日本の社外取締役の役割-その「外観的独立性」
一昨日のエントリー「日本の社外取締役の役割-その有効性と効率性-」はたくさんの方にお読みいただきまして、ありがとうございました。m(__)m 私が日経新聞の「プロフィール」に顔写真入りで登場したことや、BLOGOSで「読まれているブログベスト10」に(めずらしく)ランクインしたことなどが重なったことによるものと思われます。
私自身はとくに意識していたものではありませんが、社外取締役の報酬が高いと独立性が保持できないのではないか?といった話題がコメントのなかで出てきておりましたので、ある方よりメールにてご意見を頂戴いたしました。ご意見は以下のとおりであります。
いつも「ビジネス法務の部屋」で勉強させて頂いています。
「日本の社外取締役の役割」というエントリーのコメント欄を拝見していて社外取締役の報酬は当該取締役個人が必ず受け取ることが自明のこととなっていることに少し違和感を感じました。
業務命令で他社の社外取締役に就任する場合には、相手先企業からの役員報酬は当該社外取締役が直接収受せず、自社(派遣元)企業が受取るという企業もあります。理由は自社の業務としての対価である自社からの給与を貰っているため、これに役員報酬を受け取ると二重取りになるためです。
一方、社外取締役の賠償責任の上限は役員報酬にリンクするという規定になることが多く、かつ社外取締役としての責任はあくまで当該個人が追うという法律の建付けのため、派遣先の会社と交渉し社外取締役報酬を可能な限り引き下げてもらうこともあります。だからといって、当該社外取締役のモチベーションが下がることはなく(自社から貰っている給与に変わりは無いので)、中立の立場で真摯に社外取締役としての業務をそれらの人は勤めています。以上ご参考まで。
ご意見どうもありがとうございました。そうなんですか・・・。社外取締役の報酬は派遣先企業からは支給されず、派遣元(親会社?)から支給される、という上場企業さんもある、ということなのでしょうか。賠償責任の問題まで配慮して派遣先からの給与も引き下げる・・・ということですが、そういった話は存じ上げませんでした。要は派遣元である企業の常勤業務の対価をもらっているのだから、派遣先である企業の社外取締役としての職務執行の対価は派遣先からはもらわない、ということなんでしょうね。
たしかに社外取締役が報酬をもらわない・・・ということは、高額の報酬をもらっている場合と比較すれば「会社に迎合しない」ようにも思われます。つまり一般株主の利益のために行動することが期待できる・・・ということなんでしょうね。ただ、ひとつ疑問が生じますのが、ここで上げられている例は親子上場のケース、もしくは親会社が非上場(子会社が上場会社)のケースだと思われます。親会社の業務の一環として子会社の社外取締役に就任されている方など、表面上は無報酬での業務かもしれませんが、親会社の利益と子会社の一般株主との利益が相反するようなケースの場合、はたして子会社取締役の方に公正な立場での職務執行を期待できるのでしょうか?社外取締役の独立性を議論する場合、企業内からの不当なコントロールの排除の問題と、企業外からの不当なコントロールの排除の問題が分けて議論されますが、ここでは後者の問題であります。
たとえば今年6月17日に公表されました経産省企業統治研究会報告書の立場では、社外取締役の実効性と独立性のバランスが重視されており、親会社から派遣されている、というだけで社外取締役に就任できない、というのは企業価値向上ということ(実効性)からみると妥当ではなく、たとえ親会社出身者であっても、上場子会社の一般株主保護を十分に期待できるような独立性を確保できればいいのではないか・・・ということが趣旨だったように記憶しております。この趣旨からすると、親会社の役員(もしくは従業員)が、上場子会社の社外取締役に就任することは、それだけでは禁止されるべきではないけれども、公正性を疑われないような外観的な独立性については配慮されるべきではないかと考えられます。そして社外取締役として就任している企業から報酬をもらっていない(逆にいえば親会社から業務対価として、その分の報酬をもらっている)ということであれば、どう考えましても親会社と子会社との利益相反関係が生じるような経営問題につき、親会社の利益を最重要視することにはならないでしょうか?もちろん、誠実で人格の高い方が社外取締役に就任され、そのようなことはない、と言われるケースもあるでしょうが、ここで問題となりますのは「外観的独立性」であり、「公正さが疑われるような外観」が認められれば禁止せざるをえないように思われます。
