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2009年12月31日 (木)

皆様、良いお年をお迎えください。(ごあいさつ)

本日(30日)まで、いろいろと慌ただしく仕事をしておりました。それにしても今年一年は本当に忙しかったです。ハラハラドキドキの毎日でした。ここ数年はブログでもご紹介しておりましたように、年末年始は家族旅行でしたが、今年はセンター試験直前ということもありまして、家族で「ひっそり」と自宅で新年を迎えます。正月は自宅で読みたかった内田樹先生の「日本辺境論」をじっくりと楽しみたいと思っています。

今年1年、当ブログをご覧いただき、ありがとうございました。最近ちょっと更新頻度が少なくなっていますが、来年もボチボチと続けていきたいと思っております。それから、多くの方々からメールにて諸々の法律問題についてお問い合わせを頂戴しておりますが、なかなか本業に忙しく、ご返答できずに申し訳ございません。(なおコメントにつきましては、ボチボチとご返答差し上げるつもりです。こちらも有識者の方々のハイレベルなコメントが増えておりますので、なかなかナイスなお返事をできずに申し訳ございませんm(__)m )

日本興亜損保社の臨時株主総会の議決権行使結果の開示がなかった(31日未明現在)のが残念でありますが、まだまだこれからも関心を持ち続けたいですね。では、皆様もどうかよいお年をお迎えください。(来年もいい年でありますように・・・♪)

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2009年12月28日 (月)

私が選ぶ2009年最も注目すべき判決(大原町農協事件判決)

いよいよ今年もあとわずかとなりました。12月24日の日経新聞では、企業法務部門で弁護士人気ランキングに名を連ねていらっしゃる先生方が選んだ「2008~2009 注目した裁判ベスト10」が公表されていましたね。レックス、サンスター、長銀、日本システム技術、ライブドア、村上ファンド事件などなど、ビジネス法務に関連する事件が並んでおりました。(事業再生関連はあまり本業としていないため、そちらの関連裁判はあまり研究もしておりませんが)いずれの裁判も注目すべきものでありまして、当ブログ的にはやはり日本システム技術最高裁判決や長銀事件あたりが注目度の高いものでありました。

しかし今年に限って、ということになりますと、私はなんといいましても、この11月に最高裁第二小法廷の裁判官が全員一致の意見(高裁逆転判決)となりました大原町農協事件最高裁判決を掲げたいと思います。(当ブログでもご紹介したところであります)大原町農協の非常勤監事さんの農協に対する「監査見逃し責任」に関する判決であります。(おそらく)初めて「代表理事の不正見逃しの責任あり」と判決上認めたものであり、監事さんが組合内の慣行にしたがってその業務を行っていれば免責される、というものではなく、きちんと監事の業務は法律に規定されているとおりに行わなければ「任務懈怠」に該当すること、そして代表理事の不正については、その不正が外から見える状態なのに、これを見なかったことに焦点をあて、「おかしな兆候」の存在を判断基準としていることが注目されます。いっぽうにおいて厳しく、またいっぽうにおいて(後出しジャンケン的に責任が問われないように)限定的にその責任の範囲を画定しようとするものであり、きわめて妥当な判断枠組みではないかと考えております。

協同組合と株式会社という組織上の違いはありますが、農協法上は平成4年改正以来、農協ガバナンスにつき商法(会社法)の規定を準用しておりますので、JA中央会の定例監査があったとしても、まさに農協法上の監事と会社法上の監査役の職責にはほとんど差はないと思われます。したがいまして、この大原町農協事件最高裁判決は、会社法上の監査役の「不正見逃し責任」が問われる場合の判断基準となりそうであります。毎年決まっていることだけやっていれば監査役は免責される・・・ということは言えないのでありますが、いっぽうにおいて、どんなに社会的に大きく報じられた粉飾決算事件であっても、社内に「おかしな兆候」が認められない以上は、その監査責任は問われない、という基本的な判断枠組みによって、これからの監査役の損害賠償責任追及事件の争点が形成されていくものと予想いたします。簡単にまとめますと・・・

 <監査役の損害賠償責任の問われ方>

1 経営者と共謀 →×(損害賠償認容)

2 経営者の不正を知ってて放置→×(損害賠償認容)

3 経営者の不正を知らずに見逃し→△

これから著名な先生方の判例評釈が世に出てくるはずでありますが、私も中央経済社さんの旬刊経理情報2010年2月1日号(1月20日ころ発売)にて、この大原町農協事件判決の解説と、監査役実務への影響度について論稿を発表させていただきます。それほど高尚なものではありませんが、今後の議論の「たたき台」になれば、と思っております。もしご関心がございましたら、そちらになるべくわかりやすく、各論点について解説させていただきましたので、お読みいただけますと幸いです。

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2009年12月26日 (土)

日本興亜損保総会開催禁止仮処分命令(→却下とのこと)

私の予想では28日に決定が出るのでは・・・と思っておりましたが、週末に決定が出されたそうです。(日本興亜損保のリリースより。申立て却下とのこと。決定文読んでみたいですね。)ということで、予定どおり30日に統合承認のための株主総会が開催される模様であります。とりいそぎ速報版ということで。

PS

しかし保険金支払い遅延問題はいったいどこへ行ったのでしょうか?OB株主も現経営陣もあまり関心は高くないのでしょうか?今回の統合問題と支払い遅延問題とは何ら関係がないということなのでしょうか?・・・ナゾです。

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2009年12月25日 (金)

東証ルール「独立役員」の独立性とその善管注意義務との関係

12月24日、東京証券取引所のWEBサイトに業務規程の一部改正及び(5年ぶりの)上場会社コーポレート・ガバナンス原則の改正がリリースされております。今回の諸改訂は、すでにエントリーのなかでもご紹介いたしましたが、「上場制度整備の実行計画2009(速やかに実施する事項」の具体的な実施ルールとして規定されたものであります。施行は本年12月30日とのこと。なかでも、「ビジネス法務」2010年2月号(中央経済社)にて東証に出向されていた弁護士の方がお書きになっているとおり、「独立役員」(独立性要件を満たした社外取締役・社外監査役)確保の要請につきましては、その違反についてペナルティが設けられておりますので(ただし1年余りの猶予期間あり)、役員候補者の確保に向けた今後の各上場会社の対応が注目されるところであります。

「一般株主との利益相反が生じるおそれのない程度の独立性」が求められておりますので、ある事実が発生した場合だけ、社内での意思決定から排除される、ということでは足りず、たとえ明確に利益相反状況が発生していなくても、発生するおそれがある以上は独立役員に求められる独立性に問題あり、ということになるのでしょうね。とりわけ東証1部の上場子会社における独立取締役などは、その8割が独立性に問題があるとされておりますので、こういった上場子会社の場合、この証券取引所ルールに対してどのように対応するのでしょうか。

