があると考えます。そうでなければ、平成13年、14年当時に思い描いていた「委員会等設置会社が日本の会社を変える」というイメージと、何ら変わりのないものになってしまうのではないかと思ってしまいます。

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2009年11月19日 (木)

株式買取請求権に関するつぶやき・・・・・

(本日は、単なる「つぶやき」にすぎませんので、BLOGOSに転載されるほどの内容ではございません・・・笑)

17日の日経「投資・財務」面にもありましたが、ここのところ株式の買取請求権行使が相次いでいますね。また、旬刊商事法務の論文も、レックスHD決定の検討、葉玉先生の「略式株式交換における株式買取請求権」、東大の大先生の「株式買取請求権制度の構造」そして、サンスター大阪高裁決定の検討といった具合に、毎号、著名な法律家の方々のレベルの高い論文が目白押しです。

今後も事業再編やMBO事案が増えるにしたがって、当然のことながら少数株主権行使の機会も増えてくるとは思うのですが、よくよく考えますと先に上げたレックスやサンスターの事件は(とても一般株主とは言えない)名高いY氏が申立てておられる事件(とくにサンスターは本人申立て)ですし、葉玉先生の事例も、たまたま葉玉先生が原告株主側で代理人を務められたことで浮かび上がった論点に関するものと思われます。

実際のところ、一般株主の方々にとって、やはり会社法の少数株主保護にからむ事件を本人申立てでやりぬくことはたいへんであって、訴訟要件の不備によって申立てが却下(つまり、本案のところまで行き着くことなく撃沈)されてしまうケースが多いのではないでしょうか。とりわけ株券電子化後の「個別株主通知」の対抗要件と株式価格決定申立て事件における訴訟要件(手続き要件?)との関係あたりはいまだ裁判上も確立されたものがないような気がしております。たしかに本案までこぎつけても、価格鑑定など費用のかかる問題点もあるかもしれませんが、とりあえず裁判所の後見的機能が発揮されるかもしれませんし、それなりに価格決定申立てをする意味があるかもしれませんから、なんとか一般株主の申立てが「まな板の上に乗る」ところまでは「やさしい司法」であってほしいものです。

ということで、少数株主権の行使とまでは広げずに、たとえば「やさしい株式買取請求権の行使」といった一般株主の方々のための本とか出版したら、(法人、機関投資家の方も含めて)それなりに売れそうな気がしますが、いかがなものでしょうか?あくまでも、本案審理を裁判所で展開できるところまでの「入口突破のための」本ですが、けっこう意義があるような気がするのですけど。。。大阪弁護士会は法律事務所向けに「法律事務の手引き」という本を(2年に1回程度の更新頻度で)出しておりまして、これが実に素晴らしいのです。書類の書き方から、裁判所に提出すべき書類や提出期間など、刑事、民事、家事事件を扱う弁護士に弁護過誤が起きないように、それはそれは丁寧に法律事務を解説してくれております。こういった手引き書のような本が一般株主による株式買取請求権行使にもあったら、ずいぶんとガバナンス向上に役立つのではないか、と思うのですが・・・。いかがなもんでしょうかね?(ぎゃくに本案のところで敗訴する事例が増えれば、マズイ結果になってしまいますかね?)

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2009年11月18日 (水)

内部統制(J-SOX)廃止論に対する私見

本日(17日)の日経新聞「大機小機」では、「制度いじりはやめよ」というタイトルで、なかなか刺激的な内容であります。鳩山政権に期待したいのは「誤った企業統治制度を企業に強いたことによる傷の癒し」であり、その一例として「無駄な仕事ばかりをふやし、性悪説的な経営を強いて日本企業の強みを破壊してしまった内部統制制度を速やかに廃止することである」と述べられております。つい先日、某大手監査法人の代表社員クラスの方も、同様の意見を熱く語っておられました。日本企業の強みを破壊してしまうほどの効果が内部統制報告制度にあったのかどうかは定かではありませんが、先日のラウンドテーブルにおきましても、制度上の課題として、過剰な対応が問題視されていたことは事実であります。ただ、私自身はこの制度がそもそも悪いのではなく、制度の運用に問題があるのでは、と考えておりまして、まだPDCAの「PDC」までしか運用されていないのに、どうして廃止論が出るのか疑問であります。(そもそも内部統制制度が「性悪説的」な発想で作られた・・・という認識が広がっていること自体、制度運用において誤っているところがある証拠であります)

先日来お伝えしておりますように、私はここ数週間で約80本ほどの「不適切な会計処理」に係る社内調査委員会、社外調査委員会の報告書を精読いたしましたが、不祥事の原因分析と再発防止策にはほぼ共通した傾向がみられまして、不祥事の原因については①機会の存在(従業員や役員が不祥事に手を染めるチャンスが存在すること、たとえば長期間同じ職場に居座っているとか、ダブルチェック機構がないとか、職務分掌が整備されていないとか)と②独立したモニタリングの不備(たとえば内部監査が機能していないとか、監査役がきちんと監査していないとか、子会社管理ができていないとか)、そして再発防止策も、機会の防止とともに独立的モニタリングの充実があげられております。そして結局のところ、過年度の決算を訂正しなければならないほどの重要な虚偽表示に至ったもっとも大きな要因は、このモニタリングの不全による損害拡大であります。不祥事といえば、不正にせよ誤謬にせよ、この機会の存在のほうに目が向きがちでありまして、内部統制システムの構築にしても、この「穴をふさぐ」ことが注視される傾向があります。しかし(私の見解ですが)、穴はどんなにふさいでみても、人間の組織である以上はまた別の穴ができるわけであります。(組織には人的資源にかぎりがありますから当然ではないでしょうか)むしろ必要なのは穴があいたときに、誰がその穴を発見するのか、その穴を利用して不祥事が発生していれば、それを誰が早く発見するのか、発見した不祥事を隠さずにきちんと社内で対応できるのか、というところの問題対策でありまして、ここはどう考えても「情報監査」を中心とする財務諸表監査だけでは対応は困難であります。したがいまして、内部統制の全社的統制に関する評価に期待されるところであり、ここをどうやって開示規制たる内部統制報告制度の中で運用していくのか、というところにこそ今後の課題があるものと思っております。

