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2009年12月21日 (月)

不適切な会計処理の判明と内部統制報告書の訂正について

上場会社にとりましては、財務報告に係る内部統制報告制度はすでに2年目の運用に入っている企業も多く、「効率化」といいつつもあまり監査報酬額は減っていないのでは?と考えていらっしゃる方も多いかもしれません。

ところで12月20日現在、「訂正内部統制報告書」を提出した会社が24社あるのを(EDINETの開示より)ご存じでしょうか?もちろん、訂正の内容は、そのほとんどが誤記、脱字の修正でありまして、報告書提出直後に訂正報告書を提出しているものであります。しかしながら、このなかの3社につきましては、報告書提出後に社内で会計不祥事が発覚し、評価結果に関する事項に実質的な変更を加えた訂正報告書を提出しておられます。事業年度末の評価においては「内部統制は有効と判断する」と報告されていたところ、評価結果を訂正して「内部統制は有効とは認められない」と訂正したのがイエローハット社(8月6日付け)とイデアインターナショナル社(11月17日)であり、内部統制は有効とは認められないとする評価結果については同様であるものの、その理由に不祥事発生の事実を追加したのがミツウロコ社であります。イエローハット社では前事業年度の繰延税金資産の取り崩しに係る処理に不備があり、決算財務報告プロセスにおけるチェック体制が不十分であることが指摘され、またイデアインターナショナル社では棚卸資産評価損の会計処理(洗い替え)について長年にわたりミスを繰り返していた、ということでこちらも決算業務におけるプロセスに重要な不備があったものと評価しなおしたもののようであります。報告書提出の翌期の第一四半期レビューの時点で監査法人さんから誤りを指摘され、その旨訂正したようなケースであればしかたないのかもしれませんが、自社の内部監査で不信点を洗い出し、その結果不適切な会計処理が判明し、過年度決算訂正に至ったような場合、(有価証券報告書の訂正は当然のこととして)はたして過年度の内部統制報告書まで訂正しなければならないのか、少し疑問に思うところであります。

また、イエローハット社は訂正内部統制報告書を提出する旨、適時開示しておられますが、イデアインターナショナル社は適時開示の対象とはしておりません。東京証券取引所の2009上場制度整備の実行計画に基づく要綱では、今後は企業が重要な欠陥を認識して内部統制が有効とはいえないと評価することの社内決定があった場合にも適時開示しなければならないところ、こういった訂正内部統制報告書を提出する場合にも適時開示の対象になるのでしょうか?(すくなくとも評価結果に関する事項に、重要な虚偽記載が認められるには適時開示の対象とすべきではないでしょうか?)このあたり、要綱案を見る限りではよくわかりませんでしたので、また金融庁の認可を得て正式に公表される適時開示ルールの中身をチェックしておきたいと思います。

また、決算財務報告プロセスに重要な欠陥が認められ、評価結果についての訂正を要するような場合であればともかく、業務プロセスに重要な欠陥が期末に残ったケースでは、その業務が評価範囲内であれば訂正を要し、評価範囲外からの判明ということであれば訂正は不要とされております。(金融庁Q&A)しかし、実際に評価範囲を決定するのは、全社的内部統制の評価を前提になされるものであります。もし評価範囲外から会計不祥事が発覚したようなケースでは、まずもって内部統制の評価範囲を決定するもとになる全社的内部統制におかしな点がなかったのかどうか、そこからいったんは検討すべきではないでしょうかね?今後とも訂正内部統制報告書が提出される機会は増えると思いますが、どのような実務が定着していくのか、関心が高まる点であります。

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コメント

不適切な会計処理の適時開示を見ていると、会社規模からして金額的重要性が乏しいものもリリースしている事例もありますので、それらすべてが内部統制報告書の訂正につながらないと思います(会計監査や内部統制監査も試査によって実施していることからそれらすべてを監査で発見することもできませんし、評価範囲の対象外である軽微な不正の発見をもって内部統制報告書の訂正とする必要もないと思います。)。ただ、内部統制報告書の訂正にあたるのではないかと思うような事例で訂正がでていないものもあるのな気がします。
また、訂正内部統制報告書を提出する場合にも適時開示の対象にすべきだと思いますが、山口先生のご指摘の通り適時開示の対象になっていないケースもあります。
このあたりの開示のルールについて2年目の課題だと思います。