もちろん、金融庁スタディグループ報告書(2009年6月17日)や経産省企業統治研究会報告書(前同日)でも問題とされたように、ガバナンス改正によるパフォーマンス向上のためには、社外役員の独立性を厳格に求める立場とは別に、業務に精通した外部の者による指揮監督の有効性を求める立場もありうる、とされておりますので、多少外観上の独立性には問題があっても、(取引所との事前相談の末)独立役員にふさわしいということであれば、就任することは可能のようであります。ただし、その場合には、独立性要件に問題があっても、なお独立役員として就任する理由をコーポレート・ガバナンス報告書に記載しなければなりません。この理由というのはどのようなものなんでしょうか?「外観上は問題がありそうだけど、○○の理由で一般株主とは利益相反のおそれが生じない」とする理由なのでしょうか、それとも「独立性には外観上問題はあるものの(つまり利益相反のおそれは認められるものの)、うちの会社の事情については精通しており、代表者でもその意見には傾聴せざるをえない立場なので、独立役員にふさわしい」といった理由なのでしょうか。取引所が独立性に問題あり、とするのは親会社の「元業務執行者」も含まれておりますし、また先に掲げた報告書の内容などからすると後者だと思われますが、いずれにしましても、利益相反が生じる可能性というのは、当該会社に対してコントロールを及ぼす立場からの問題(たとえば親会社の業務執行者が就任するケース)と、当該会社からコントロールを受ける立場からの問題(たとえば顧問法律事務所に所属する弁護士)がありますので、独立役員候補者の立場ごとに、それぞれ適切な理由が検討される必要がありそうですね。

ただ今後の課題として、独立役員の指定理由を記載しなければならないような方が独立役員に就任する場合、その方の法的責任については何らかの影響は出ないのでしょうか?たとえば社外監査役に弁護士や会計士が就任しているケースでは、その高度な法的知識や経験、財務会計的知見を有する者として、当然のことながら(もちろんある特定の事項に限られますが)一般の監査役に要求されるレベルよりも高度な注意義務が法的に課されていると思われます。(したがって、常勤監査役には過失はないが、非常勤社外監査役には過失が認められる、という事態は当然に考えられます)これと同じく、たとえば社外監査役や社外取締役に、業界事情に精通しており、経営判断に大いに資するような方、という理由で独立役員を選任する場合、一般の取締役や監査役よりもレベルの高い注意義務というのは、この独立役員の方々に課されるようなことにはならないのでしょうか?これまでも同様の理由で社外役員を選任してきた会社も多いかとは思いますが、やはり「独立性要件」が明確になり、また要件を満たさない場合の説明が求められるようになる以上は、社外役員にプロフェッショナルとしての素養が求められる人達も出てくるように思われます。一般株主との利益相反状況を排除することに多少問題があっても、「この人なら会社のことを熟知していて、なおかつその経営判断に期待できる」という理由で役員に選任した、ということであれば、ガバナンス向上のためには、原則どおりに投資家の投資判断や株主の議決権行使にゆだねるべきなのか、それとも投資判断を超えて、善管注意義務(法的責任論)で実効性を確保すべきなのか、そのあたりも検討に値する課題ではないかと考えますが、いかがなものでしょうか。

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2009年12月23日 (水)

日本興亜損保・総会開催禁止の仮処分再度の申立て(クリスマスラウンド)

(23日午後:追記あり:株主有志の会のWEB更新を教えてくださった方、ありがとうございます)

先日、朝日新聞の「ひと」で紹介いただいたときの記事に「深夜の開示は蜜の味」といったフレーズが引用されておりましたが、22日の午後10時をまわった時点で、日本興亜損保の代表者を債務者とする株主総会開催禁止の仮処分命令申立てがなされた旨、日本興亜損保よりリリースされております。先日、6名の株主より本日開催予定だった日本興亜損保社の臨時株主総会について、その開催を禁止するよう求める仮処分申立てがなされ、これを30日に延期することが決定された後に取り下げられましたが、本日ふたたび(おそらく同じ株主の方々だと思いますが)30日の臨時株主総会の開催禁止を求める仮処分命令申立てが東京地裁に提出されたようであります。(いちおう予想されていたところではありますが、いよいよ第2ラウンド開始ということですね。)

日本興亜損保の真の発展を願う株主有志の会のWEBページにおきまして、(現時点では)このたびの仮処分命令申立書は公表されておりません。このたびの申立内容がリリースされております(一部未公表部分あり)。そこで私個人の推測ではありますが、仮処分命令申立ての被保全権利は(やはり)株主による取締役の違法行為差止請求権(会社法360条)であり、その根拠は日本興亜損保の臨時株主総会の招集権限を有する代表取締役の総会招集手続きに著しい不公正又は法令定款違反がある、ということではないかと思われます。具体的には、従前記者会見において「招集通知の参考書類として添付します」と述べていた(統合比率の適正性を判断するための)資料が添付されておらず、実際には会社のWEBページで開示されているのみである点や、第三者算定機関に対して適正な統合比率の算定を依頼した際に、日本興亜損保の株主が不利になるような条件を付して算定依頼をしたことから、取締役会は一般株主と利益の相反する行為を承認したものとして、瑕疵ある取締役会決議に基づく総会招集手続きがなされた、といったところではないかと想像いたします。(もし違っておりましたら訂正いたします) 追記:推測していた点も一部含まれておりますが、実際にはかなり詳細な根拠が記載されております。招集手続の瑕疵以外に決議方法に重大な瑕疵がある・・・という争点については存じ上げませんでした。ご関心のある方は、上記「有志の会」WEBページをご覧ください。

本日、統合の相手方である損保ジャパンの臨時株主総会では、統合を承認可決したことからみて、統合比率そのもの瑕疵を問題にしてしまってはあまりにも影響が大きいものとなりますので、日本興亜損保の株主の利益侵害という点だけに絞って主張を展開されるものと思われますし、また損保ジャパンの「統合承認」という事実がはっきりした以上、日本興亜損保の総会開催を禁止する以外には、もはや取締役の違法行為を差し止める方法がなくなった、ということになりますので、保全の必要性の要件からみましても、このタイミングしかなかったということなんでしょうね。前回のエントリー同様、申立てに対する個人的な意見は差し控えさせていただきますが、ここのところ事業統合、組織再編は大手の上場会社さんでも頻繁に行われるところですし、統合比率の公正性(価値的な判断)と手続きの公正性(価値算定のためのプロセスの判断)については多くの事例で問題視されておりますので、この第2ラウンドにおきましては、ぜひとも裁判所の判断を仰いでいただきたいところであります。(そういえば、本日の適時開示を眺めておりましても、本件とは資本関係が若干異なりますが、イーアクセス社とイーモバイル社の統合交渉において、イーアクセス社は社外取締役ら6名で構成される独立委員会が今後の主導的役割を果たす旨、公表されておりました)

しかし臨時株主総会が12月30日ということですと、明日(23日)が祝日ですから、平日はたったの4日間しかありません。(24日、25日、28日、29日)ということは審尋期日はこの4日間において行われることになりますし、(もちろん商事部裁判官との事前面談は行われているものと思いますが)クリスマスどころの話ではないですよね。当然、株主側も会社側も、単に開催禁止の裁判だけに専心してはおれず、実際に総会が開催された場合の対応についても準備をしておくはずですから、一般の株主の方も含めて、たいへんな年末になってしまいました。この季節になりますと、佐野元春さんの「クリスマスタイム・イン・ブルー」という曲が好きでよく聴きますが、そのなかで戦場でも一時休戦してクリスマスを祝う・・・というシーンが出てきます。しかしこの仮処分命令申立て事件だけは、そんなことを言っている場合ではなさそうであります。

