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2009年11月24日 (火)

日本の社外取締役の役割-その有効性と効率性

JR西日本社の社外取締役の方々は、同社監査役らとともに、このたびの福知山線脱線事故の報告書漏洩問題で報酬を自主返上されるそうであります。JR西日本社内では、上記脱線事故の調査報告書が公表される前に、すでに127名もの社員が非公式な報告書入手の事実を知っていたそうでありますので(10月24日日経新聞朝刊1面)、ひょっとすると同社の社外取締役や監査役の方々も、鉄道事故調査委員会とJR幹部との非公式な接触の事実を認識されていたのかもしれません。本来、社外取締役や監査役に期待される行動に出ることができなかったことへの反省なのか、それとも耳に入っていれば対応できたはずの大切な情報を収集できなかったことへの反省なのかは不明でありますが、いずれにしましても、世間一般に社外取締役に対して期待されるところの行動がとられなかったことにつきましては、非常に残念であります。

会計士さんの会計監査の在り方につきまして、「期待ギャップ」(世間における不正発見に向けての会計監査人への期待とは裏腹に、実際の職務は情報監査としての財務報告の適正性をチェックすることに向けられ、粉飾決算を暴くことは二次的な役割にすぎない)という言葉で表現されることがありますが、そろそろ社外取締役や監査役についても「期待ギャップ」という言葉で表現される時代が到来するのではないでしょうか。これまでは「御用監査役」「モノ言わぬ監査役」「お飾り取締役」などと揶揄される反面で、粉飾や企業不祥事が発生しても、経営者の暴走にブレーキをかけることができなかった責任などは厳しく問われることはなかったのかもしれません。しかしながら、昨今のガバナンス論議でも俎上に上るとおり、とりわけ社外取締役の役割につきましては、世間でもそれなりに適切な職務執行に対して期待されるようになり、ボードにおける社外役員の数や、その独立性判断などが厳格に問われるようになってきたものと思われます。

今朝(23日)の日経新聞一面では、経営コンサルティング会社の調査結果が紹介され、これによると平成21年8月末現在における東証一部上場会社のうち、社外取締役が在籍する全企業の約4割の取締役が大株主出身ということだそうであります。(取引銀行から派遣されている社外取締役を含めると過半数となります)また10月21日の同じコンサルティング会社による調査結果によると、社外取締役に就任されておられる方は著名人が多く、2社から5社程度兼務されている方も結構な比率でいらっしゃいます。実際このような就任状況をみますと、相変わらず「大所高所からのご意見番」的な社外取締役選任理由がうかがわれるところであります。しかしながら、数社兼務されていらっしゃるほどの著名な社外取締役の方々が、顧問や相談役としての職務と変わらないお立場で取締役としての職務をされているとすれば、これは少し「社外取締役としての効率性・有効性」の観点からみると物足りないのではないでしょうか。少数株主など幅広い利害関係者への配慮や、昨今の事業提携ブームや増資ラッシュなどの有事における独立公平な第三者としての意見表明など、資本市場から社外取締役に期待されるところは、これまでとはずいぶんと変わってきているものと思います。

独立公正な立場で重要な業務執行の決定権限を有するという社外取締役の重要な職務に鑑みるならば、その有効性・効率性を検討すべきは当然であり、有事においては広い意味でのコンプライアンスへの配慮だと思います。たとえば今回のJR西日本の件につきましても、当ブログでも述べたとおり、社内取締役の方々は、いくら平時は誠実な役員さんであっても、有事になればバイアス(偏見)が働くわけでして、社会一般の常識的判断から遠ざかっていくのが常であります。そこに「辞任しても食べていける」社外役員の偏見から解放された冷静な「社会常識の目」が必要となるのであり、企業を救う場面もあろうかと思います。JR西日本の情報漏洩問題については、「外観的独立性」の重要性を説く場面もあれば、非公式な接触が「ばれる可能性」について説く場面もあるかもしれません。また平時におきましては、日本の取締役会制度の補完、つまり非業務担当役員としての有効活用であります。取締役会や経営会議のおける取締役の監督機能が発揮できないのは、おそらく業務担当役員の集まりだからではないでしょうか。(もちろん例外もあるでしょうけど)私は内部統制の重要な構成要素たる「情報と伝達」を推進できるのは社外取締役をおいて他にはないと考えておりますが、いかがなものでしょうか。

