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2009年12月14日 (月)

新株予約権の株主無償割当による資金調達は活用されるか?

(14日午後:追記あります)

上場会社におきまして、企業価値向上を目的とするものではなく、むしろ傷ついた財務状態を回復させることを目的とした公募増資や社債発行が問題視されることが多くなりましたが、日曜日(12月13日)の日経朝刊一面におきまして、東証が株主割当増資の手法により株主の利益に配慮した増資を上場会社に促す(よう上場規則を改正する)方針であることが伝えられております。11月24日の東証斉藤社長の記者会見において「将来的にはライツ・イシューを研究しなければならない」と語っておられたようですので(11月24日付け毎日新聞ニュース)、低迷する株式市場の活性化に向けての施策のひとつのようであります。上場制度整備懇談会報告書2009において、既存株主の利益を減少させるような第三者割当増資に対する検討策として、英国の優先的新株引受権について語られるところはありましたが、こういった公募増資に対する検討策としてはあまり議論されることもなかったように思われます。

なお、ここで語られているライツ・イシューとは、株主割当増資一般に関するものではなくて、いわゆる新株予約権(オプション)を既存株主に無償で割り当てるもの(会社法277条)を指すものと思われます。公募増資により、(とりわけバランスシートの財務上の毀損を回復するための公募増資の場合)既存株主から公募応募者への「富の移転」が生じるわけで、この利益目減りをできるだけ回避することも目的だと思いますが、ほかにも公募増資の際に空売りによって多額の利益を得る海外投資家の行動(インサイダーに近い行動?)を阻止する目的もあるのではないかと。たしか日経ヴェリタスの記事でも、最近の大手銀行による巨額の公募増資によって、海外投資銀行がリスクも負わずに(空売り→応募)多額の利益を稼ぎ出していたところ、大手証券会社の今年二度目の公募増資では、すかさず公募価格が決定されて「裏切られた」と憤慨している・・・といった報道がなされていたことを記憶しております。公募増資に優先して株主に新株予約権を無償で割り当てる方法であれば、たとえインサイダーまがいの情報流出があったとしても、海外投資家の空売りに対するインセンティブがかなり失われる・・・ということで理解してよろしいのでしょうか?

ともかく、会社法で規制されている新株予約権の割り当て方法(株主の保有株と同じ数の新株予約権を割り当てる)と上場ルールとの関係なども含め、たいへん興味深い論点なので、今後もどのようにルール化され、また現実に運用されていくのか注目しておきたいと思っております。

(追記)いつもコメントいただいているkatsuさんより、このたびもたいへん有益なコメントをいただいております。その筋(どの筋?)の方のご意見ですので、ぜひご参考いただければ・・・と。

12月 14, 2009 コーポレート・ファイナンス |

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コメント

私は今回の不景気で、同じようにBSの再構築のための増資を行った英米企業の株を持っていますが、同じように株式発行前に急落してるケースがありました(HSBC銀行、アルコアなど)。このときは2~3月で、株価が世界的に底値の時でした。

また、
>海外投資銀行がリスクも負わずに(空売り→応募)多額の利益を稼ぎ出していたところ

これはおそらく誤解です。カラ売りは非常にリスクの高い投資手法です。
(意に反して株価が上昇した場合は損失が読めなくなる。カラ売りに対する誤解が世間にあるように思います)
たとえば1000円の株価の下落はMAX1000円ですが、上昇は青天井です、理論上。

単に増資=EPS(一株利益)の希薄化を招くため、株価下落材料として受け止められやすいこと、とその時点の相場状況などで、売り込めると投資家が判断したにすぎません。HSBC、アルコアの例は相場が最悪の時点で、なおかつ、HSBCはサブプライムローンのリスク、アルコアは世界的なアルミ市況への不安感がマーケットには残っていました。

しかし、私が別途保有するフォード株も何度か増資していますが、新戦略が軌道に乗ってきたことや、業績が回復途上にあり、希薄化をものともせずに反発しています。
さらに、つい先週増資したバンクオブアメリカでも、政府優先株を返済することがかえってEPSにプラスとなると判断され(巨額の配当金を払わずとも済む)、大きな下落はありませんでした。