金融庁の内閣府令の改正により、今後は役員報酬の開示方法が変わるようでありますが、役員ごとの報酬の決定方法を明記する、といった改正により、社外取締役の報酬がゼロであるかどうかは、今後外からもわかるようになりそうです。本来役員報酬がゼロであるにもかかわらず役員に就任するということは、逆にいえば常勤として勤務する会社と当該会社との関係が問題視されることになるでしょうし、社外取締役として公正な職務執行は期待されないような事態になりそうであります。海外ではあまり親子上場などが認められていないものと聞き及んでおりますが、その原因が親会社と子会社一般株主間における利益相反状況にある以上は、むしろ子会社の社外取締役に就任する親会社出身者としては、正当な範囲内の役員報酬は受領すべきでしょうし、このあたりが社外取締役の実効性と独立性のバランスをはかるべきポイントではないかと考えております。
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コメント
いつも拝見して勉強させていただいております。青い字のメール投稿者の内容は、先生ご指摘のように、子会社等、関係が密な会社との(への)社外取締役についての例と思われますが、本来的な意味での、本来期待される意味での概念とは別次元の話だと思います。
A社がB氏に社外取締役就任を依頼する場合、あくまでのB氏の能力、経験、人望等を鑑みてツテの有無に関わらず依頼するケースが一般的だと思いますし、B氏が仮にC社の取締役や社外取締役等にある場合、その活動に支障がないことを考えて就任する、というのが通常想定されるケースだと思います。したがってあくまでもA社とB氏の個人の問題であり、「派遣(先、元)」という概念自体がイレギュラーな概念となると思います。
よって報酬については就任先から出されるのが当たり前でしょうし、額の問題は確かに微妙な要素を含むと思われるので、B氏も慎重に検討すべきとこころと思われます。
株式の問題もあります。以前は、就任時、B氏がA社の株式を保有しているか否かという点について、特に(社外ではなく)通常の取締役就任の際、株主から注目される要素ではありました。「A社に対する関心、責任云々」の観点からです。しかし、昨今は、特に「社外」の場合は、「所有していないほうが利害関係が薄れて客観的にA社のことを考えられるから好ましい」というようにとらえられる風潮に変わってきているように思います。まあ、これも考え方で変わりますが。
このように、報酬等の利害と社外取締役の問題はいろいろと考えさせられる要素を持っていますが、要は「まっとうな」指名、就任要請、承認など、適正な状況(やましくない関係、状況)であることが肝心なのではないか、と思います。
投稿: 伊藤晋 | 2009年11月26日 (木) 10時35分
派遣元企業が報酬を受け取るという話ですが、
私にはごく一般的なように思われます。会社から会社に依頼があり、委託された会社の経営陣が適当(適切?)な者を派遣する場合そうなるのでしょうね。
話は少し違いますが、社外取締役の就任を要請する場合、取締役会で選任し、
株主総会で承認されるというのが普通じゃないのでしょうか?
そうであれば、取締役会もしくは代表取締役に好都合な人が選任されると
思うのですが、違うでしょうか?
ですから、私は社外取締役にどれほどの牽制効果があるのか疑問です。
民主党が言っている社員の中から監査役を出すという案についても、
組合があるなら別ですが、組合のない会社で監査役になる社員がどのような形で
選任されるか考えると、経営陣の息のかかった者しか想定できないのですが、
悲観的すぎるでしょうか?
報酬の高はあまり関係ないように私は思います。
少し論点がずれているかも知れません。
投稿: 元システム監査人 | 2009年11月26日 (木) 13時17分
元システム監査人の投稿に対して反論します。山口先生を差し置いての法に関する言及で恐れ多いのですが、まず基本事項として、社外取締役は「会社から会社に依頼があるのではありません」。少なくともそれは「法そのものとは無関係の事象」です。A社とC「社」の契約ではなく、あくまでもA社とB「氏」の契約(関係)。社外取締役という概念(定義)は「派遣」という概念や状況を全く想定していません。全く関係のない次元の話です。
社外取締役の要件は会社法で「現在および過去において、当該株式会社またはその子会社の取締役や社員ではない人」とし、そういう人と、要請する会社との関係において成立するもので、その目指す主旨・理念としては「取締役会の監督機能強化を目的として、会社の最高権限者である代表取締役などと直接の利害関係のない独立した有識者や経営者などから選任される取締役」です。
また、会社法は、実務的にも「社外取締役等の独立性に関する判断材料の提供」に関して、社外取締役等に期待されている監督機能の評価に資する情報の開示に関して強化しています。例えば、株主総会における選任時、招集通知の「株主総会参考書類」で候補者の詳細な情報提供を義務付け、選任後は、年間の社外役員の活動状況などを翌年の株主総会招集通知通知(「事業報告」)で開示しなければなりません。