たとえば最近の例でいえばユニオンHD社の場合、経営トップの方は重要な業務執行を独断でされており、取締役会は全く開かれていなかったそうであります。(監査役の方々はどうしていたのだろうか・・・との疑問も湧いてきますが・・・)元社長さんは監査法人さんから議事録の開示を求められると、勝手に議事録を作成して、これを監査法人さんに開示していたとのこと。(ニュース報道より)監査法人さんとしては、財務諸表監査においてはこの議事録を形式的にチェックすれば足りるのかもしれません。しかし、不正発見への期待が高まり実態監査まで求められるとするならば、たとえば監査役会と協議をしたり、他の取締役からヒアリングをするなどが必要になってくるわけで、「開示規制」である以上は、そういった実態監査のなかで「怪しい」と感じたその評価結果を意見として開示し、投資判断に活かせてこそ「ディスクロージャー制度による企業統治」と言えるのではないでしょうか。また監査役さんからみて「おかしい」と感じたガバナンス上の問題があれば、これを経営者と協議して、より慎重な全社的統制への評価を経営者にしてもらい、これを開示することが「ディスクロージャー制度における企業統治」と言えるのではないでしょうか。先の大機小機では経営の透明性を追求することが、企業の資産を明るみにしてしまったり、誰にでもわかりやすい経営手法を求めることになり、これでは企業は戦えないとのことであります。しかしガバナンス論でいわれる「透明性」とは、そもそも株主に自己責任を問えるだけの情報開示・・・という意味ですから、とくに経営ノウハウを開示するものでもありませんし、もしわかりにくい経営手法で勝負するのでしたら、あとは経営者がIR活動によって説明責任を尽くせばよいだけの話であります。また会社資産の問題にしても、今年の不正競争防止法の改正をみれば明らかな通り、営業秘密等の資産管理は別途法律によって対応が進んでいるわけでして、「透明性」とはあまり関係のない話のように思います。

会社法上の内部統制の話は別として、金商法上の財務報告に係る内部統制報告制度は、日本には珍しくプリンシプルベースの規制手法であります。一般に公正妥当と認められる内部統制評価の基準に準拠して、経営者が有効性に関する自己評価をして、これに監査人が意見を述べる、というものであります。費用対効果に問題があるとされておりますが、この「効果」が個々の会社の業務の有効性や効率性、不正リスク管理といったところだとすれば、もう効果の検証は済んだのでしょうか?この「効果」を資本市場の健全性向上と捉えるのであれば、本当に費用対効果が見合わないことへの検証は済んだのでしょうか?私はとくに監査法人の人間でもありませんし、J-SOXコンサルティングの立場でもありませんので、とくに内部統制報告制度が廃止されても困らない立場ではありますが、ここでプリンシプルベースでの規制手法に対応できないとすれば、今後のIFRSの強制適用は内部統制報告制度の比ではないと思われますので、企業の会計制度の変遷による疲弊度は著しく大きなものになってしまわないでしょうか。内部統制もIFRSも、開示規制による制度であることの意味(違反した企業にはいったいどんなペナルティが待ち受けているのか?)を、もう一度きちんと把握しておく必要があると思います。内部統制報告制度が過度に企業を疲弊させているのが現実だとすれば、あらためて制度運用上の問題点を修正すべきである、と考えております。

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2009年11月16日 (月)

経営者への特別背任罪の成否と経営判断原則(拓銀最高裁判決)

11月11日にたくぎん事件の最高裁判決が出ております。(日経ニュースはこちら)注目される判決のようで、最高裁判所のWEBページにも早速この判決文が全文掲載されております。金融機関の取締役の善管注意義務、忠実義務が主要な争点となっており、あまり一般の企業の役員さん方には参考にならないのではないか、と(最初は)考えておりました。しかし法廷意見と田原判事の補足意見を読み比べてみますとなかなか興味深く、一般企業の役員さんらに特別背任罪が適用される場面にも参考となるのではないか、と思いなおした次第であります。ちなみに、最近JASDAQの平賀さんの会計不祥事につきまして(元代表者の手形乱発事件ではありますが)、弁護士と会計士で構成されている外部調査委員会報告書のなかでも、元代表者への特別背任罪の成否について(責任追及の可否を目的として)慎重な判断過程が報告されております。(外部調査委員会報告書要旨の公表について)こういった取締役の責任追及の可否を検討するにあたりましても、今回の最高裁の判断過程は参考となるところであります。

詳しい判例解説は(毎度のことながら)今後法律雑誌に掲載される著名な学者・実務家の方々のものに期待することとして、私的にもっとも関心の高い点は特別背任罪の構成要件たる「任務違背」を認定するにあたり、平成6年当時の銀行経営陣の実質破たん会社に対する融資決定につき、どこまで「経営判断原則」が適用されるのか?という点であります。もちろん、一般の企業の取締役とは異なり、金融機関の取締役の融資決定について、経営判断の原則の適用は合理的な理由により限定的なものとされておりますが、そのあたりはこれまでの判例学説でもほぼ通説的なところであり目新しいものではありません。オモシロイのは、取締役の任務違背の有無を決定付ける「経営判断の原則」の適用にあたり、これを平面的に捉えるのか、時間軸の中で捉えるのか、という違いであります。法廷意見はたくぎんが問題会社に対して「融資を実行する時点における」諸事情を参考として、経営判断原則適用の有無を検討しております。そして限定的にせよ、実質倒産状態にある企業に対する融資が適法とされる条件を絞り込み、本件ではその条件を満たしていないと結論付けております。つまり実質倒産状態にある企業への融資実行の場面においても、経営判断の原則の適用を前提とした判断を下しているものと思われます。いっぽう、田原判事の補足意見では、法廷意見と最終的な結論は同じであるものの、問題企業に対する融資実行の時点においては、もはや経営陣には経営判断の原則が適用されることはなく、「任務違背」は明らかとされております。そもそも信用リスク管理義務に違反しているような取締役の職務執行自体が違法であるから、融資実行時点にいくら内規・定款・法令を遵守したうえでの判断だとしても、そこでは取締役は経営判断原則によって守られるものではない、ということだと認識いたしました。融資実行に至るまでの、問題企業の債権管理や再生・再編のための支援策を当該金融機関の経営者はどこまで検討してきたか・・・という(信用リスク管理)面に焦点を当てて、そこに問題がある以上は、もはや融資実行における経営判断を問題にする余地はない、とのこと。