最後に前回のエントリーに対するオープンセサミさんのコメントをご紹介いたします。

仮処分申立ては、指摘資料の追加添付をもって、目的達成し取下げとなりました。私のように法律、会計知識が十分でない者には、「封筒に一枚入ってない。」→「入れ忘れたので、送ります。」ということだけであったように見えます。なぜたったこれだけのことが、多くの株主、投資家の皆さん、報道関係まで巻き込んで、普通の株主の皆さんが参加出来にくい年末の日に開催日を延期までして、やらなければらないことだったのでしょうか。納得しにくいことであり、別の目的があるならば、より多くの人々にも、私のような1000株株主、他の株主にも知らせてほしいと思いました。

ご意見どうもありがとうございます。m(__)m 一般株主の皆様方の偽らざる心境だと思います。しかし、その封筒に入っていなかった一枚の紙がどういったものだったのか、参考書類に入れますと言いながら、WEB開示をした資料がいったいどういった意味を持つのか、今回の臨時株主総会で決定される内容の重要性からすると、誰かが一般株主の方々に解説する必要があるのかもしれません。その紛争はあるときはお家騒動のようなものであり、またあるときはアクティビストファンドの濫用的買収のように見えるかもしれませんが、いっぽうにおいて現経営陣の意思決定が100%正しいものとも言えないものと思います。本来会社法が目指してきた道は、こういった紛争解決もありうることを前提としてきたのではないか、と(トライアイズの事件などをみてきた)私は素直に思うところであります。

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2009年12月22日 (火)

「ふしぎな開示」研究会に参加してきました。

(今日のエントリーはBLOGOSに転載していただかなくても結構です 笑)本日は終日東京でして、お昼は日弁連のコンプライアンスPTの会合に出席して、夜は東京の某所におきまして「ふしぎな開示」研究会の第1回会合に参加してまいりました。不適切な会計処理に伴う会計不祥事発覚の事例などを題材として、企業の開示情報から、「おかしな兆候」とか「ふしぎな開示」などを探ってみよう・・・・・、という企画のもとで始まった研究会でして、メンバーも不思議(笑)。 東京の弁護士さんとか、会計士さんとか、トレーダーの方とか、アナリストの方とか、証券会社の方とか、著名な個人投資家の方とか、ディスクロージャー関連会社の方とか、某マスコミの記者さんとか、その他本当に「ふしぎの国」からやってきている人たちとか(笑) いや、ほんとにふしぎな研究会です。私が更新のたびにチェックさせていただいているIF○S関連に精通されている某ブロガーの方もいらっしゃいましたし、いつも拝読しているディスロージャー関連の基本書の著者の方もいらっしゃいますし、なんか感動モノでした。

私なんかは、新聞である会社の不祥事が報道されたり、適時開示情報でリリースされるのを読んだりすると、そこからワクワクドキドキ(?)したりするのでありますが、さすがに投資家の方々は「いやもうそこまでくると、とくに関心はありませんね」「不正を起こしたことに関心があるのではなく、問題企業であることにいつ気がつくか、ということのほうが大事です」といったあたりのご発言には、なるほど納得がいきました。何が「ふしぎな開示」なのか、何をもって「おかしな兆候」とみるのか・・・、こういった感覚は企業の内部の問題(たとえば内部監査室)として捉えることはよく議論されるところでありますが、企業の外部から「開示情報」をもって問題性を察知するノウハウのようなものは、実はあまりこれまで議論されてこなかったのかもしれません。(外部情報を分析するのはあくまでも企業の業績予想・・・という認識しかもっていなかったのかもしれませんね)

あっという間の2時間半でありましたが、「なんぞある?」といった感覚を養うにはたいへん貴重な研究会ですので、不定期ではありますが、また開催されるときにはぜひ参加させていただこうかと思っております。(幹事の○○さんには、感謝、感謝であります)

なお、お昼のコンプライアンスPTでありますが、こちらもいよいよ佳境に入ってまいりまして、日弁連としての提言をまとめて、企業におけるコンプライアンス経営実現に向けて、関係各所に発信する予定になっております。

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2009年12月21日 (月)

不適切な会計処理の判明と内部統制報告書の訂正について

上場会社にとりましては、財務報告に係る内部統制報告制度はすでに2年目の運用に入っている企業も多く、「効率化」といいつつもあまり監査報酬額は減っていないのでは?と考えていらっしゃる方も多いかもしれません。

ところで12月20日現在、「訂正内部統制報告書」を提出した会社が24社あるのを(EDINETの開示より)ご存じでしょうか?もちろん、訂正の内容は、そのほとんどが誤記、脱字の修正でありまして、報告書提出直後に訂正報告書を提出しているものであります。しかしながら、このなかの3社につきましては、報告書提出後に社内で会計不祥事が発覚し、評価結果に関する事項に実質的な変更を加えた訂正報告書を提出しておられます。事業年度末の評価においては「内部統制は有効と判断する」と報告されていたところ、評価結果を訂正して「内部統制は有効とは認められない」と訂正したのがイエローハット社(8月6日付け)とイデアインターナショナル社(11月17日)であり、内部統制は有効とは認められないとする評価結果については同様であるものの、その理由に不祥事発生の事実を追加したのがミツウロコ社であります。イエローハット社では前事業年度の繰延税金資産の取り崩しに係る処理に不備があり、決算財務報告プロセスにおけるチェック体制が不十分であることが指摘され、またイデアインターナショナル社では棚卸資産評価損の会計処理(洗い替え)について長年にわたりミスを繰り返していた、ということでこちらも決算業務におけるプロセスに重要な不備があったものと評価しなおしたもののようであります。報告書提出の翌期の第一四半期レビューの時点で監査法人さんから誤りを指摘され、その旨訂正したようなケースであればしかたないのかもしれませんが、自社の内部監査で不信点を洗い出し、その結果不適切な会計処理が判明し、過年度決算訂正に至ったような場合、(有価証券報告書の訂正は当然のこととして)はたして過年度の内部統制報告書まで訂正しなければならないのか、少し疑問に思うところであります。

また、イエローハット社は訂正内部統制報告書を提出する旨、適時開示しておられますが、イデアインターナショナル社は適時開示の対象とはしておりません。東京証券取引所の2009上場制度整備の実行計画に基づく要綱では、今後は企業が重要な欠陥を認識して内部統制が有効とはいえないと評価することの社内決定があった場合にも適時開示しなければならないところ、こういった訂正内部統制報告書を提出する場合にも適時開示の対象になるのでしょうか?(すくなくとも評価結果に関する事項に、重要な虚偽記載が認められるには適時開示の対象とすべきではないでしょうか?)このあたり、要綱案を見る限りではよくわかりませんでしたので、また金融庁の認可を得て正式に公表される適時開示ルールの中身をチェックしておきたいと思います。

また、決算財務報告プロセスに重要な欠陥が認められ、評価結果についての訂正を要するような場合であればともかく、業務プロセスに重要な欠陥が期末に残ったケースでは、その業務が評価範囲内であれば訂正を要し、評価範囲外からの判明ということであれば訂正は不要とされております。(金融庁Q&A)しかし、実際に評価範囲を決定するのは、全社的内部統制の評価を前提になされるものであります。もし評価範囲外から会計不祥事が発覚したようなケースでは、まずもって内部統制の評価範囲を決定するもとになる全社的内部統制におかしな点がなかったのかどうか、そこからいったんは検討すべきではないでしょうかね?今後とも訂正内部統制報告書が提出される機会は増えると思いますが、どのような実務が定着していくのか、関心が高まる点であります。