したがって、メガバンクの増資に海外企業が空売りをかけたというのは、デフレという日本特有の問題への懐疑および、相場が軟調だったこと、さらに当該企業にBS再構築といっても真水の資金が入るわけですから、そのお金を何に使うのか、どうやって株主に報いるのかという基本的なメッセージが届いていない、などが考えられます。増資に準備不足だったことと幹事証券会社の助言不足じゃないでしょうか?(発行会社の研究不足と言う観点もある)。

一方、野村証券の分析では、今回の一連の増資ラッシュの引き受けての40%が海外投資家だという分析があります。これも興味深いと思っています。

ライツイシューには基本的に賛成です。仮に日本企業が(よく耳にしますが)、長いこと株を持ってくれている人にはもっと報いたい、という話が本音ベースなら、ぜひ導入してほしいと思います。日本企業の「長期的視野に立った経営」への重要なリトマス検査だと思って見ています。

投稿: katsu | 2009年12月14日 (月) 13時35分

倫理観を重視し、顧客に感謝、信頼、尊敬される金融マンを応援する者です。

山口先生のブログは大変参考にさせていただいております。
katsuさんのご意見も興味深く拝見しました。

最近の公募(特に金融)との関連性は調べていませんですが、過去において公募+空売りは一部の投資銀行等では常識でした。特にMSCBに係る空売り(ライブドアが典型的)は腹が立つものでした。

空売りとは対照株式等を保有しないで売りを仕掛けますので、損失は無限です。

もうひとつ、つなぎ売りがあります。
これは株を保有したままで信用取引等により売りをかける(現物は保有したまま)手法で、決済は株券の現渡し(か反対売買)になります。

公募とセットになるのは、実際株を保有していませんから空売りとなりますが、公募株を買う約束ができてますので、実際はつなぎ売りに近いものです。

大量に空売りして株価を下げ、下ったところで公募価格が決まり、高いところで空売りしていた決済を公募株の現渡しでおこなえば、非常に高い確率で利益が出ます。

katsuさんもご存じかと思いますが、そんな売買があるということをこのブログの読者にも知って欲しいと思いコメントしました。

一般の投資家に迷惑をかけて利益をむさぼる金融機関はコンプライアンスも倫理観も何もない、資本市場の信頼を損ねるだけの会社です。


投稿: rinri | 2009年12月15日 (火) 10時37分

山口先生

ライツイシューは重要ですし、最近の状況について誤解される方があってもいけないので、ちょっとコメントさせてもらいます。

前の方が書いておられるように、公募増資の場合の空売りは、多いと理解しています。そしてかなりの利益をあげているところがあるようです。(トレーダーだけでなく、ヘッジファンドなど)。日本のルールの不備も背景にあります(前の方のエントリーにある手法は禁止されている国があります)。問題は当局も認識している、と理解しています(差し障りがあるので、詳細は別途先生にはメールします)。

ライツイシューは、日経記事のほかに、TOBルールの適用除外を設けること、海外投資家についてライツの代替として現金交付が可能となる点を明確化することが必要です。転売市場ができることで値付けが可能となり、投資家も(行使せずに)換金することが可能となりますが、TOBルールがネックになりかねません(5%以上、市場外で買い付けられないため)。海外投資家の所在国での公募とみられるとそこでの募集の手続が必要となりますが、それは煩雑なので、現金交付で済ませられることが実務上重要になりますが、株主平等原則の問題で疑義があると、上場会社も二の足を踏みます。こういう問題の解決に向けて諸団体が協調的な行動を起こしてルール化をするのがいいと思われますが、まだそういう動きはないようです。(なお、問題点は当局も認識しています。伝えてありますので)。

政府与党は、あまりこういう問題についての認識がないようなので、まだまだ時間がかかるかもしれませんが、問題にはもう少し迅速に対応できるような政府(政治主導というならば、それを実現できるだけの陣容を整えるべきでしょう、素人集団では話になりません)が必要です。