平成6年までの問題企業の信用リスク管理に不備があった、と明言できるのは、さすがに田原判事が倒産法のスペシャリストとしての経歴をお持ちだから・・・という面もあるかもしれません。しかし、それだけでなく、平面的な事情から「任務違背」の有無を検討しようとしますと、どうしても場当たり的な利益考量となってしまって、「貸し渋りと非難されたうえに、貸し出したら今度は処罰されるのか?」といった批判も受けることにもなります。そこで、(ある一定時点における)取締役らの判断過程だけでなく、その融資判断までに取締役が何をしてきたのか、という時間的な流れの中で取締役の職務執行の適法性を丹念に眺め、そこから任務違背の有無を考えるほうが説得力もあり、取締役の経営判断に萎縮的な効果を与える度合いも少ないように思われます。

こういった田原補足意見の考え方は、そもそも法令違反行為には経営判断原則の適用はない、という通説的な見解を前提としたものと思われます。銀行の場合には「信用リスクの管理義務違反」ということになりますが、一般の企業におきましても、内部統制が構築され運用されていることが前提となっていますので、たとえば整備されているはずの内部統制システムが整備されていなかったり、規定されている運用がなされていないようなケースの場合、リスクを伴う経営判断を実行する時点において経営者に多大なる経営上の裁量権が認められることにはならない、といった結論になる可能性があります。また、田原判事の言われるように「取締役の平時における職務執行」によって経営判断適用の可否が決まる・・・ということになりますと、経営トップの法的責任だけが問題となるのではなく、そのような内部統制システムの構築を怠っていた他の取締役(および監査役)らにつきましても、代表者への監督義務違反など固有の法的責任を追及されやすい状況も出てくるのではないでしょうか?個人的には特別背任罪につきまして、「図利加害の認識」と「任務違背」の要件についてはずいぶんと判例では緩和されてきているように感じておりますが、リスク管理義務違反(内部統制システム構築義務違反)と経営判断原則の適用との関係について、きちんと整理しておく必要があるのではないか、と思う次第であります。なお、最後になりますが、田原判事も指摘されているように、一般事業会社の場合、取引先との関係では、さまざまな事情によって損を承知の上で支援しなければならない(それは株主や会社債権者の利益にもつながる、ということで)場面もあることを付言しておきます。

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2009年11月12日 (木)

IFRS(国際財務報告基準)の強制適用は憲法違反ではないか?

最近の「旬刊経理情報」(中央経済社)さんは、IFRS関連の特集記事が目立ちますが、最新号(11月20日特別増大号)はまたまたスゴイ!「IFRS開示・徹底解説」ということで、総論と各論に分かれて、たいへん読み応えのあるスグレモノの内容になっております。本日リリースされました国際会計基準(IFRS)に関する豪州調査報告(日本公認会計士協会WEBより)でも、2005年にIFRSが強制適用されたオーストラリアにおきまして、注記情報が約2倍にもなり、膨大な開示情報の量となったことが報告されております。(その分、コストアップの要因になったとか。また「原則主義」といいつつ、金融商品の認識、測定など、詳細なルールが規定されているものもあるのですね。)IFRS開示の重要性からして、上記旬刊経理情報さんの企画はたいへんタイムリーなものかと思われます。(さっそく勉強させていただきます)

ただ、先のIFRSに関する豪州調査報告の内容として、IFRSの強制適用に係る法制度上の問題点(豪州はどのように法制度上、IFRSを合法的に適用したのか)に関する報告は出ていないようであります。だからといって、法制度上の問題が解決しているわけではなく、オーストラリアにおきましても、国際会計基準審議会が開発した国際財務報告基準は当然に法規範として扱われているわけではないようであります。(企業会計61巻5号弥永論文66頁参照)日本におきましても、IFRSの任意適用・・・ということであれば、「IFRSによる会計基準を許容する」というものですから、これまでの企業会計基準委員会が開発する会計基準と同様に金融庁のガイドライン等で承認すれば足りるものと思われます。しかし強制適用・・・ということになりますと、にわかに難問が生じることとなるわけでして、「一般市民の権利制限、義務負担に関わる強制力を、なぜ海外の民間セクターが開発した会計基準に付与するのか?」という法的な問題が浮上することになります。つまり日本国憲法においては、国会が唯一の立法機関であり、私人に対する立法権(国民の権利制限の根拠)の包括的な委任は認められない、とされております。したがって、民主主義的統制に服さない国際会計基準審議会の開発したIFRSなどには、当然に法的拘束力を認めることは、我が国の憲法に基づく法秩序と矛盾することになります。(これは、上記論文における弥永教授のご意見であり、また私も理屈としてはこのとおりかと思います)つまり、IFRSを会計基準として「許容」する(金融庁がお墨付きを与える)ことはとくに大きな問題ではありませんが、強制適用するということになりますと、憲法違反の疑いが生じるのではないか、というものであります。