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2009年12月17日 (木)

闘うコンプライアンス(しまむらvs新潟県加茂市)その1

世間ではあまり注目されていないようですが、ちょこっとだけマスコミで報道されているのがファストファッションでおなじみ しまむら社(東証1部)が新潟県加茂市より刑事告訴を受けている(正式には刑事告発でしょうね)模様で、12月8日には地元警察がこれを受理したそうであります。

闘うコンプライアンスといえば、過去にはヤマハ発動機のヘリコプター輸出(関税法違反)刑事事件(株主総会で代表者が「かならず社員を救ってみせる」と株主に誓い、見事二人の社員は無罪判決)や不二家信用回復委員会(でしたっけ?)のTBS抗議事件などが著名なものでありますが、このたびのしまむら社も「法令遵守」のために闘う姿勢をみせておられるようであります。

ニュースでは、しまむら加茂店の売り場面積拡張に「待った」をかけるため、今年7月に加茂市が臨時議会で条例を改正した、というものでして(加茂都市計画地区計画による建築物の制限に関する条例の制定 7.17 原案可決)、すでにしまむら社は新潟県から拡張に関する許可を得ていたことから、そのまま加茂市の制止を振り切って面積拡張に踏み切ったというもの。今年に入ってからしまむら社と加茂市とは交渉を繰り返してきたようですので、この7月改正はまさに「しまむら対策」として制定された可能性は高いのかもしれません。行政刑罰が盛り込まれている条例ですので、制定段階では検察庁との協議も終えているはずですので、今後は罰金の適用が検討されるところだと思われます。

もちろん加茂市側としても、地元商店街と大型店との共存体制を構築するためには、どうしても大型店舗の規制に乗り出す必要性もあるでしょうし、政策法務としてはしまむら社と協議を重ねることは重要なことだと思います。ただ、それを条例という行政手法によって規制し、かつ刑事罰をもって臨む、となりますと、これまた企業コンプライアンスという観点からは問題が発生するものと思います。つい先日も、最高裁で初めて条例に対する行政処分性が認められております。つまり、特定個人の人権規制を狙ったような条例の制定については、(条例といえども紛争の成熟性が認められるので)取消訴訟の対象になることが判断されました。したがいまして、今後は自治体の条例制定の裏にある立法事実が厳格に判断されることになるのではないでしょうか。

条例にしたがって刑事罰が課されるとしましても、この条例自体が憲法違反もしくは法令違反ということになりますと、当然に無罪ということになります。たとえばしまむら社が「自社は法令に違反するようなことは決してしていない」と主張するのであれば、この条例の合憲性、合法性に関する主張を堂々と展開されるでしょうし、それはまた売り場面積拡大を取締役会で決議した役員の方々に経営判断原則が適用される前提になるものと思われます。

自治体の(地域社会のための)政策法務による企業規制と、企業のコンプライアンス経営の必要性とが真正面からぶつかりあう珍しいケースであり、今後の企業コンプライアンスの在り方を検討するうえでも貴重な事例です。今後の動向に注目したいと思います。(でも、ニュースでとりあげられないとちょっと進展はわからないかもしれません。しまむら社のHPにも、また加茂市のHPにもリリースされていないようですし・・・・)

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2009年12月15日 (火)

日本興亜損保・臨時株主総会開催禁止の仮処分申立の行方

当ブログでも、過去2回ほど話題として採り上げました日本興亜損保・損保ジャパン統合問題でありますが、12月22日の(統合承認に関する)日本興亜損保の臨時株主総会開催を目前にして、6名の個人株主の方々による総会開催禁止の仮処分命令申立事件が東京地裁第8民事部に係属したそうであります。損保ジャパン側が今年5月に発行した劣後債(1280億円)については、年度末以降に生じた財産状況に重要な影響を与える後発事象であるにもかかわらず、日本興亜損保側は、招集通知の参考書類のなかでなんら記載がされていないことを捉え、取締役による招集手続きに法令違反があるとして株主による差止請求権(会社法360条)を根拠とされているようです。(民事保全法23条2項。差止請求権を被保全債権とする株主総会開催禁止の仮処分申立て-議案の決議をすることの禁止ではなく、総会自体の開催禁止を求めるもののようですね。)

すでに11日の時点で数社のマスコミが、この仮処分申立ての事実を報道しておられたようですが、単にニュースとして報じられていることをお伝えするだけでは、このブログでエントリーする意味もあまりないように思います。むしろ、先日のトライアイズ社の株主総会直前期のように、会社が報じていないような情報がWEB上で公開されている・・・といった事例におきまして、いろいろと検討することに意味があるものと考えております。ということで、ある方から教えていただきましたのが、「日本興亜損保の真の発展を願う株主有志のHP」であります。たしかに、多くの掲示板で話題になっているとおり、元社長さんと現社長さんとのバトルの続きであり「どっちもどっち」と冷静に受け止める向きもあるかもしれませんが、企業コンプライアンスの視点からすれば、法令違反がそのまま「力によってねじ伏せられる」ような事態については正されるべきものであり、もし「力がまかりとおる」のが株主民主主義だとしましても、それはきちんと株主が力を発揮できるだけの正しい情報が(議決権を書面で行使する株主も含めて)入手されることが不可欠の前提と考えます。

この株主有志の方々のHPには申立書面が掲載されておりますが、統合予定会社(正確には持ち株会社を新設するものですが)の劣後債発行に関する事項はきちんと日本興亜損保側も開示義務があることについて、独立した公認会計士さんの意見書までとりつけておられるようであります。なかなか興味深い仮処分事件ではありますが、会社法360条(1項および3項)の解釈として、何点か疑問点がありますので、おそらくそういった疑問点が東京地裁での審尋のなかで検討されたうえで最終的な判断が下されることになるものと思われます。(和解的な解決はなさそうですね)なお、進行中の裁判における主張上での疑問点について、ここで述べるのは(たとえ場末のブログであっても)ルール違反でありますので、現時点では私見を述べることは差し控えさせていただきます。いずれにしましても、団塊の世代の方々が、ビジネス世界の最前線からリタイアされるケースが増える中、こういったOB株主による総会でのバトルはどこの上場会社でも今後は起こりうる事態であります。マスコミや大株主、そして会社側による情報だけでなく、その渦中にいらっしゃる紛争当事者ご自身の真摯な主張(意見)に冷静に耳を傾けますと、また外からみた経営陣の違った姿が映し出されることもあるかもしれません。OB株主側を支援するとみられていた日本興亜損保の大株主さんが、どうも現経営者を支援するらしい、といった報道が先行したことで、こういった裁判に至ったのかもしれませんが、そういった背景事実を抜きにしても、ビジネス法務に関心のある方は一度覗いてみる価値のあるWEBページだと思います。(ところで、保険金支払い遅延問題を採り上げたときにも申し上げたのですが、こういった株主による取締役の違法行為差止め請求が認容された場合、監査役さん方はどうなるのでしょうか?これはこれで、別途大きな問題になるように思うのでありますが・・・・・)

企業コンプライアンス関連では、「しまむらVS加茂市」がたいへん興味深い事件でありまして、そっちをエントリーしようかと思っておりましたが、上記のHPを見つけて読みふけってしまいましたので、日本興亜損保さんの話題を優先いたしました。

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2009年12月14日 (月)

新株予約権の株主無償割当による資金調達は活用されるか?

