« 新株予約権の株主無償割当による資金調達は活用されるか? | トップページ | 闘うコンプライアンス(しまむらvs新潟県加茂市)その1 »

2009年12月15日 (火)

日本興亜損保・臨時株主総会開催禁止の仮処分申立の行方

当ブログでも、過去2回ほど話題として採り上げました日本興亜損保・損保ジャパン統合問題でありますが、12月22日の(統合承認に関する)日本興亜損保の臨時株主総会開催を目前にして、6名の個人株主の方々による総会開催禁止の仮処分命令申立事件が東京地裁第8民事部に係属したそうであります。損保ジャパン側が今年5月に発行した劣後債(1280億円)については、年度末以降に生じた財産状況に重要な影響を与える後発事象であるにもかかわらず、日本興亜損保側は、招集通知の参考書類のなかでなんら記載がされていないことを捉え、取締役による招集手続きに法令違反があるとして株主による差止請求権(会社法360条)を根拠とされているようです。(民事保全法23条2項。差止請求権を被保全債権とする株主総会開催禁止の仮処分申立て-議案の決議をすることの禁止ではなく、総会自体の開催禁止を求めるもののようですね。)

すでに11日の時点で数社のマスコミが、この仮処分申立ての事実を報道しておられたようですが、単にニュースとして報じられていることをお伝えするだけでは、このブログでエントリーする意味もあまりないように思います。むしろ、先日のトライアイズ社の株主総会直前期のように、会社が報じていないような情報がWEB上で公開されている・・・といった事例におきまして、いろいろと検討することに意味があるものと考えております。ということで、ある方から教えていただきましたのが、「日本興亜損保の真の発展を願う株主有志のHP」であります。たしかに、多くの掲示板で話題になっているとおり、元社長さんと現社長さんとのバトルの続きであり「どっちもどっち」と冷静に受け止める向きもあるかもしれませんが、企業コンプライアンスの視点からすれば、法令違反がそのまま「力によってねじ伏せられる」ような事態については正されるべきものであり、もし「力がまかりとおる」のが株主民主主義だとしましても、それはきちんと株主が力を発揮できるだけの正しい情報が(議決権を書面で行使する株主も含めて)入手されることが不可欠の前提と考えます。

この株主有志の方々のHPには申立書面が掲載されておりますが、統合予定会社(正確には持ち株会社を新設するものですが)の劣後債発行に関する事項はきちんと日本興亜損保側も開示義務があることについて、独立した公認会計士さんの意見書までとりつけておられるようであります。なかなか興味深い仮処分事件ではありますが、会社法360条(1項および3項)の解釈として、何点か疑問点がありますので、おそらくそういった疑問点が東京地裁での審尋のなかで検討されたうえで最終的な判断が下されることになるものと思われます。(和解的な解決はなさそうですね)なお、進行中の裁判における主張上での疑問点について、ここで述べるのは(たとえ場末のブログであっても)ルール違反でありますので、現時点では私見を述べることは差し控えさせていただきます。いずれにしましても、団塊の世代の方々が、ビジネス世界の最前線からリタイアされるケースが増える中、こういったOB株主による総会でのバトルはどこの上場会社でも今後は起こりうる事態であります。マスコミや大株主、そして会社側による情報だけでなく、その渦中にいらっしゃる紛争当事者ご自身の真摯な主張(意見)に冷静に耳を傾けますと、また外からみた経営陣の違った姿が映し出されることもあるかもしれません。OB株主側を支援するとみられていた日本興亜損保の大株主さんが、どうも現経営者を支援するらしい、といった報道が先行したことで、こういった裁判に至ったのかもしれませんが、そういった背景事実を抜きにしても、ビジネス法務に関心のある方は一度覗いてみる価値のあるWEBページだと思います。(ところで、保険金支払い遅延問題を採り上げたときにも申し上げたのですが、こういった株主による取締役の違法行為差止め請求が認容された場合、監査役さん方はどうなるのでしょうか?これはこれで、別途大きな問題になるように思うのでありますが・・・・・)

企業コンプライアンス関連では、「しまむらVS加茂市」がたいへん興味深い事件でありまして、そっちをエントリーしようかと思っておりましたが、上記のHPを見つけて読みふけってしまいましたので、日本興亜損保さんの話題を優先いたしました。

|

« 新株予約権の株主無償割当による資金調達は活用されるか? | トップページ | 闘うコンプライアンス(しまむらvs新潟県加茂市)その1 »

コメント

(なぜか漢字で・・) 開示書類などに目を通していませんので、あくまで一般論ということで失礼いたします。
統合比率が不公正だという主張だけであれば、総会を差し止めるのではなく、まさにその比率で良いのか否かを総会に判断させるべきです。他方、株主の判断の前提となる情報がミスリーディングであるというならば、総会決議が取り消される(831条1項1号(類推)適用)のみならず、その問題点を総会日までに有効に是正できないという場合であれば、総会の前であっても、総会の開催禁止や決議の効力発生を差し止めることが認められるべきように思います。このとき、会社法360条を用いるならば「会社に」損害のおそれがあるかという問題(難問)が生じますが、総会決議に取消事由があるという前提であれば、360条ではなく、決議取り消しを本案として民事保全法で差止めの仮処分が可能(この場合、会社の損害という要件は明示には必要ない)と論じることもできそうです。

以上、受験生の答案みたいなコメントで誠に済みません(笑)。あくまで、事案には直結しない一般論です。

(追伸)カテリーナ・ヤマグチのギャグは傑作でした・・・

投稿: 大杉謙一 | 2009年12月15日 (火) 09時29分

株式移転が行われた後、決議が取消になると、東証から損害賠償とか、いろいろありそうな気がしますが、どうでしょうか。

投稿: 東証 | 2009年12月15日 (火) 09時41分

日本興亜損保さんは、株主総会を延期したようです。法的には問題は無いのでしょうが、どうなんでしょうこれは。ブログはまた、別の意味で面白いエントリーが上がっていました。

投稿: 延期したようです | 2009年12月15日 (火) 19時29分

大杉先生、東証さん、延期さん、コメントありがとうございます。ニュースでも報じられているとおり、12月30日に延期されたようですね。とりあえず15日に再度招集通知を出すと、30日というのは最短の日ということになりますね。

この日本興亜損保さんですが、実はまだ火種をかかえているご様子でして、総会が延期となった分、今後株主側からいくつかの問題点が指摘される気配でありますね。今後もまだまだ注目してみたい案件であります。

投稿: toshi | 2009年12月16日 (水) 02時13分

仮処分申立ては、指摘資料の追加添付をもって、目的達成し取下げとなりました。私のように法律、会計知識が十分でない者には、「封筒に一枚入ってない。」→「入れ忘れたので、送ります。」ということだけであったように見えます。
なぜたったこれだけのことが、多くの株主、投資家の皆さん、報道関係まで巻き込んで、普通の株主の皆さんが参加出来にくい年末の日に開催日を延期までして、やらなければらないことだったのでしょうか。
納得しにくいことであり、別の目的があるならば、より多くの人々にも、私のような1000株株主、他の株主にも知らせてほしいと思いました。

投稿: オープンセサミ | 2009年12月20日 (日) 12時06分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 日本興亜損保・臨時株主総会開催禁止の仮処分申立の行方:

« 新株予約権の株主無償割当による資金調達は活用されるか? | トップページ | 闘うコンプライアンス(しまむらvs新潟県加茂市)その1 »