将来的にIFRSが強制適用されたとして、その会計基準による処理方針、処理の結果に問題があり、粉飾決算とされて起訴されたような場合、被告人はこのIFRSの違憲性を主張して最高裁まで争う・・・という事態にもなるかもしれません。したがいまして、このIFRSの強制適用にあたり、どのような手続きを経て日本の法秩序に組み入れるのか、真剣に検討しなければならないものと思われます。そもそも連結財務諸表規則あたりで強制する・・・ということも考えられますが、これでは日本の立法機関が国際会計基準審議会の開発内容を(日本法の目的によって)強制できることが前提となりますので、どうも現実的ではないように思われます。このあたりは、いくつかの工夫が考えられるところでありますが、その工夫につきましては、また来週の日本証券アナリスト協会における講演会のなかで、私見を述べさせていただこうかと思っております。

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2009年11月10日 (火)

日債銀事件最高裁判断と「公正ナル会計慣行」

当ブログでは長銀事件(違法配当、虚偽記載有価証券報告書提出罪)に関連するエントリーは数え切れないほどアップしてきました(「公正妥当な企業会計慣行」と長銀事件、なるカテゴリを選択していただければ、過去のエントリーがほとんど閲覧できます)が、いよいよ日債銀粉飾決算事件につきましても、本日(9日)最高裁で口頭弁論が開かれ、判決が言い渡される見込みとなったようであります。(ただし判決期日は未定)いろいろなニュースでも報道されているとおり、最高裁で弁論が開かれる・・・というのは、原審である高裁の判断が覆される可能性が高いことを示しております。いくら裁判長が元検事でいらっしゃる方であっても、また、その方が長銀事件最高裁判決において補足意見を述べておられる方だとしても、事件の筋および長銀最高裁判決の内容からみて、大方の予想どおり、日債銀の元経営陣の方々の逆転無罪はほぼ間違いないところではないでしょうか。

日債銀元経営陣の弁護人の弁論内容からみても、争点はほぼ長銀事件と同様であります。日債銀の元経営陣にとって、資産査定通達及び改正後の決算経理基準に従った会計処理を行うことが、平成10年3月期決算時において唯一の「公正なる会計慣行」だったのか否か、という点でありまして、改正前の決算経理基準である税法基準による会計処理が、公正なる会計慣行に従ったものとはいえない・・・というのが高裁判断であります。ところで長銀事件も、この日債銀事件も、おもに商法関係の学者の先生方や企業実務家の方々による論評をみかけますが、見方を変えまして「刑法学的な視点」から眺めてみますと、けっこうオモシロイのではないでしょうか?たとえば長銀事件の最高裁判決が被告人らを無罪としたのは、①商法および証券取引法上の構成要件該当性がないとしたのか、②(構成要件には該当するが)違法性阻却事由があるから、としたのか、③主観的な違法要素に欠ける(故意が認められない)、としたのか、そのあたりはきちんと整理されているのかどうか、興味のわくところであります。こういった刑法学的な視点から、再度長銀事件の最高裁判決を眺めてみますと、護送船団方式による事前規制型の金融行政から事後規制手法による金融行政へと転換する時期における金融機関の迷いのようなものや、そのような時期において(ノンバンク救済のための)母体行主義が当然とされるなかでの経営陣の経営判断原則を刑事事件でどのように理解するか、そして金融機関自体に大きな責任があることは当然のこととして、その責任を刑事事件のなかで、ひたすら後始末役を仰せつかった経営陣の個人責任だけに集約しても良いのかどうか、といったあたりの問題点が浮かび上がってくることに気付きます。

さて、迷える会計士さんがご紹介されているとおり、私事になりますが、11月18日に日本証券アナリスト協会主催の講演会でお話をさせていただくことになっておりまして、タイトルも「ますます重要性を増す『公正なる会計慣行』の理解~法と会計の共通認識の形成に向けて~」。話の内容は上記のような法マターの問題ではございません。今後のIFRS導入を前提として、会計基準の原則主義化、価値判断化が必至の状況でありますが、このような状況におきまして、何が「公正なる会計慣行」なのか、会社法431条の「公正妥当な企業会計の慣行」と連結財務諸表規則上の「公正妥当な企業会計の基準」とはどのような関係にあるのか、等の問題点を十分に理解しておきませんと、後出しじゃんけん的な第三者の判断によって経営者、監査人らが法的責任を問われる可能性が高まってくるのではないか・・・という問題意識のもと、その解決のための具体的な提言をお話する、というものであります。質疑応答含め、わずか1時間半という短い時間ではございますが、あまりこれまでセミナーなどで語られてこなかった話題ですし、本当に法と会計の狭間の領域に、長年横たわっている渋めの問題なので、おそらく新鮮な論点だと思います。アナリスト協会の会員でない方も、参加可能とのことですし、まだ11日まで聴講を受け付けていらっしゃるそうですので、ご興味のある方はぜひ東証の会議室までお越しくださいませ。

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2009年11月 8日 (日)

証券取引所ルール変更への上場企業の対応は万全ですか?