投稿: 辰のお年ご | 2009年12月16日 (水) 01時56分

皆様、コメントありがとうございました。たいへん勉強になります。

東証のwebを見えておりましたら、社長記者会見の資料として、このライツイシューに関する説明図表がありますね。

投稿: toshi | 2009年12月24日 (木) 01時46分

山口さま
皆様のような高尚な議論は出来ませんが、「ライツイシュー」の日本における問題点を数点。それから苦言を少々。
①新株予約権が1個単位(新株予約権の分割が出来ない)ことは既にご案内の通りかと。なので付与割合の微妙な調整は出来ないこと。これは会社法の解釈・運用問題なので先生方のご専門。
②今回の前提である「予約権が無償」の場合、行使条件当により、新株予約権に発生する価値により、割当基準日の権利落ちをベースに株価の下落が生じます。所謂「株式分割」の理屈。仮に①の割当比率を1:0.1位(ボラティビティの範囲くらい)にしたとして、それでも、払込む意思の無い株主にしてみれば、「理論上の一定の被害」を被ります。これを避けるためには、「新株予約権は有償割当」であるべき。
③業務の負担の問題。割当基準日から新株予約権の交付を受けるのに「交付作業と行使代金の払い込みの受託事務を誰がするのか」にもよりますが、現状の日本のインフラでは、恐らく証券会社側=口座管理機関がその事務を受けるのがベスト。その事務体勢を全ての証券会社が構築するのには、時間が掛かるでしょうね。つまり実現するのに時間が掛かるということです。金融庁が「口座管理機関での完全損益通算」を目指している現状では「それしかない」ところ。さて、その体制の構築が直接・間接口座管理機関を当して出来るのでしょうか?それも証券会社は通常の管理手数料の中で構築するわけなので、恐らく「割に合わない」と、払い込みを受けない中小証券会社が多数発生することでしょうね。現在の比例配分方式の配当金振込指定すら受理しない会社があるというのに。
④悪用対策について。譲渡制限をつけない場合にはこの「ライツイシュー」、割当を受けたい株主のみが払い込む制度となります。実は新手の買収防衛になります。「こんな会社の新株、払込むものか」と思っている少数株主の持分を合法的にふるい落とすことが出来る制度。現行では、なぜはやらないかというと、建て付けるのに、かなりの費用がかかるからで、会社負担が無い、と言うことになればモラルの低い会社は一斉に動き出すことでしょう。では、譲渡制限をつけなければいいと思いますが、新株予約権の新規上場にどれだけの費用が掛かるか。また、ただでさえ、流通量がない現在、適切に価格形成できない新株予約権が殆どでは?原則譲渡可能というのは非現実的かと。
⑤日程の問題。割当基準日から行使できる状況になるまでに一定の(恐らくは最低でも半月)位の期間が必要な段取りになります。すぐに、というのは不可能です。キャピタルを取りにくるショートの投資家は嫌います。
⑥割当により新株予約権を発行すると、市場価格次第で大量の権利行使=売却がやってくるということで、行使価格が上値になって市場を圧迫します。公募の場合は、発行時にグリーンシュー(「オーバーアロットメント」枠などとも呼びます)により市場の需給をある程度コントロール出来ます。そもそも需給の改善は証券会社が市場を見つつ新規上場株式の時価総額をコントロールしていますが、一旦出てしまった新株予約権の上値まで証券会社はコントロールできません。逆に言うと、公募はこれでもコントロールが効いているんです。だからこその「市場参加者」たる「証券会社」の受託業務でありますから。そもそも今回の一連は、リーマンショック後、市場が上向きかけた春から夏の時点で、大手証券の法人部門が一斉に格付けが比較的高い優良会社に働きかけたもの。各社の事情はさまざまですが、市場原理に基づいて発行しているもの。ライツイシューがこの問題を解決するものでは無いと思います。

投稿: T/A | 2009年12月27日 (日) 12時04分

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