(14日午後:追記あります)

上場会社におきまして、企業価値向上を目的とするものではなく、むしろ傷ついた財務状態を回復させることを目的とした公募増資や社債発行が問題視されることが多くなりましたが、日曜日(12月13日)の日経朝刊一面におきまして、東証が株主割当増資の手法により株主の利益に配慮した増資を上場会社に促す(よう上場規則を改正する)方針であることが伝えられております。11月24日の東証斉藤社長の記者会見において「将来的にはライツ・イシューを研究しなければならない」と語っておられたようですので(11月24日付け毎日新聞ニュース)、低迷する株式市場の活性化に向けての施策のひとつのようであります。上場制度整備懇談会報告書2009において、既存株主の利益を減少させるような第三者割当増資に対する検討策として、英国の優先的新株引受権について語られるところはありましたが、こういった公募増資に対する検討策としてはあまり議論されることもなかったように思われます。

なお、ここで語られているライツ・イシューとは、株主割当増資一般に関するものではなくて、いわゆる新株予約権(オプション)を既存株主に無償で割り当てるもの(会社法277条)を指すものと思われます。公募増資により、(とりわけバランスシートの財務上の毀損を回復するための公募増資の場合)既存株主から公募応募者への「富の移転」が生じるわけで、この利益目減りをできるだけ回避することも目的だと思いますが、ほかにも公募増資の際に空売りによって多額の利益を得る海外投資家の行動(インサイダーに近い行動?)を阻止する目的もあるのではないかと。たしか日経ヴェリタスの記事でも、最近の大手銀行による巨額の公募増資によって、海外投資銀行がリスクも負わずに(空売り→応募)多額の利益を稼ぎ出していたところ、大手証券会社の今年二度目の公募増資では、すかさず公募価格が決定されて「裏切られた」と憤慨している・・・といった報道がなされていたことを記憶しております。公募増資に優先して株主に新株予約権を無償で割り当てる方法であれば、たとえインサイダーまがいの情報流出があったとしても、海外投資家の空売りに対するインセンティブがかなり失われる・・・ということで理解してよろしいのでしょうか?

ともかく、会社法で規制されている新株予約権の割り当て方法(株主の保有株と同じ数の新株予約権を割り当てる)と上場ルールとの関係なども含め、たいへん興味深い論点なので、今後もどのようにルール化され、また現実に運用されていくのか注目しておきたいと思っております。

(追記)いつもコメントいただいているkatsuさんより、このたびもたいへん有益なコメントをいただいております。その筋(どの筋?)の方のご意見ですので、ぜひご参考いただければ・・・と。

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2009年12月13日 (日)

朝日新聞の「人(ひと)」に出ちゃいました・・・・・・(^^;

土曜日(12月12日)の朝日新聞1面をめくってビックリされた方も多かったかもしれません。いつもの土曜日と比べて3倍程度のアクセスがありましたので、やはり「人」に掲載していただいた反響はたいへん大きかったようです。(目にとめていただき、ありがとうございました>品川のよっちゃんさん、福岡の方 m(__)m)

「企業法務をわかりやすく紹介するブログ」と記者さんに紹介いただきながら、いきなり「委任状勧誘規則・・・」「公正なる会計慣行・・・」など、たいへんマニアックなエントリーばかりが並んでおりましたので、おそらく初めて当ブログにお越しいただいたにもかかわらず、「なんやこれ、どこがわかりやすいねん!」と怒って帰られた方も多いかも・・・・・・(^^;;  ただ、なかには本当に法律になじみのない方にもわかりやすいエントリーもあると思いますので、よろしかったらチラチラと過去のエントリーをめくっていただけますと幸いです。

本当は12月のもう少し早い時期に登場する予定だったのですが、横峯さくらさんとか鹿島アントラーズの選手のみなさんとか、話題性のある方が優先ということで(笑)、私のは「後回し」になったのかもしれません。しかし写真はさすがにプロの方が撮影しただけあってずいぶんと実物よりもキレイです。なんせ当日は100枚以上撮影して、そのなかから厳選された1枚が使われますので・・・プロのカメラマンの妥協しない仕事ぶりが印象的でした。

11月は日経新聞の「プロフィール」でも紹介いただきましたが、あちらは仕事関係の方々にいろいろとお声かけいただきました。しかし今回は親戚筋や、娘の学校のPTAのお母さん方からも反響があり(以前PTAの役員をやっていましたので・・・)、知人の方々に「元気でやっています」風のメッセージにもなりました。こういうのは「一生に一度」の経験なので、たいへん良い記念になりました。あらためて日経ならびに朝日の記者の方、カメラマンの方に御礼申し上げます。身の程をわきまえ、また普通の生活に戻ります(笑)

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2009年12月11日 (金)

株主総会の有事を平時に考える-委任状勧誘規制の実務-

定時株主総会における「有事」といいますと、(退場命令に関するエントリーで書かせていただいたような)問題株主の登場だとか、OB株主の質問権行使、さらには剰余金処分に関する修正動議が持ち上がったときなど、総会当日の危機対応を連想することが多いと思われます。しかしながら、企業の経営支配権の異動を伴う可能性のある「有事」となりますと、やはり株主提案権が行使される場面のほうがよほど重大な局面になるわけでして、そうしますと遅くとも総会の8週間ほど前から本格的な有事に突入することになります。こういった重大な局面の対応について、なかなか平時からリスク管理を行うことは困難かもしれませんが、ひとつ検討しておいて損はないと思われるのが委任状勧誘規制に関わる問題だと思います。平成19年のモリテックス事件以来、学者や実務家の方々から商事法務や金融商事判例などでも秀逸な論文がいくつも出されておりますが、このたびの大阪証券取引所金融商品取引法研究会における加藤先生(東大准教授)の発表内容と、ずらりと並んでいらっしゃる商法の大家の皆様のご議論は、こういった平時における総会対応としては、かなり参考になるものであります。(この「大証金商法研究会」ですが、リリースされたものはなかなか有益なものであります。こういった議論を拝読しておりますと、やっぱり昭和49年改正とか、56年改正などに携わっておられた方の「歴史」話も大事ですし、会社法と金商法の役割の違いや立法論と解釈論の仕訳そして集団的解決法理の重要性など、商事法の原則論に立ち返って議論することの大切さがよくわかります。)

