株主総会の有事を平時に考える-委任状勧誘規制の実務-
定時株主総会における「有事」といいますと、(退場命令に関するエントリーで書かせていただいたような)問題株主の登場だとか、OB株主の質問権行使、さらには剰余金処分に関する修正動議が持ち上がったときなど、総会当日の危機対応を連想することが多いと思われます。しかしながら、企業の経営支配権の異動を伴う可能性のある「有事」となりますと、やはり株主提案権が行使される場面のほうがよほど重大な局面になるわけでして、そうしますと遅くとも総会の8週間ほど前から本格的な有事に突入することになります。こういった重大な局面の対応について、なかなか平時からリスク管理を行うことは困難かもしれませんが、ひとつ検討しておいて損はないと思われるのが委任状勧誘規制に関わる問題だと思います。平成19年のモリテックス事件以来、学者や実務家の方々から商事法務や金融商事判例などでも秀逸な論文がいくつも出されておりますが、このたびの大阪証券取引所金融商品取引法研究会における加藤先生(東大准教授)の発表内容と、ずらりと並んでいらっしゃる商法の大家の皆様のご議論は、こういった平時における総会対応としては、かなり参考になるものであります。(この「大証金商法研究会」ですが、リリースされたものはなかなか有益なものであります。こういった議論を拝読しておりますと、やっぱり昭和49年改正とか、56年改正などに携わっておられた方の「歴史」話も大事ですし、会社法と金商法の役割の違いや立法論と解釈論の仕訳そして集団的解決法理の重要性など、商事法の原則論に立ち返って議論することの大切さがよくわかります。)
大証金商法研究会のメンバーは学者の方々ばかりで構成されておりますが、そこで発表されているもの、また議論の内容は決して「高尚な空中戦」ではありません。たしかに取締法規違反が私法上の効力に及ぼす影響など、かなり学術的に高尚な論点も出てまいりますが、むしろ非常に企業実務に近いところでのご議論が中心となって展開されております。たとえば今回の委任状勧誘規制に関する議論も、日本ハウズイング社と原弘産社とのバトルを例に上げて、「果たしてあれは本当に委任状勧誘規制に違反する行為だったのか?」といった話題に触れておられますし、また加藤先生の委任状勧誘規制違反に対する私法的なエンフォースメントの在り方への提言などは、そのまま実際に裁判(差止仮処分や決議取消訴訟等)で争われる可能性が高いものであります。また、法廷で白黒付けるほどのことでなくても、「あなたの行為は金商令違反である!」といったけん制球を投げるときの一応の法的根拠にもなりうるわけでして(むしろ実務的にはこっちのほうが重要かもしれません)、会社と株主とのバトル(有事)において、どのような支配権争奪の態様が考えられるのか、平時から検討しておくには貴重な資料になりそうであります。
株主の議決権行使に関わる問題といいますのは、会社法(書面投票制度)と金商法(委任状勧誘制度)との連続性が極めて不明な場面(神田先生の整理による-商事法務1865号8頁参照)であり、学術的にも議論の盛んなところでありまして、上場会社法制における今後の検討課題のひとつとされております。このような印象から「学者の先生方でいろんな議論を尽くしていただいて、その結果を実務にフィードバックしていただければいいのではないか」、といった感覚を(少なくとも私は)持っておりました。しかし、このたびのリリースを拝読し、公開買付けの場面や経営支配権争いが発生した場合には、会社側株主側から、一般株主に対していろんな「呼びかけ」がなされるわけですから、むしろ法律上の論点はそういった上場会社の有事が発生して、そこから生まれるものが多いように感じました。法律上の紛争として司法的な解決方法を検討することも大切ですが、むしろコンプライアンス的な発想から、どこまでなら「力技」として使えるか(委任状勧誘規制に抵触しないか)といったことも、現実の場面では要請されるのかもしれません。(そのあたりの仕訳ができる弁護士が、けっこう企業から求められているのかもしれませんね)大証研究会の取り扱うテーマは、こういった企業実務に近いところの会社法、金商法の話題が中心のようですので、企業法務に携わる実務家の方々にもたいへん参考となるものだと思いご紹介させていただきました。(まだご存じない方もいらっしゃるかと思いましたので。)
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コメント
本日付朝日新聞「ひと」欄拝見しました。
引き続き、ブログの記事を楽しみにしております。
投稿: 品川のよっちゃん | 2009年12月12日 (土) 12時36分
はじめてメイルいたします。
朝日新聞読みました
こういったブログがあるとは知りませんでした
もう5年も 更新しておられるのですね
私も総務部門なので、これからときどき読ませていただきます
投稿: 福岡からです | 2009年12月12日 (土) 13時48分