そして次の点が重要なのですが、確かに「社外取締役は(求める)会社が取締役会で候補者を決議し、株主総会で承認されます」が、元システム監査人様のいう「取締役会もしくは代表取締役に好都合な人が選任される」とは実は限らないのです。なるほど、現実はそういう場合の人、状況が多いのは事実かもしれませんが、代表者ないし取締役会の「レベル」が高ければ、法の主旨に実直に沿って「敢えて厳しい人を迎える」ことも皆無ではありません。例えば、おそらくそういう主旨で選任されたであろうソニーの社外取締役となったカルロス・ゴーン氏は、ソニーの取締役会で、当時の井出伸之CEOが提言した改革案に関して、「それはコミットメント(約束、責務)か?」と問いただし、これが引き金となって、結局、出井氏はその改革案(コミットメント)が実現できなかったことで引責辞任しています。「社外取締役である(「にすぎない?」)ゴーン氏が、実質的に出井氏に引導を渡した話」として有名な実話です。もちろん、これはたぶん日本においてはまだまだレアケース、ごく限られたケースだとは思いますが。
いずれにしても、「会社によって、社外取締役の認識、アプローチ、存在意義等は「まちまち」であるのが実情」と思われます。そして結局のところとしては、その会社がどういう社外取締役を選任しているのか、当該社外取締役がどういう活躍をしているのか、ということで、社外取締役の独立性が担保されているか否かにとどまらず、「その会社のレベル、ガバナンスの状況と有効性、遵法精神がある程度見てとれる」ということに他ならないのではないでしょうか。
投稿: 伊藤晋 | 2009年11月26日 (木) 16時22分
横から失礼します。
親会社として、上場企業ながら実質支配基準以上の株式を保有し連結しているなら、子会社に対して、親会社は人事異動と同レベルで取締役を派遣するのではないかと思います。その場合、子会社社長もそうやって派遣されているから、実質上拒絶もほとんどできないと思われます。
この場合に、従業員を派遣するときは労働契約がありますので100%本体から給与が払わされ、子会社からは出向に伴う役務提供契約に基づき親会社に役員報酬が払われます。親会社の役員が兼務するときは、ケースバイケースでしょうが、役員報酬が払われることはまれだと思います。
したがって、親会社からの派遣の場合は、親会社派遣の社外取締役の子会社における一般株主の利益も考えて行動するような、公平性、中立性はほとんど期待できないといえると思います。むしろ、実質利益相反取引も生じてしまう可能性があります。(ただ、親会社の利益に反するかもしれないことやっているケースなどでの子会社役員の責任の追及などでは、期待できるかと思います。先日の某社の例がありましたね)
一方、株主である会社が取締役派遣会社を出資先と見ている場合(銀行などの債権者からの派遣もこのケースに近い)には、当該受け入れ会社が拒絶できないばかりでなく、投資元の会社から派遣されたお目付け役と見ますので、報酬に関係なく、緊張感があると思われます。
(もちろん、この場合において、株主や債権者の利益の代弁者的な面が強すぎると、他の株主や債権者の利益との問題が出てきますが)
それ以外に、社外取締役になる場合は、社長の友人・知人か、第三者の進める法曹関係者・学識関係者などです。
前者は、結局社長に気に入られて採用されているので、これまた報酬に関係なく、よほどのことがない限りYESマンです。後者は、その人柄や報酬の多寡によるかもしれませんが、一般的に、中立・公正を保とうというマインドが強いものと思われます。
したがって、同じ社外取締役であっても、出自を明確にすれば、当該社外取締役に期待できる範囲と程度がわかると思います。その点で当該会社の取り組む姿勢がわかるものといえるのではないかということは、伊藤晋さんと同じような結論です。
投稿: 品川のよっちゃん | 2009年11月26日 (木) 17時14分
伊藤様。
少し言葉が足りなかったようです。
私が言っているのは必ずしも当初の目論見どおり社外取締役が機能しているとは言えない場合も少なからずあるということです。
全般的には「品川のよっちゃん」さんが言われていることとほぼ同等です。
株主が経営陣に行使できる影響ですが、例えば30%くらいの株を単独でもっている株主であれば、経営陣にものをいうために社外取締役の派遣も
可能かと思いますが、筆頭株主が10%にも満たないでどんぐりのせいくらべのような状況であれば、株主の影響力は期待できず経営陣の独断専行
が横行するような危惧を覚えます。
実は私の勤務している会社がこういう状況でして、経営に対しものを言えるものがいないということを問題に思っています。
投稿: 元システム監査人 | 2009年11月27日 (金) 09時40分