大証金商法研究会のメンバーは学者の方々ばかりで構成されておりますが、そこで発表されているもの、また議論の内容は決して「高尚な空中戦」ではありません。たしかに取締法規違反が私法上の効力に及ぼす影響など、かなり学術的に高尚な論点も出てまいりますが、むしろ非常に企業実務に近いところでのご議論が中心となって展開されております。たとえば今回の委任状勧誘規制に関する議論も、日本ハウズイング社と原弘産社とのバトルを例に上げて、「果たしてあれは本当に委任状勧誘規制に違反する行為だったのか?」といった話題に触れておられますし、また加藤先生の委任状勧誘規制違反に対する私法的なエンフォースメントの在り方への提言などは、そのまま実際に裁判(差止仮処分や決議取消訴訟等)で争われる可能性が高いものであります。また、法廷で白黒付けるほどのことでなくても、「あなたの行為は金商令違反である!」といったけん制球を投げるときの一応の法的根拠にもなりうるわけでして(むしろ実務的にはこっちのほうが重要かもしれません)、会社と株主とのバトル(有事)において、どのような支配権争奪の態様が考えられるのか、平時から検討しておくには貴重な資料になりそうであります。

株主の議決権行使に関わる問題といいますのは、会社法(書面投票制度)と金商法(委任状勧誘制度)との連続性が極めて不明な場面(神田先生の整理による-商事法務1865号8頁参照)であり、学術的にも議論の盛んなところでありまして、上場会社法制における今後の検討課題のひとつとされております。このような印象から「学者の先生方でいろんな議論を尽くしていただいて、その結果を実務にフィードバックしていただければいいのではないか」、といった感覚を(少なくとも私は)持っておりました。しかし、このたびのリリースを拝読し、公開買付けの場面や経営支配権争いが発生した場合には、会社側株主側から、一般株主に対していろんな「呼びかけ」がなされるわけですから、むしろ法律上の論点はそういった上場会社の有事が発生して、そこから生まれるものが多いように感じました。法律上の紛争として司法的な解決方法を検討することも大切ですが、むしろコンプライアンス的な発想から、どこまでなら「力技」として使えるか(委任状勧誘規制に抵触しないか)といったことも、現実の場面では要請されるのかもしれません。(そのあたりの仕訳ができる弁護士が、けっこう企業から求められているのかもしれませんね)大証研究会の取り扱うテーマは、こういった企業実務に近いところの会社法、金商法の話題が中心のようですので、企業法務に携わる実務家の方々にもたいへん参考となるものだと思いご紹介させていただきました。(まだご存じない方もいらっしゃるかと思いましたので。)

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2009年12月 8日 (火)

日債銀事件判決にみる「公正なる会計慣行」に対する最高裁の考え方

昨年7月18日の旧長銀最高裁判決に続き、本日(12月7日)日債銀事件(虚偽記載有価証券報告書提出罪被告事件)でも原判決を破棄する最高裁判決が出ました。平成10年3月期に係る有価証券報告書の提出につき、これまで「公正なる会計慣行」として行われてきた税法基準の考え方によったことが違法とは言えないとして、同銀行の頭取らに対する虚偽記載有価証券報告書提出罪の成否につき、破棄差し戻しを命じる判決であります。すでに最高裁判所のWEBページにて判決全文が公開されておりますので、とりあえず一読いたしました。(なお、一般に「公正なる会計慣行」なる概念は、旧商法および会社法上の概念であり、なぜ金商法上の「虚偽記載有価証券報告書提出罪」の構成要件該当性を判断する際にも適用されるのか?といった問題がありますが、ここではあまり深入りはしません)

ニュースですでに報じられているとおり、昨年の長銀事件判決は高裁判断を覆したうえで最高裁自身が無罪判決を出しておりましたが、この日債銀事件判決は高裁判決を破棄したうえで東京高裁に差し戻す(さらに審理を尽くさせる)・・・という判決であります。つまり税法基準の考え方によって貸付金評価を行うことが公正なる会計慣行に従ったものであったとしても、その方法等が税法基準の趣旨に沿った適切なものであったのかどうかは、もう少し審理をしてみないとわからない・・・ということで差戻しの判断に至ったものであります。(長銀の場合には、問題となった貸付先が関連ノンバンクであり、原則として当時の母体行主義によって「事業好転の見通しがない」とはいえないのに対し、日債銀の貸出先については一部ノンバンク以外の問題法人があり、そのような貸付先については本当に「事業好転の見通しがない」とすることが妥当なのかどうか、更に審理してみないとわからない、ということであります。検察側は訴因変更を余儀なくされるのでしょうか?)

原審が改正後の決算経理基準のみを公正なる会計慣行であった、と判断したことに対して、それ以前の税法基準に従った処理を行うことも「違法ではない」と最高裁は判断したわけでして、基本的な考え方については長銀事件と今回の判決とでは同一であります。しかしながら、日債銀事件で「破棄差し戻し」(更なる審理を尽くすべき)とした判決理由から、「公正なる会計慣行」に対する最高裁の考え方がさらに深く理解できるように思われます。ひとつは会計慣行の「法規範性」に関する論点、そしてもうひとつは会計慣行の「唯一性」に関する論点に関する理解であります。

昨年の長銀事件判決では、最高裁は決算経理基準に従わないことが「違法とはいえない」ということで無罪の結論を導きだしており、旧来の税法基準が当時どのような位置づけだったのかは不明でありました。(自ら無罪の判定を下すわけですから、構成要件該当性なし、もしくは違法性なし、とだけ理由付けをすれば足りるわけであります)しかし、このたびの日債銀事件最高裁判決では、この当時明確に税法基準が公正なる会計慣行であった(もしくは税法基準に従った会計処理が公正なる会計慣行であった)ことが判断の前提とされております。(この前提が認められませんと、差戻しで審理されるべき問題-税法基準に基づいて、その基準の趣旨に沿った会計処理がなされているか-が出てこないことになります。差戻し審においては、税法基準に従って、貸付先の資産査定が適切に行われたことが「公正なる会計慣行」に従ったものかどうかが争われることになります。)つまり、当時新しい決算経理基準に沿った資産査定を行った場合、それ自体も公正なる会計慣行に従ったものと評価されるものと思われますので、同一の時期に公正なる会計慣行は唯一のものではなくて、併存しうるものである(もしくは複数の会計処理方針の選択が許容されるほどの相当な幅をもつ概念である)・・・ということが今回の最高裁判断で明らかにされたものと思われます。

そしてもうひとつ重要な点は、会計慣行の法規範性に関する問題であります。会計慣行が併存しうるとした場合、同一の会計事象に対して複数の会計処理方針の選択が「許容される」ことになるわけでありますが(その意味において、公正なる会計慣行に従う・・・ということはかなり幅のある概念ともいえそうでありますが)、複数の会計処理方針が許容されない、つまり「公正なる会計慣行」について、会計処理方針の選択の幅がないといった場合には、そこに法規範に準じるような要件を必要とする、ということであります。そこでは、これまでのオーソドックスな裁判所の考え方が支配しており、①周知性(その会計処理方針が広く関係者に知れ渡っているか)、②通用性(現実の社会ですでにルールとして適用されているか)、③明確性(守らないと罰則を受けるようなルールの内容が一般人でもわかる程度に内容がはっきりしているか)が具備されてこそ、ある会計処理基準にのみ従うことが「公正なる会計慣行」である(もしくは会計慣行の唯一性を認めることである)と言えるのではないでしょうか。そして、以上のような考え方からしますと、単純に「公正なる会計慣行」は法規範に準じるものである、と捉えることは妥当ではなく、企業会計原則における相対的真実主義を法が認めたものといえそうであります。つまり会社の真実を映し出す鏡はいくつかあり、どれもいちおうは真実であって、虚偽ではない、しかしながら政策的な理由で「この鏡を使いなさい」と言われ、それが周知徹底され強制通用力をもったと認定される場合には、慣習法に準じるような力を持つルールになる・・・そんなイメージで考えるのが妥当であるように思います。

