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2009年12月25日 (金)

東証ルール「独立役員」の独立性とその善管注意義務との関係

12月24日、東京証券取引所のWEBサイトに業務規程の一部改正及び(5年ぶりの)上場会社コーポレート・ガバナンス原則の改正がリリースされております。今回の諸改訂は、すでにエントリーのなかでもご紹介いたしましたが、「上場制度整備の実行計画2009(速やかに実施する事項」の具体的な実施ルールとして規定されたものであります。施行は本年12月30日とのこと。なかでも、「ビジネス法務」2010年2月号(中央経済社)にて東証に出向されていた弁護士の方がお書きになっているとおり、「独立役員」(独立性要件を満たした社外取締役・社外監査役)確保の要請につきましては、その違反についてペナルティが設けられておりますので(ただし1年余りの猶予期間あり)、役員候補者の確保に向けた今後の各上場会社の対応が注目されるところであります。

「一般株主との利益相反が生じるおそれのない程度の独立性」が求められておりますので、ある事実が発生した場合だけ、社内での意思決定から排除される、ということでは足りず、たとえ明確に利益相反状況が発生していなくても、発生するおそれがある以上は独立役員に求められる独立性に問題あり、ということになるのでしょうね。とりわけ東証1部の上場子会社における独立取締役などは、その8割が独立性に問題があるとされておりますので、こういった上場子会社の場合、この証券取引所ルールに対してどのように対応するのでしょうか。

もちろん、金融庁スタディグループ報告書(2009年6月17日)や経産省企業統治研究会報告書(前同日)でも問題とされたように、ガバナンス改正によるパフォーマンス向上のためには、社外役員の独立性を厳格に求める立場とは別に、業務に精通した外部の者による指揮監督の有効性を求める立場もありうる、とされておりますので、多少外観上の独立性には問題があっても、(取引所との事前相談の末)独立役員にふさわしいということであれば、就任することは可能のようであります。ただし、その場合には、独立性要件に問題があっても、なお独立役員として就任する理由をコーポレート・ガバナンス報告書に記載しなければなりません。この理由というのはどのようなものなんでしょうか?「外観上は問題がありそうだけど、○○の理由で一般株主とは利益相反のおそれが生じない」とする理由なのでしょうか、それとも「独立性には外観上問題はあるものの(つまり利益相反のおそれは認められるものの)、うちの会社の事情については精通しており、代表者でもその意見には傾聴せざるをえない立場なので、独立役員にふさわしい」といった理由なのでしょうか。取引所が独立性に問題あり、とするのは親会社の「元業務執行者」も含まれておりますし、また先に掲げた報告書の内容などからすると後者だと思われますが、いずれにしましても、利益相反が生じる可能性というのは、当該会社に対してコントロールを及ぼす立場からの問題(たとえば親会社の業務執行者が就任するケース)と、当該会社からコントロールを受ける立場からの問題(たとえば顧問法律事務所に所属する弁護士)がありますので、独立役員候補者の立場ごとに、それぞれ適切な理由が検討される必要がありそうですね。

ただ今後の課題として、独立役員の指定理由を記載しなければならないような方が独立役員に就任する場合、その方の法的責任については何らかの影響は出ないのでしょうか?たとえば社外監査役に弁護士や会計士が就任しているケースでは、その高度な法的知識や経験、財務会計的知見を有する者として、当然のことながら(もちろんある特定の事項に限られますが)一般の監査役に要求されるレベルよりも高度な注意義務が法的に課されていると思われます。(したがって、常勤監査役には過失はないが、非常勤社外監査役には過失が認められる、という事態は当然に考えられます)これと同じく、たとえば社外監査役や社外取締役に、業界事情に精通しており、経営判断に大いに資するような方、という理由で独立役員を選任する場合、一般の取締役や監査役よりもレベルの高い注意義務というのは、この独立役員の方々に課されるようなことにはならないのでしょうか?これまでも同様の理由で社外役員を選任してきた会社も多いかとは思いますが、やはり「独立性要件」が明確になり、また要件を満たさない場合の説明が求められるようになる以上は、社外役員にプロフェッショナルとしての素養が求められる人達も出てくるように思われます。一般株主との利益相反状況を排除することに多少問題があっても、「この人なら会社のことを熟知していて、なおかつその経営判断に期待できる」という理由で役員に選任した、ということであれば、ガバナンス向上のためには、原則どおりに投資家の投資判断や株主の議決権行使にゆだねるべきなのか、それとも投資判断を超えて、善管注意義務(法的責任論)で実効性を確保すべきなのか、そのあたりも検討に値する課題ではないかと考えますが、いかがなものでしょうか。

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コメント

山口先生

今年もいろいろとお世話になりました。そしていろいろなテーマについて楽しく学ぶことができました。ありがとうございます。それにしても、先生のご活躍ぶり、業務ご多忙の中、よくこれだけ更新を続けてこられたなあ、とただただ驚嘆するばかりです。

政策の是非についてはいろいろと意見が分かれるところでありますが、停滞感が蔓延している状況について、実務法曹の一員として、何かできないものかと思案しています。来年は、もっとオープンにかつ冷静な議論ができる社会になれば、とただただ祈るばかりです。

来年も先生の一層のご活躍を祈念しております。

投稿: 辰のお年ご | 2009年12月25日 (金) 21時37分

とんでもございません。いつも勉強させていただいているのはこちらのほうです。
このブログは一日6000~6500ほどのアクセスがありますが、実人数はその半分なのです。つまり閲覧される方の多くがコメントもクリックしているわけでして、コメントをたくさんの方からいただいているのも当ブログの価値だと思います。
来年もまた良質なコメントを是非残していただきますよう、お願いします。(良いお年を・・・)

投稿: toshi | 2009年12月28日 (月) 02時07分

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