投稿: 武田雄治 | 2009年12月21日 (月) 11時41分

山口先生はじめまして。
監査法人勤務のky-yと申します。
いつもブログでいろいろと勉強させていただいております。
評価範囲外から会計不祥事が発覚したようなケースでは、全社的内部統制におかしな点がなかったのかを検討すべきではないかという意見はごもっともと思います。
しかし、そもそも論として、全社的内部統制と業務プロセスの関連性がどの程度あるのか疑問に思うところもあります。
つまり、企業の規模や特質によってその関連性は大きくことなり、特に大企業においては、全社統制の有効性と業務プロセスの評価範囲とを結びつけるには一定の限界があるのではないかと思えてなりません。
やはり、全社統制の評価結果にかかわらず、リスクアプローチの視点から、虚偽記載の発生可能性と発生した場合の影響度を勘案して、評価対象とすべき項目を追加していく必要があるのではないかと思います。

投稿: kz-y | 2009年12月21日 (月) 23時20分

中堅企業の担当者であるtonchanです。
 本年はいろいろとお世話になりました。お世話になるばかりなのが残念です。

 ついに「訂正内部統制報告書」(つまり後だしじゃんけん)が出始めました。
私たちの立場からすると「内部統制報告書」自体が有る一定の基準で作成した
ものにすぎません。「会社が作成したこの基準で評価するとこうなりますよ。」
というものです。これに対して後から何か出てくるたびに訂正を行っていては
当期の対応を含めて工数的にも金額的にもとても対応していくことはできません。

 個人的には次年度の内部統制報告書の中でまとめて対応に対するコメントを入れる、
程度の対応にしてはいただけないものでしょうか?と考えています。

 今後、IFRSを取り入れていくと決算財務プロセスのリスクが増大が見込まれ
ます。開示上の説明に今まで以上に財務データとの連携部分が増加していくように
思われます。企業の担当者からすると業務プロセスへの対応を減らして決算財務
プロセスを厚くしていく必要を感じております。できましたらそれまでにtoshi先生
やその他の有識者によって企業にとって賢明な内部統制ルールが設定されることを
望んで止みません。

 担当者からの一言でした。

投稿: tonchan | 2009年12月22日 (火) 10時25分

内部統制監査は、財務諸表監査と一体の監査という制度設計となっており、有価証券報告書には両者が添付されます。そして内部統制監査は、言明の監査という建付けになっています。言明の監査とは、会社自身が内部統制の評価を行い、内部統制が有効であるとか有効でないという言明を行い、その言明を主題として内部統制監査は実施されるものであり、会社の行う内部統制評価はその前提といえます。我が国の内部統制評価・監査制度においては、内部統制評価・内部統制監査・財務諸表監査の三者は不可分となっています。

訂正有価証券報告書が提出される場合には、財務諸表は適切に修正されているわけですから、この段階で「重要な欠陥」を開示する意味はどこにあるのでしょうか?このようにな「重要な欠陥」はあるが、財務諸表は適正であるという状況は、有価証券報告書の訂正に限ったことではありません。現在、「重要な欠陥」を開示した会社は70社ありませが、その内69社の財務諸表監査の監査意見は適正となっています。
会社の内部統制報告書の文言は、基準の定義通りに「財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高く」となっているのに対して、監査人の内部統制監査報告書では、「重要な欠陥については必要な修正は行われており、財務諸表への影響はない」と記載され、それを受けて財務諸表監査においては適正意見が表明されています。

このように両者の表現は矛盾したものであり、投資家にとっては解りにくい開示となってしまっているのではないでしょうか。

投稿: 迷える会計士 | 2009年12月25日 (金) 20時10分

皆様、ご意見ありがとうございます。会計士の先生方や内部統制の専門家であるtonchanさんのご意見、いずれも重要な欠陥の意義にも関わる論点を内包しているようですので、もう一度内部統制の訂正報告書と重要な欠陥に関するテーマで整理をしておいたほうがいいみたいですね。
最近、IFRSの任意適用要件との関係でも内部統制報告制度の誤解が生じているようですし(公表された金融庁パブコメ回答をご参考)、まだまだ2年目にあたって理論的にも実務的にも問題が残っているものと理解しております。
また来年もどうかよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2009年12月26日 (土) 17時40分

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