さて、以上はルールベースの会計基準が事実上強制通用力を持つ時代の話でありますが、プリンシプルベース(原則主義)のIFRS(国際財務報告基準)の時代にも同じことが言えるのでしょうか。粉飾決算につき法人や役員に対する金商法上の刑事罰や行政上の課徴金処分が待ち受ける以上、公正なる会計慣行とIFRS問題は、法と会計の狭間に横たわる今後の大きな課題であります。

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2009年12月 7日 (月)

指定弁護士-いったい誰が選任されるのだろうか?(起訴議決制度)

土曜日(12月5日)の日経朝刊社会面におきまして、JR西日本(尼崎)脱線事故につき、神戸地検は歴代3社長の不起訴処分を決定した、と詳細に報じられておりました。ご承知の方も多いかもしれませんが、今回の地検の決定は検察審査会の「起訴相当」とする決定を受けての判断であります。今後は検察審査会の再審査(検察審査会法41条の2)が行われることが予想され、審査次第では起訴議決(起訴すべき旨の議決)に至る可能性があります。(同法41条の6-審査員11名中8名以上の起訴相当議決)起訴議決が下された場合には、原則として強制的に公訴が提起されることとなり、検察官に代わる「みなし公務員」として指定弁護士が起訴および公判維持を行うことになります。(同法41条の9)

つまり長く起訴権限を独占してきた検察官(起訴独占主義)に代わって、弁護士が起訴権限を行使することになるわけでして、この「指定弁護士制度」は裁判員制度と同じく今年5月に施行されました改正検察審査会法のメダマと言われているものであります。私の周囲では、この「指定弁護士って、いったい誰がやるのだろうか?」といった話題がさかんになされるようになってきております。中には「ぜひ自分が第1号として立候補したい」と宣言されている方もいらっしゃいます。

しかし、このJRの件は事案自体もたいへん重いものでありますが、そこに「指定弁護士制度第一号事件」ということになりますと、この指定弁護士を務めることになる方はたいへんなプレッシャーの中でお仕事をしなければならないはずであります。といいますか、この検察審査会の再審査においては審査補助員(同法41条の4)という「法律上の助言者」の参加が義務付けられておりますので、この「審査補助員」を勤める弁護士ですら、おそらくたいへんなプレッシャーを感じるのではないでしょうか?(その再審査手続きのなかで、検察官の意見が陳述されますので、その検察官の意見をどう受け止めて審査補助するのでしょうか?こりゃたいへんなことですよ。最近の裁判員制度に参加した方々のアンケート調査では、検察官の立証と弁護士の立証は「月とすっぽん」と言われる方もいらっしゃるわけでして、検察官を相手にどのように審査補助の仕事をされるのか、予想もつきません。 後ろにはたくさんの被害者の方々、ご遺族の方々が控えているわけで、前には「刑事事件は証拠がなければ立件できないのですよ」とプロの検察官が立ちはだかっているわけでして・・・・・)

審査補助員を勤める弁護士ですら、このような状況が予想されるわけですから、ましてや検察官の権限を行使する指定弁護士はいったいどのようなスタンスで公訴提起、公判維持に務められるのか、非常に関心の集まるところであります。指定弁護士を選任するのは(おそらく)神戸地裁だと思いますが、果たしてどういった基準をもって選任するのか?まさか刑事弁護に名高い方を選任するわけでもないでしょうし、ヤメ検弁護士(元検察官だった弁護士)の先生だと、「市民感覚を刑事司法に」といったキャッチフレーズとも合わないような気もいたします。弁護士を多数抱える大手法律事務所のボス・・・というイメージでもないようですし、管財人経験者や弁護士会役員経験者・・・というのもピンとこないようです。でも、やっぱり単位弁護士会の会長経験者の他、数名で構成される・・・ということになるのでしょうかね?しかしよくよく考えますと、もしJRの歴代社長さん方が被告人として起訴されるとなりますと、当然のことながら日本でも指折りの著名な刑事弁護の先生方が弁護人として多数並ぶことになるわけでして、この弁護人の方々と、指定弁護士との日頃のおつきあいとか、昔なじみとか、そういった友達感覚みたいなことはどこまで排除されるのでしょうか?また、指定弁護士事件とは別に開廷される、元社長さんの(鉄道本部長としての過失)事件との関係はどのように捉えたらよいのでしょうか?(ちなみに裁判所は、いったん選任した指定弁護士について、ふさわしくないと判断した場合には選任を取り消すこともできます)たぶん、こういったことは(とりわけ関西の弁護士から指定弁護士が選任されるならば)私のような弁護士が一番知っていたりするわけでして・・(うーーーん、あまり深く考えないほうがいいかも)そうなりますと、結局のところ弁護士としての力量と同時に、どのような場面においても職業法律家としての倫理観をきちんと持った方がおやりになる、ということになりそうであります。

おそらく「検察権の行使場面に市民感覚を」ということで、検察審査会法が改正されたものと思われますので、ともかく起訴議決がなされた以上は検察から独立した弁護士が検察権を行使するわけであります。しかしこれは裁判員制度とは異なり、裁判所の判断にまで市民感覚を取り入れる制度ではありませんので、「指定弁護士としては全力を尽くしたけれども、やはり証拠の壁は厚く、無罪だった」という結論に至ることはとくに不思議なものではないものと思われます。ただし、あんまり簡単に無罪・・・ということになっても、今度は強制起訴という制度を作った意味もなくなってしまうわけでして、このあたりのバランスをどう図っていくのか、これからの運用をみてみないとわからないところであります。(指定弁護士は検察官への嘱託が条件ではありますが、自ら捜査を行う権限も有しておりますので、新たに発見した証拠等があればまた状況は変わってくるのかもしれません。ただし指定弁護士はすみやかに起訴しなければなりませんので、どこまで自身で証拠を探し出せるのか、実務上での問題もあります。)まだ今後の検察審査会での再審査の結論はどうなるのかわかりませんが、いずれにしても同業者のなかにおきましても、指定弁護士や審査補助員たる地位に、どこのなんという弁護士が就任するのか、非常に注目しております。

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2009年12月 3日 (木)

学校法人のヘルプライン(外部窓口)とアカデミック・ハラスメント

12月1日より関西のある学校法人のヘルプライン(内部通報)外部窓口を担当することになり、先日理事長や学長、事務長さん等のところへご挨拶に伺いました。教職員用のヘルプラインですから、生徒からの通報を受け付けるものではありませんが、事務長さんのお話によると外部窓口に期待しておられるのはいわゆる「アカハラ(アカデミック・ハラスメント)への対応」だそうであります。最近文科省からもアカハラ対策については(自助努力により)十分な対応をされたし、と要望されているそうであります。