法律・会計雑誌の特集などを眺めておりますと、民主党の「公開会社法プロジェクト」に関する話題がてんこ盛りでありますが、そのまえに矢継ぎ早(やつぎばや)に東京証券取引所の自主ルールが改訂されつつあることをご存じでしょうか?今週は東証の執行役員の方や、大証の自主規制部門の責任者の方に「今回の東証ルール変更はけっこう上場会社にとって重要ではないの?」と質問をさせていただき、いろいろとお話をうかがいましたが、私的には「公開会社法」への関心も重大事でありますが、こちらのほうへの対応もきちんとなされたほうがよろしいのではないか?と考えるところであります。ご承知のとおり、東京証券取引所ルールの改訂は、おそらく他の証券取引所の自主規制部門への影響は大きいと思いますので、「うちは東証ではなく、ヘラクレスだから・・・」とのんびり構えてもいられないと思います。

まず要注意は、東証より平成21年10月29日に「上場制度整備の実行計画2009(速やかに実施する事項)に基づく上場制度の整備等について」がリリースされておりますが、この文書(趣旨と概要)だけを読んでも、内容はあんまり理解できないのではないか、という点であります。といいますのも、このリリースは、今年8月24日に施行された有価証券上場規程等(および東証業務規程)の一部改訂が前提となっておりまして、この「一部改訂」の中身を理解していないと「なんのこっちゃ?」ということになりかねません。また、一部改訂といいましても、施行規則や業務規程の改訂まで含めますと「新旧条文対照表」がA4で120ページほどにもなりますので、それまでの規程との対照確認だけでもけっこうたいへんであります。「企業行動規範」の問題なのか、「適時開示ルール」の問題なのか、それらのルールに違反したらどうなるのか・・・といったあたりの整理が必要ですし、企業行動規範のなかにも「遵守すべき事項」と「望まれる事項」に区分されておりまして、その実効性確保の手段にも差異があります。

また、もっとさかのぼりますと、そもそも実効性確保の手段という観点からすると、ガバナンス報告書における開示規制(説明責任)を中心に据えたもの、適時開示ルール(義務)をもって規制するもの、また企業行動規範において義務付けを図るものなど、いつくかのパターンがありまして、たとえば第三者割当規制はどうなるの?新株予約権発行時における監査役さんの適法性意見や社外役員による意見制度は?社外役員の導入規制は?独立性要件は?IFRS(国際財務報告基準)の準備体制の整備は?反社会的勢力との関係排除は?インサイダー取引防止体制の整備は?内部統制に関する開示は?株主総会における議決行使結果開示は?などなど、それぞれの重要な項目はどのような規制手法が用いられ、また規制に反した場合には、どのような企業の対応が必要となるのか等、きちんと整理をしておく必要があろうかと思われます。(なかには上場廃止基準に該当したり、特設注意市場銘柄に指定されたり、上場契約違約金をとられたりする場合も増えますのでコンプライアンス経営という視点からも要注意であります)

さらにさかのぼりますと、たとえば企業行動規範」において「望まれる事項」を遵守できない場合、もしくはコーポレート・ガバナンス報告書において、ガバナンス原則としてベストプラクティスが示されているにもかかわらず、そうでないガバナンス体制を採用するような場合には、投資家や株主向けに「どうして遵守しないのか」「どうしてモデル型とは違った型を採用するのか」といったことへの合理的な説明が求められるところでありますが、そのあたりの説明内容につきましては、金融庁スタディグループや経済産業省「企業価値研究会」等のリリースした報告書の中身を十分に理解しておくことが不可欠だと思われます。

今回の上場整備は金融庁の認可を経て、今年12月ころには実施されることになりますので、ほとんど準備する時間的余裕もないのかもしれませんが、こういった自主ルールへの対応については、東京あたりでも法務担当者レベルでの講演会等は用意されているのでしょうかね?規制対象項目によっては、内閣府令の改正との関係にも配慮する必要がありそうなので、重要なポイントだけでも整理しておく必要があるものと思うのですが。それとも「別冊商事法務」あたりでモデル文例集等が刊行されて、必要個所を検討しておけば足りるのでしょうか?自主ルールに抵触して、証券取引所から改善報告書(これまでは適時開示ルールに違反した場合のみでしたが、今後は企業行動規範に違反するケースでも求められることになります。5年間の公衆縦覧はけっこうツライですよね。。。)を徴求される事態というのは、けっこう上場企業のレピュテーションリスクという面からみましても問題が大きいものと認識しておりますので、このあたりへの対応は結構重要なのではないか、と思う今日この頃であります。

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2009年11月 6日 (金)

「内部統制報告制度ラウンド・テーブル」に参加しました。

Cimg2662_640 11月4日は東京の全国社外取締役ネットワーク本部で「監査役の有事対応」に関するお話をさせていただき、その後はとも先生に夕食をごちそうになりました。(どうもありがとうございました。といいますか、ユニゾンキャピタル社のリリースみますと、とも先生はたいへんお忙しい立場だったようです。ご迷惑にならなかったのかと、ちょっと心配しております。)研究会では、ブログでは書けないような内容のお話なども(こちらからご教示を受ける目的で)お話させていただきましたが、大いに盛り上がりまして、とても勉強になりました。とくに現役の社外取締役、社外監査役の方々の(思いもかけず?)「熱い意見」に接することで、なんだかとてもうれしい気分になりました♪

そして本日(11月5日)は、市ヶ谷にあります公認会計士協会本部にて開催されました第1回内部統制報告制度ラウンドテーブルに個別報告者として参加させていただきました。真ん中に討論者(個別報告者)とオブザーバーが円卓を囲み、その周囲に90名、地下1階のホールに240名の方々が公開討論と個別報告を傍聴する・・・という、日本では珍しい会議でして、アメリカのSECの円卓会議に近いものとして開催されたものであります。(主催は日本内部統制研究学会と公認会計士協会、協賛が日本監査役協会、日本内部監査協会です)プログラムは以下のとおりです。

