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2009年12月28日 (月)

私が選ぶ2009年最も注目すべき判決(大原町農協事件判決)

いよいよ今年もあとわずかとなりました。12月24日の日経新聞では、企業法務部門で弁護士人気ランキングに名を連ねていらっしゃる先生方が選んだ「2008~2009 注目した裁判ベスト10」が公表されていましたね。レックス、サンスター、長銀、日本システム技術、ライブドア、村上ファンド事件などなど、ビジネス法務に関連する事件が並んでおりました。(事業再生関連はあまり本業としていないため、そちらの関連裁判はあまり研究もしておりませんが)いずれの裁判も注目すべきものでありまして、当ブログ的にはやはり日本システム技術最高裁判決や長銀事件あたりが注目度の高いものでありました。

しかし今年に限って、ということになりますと、私はなんといいましても、この11月に最高裁第二小法廷の裁判官が全員一致の意見(高裁逆転判決)となりました大原町農協事件最高裁判決を掲げたいと思います。(当ブログでもご紹介したところであります)大原町農協の非常勤監事さんの農協に対する「監査見逃し責任」に関する判決であります。(おそらく)初めて「代表理事の不正見逃しの責任あり」と判決上認めたものであり、監事さんが組合内の慣行にしたがってその業務を行っていれば免責される、というものではなく、きちんと監事の業務は法律に規定されているとおりに行わなければ「任務懈怠」に該当すること、そして代表理事の不正については、その不正が外から見える状態なのに、これを見なかったことに焦点をあて、「おかしな兆候」の存在を判断基準としていることが注目されます。いっぽうにおいて厳しく、またいっぽうにおいて(後出しジャンケン的に責任が問われないように)限定的にその責任の範囲を画定しようとするものであり、きわめて妥当な判断枠組みではないかと考えております。

協同組合と株式会社という組織上の違いはありますが、農協法上は平成4年改正以来、農協ガバナンスにつき商法(会社法)の規定を準用しておりますので、JA中央会の定例監査があったとしても、まさに農協法上の監事と会社法上の監査役の職責にはほとんど差はないと思われます。したがいまして、この大原町農協事件最高裁判決は、会社法上の監査役の「不正見逃し責任」が問われる場合の判断基準となりそうであります。毎年決まっていることだけやっていれば監査役は免責される・・・ということは言えないのでありますが、いっぽうにおいて、どんなに社会的に大きく報じられた粉飾決算事件であっても、社内に「おかしな兆候」が認められない以上は、その監査責任は問われない、という基本的な判断枠組みによって、これからの監査役の損害賠償責任追及事件の争点が形成されていくものと予想いたします。簡単にまとめますと・・・

 <監査役の損害賠償責任の問われ方>

1 経営者と共謀 →×(損害賠償認容)

2 経営者の不正を知ってて放置→×(損害賠償認容)

3 経営者の不正を知らずに見逃し→△

これから著名な先生方の判例評釈が世に出てくるはずでありますが、私も中央経済社さんの旬刊経理情報2010年2月1日号(1月20日ころ発売)にて、この大原町農協事件判決の解説と、監査役実務への影響度について論稿を発表させていただきます。それほど高尚なものではありませんが、今後の議論の「たたき台」になれば、と思っております。もしご関心がございましたら、そちらになるべくわかりやすく、各論点について解説させていただきましたので、お読みいただけますと幸いです。

12月 28, 2009 商事系 |

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コメント

いつも新鮮な話題をありがとうございます。私もこの最高裁判例には注目しています。ご指摘のような論点のほかに、任務懈怠と損害との因果関係の有無についても争点になりうるのではないかと思います。たとえば監査役の任務懈怠を論じる場合、たとえば1事業年度を単位として認定するのか、それとも個々の行為(不作為)を単位として認定するのか、そのあたりはいまだあいまいなままになっているのではないでしょうか。何を基礎として任務懈怠を論じるかによって、損害との因果関係の立証も変わってくるはずです。
瑣末にすぎない話かもしれませんが、ご感想まで。

投稿: ノンスタイル | 2009年12月28日 (月) 10時04分

ノンスタイルさん、参考意見ありがとうございます。
ご指摘のとおりかとは思いますが、今回はあまり深入りせずに思ったままを率直に論文にしてみました。法律家向けの論文となりますと、さらに分析が必要となるでしょうね。そういったものはまた著名な先生方におまかせいたします(笑)
本年もどうかよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2010年1月 4日 (月) 01時37分

本判決は、業務執行についてのもので、経営判断を尊重するという配慮が抽象的には働きうること、また、すべてを監事はモニターできる能力も資源も有していないことを前提としています。他方、粉飾決算の場合には、監査役は会計監査権限(かつ任務)を有する以上、「社内に「おかしな兆候」が認められない以上は、その監査責任は問われない、という基本的な判断枠組み」よりは厳しい判断基準が適用されるのではないかとおもいます。すなわち、会計監査として行うべき一定の手続きを踏むという、より積極的な行為をしていなければ、やはり、任務懈怠となると解さないと、会社法の文言からは無理がありすぎるのではないかと思われます。

投稿: 通りすがりの商法研究者 | 2010年1月 6日 (水) 22時09分

通りすがりの商法研究者さん、ご教示どうもありがとうございます。おそらく基本的には考え方は共通しているものと思います。エントリー記載のとおり、私は一方で監査役は「法に従ってやるべきことはやっておかなければならない」しかし他方で、やると言っても、定例のものをやればいいというのではなく、どっかに深度ある監査に移行しなければならない穴、つまり「おかしな兆候」があれば、それを発見する必要があると考えています。ご指摘のとおり業務監査と会計監査については、期中、期末の作業はきちんと行っていることを前提としています。「会計監査として行うべき一定の手続をふむ」というのも、これに含まれるのではないでしょうか?
ただ、ここでやっかいなのが、上場会社の場合には会計監査人の会計監査と監査役との関係だと思います。抽象的には会計監査人の監査の方法及び結果の相当性を判断するための業務であるというのはわかりますが、いざ粉飾決算が発覚した場合に、果たして会計監査人の監査責任とは別に、どのような業務をとらえて会計監査上のミスが監査役に問われるのでしょうか?このあたりも検討してみたいと思っております。
また、よろしければいろいろとご意見いただければ幸いです。

投稿: toshi | 2010年1月 6日 (水) 22時42分

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