指定弁護士-いったい誰が選任されるのだろうか?(起訴議決制度)
土曜日(12月5日)の日経朝刊社会面におきまして、JR西日本(尼崎)脱線事故につき、神戸地検は歴代3社長の不起訴処分を決定した、と詳細に報じられておりました。ご承知の方も多いかもしれませんが、今回の地検の決定は検察審査会の「起訴相当」とする決定を受けての判断であります。今後は検察審査会の再審査(検察審査会法41条の2)が行われることが予想され、審査次第では起訴議決(起訴すべき旨の議決)に至る可能性があります。(同法41条の6-審査員11名中8名以上の起訴相当議決)起訴議決が下された場合には、原則として強制的に公訴が提起されることとなり、検察官に代わる「みなし公務員」として指定弁護士が起訴および公判維持を行うことになります。(同法41条の9)
つまり長く起訴権限を独占してきた検察官(起訴独占主義)に代わって、弁護士が起訴権限を行使することになるわけでして、この「指定弁護士制度」は裁判員制度と同じく今年5月に施行されました改正検察審査会法のメダマと言われているものであります。私の周囲では、この「指定弁護士って、いったい誰がやるのだろうか?」といった話題がさかんになされるようになってきております。中には「ぜひ自分が第1号として立候補したい」と宣言されている方もいらっしゃいます。
しかし、このJRの件は事案自体もたいへん重いものでありますが、そこに「指定弁護士制度第一号事件」ということになりますと、この指定弁護士を務めることになる方はたいへんなプレッシャーの中でお仕事をしなければならないはずであります。といいますか、この検察審査会の再審査においては審査補助員(同法41条の4)という「法律上の助言者」の参加が義務付けられておりますので、この「審査補助員」を勤める弁護士ですら、おそらくたいへんなプレッシャーを感じるのではないでしょうか?(その再審査手続きのなかで、検察官の意見が陳述されますので、その検察官の意見をどう受け止めて審査補助するのでしょうか?こりゃたいへんなことですよ。最近の裁判員制度に参加した方々のアンケート調査では、検察官の立証と弁護士の立証は「月とすっぽん」と言われる方もいらっしゃるわけでして、検察官を相手にどのように審査補助の仕事をされるのか、予想もつきません。 後ろにはたくさんの被害者の方々、ご遺族の方々が控えているわけで、前には「刑事事件は証拠がなければ立件できないのですよ」とプロの検察官が立ちはだかっているわけでして・・・・・)
審査補助員を勤める弁護士ですら、このような状況が予想されるわけですから、ましてや検察官の権限を行使する指定弁護士はいったいどのようなスタンスで公訴提起、公判維持に務められるのか、非常に関心の集まるところであります。指定弁護士を選任するのは(おそらく)神戸地裁だと思いますが、果たしてどういった基準をもって選任するのか?まさか刑事弁護に名高い方を選任するわけでもないでしょうし、ヤメ検弁護士(元検察官だった弁護士)の先生だと、「市民感覚を刑事司法に」といったキャッチフレーズとも合わないような気もいたします。弁護士を多数抱える大手法律事務所のボス・・・というイメージでもないようですし、管財人経験者や弁護士会役員経験者・・・というのもピンとこないようです。でも、やっぱり単位弁護士会の会長経験者の他、数名で構成される・・・ということになるのでしょうかね?しかしよくよく考えますと、もしJRの歴代社長さん方が被告人として起訴されるとなりますと、当然のことながら日本でも指折りの著名な刑事弁護の先生方が弁護人として多数並ぶことになるわけでして、この弁護人の方々と、指定弁護士との日頃のおつきあいとか、昔なじみとか、そういった友達感覚みたいなことはどこまで排除されるのでしょうか?また、指定弁護士事件とは別に開廷される、元社長さんの(鉄道本部長としての過失)事件との関係はどのように捉えたらよいのでしょうか?(ちなみに裁判所は、いったん選任した指定弁護士について、ふさわしくないと判断した場合には選任を取り消すこともできます)たぶん、こういったことは(とりわけ関西の弁護士から指定弁護士が選任されるならば)私のような弁護士が一番知っていたりするわけでして・・(うーーーん、あまり深く考えないほうがいいかも)そうなりますと、結局のところ弁護士としての力量と同時に、どのような場面においても職業法律家としての倫理観をきちんと持った方がおやりになる、ということになりそうであります。
おそらく「検察権の行使場面に市民感覚を」ということで、検察審査会法が改正されたものと思われますので、ともかく起訴議決がなされた以上は検察から独立した弁護士が検察権を行使するわけであります。しかしこれは裁判員制度とは異なり、裁判所の判断にまで市民感覚を取り入れる制度ではありませんので、「指定弁護士としては全力を尽くしたけれども、やはり証拠の壁は厚く、無罪だった」という結論に至ることはとくに不思議なものではないものと思われます。ただし、あんまり簡単に無罪・・・ということになっても、今度は強制起訴という制度を作った意味もなくなってしまうわけでして、このあたりのバランスをどう図っていくのか、これからの運用をみてみないとわからないところであります。(指定弁護士は検察官への嘱託が条件ではありますが、自ら捜査を行う権限も有しておりますので、新たに発見した証拠等があればまた状況は変わってくるのかもしれません。ただし指定弁護士はすみやかに起訴しなければなりませんので、どこまで自身で証拠を探し出せるのか、実務上での問題もあります。)まだ今後の検察審査会での再審査の結論はどうなるのかわかりませんが、いずれにしても同業者のなかにおきましても、指定弁護士や審査補助員たる地位に、どこのなんという弁護士が就任するのか、非常に注目しております。
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