第1 回内部統制報告制度ラウンドテーブル

2009 年11 月5 日(木)
公認会計士会館
開会の挨拶 13:30~13:35

日本内部統制研究学会会長 川北 博

個別報告 13:35~14:45

企業関係者
高原 宏 武田薬品工業株式会社
仲田 正史 野村ホールディングス株式会社
吉田 稔 旭化成株式会社
原田 健 株式会社ミクシィ

監査法人関係者
小野 行雄 有限責任監査法人トーマツ
牧野 隆一 あずさ監査法人
新村 実 太陽ASG 有限責任監査法人
持永 勇一 新日本有限責任監査法人

その他市場関係者他
静 正樹 株式会社東京証券取引所
引頭 麻実 株式会社大和総研
山口 利昭 山口利昭法律事務所
町田 祥弘 青山学院大学大学院

オブザーバーからのコメント 14:45~15:30

三井 秀範 金融庁 総務企画局企業開示課
野村 昭文 金融庁 総務企画局企業開示課
平塚 敦之 経済産業省 経済産業政策局企業行動課
森 公高 日本公認会計士協会
松浦 洋 日本監査役協会 財務報告内部統制委員会
神田 幸尚 日本内部監査協会
藤沼 亜起 日本内部統制研究学会

休 憩 15:30~15:50

全体ディスカッションとまとめ 15:50~17:25
閉会の挨拶 17:25~17:30

日本公認会計士協会会長増田 宏一
公認会計士会館

ご覧のとおり、私は「市場関係者他」の「他」に属する者でありまして(笑)、企業会計審議会の委員でもなければ、実務責任者たる地位にある者でもございませんので、当然のことながら「はみだしっこ」であります。ただ、この制度につきましては、法律家も注目しているものでありまして、2年目に向けてなんとか法律家の関心をつなぎとめたい・・・という思いから出席させていただいた次第でありまして、それなりに私が出席した意味はあったのではないか、と自分で納得しているところであります。

傍聴された方はお聴きになったところだと思いますが、当ブログでお約束したとおり、私の個別報告の内容は、(登壇された方々にご異論もあったかとは思いますし、司会の八田教授からも「冷たい意見」と揶揄されましたが)経営者不正には(いまのところ)あまり機能する制度ではない、ということと、まだまだ経営者評価といいながらも経営者が参加されているケースは少ないので、(ややとんがった意見であることは承知のうえで)経営者参加に向けてのインセンティブ作りに関する提言、というところでありました。

中身につきましては、また本日の議論は文書として公開されますし、速報版はおそらく旬刊経理情報さんや経営財務さんなどで伝えられるところに譲りますが、この制度を日本で作ろう・・・と考えていた時期に立ち帰って、平成16年ころの会計不信が世間で大いに問題とされていた頃の気持ちを再確認したことには意味があったと思います。また、現実に準備段階からこれまでの企業実務における効用や課題などを真摯に語っていただけたことも有益でありました。ただ、「費用対効果」の検証というときの「効果」というのは、いったいどんな「効果」なのか(株主の利益?投資家の利益?)というところの議論の整理が必要ではないか、と思いますし、また「ルールとレベル感」に関する意見の相違には(関係者間において)まだまだ深い溝(意見の対立)があるなぁ・・・ということを実感いたしました。また「重要な欠陥」なる言葉が独り歩きして「重要な欠陥」を表明した企業が「欠陥企業」などと新聞で報じられることへの拒絶反応の強さから、どうしても用語を変更してほしい、との意見も強かったようであります。

とりわけ印象深かったのが、IFRS強制適用の時代を前にして、原則主義(プリンシプルベース)と内部統制報告制度の運用との関連性に関する議論であります。金融庁の三井課長が「内部統制報告制度とIFRSの任意適用条件」との関連性については上手に整理されておられましたが、そもそもこれからの内部統制報告制度の運用として、さらなるルールの細則化を求めるのか、レベル感の統一を求めるのか、というあたりの問題は、原則主義を採用するIFRSにおける会計基準の適用や解釈についても問題となるのではないでしょうか?やはり企業としては「重要な欠陥」を残してはいけない・・・という意識が強く働くために、「これを遵守すれば大丈夫」「これくらいのレベルが有効性のミニマムスタンダード」という意識で運用していきたい・・・という考え方が強いところであります。しかしながら、そこから脱却しなければ、そもそもディスクロージャー制度としてのコーポレートガバナンスを実践していく道が閉ざされてしまうのではないか・・・という一抹の不安をぬぐいきれないところであります。いずれにしましても、本日の円卓会議の議論をもとに、当局サイドで見直しが図られるものと思いますので、どのあたりの議論が集約されるのか、楽しみであります。

あと、これは東証の適時開示に関するルールでありますが、今後は内部統制報告書におきまして、経営者が「内部統制に重要な欠陥が存在」又は「内部統制の評価結果を表明できない」とする場合に、当該内容の開示が義務付けられることになりますのでご注意ください。(上場制度整備の実行計画2009ー東京証券取引所)実際に、内部統制報告書に重要な欠陥を表明した会社さんにおきまして、説明不足のために投資家に財務報告そのものに欠陥があるものと誤解され、株価がかなり乱高下した例があったそうですね。

私的には、初めてお会いする方々と、いろんなお話をさせていただいたことは貴重でした。金融庁の方々とは過年度の内部統制報告書を訂正する場合における金商法上の法的責任に関する議論をさせていただきましたし、東証の静さんとは、いま商事法務で連載中の東証ルール改正の実務について、かなり突っ込んだ実務取扱などについてご説明いただきましたし、引頭さんにもいろいろと勉強させていただきました。また、持永先生にも少々無理な「お願い」をさせていただきました(笑)。ちなみに、冒頭の写真は討論者に授与されたトロフィー(クリスタルガラス)であります。(謝礼は一切ございませんので、謝礼に代わるものだそうです。これもアメリカの円卓会議と同様とのこと。また誤解のないよう申し上げますが、傍聴された方々にも、内部統制報告書関係資料完全版が配布されまして、これ一冊で傍聴券以上の費用がかかっております。したがいまして、傍聴された方々のチケット代金が、このクリスタルトロフィーの製作費に代わった、というものでは決してございません。)今後もまた円卓会議が続けられそうでありますが、法律関係者も、やはりどなたか内部統制報告制度に関心のある方が、これからも最低1名は出席していただきたい、と願っております。とりあえず今回出席させていただいたことは、日弁連(法務財団)において還元させていただくつもりです。栄誉ある第1回の円卓会議に(図々しくも)登壇させていただいたことにつきまして、関係者の皆様に厚く感謝申し上げる次第であります。