民主党政権や証券取引所ルールが独立役員の数の増加や独立性の強化に向けた動きに出ている、とのことでありますが、せっかく上場企業全体において、社外取締役制度を強化するというのであれば、「数合わせ」や「アリバイ工作」に終始することなく、その有効かつ効率的な役割を検討し、実践していく必要があると考えます。そうでなければ、平成13年、14年当時に思い描いていた「委員会等設置会社が日本の会社を変える」というイメージと、何ら変わりのないものになってしまうのではないかと思ってしまいます。

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コメント

>>、「数合わせ」や「アリバイ工作」に終始することなく、その有効かつ効率的な役割を検討し、実践していく必要があると考えます。
賛成です。しかし、実際に有効にするための具体策は、中々思いつかないです。
社外取締役にそれなりの報酬を払えば、社外取締役はその地位にしがみつくため、会社側に迎合する可能性があります。無報酬とすれば、その弊害は避けられますが、なり手がいないでしょう。
やはり、最も良いのは、株主がガンガン訴えるということでしょう。
そういうプレッシャーがないと、普段顔を合わせているメンバーに迎合してしまうのが人情というものではないでしょうか。
まあ、代表訴訟も、株主が勝つのは中々大変で、いろいろと問題がありますけど。
一般論で言うと、私は「被害者の社会的責任」というのは、ものすごく大事だと思っています。被害者が立ち上がらなければ、何も変えられないです。
「傍観はいじめと同じ」と言いますが、「泣き寝入りはいじめと同じ」にもなってきていると思います。

投稿: 山口三尊 | 2009年11月24日 (火) 11時02分

「社外取締役にそれなりの報酬を払えば、その地位にしがみつくために、会社側に迎合する。」というのには、私は違和感を感じます。

社外取締役が、報酬額以上の業務をすることが本筋であり、そのために頻繁に会社に出向き、社外取締役としての職務を果たそうと尽力すべきであると思うのです。社外取締役として、何かを提案しようとしても、あるいは提案の為に質問をするとしても、現場を全く知らなくては、有効なことができないと思います。社外取締役が、例えば社内監査のある部分の関係を執行することでもよいと思うのです。

社外監査役にも、その任務を果たして頂くが本来の姿で、その中に、他に相応の収入があり、会社側に迎合せず、意見を述べることができる社外取締役が存在するとしても、当然異論はありません。
上場して間もない新興市場の企業と大会社とでは、その差は大きいと思いますが。

投稿: ある経営コンサルタント | 2009年11月24日 (火) 15時34分

三尊さん、経営コンサルタントさん、コメントありがとうございます。

株主や第三者から損害賠償請求を受けるおそれ、というものもある意味ではガバナンスにおいて必要不可欠だと思います。その「おそれ」だけでも十分なリスク管理のインセンティブになっているのが現実だと思います。

ただ、トライアイズのF監査役さんの行動をずっと1年近くみてきまして、私心なく会社のことを思って行動する役員の姿というのも美しいと思いました(もちろん、法的にはその行動の是非が問われることは承知しておりますが・・・)穴吹工務店さんの会社更生法申請のニュースをみていて、お家騒動が信用収縮につながるおそろしさみたいなものを感じましたが、それでも「おかしい」と感じたら、そのことをきちんと行動に示すことができる役員さんの存在は必要だと思います。「自浄能力」ということを私は期待したいです。

投稿: toshi | 2009年11月25日 (水) 01時53分

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