一般の教職員の問題については、ほとんどが学校内の相談窓口で対応可能だそうです。しかし教授と准教授の関係、大学院生との関係などは、事件が発生してからでないとハラスメントの実態はわからないとか。本当に密室の中で発生するものであり、相手の人生に関わるような人事権を一方が握っているために、被害者からの通報が上がれば即、通報者が特定され、制裁・報復が待ち構えている状況にあるのかもしれません。実際に精神的な疾患にまで至ってしまうケースも多いように聞いております。

そういえば昨年はこのブログでも採り上げましたが、横浜市大医学部事件というのが発生しましたね。学位取得に伴う教授への謝礼金の交付慣例が問題になりましたが、教授に近い方々が、その内部告発をした学生に対する措置要求を大学側に行う、といった事件に発展したように記憶しております。あまりこれまで経験はございませんが、こういった相手の人事権を掌握している人から受けるハラスメントというのも、けっこう怖い気がします。そういった立場になってみないと本当のところはわからないかもしれませんね。

ちなみにパワハラの判例の傾向として(といっても裁判のうえでパワハラが定義付けされたのはごくごく最近のことですが)、人格権侵害に該当する不法行為となるかどうかは、行為者と被害者との関係を眺めてみて、行為者が被害者の職場における地位に影響をどれだけ与えられるかによって、露骨な行為だけを採り上げるか、それとも些細な言動までを採り上げるか、相関的に判断する、といったところが主流になりつつあると思われます。そうしますと、被害者側の将来的な人事権を全権的に握っている教授側としては、とくに露骨なものでなくても、かなり緩やかにアカハラの言動を認定されるようになるのかもしれません。(もちろん立証のために要する証拠は不可欠ではありますが)単に法律問題だけでなく、その後の対応まで含めて検討しなければならない問題でありますので、かなりの難問が窓口に届くのかもしれません(事務長さんは、すぐにでも届きますよ・・・と自信たっぷりにおっしゃってましたが)。対応を間違えますと、学校側の不法行為責任も問われかねませんし、かなり深刻な問題を抱える仕事かもしれませんね。

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2009年12月 1日 (火)

第三者委員会における弁護士と会計士の「意見相違」

IFRSの日本語版が発売される(された?)そうですね。2009年1月1日基準が約11カ月遅れでの発売・・・ということのようですが、売れるでしょうね。しかも原書よりも安い!そうですので、出版社の方々も「これは売れる」と見込んでの値付けなのでしょうか(^^; 以下本題です。

上場会社において会計不正事件が発生した場合に、事実調査や原因究明を目的として社外有識者による第三者委員会が設置されることが最近は多くなりました。拙い経験談ではありますが、不肖私が大阪弁護士会におきまして、来週「第三者委員会の業務」について同業者の方々向けに講演をさせていただくのでありますが、昨年かなり大きな会計不正事件が発生した某会社の第三者委員を務められた会計士の方から(本日)少しばかり参考意見を聞かせていただきました。

会計士の先生曰く

「いや~、やりづらかったです。第三者委員会の委員長は○○弁護士だったんですけど、不正の事実を特定するのに、ちょこっと証拠を集めて『これでよし!』ってことでして。なんでもっといろんな証拠を集めないのだろうか?って、ホントにこれで大丈夫なのかって、ヒヤヒヤしましたよ。弁護士さんて、みなさんあんな感じで心配にならないのでしょうかね?」

最近法律雑誌や会計雑誌で不正リスクマネジメントに関する特集が組まれたりしておりまして、そのなかで必ずこの「第三者委員会の設置・運営」あたりも経験者の方々によるガイダンスが紹介されております。とくに会計士さんの論稿などを拝見しておりますと、この「弁護士委員と会計士委員との意見の食い違いが発生して、迅速な意見形成を阻害する場合がある」と書かれております。ただ、その「食い違い」がどのような問題に関するものなのか、またどうして食い違いが発生するのか、その解消方法はどうするのか、といったあたりに具体的に踏み込んだものは見当たらないようです。

単純に使用される用語の慣用方法の違い(たとえば「調書」という言葉の持つ意味など)に起因するケースもあるかもしれませんが、私の経験からすれば、先の会計士さんの疑問に近いところに原因があるのではないか、と考えております。要は「不正」に対するアプローチの違いによるところが大きいのではないでしょうか。つまり「不正」を事実とみるのか、可能性とみるのか、というところであります。

弁護士は裁判を前提として事実を見る習性をもっており、絶対的真実主義を基礎としております。たとえば準備書面で「真実はこうだった」と主張して、これを証拠によって裏付けて、相手方よりも説得的な訴訟活動を展開しようとします。(刑事も民事も基本的にこれは同じです)したがいまして、「不正」は立証すべき事実であり、仮説を立てて、その仮説が正しいことを証拠によって証明することに尽力します。「不正がないこと」の証明という概念は原則としてありえません。いっぽう会計士は(とくに会計監査に従事する会計士さんは)投資家に対して有用な情報を提供するに足りる程度の真実、つまり相対的真実主義を基礎としております。そこで「不正」を認定するのは事実を確定するためではなく、財務報告に重大な虚偽記載が含まれている可能性を探るためであります。つまり虚偽記載リスクを一定程度に低減するために、不正調査が行われるわけですから、そこでは事実を確定することよりも、不正が行われた可能性が低いことを証憑をもって保証するこそ重要な業務になるものと思われます。したがって「不正がないことの可能性」を探る証明・・・という概念はあり得るはずであります。

そこで両者の思考過程に差が生じることになります。「不正」を事実と捉える弁護士は、その仮説を真実であると説得するだけの証拠が必要になりますから、証拠価値を問題とします。直接証拠や間接証拠、伝聞証拠など、証拠一つ一つの証明力には差がありますので、もし証拠価値の高いものが発見されたり、ヒアリングで入手できた場合には、その証拠をもって「不正」の立証が十分と考えることにも説得力(合理性)があるものと思われます。いっぽう、「不正」を財務報告に重要な虚偽記載のある可能性と捉える会計士は、投資家のために一定レベルの真実性を保証する、という観点から、たとえば「不正がないことの70%の可能性」に執着される傾向があります。その70%の保証レベルに到達するためには「1 ○○がないこと」「2 △△がないこと」「3 ××が存在すること」といったテーマを決めて、この1から3がそろわない限りは「不正がないとは言えない」という結論に導かれます。これは実態監査ではなく、情報監査を前提として監査をされておられる方々の習性ではないでしょうか。打ち消しの積み重ねによって、ある程度の心証を固める思考過程であれば、同じ証拠を弁護士と会計士が評価しても、弁護士にとっては「証拠価値が高いのでこれで足りる」と思われるものでも、会計士にとっては不正がないことに関する心証形成のための一つの証憑にすぎない、といった結果となってしまうように思われます。

弁護士委員が小さいことにこだわるのも、その小さいことが「不正事実」を立証するためには大きな証明力を持つからであります。しかし、重要な虚偽記載の可能性、という視点からすれば、「重要性の原則」に照らせば「小さいこと」は特に問題として採り上げるほどのこともないのかもしれません。ちょっと問題をデフォルメしすぎたきらいもあるかもしれませんが、委員間の意見相違の解決方法は、たとえば弁護士と会計士の「不正」に対するアプローチを認識し、それぞれの思考方法に(なかなか理解し合えない)差があることを真摯に尊重し合うところから見出すことができるのではないか、と考えております。

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