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2009年11月 2日 (月)

セクハラ事件と企業の内部統制構築義務(その2-判例編)

今年7月29日に「セクハラ事件と内部統制構築義務(コンプライアンスの視点)」なるエントリーをアップしておりますが、そこでは会社自身による職場環境配慮義務に焦点を宛てて検討したものでありました。前回は大学内の問題でもありましたし、また漠然と組織自身の債務不履行に関する問題でしたが、このたびの裁判例は、もうすこし企業経営者にとって深刻な問題なのかもしれません。

知的障害者の女性に対するセクハラ事件につきまして、大阪地裁は平成21年10月16日、セクハラ行為に及んだ男性だけでなく、当事者らが勤務する会社に対しても不法行為責任を認めたようであります(裁判所のHPより)。もちろん、これまでもいわゆる「二次セクハラ」として加害者男性だけでなく、その男性の勤務する会社が民法715条(使用者責任)または職場環境配慮義務違反(債務不履行責任)として、加害者男性と連帯して損害賠償責任が認容されたケースは多いと思います。しかしながら、今回の判決では、会社の責任は二重構造になっておりまして、一部は使用者責任であり、残る部分は会社社長の任務懈怠(内部統制構築義務違反)による不法行為責任(会社法350条)で構成されております。つまり会社代表者としては、セクハラ事件が発生した場合には、事実確認をして、加害者男性には毅然とした対応をとり、そして被害者女性にはメンタル面を含めた配慮措置が必要であるにもかかわらず、そのような措置をとらなかったことに会社代表者としての任務懈怠があるものと認定しております。(ちなみに、加害男性の被害女性に対する慰謝料は50万円程度、会社代表者がセクハラ苦情を放置していたことに関する被害女性への慰謝料は30万円程度、ということだそうであります)この判決の流れからしますと、たとえ社長自身がセクハラ事件の発生を知らなかったとしても、対応責任者のところへセクハラ苦情が寄せられ、具体的な相談に応じているようなケースにおきましては、その対応のまずさによって女性に多大な被害が生じますと、会社代表者自身の任務懈怠が問われることになる、ということだと思われます。これはセクハラ被害を受けている側とすれば、非常に効果的な争い方が可能になったものと思われます。なんといっても、会社の代表者が被告になる、もしくは代表者の「任務懈怠」の有無が争点となる、ということですから、会社側としても無視できない問題に発展するでしょうから、加害男性への訴訟効果は絶大なものとなる可能性があります。

最近は男女雇用機会均等法の2007年改正(セクハラ防止は会社の義務、と明記)によりまして、どこの会社にも「セクハラヘルプライン規約」のようなものが策定されていると思われますが、実際にはセクハラ被害の相談を受けた上司が、正規のルートによらずに加害男性とされる社員に対して注意をして終わり・・・という場合もあるかもしれません。しかし、上記のように、セクハラの加害男性と会社自身が不法行為責任を追及される場面であればまだしも、会社の代表者自身の不法行為の有無まで審理の対象となる(ひょっとすると、上記判決の理屈からしますと、セクハラ訴訟においては、今後会社代表者個人までが被告となる可能性も出てきます)のであれば、加害男性だけでなく、被害女性から相談を受けた上司や、セクハラ相談窓口担当者のような方々にとりましても、手続きは慎重に進める必要があるでしょうし(当然のことながら、相談を受けたにもかかわらず放置することは大きな問題であります)、被害者の人格権侵害・・・という極めて主観的な訴えを、懲戒処分という極めて客観的な判断にどのように「乗せ替える」のか、その工夫を検討しなければならない場面に遭遇することも多くなるように思われます。また、上記判例を読んでの感想でありますが、こういったセクハラ防止に関する内部統制構築義務を尽くしている・・・、つまり社長さん自身が、法的な責任を免れるためには、単にセクハラ防止のための規約や組織を整備するだけでなく、情報滞留などがないかどうか、通報に対して事実確認がなされたかどうか、などいわゆる規約や組織の運用に関する評価までをきちんと行っていることに尽きるのではないでしょうか。

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2009年11月 1日 (日)

上場企業による反社会的勢力排除への取組と「利益供与」

あいかわらず「不適切な会計処理」に関する社内調査報告書、社外調査報告書、改善報告書などを読み続けておりまして、だいたい平成18年以降、最近までの間に、こういった報告書が提出されている会計不正事件というものは70を超えるものであることがわかってまいりました。ここに経営者主導型の比較的著名な会計不正事案の報告書が加わりますと、おそらく80を超えるのではないでしょうか。なかには小説を読むよりもオモシロイ報告書もありまして、とりわけ会社ぐるみの粉飾モノよりも、(影響額は小さいかもしれませんが)幹部職員による資産横領(資産流用)事例、しかも長年発覚しなかった事件の報告書は「なるほど」と思わせる手口もあり、読む者を退屈させないものであります。

さて10月28日の日経新聞(夕刊)のニュース解説によりますと、福岡県(福岡県議会)ではじめて暴力団排除条例が制定された、とのこと。この条例では暴力団組員らに対する利益供与の禁止を明記し、土地や建物などを賃貸した業者には懲役や罰金を含むペナルティや公表措置などが盛り込まれているそうであります。ところで、このような刑事的制裁とは別に、反社会的勢力排除の仕組みについては、内部統制の基本方針として各上場企業にも盛り込まれるようになりました。また、昨年のスルガコーポレーションの事例でもありましたとおり、反社会的勢力との関係を断絶しなければ銀行や証券会社等の金融機関との取引が停止されてしまう・・・という事態も考えられるところですので、反社問題は各企業にとってコンプライアンス上の重要な課題になっております。

とりわけ上場会社にとって、これまで取引のあった相手方が「反社会的勢力である」と判明した場合(たとえば取引先銀行から、「あそこはヤバイ会社ですよ。」と指摘された場合など)、その取引をどうやって中止すればよいのか、悩むケースも出てくるのではないでしょうか。たしかに「反社会的勢力排除条項」を盛り込んだり、念書をとりつけている相手方も多いとは思いますが、「あなたのところは反社会的勢力だから、今後一切の取引はしない」と言い切るだけの証拠をどうやってそろえるのか、むずかしいところだと思います。(一歩間違えると反対に名誉棄損や信用毀損で損害賠償請求訴訟を提起されてしまうリスクも考えられるところです)

そんな困難に遭遇してしまった会社のリリースが10月30日の適時開示情報のなかに出ておりました。(不適切な取引に関する結果報告について-株式会社鶴見製作所)東証・大証1部の鶴見製作所さんの場合、子会社が(どのような経緯なのかは不明でありますが)ある個人(事業者?)に6000万円を貸し付けていたところ、貸付金の返済を受けている途中で(当該借主が)反社会的勢力であることが判明したそうであります。これはマズイ!ということで、鶴見製作所さんとしてはすぐに契約解消に乗り出し、この個人借主との間で、一括返済に関する交渉を行いましたが、残念ながら交渉は決裂したとのこと。そこでやむをえず貸付責任者だった、当時の子会社役員と協議のすえ、貸付残金(約1000万円)に関する債権を、この元役員の方が会社から買取り、債権譲渡手続をおこなったうえで、鶴見製作所グループと反社会的勢力との関係解消をはかったそうであります。鶴見製作所さんの場合、発覚時点で適時開示しており、また本リリースのように、交渉過程を開示しておられるわけで、きわめて透明性が高く、反社会的勢力との断絶に関する意識の高さがうかがえるところであります。また、このように取引先との関係断絶に関するスキームについても、私自身も参考にさせていただきたいと思った次第であります。

ただ、2点ほど、この鶴見製作所さんの交渉について疑問を抱いた点がございます。まずひとつめは、「債権譲渡手続をとることで、鶴見製作所グループと反社会的勢力との関係は解消されたのか?」という問題であります。たしかに貸付債権の譲渡手続は、鶴見子会社と元役員との間で合意すればよいわけでして、借主には譲渡通知を発送すれば対抗要件も具備できることになります。しかしこれはあくまでも「債権譲渡」に関するものでありまして、「契約上の地位の移転」ではありません。いまだこの反社会的勢力の借主に対する貸主としての契約上の地位は鶴見子会社に残っているはずであります。たとえば利息に関する合意の定めに反して、かりに鶴見子会社が多く利得していたケースや、残金計算にミスがあった場合などにつきましては、借主は、債権を譲り受けた子会社元役員に対してではなく、貸主たる鶴見子会社に対して返還を請求することになるはずであります。この「契約上の地位の移転」につきましては、借主の合意が必要になりますので、借主が承諾しない場合には、どうすることもできないわけであります。このような状況においても「反社会的勢力との関係は一切解消された・・・」とリリースで言いきっていいものかどうか、ということに一抹の不安をおぼえるところであります。(金銭消費貸借の場合、金銭を交付した貸主に残された義務はあまりありませんので、債権譲渡の手続によって、ほぼ契約関係も解消された・・・と実際には解釈できるのかもしれませんが法律上の理屈の問題としてはやや疑問が残るところであります。)

そしてもうひとつの疑問が、子会社元役員が鶴見子会社に代金を支払って、この1000万円の貸金債権を譲り受ける行為については、実質的には借主(反社会的勢力)に対する「利益供与」に該当しないのだろうか…という点であります。鶴見子会社としては、債権譲渡をしてしまった以上、もはやこの借主に対する債権管理を行う必要がなくなったはずであります。ということは、今後の個人借主の不払いリスクについては債権譲受人たる元子会社役員が負担していることになります。これは個人借主にとっては願ってもないことでして、債権者が上場会社であれば、不払いのケースはどれだけ訴訟費用がかかっても回収(担保権の実行を含めて)するはずでありますが、債権者が個人ということになりますと、たしかに担保権を含めて譲渡されているとしても、裁判を提起して、もしくは担保権の実行をして、なおかつ反社会的勢力による担保権実行の妨害リスクまで背負うとなりますと、これは並大抵のことではございません。(これは執行業務を経験した弁護士でないと、なかなか理解しがたいところだとは思いますが・・・)正直申し上げて、個人借主側としてもいろいろな和解に関する手法が検討されるところであります。また、実質的に考えても、このスキームですと、反社会的勢力とされる個人借主の貸金債務を元子会社役員の方が代位弁済することと同じ状況になっておりますので、(弁済による代位によって求償権を取得し、担保権を譲り受けているのとほぼ同じ状況)いわば鶴見製作所さんと元子会社役員さんが協議のうえ、代払いに関する合意を得たものと言えるのではないでしょうか。

早期に契約関係の解消を図りたい・・・という鶴見製作所さんの意図は十分に尊重されるべきですし、とりあえずできるだけのことをやれば金融機関から指摘を受けることもなくなりそうですので、当該処理方法そのものに賛同できない、というものでは毛頭ございません。ただ、こうやって検討しておりますと、すでに(排除条項なくして)取引関係に入っている相手方が「反社会的勢力」と判明した場合の対応というものは、やはりコンプライアンス経営の観点からみてもかなり困難を極める状況になることが認識できそうであります。有事を想定したうえでの、平時の取組み(内部統制の構築-たとえば排除条項の導入、念書の取り交わし、どのような事態となれば「反社会的」と推定するか、といった社内ガイドラインの策定など)が重要であることを痛感するような事例ではないでしょうか。

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