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2010年1月31日 (日)

KDDIのJCOM出資手法の適法性と公開買付規制の解釈

1月28日の日経新聞にKDDIのJCOM(ジュピターテレコム)株式の相対取得の是非に関する記事が掲載されております。JCOM社の約38%の株式をKDDIが取得することで資本参加をめざす、ということでありますが、その取得方法については、JCOM社の実質的な大株主から相対で取得(ただし、直接取得するのは大株主の中間持株会社の持ち分)するにあたり、金商法上の公開買付規制に違反しているのではないか、との疑念が持ち上がっている、ということのようであります。(なお、毎度申し上げるところではございますが、私はとくにM&Aに詳しい法律専門家でもございませんので、意見にわたるところは普通の弁護士のつぶやき程度にお読みいただけますと幸いです)

実はこの問題は、1月27日東京の某会議室にて開催されました例の「ふしぎな開示研究会」第2回会議でも話題になっておりました。(参加されていた15名程度の方々は、「あぁ、あれね?」と思って記事を読んでおられたのでは・・・)私は、その会議で初めてこの話題を知りましたが、村上ファンド事件やライブドア事件の裁判所の解釈手法を例にあげて、ロイターの記事で上村先生(早大教授)がコメントされていらっしゃるのとほぼ同様の意見を述べさせていただきました。

たしかに買付対象会社は有価証券報告書提出会社ではありませんし、KDDIが直接JCOM株式を買い付けるわけでもなく、さらに(KDDIの開示情報を読んだかぎりでは明確ではありませんが)中間持株会社が「このために設立されたもの」でもないようであり、公開買付規制(33%以上の株式を取得する場合には公開買付によらなければならない)には抵触しないようにも思われます。しかしながら、刑事罰による適用場面の明確化(罪刑法定主義)の要請が強いインサイダー規制、有価証券報告書虚偽記載においてさえ、金融商品取引法があれだけ実質的な解釈がなされるわけで、同様に刑事罰が適用される公開買付規制についても実質的な解釈の要請が働かないと軽々には言えないのではないでしょうか。もちろん「このために中間持ち株会社が設立されたわけではない」ということも「実質的な解釈」の余地があるからこそ出される理由のひとつであることは承知しておりますが、だからといってとくに公開買付け手続きを排除すべき必要性は認められず、またその必要性を買付希望者をして予測困難にさせるほどの経済的合理性があるようにも思われません。公表されているスキームを拝見しますと、中間持株会社の持ち分はすべてKDDIが取得して100%子会社化するようですので、支配権についてはすべて移動するわけですし、また100%子会社ということであれば、KDDIの意向によっていつでも再編手続によって自ら直接JCOMの株式を保有することは可能ですから、むしろ「実質的には」買付対象会社は有価証券報告書提出会社であり、直接買い付けるのと同様である、と解釈することも可能なように思われます。

ただ、ひとつ疑問に思いますのは、公開買付規制の条文のなかに、そもそも3分の1ルールに関する潜脱行為自体を個別に規定する条文が存在することであります。(金商法27条の2第1項3号、同4号)つまり市場内取引を組み合わせて、脱法的な態様の取引によって3分の1を超える「急速な」株式取得は公開買付によらなければならない、と定められております。また、トストネット等の取引所市場内取引により潜脱行為が図られることを防止するための規定も存在します。それだったら、そもそも脱法的な行為は個別に規定している場合にかぎり、金商法は違反行為とする趣旨ではないのか?そもそも公開買付規制に関する規制文言は実質的に解釈すべきではない、ということではないか?という疑問であります。このあたりはかなり難しい問題ではないかと思いますが、結局のところ投資者保護のための公開買付制度ではありますが、一方においては企業再編を円滑に行うための必要性もありますので、そのあたりのバランスをどのへんで保つべきか、というところでの判断となるのでしょうね。要は本件のような事案については、その解決を法の認識(解釈)によるべきか、法の創造(立法)によるべきか、整理すべき点があるのではないか、と思います。いずれにしましても、公開買付け規制違反は刑事罰とともに課徴金制度の対象にもなりましたので、金融庁の事前意見照会等でスキームの合法性についての確認作業なども必要となってくるのではないでしょうか。

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2010年1月27日 (水)

インサイダー取引と刑事罰適用のむずかしさ

証券取引等監視委員会によるインサイダー取引摘発が急増している、といった特集記事を読みました。(日経1月25日朝刊)当該記事によりますと、たしかに摘発は急増しているようでありますが、その効果としてインサイダー取引の件数は減っているとまでは言えないようでして、「潜在的にインサイダー取引が増えているかどうかはわからない」(証券取引等監視委員会)とのことであります。おそらくインサイダーの手口も(グレー事案も含めて)巧妙化しておりますし、当局の調査をすり抜けている事例も実際にはかなりあるのかもしれません。そうしますと、ひょっとすると摘発件数の増加以上にインサイダー取引は増加している可能性もある、ということなんでしょうか。課徴金による取締りは、原則として「利益の吐き出し」にすぎないため、「懲らしめ効果」としてはどの程度の効用があるのか疑問もありますが、「インサイダー取引は、かならず摘発される」という意識を社員の方々やその関係者の皆様に浸透させるためにも、(課徴金による摘発は)迅速に対応ができる方法として今後も定着していくものと思われます。(インサイダー取引に対する課徴金制度の効用につきましては、ちょうど2年前のこちらのエントリーをご覧ください。ちょっと今読み直しますと恥ずかしい内容も一部含まれております(^^;; なお、コメント欄には、非常に有益な解説がございますので、そちらのほうが参考になるかもしれません)

インサイダー取引規制に関しましては、証券取引所のルールも昨年7月に改正され、会社が役員や社員にインサイダー取引をさせないこと(遵守事項)、会社がインサイダー未然防止のための情報管理体制を確保すること(努力義務事項)などが「企業行動規範」として明記されております。インサイダー規制違反が企業にもたらす社会的信用失墜も無視しえないものだと思われますし、とりわけ最近のパイオニア社の元監査役の方のインサイダー事例につきましても、当社の社外第三者委員会は「会社として民事賠償請求すべきである」との見解を示しておられますので、今後は社内でインサイダー取引を行った役員、社員に対する法的請求についても検討されることになるのかもしれません。(ただし何を損害とみるのか、また別途考慮すべき問題かとは思いますが)

なぜもっと刑事罰の適用を考えないのか?といった疑問を持たれる方も多いかと思いますが、やはり記事にもありますように、インサイダー取引規制違反を公判維持することは結構たいへんなんでしょうね。以前ある有識者の方が、当ブログのコメントで「インサイダー規制に関する条文構造の建付けが悪いにもかかわらず、この20年間ほとんど見直しがされなかった」と指摘しておられました。このインサイダー規制に対する刑事罰適用といった問題では、金融法務事情1888号(最新号)の連載「霞が関から眺める証券市場の風景」のなかで、大森泰人さん(証券取引等監視委員会事務局次長)が「インサイダー第1号事案」を採り上げておられます。(監視委員会のHPから、閲覧可能です)たいへん著名な日本商事事件に関するエピソードでありますが、さすがに当時の様子を存じ上げていらっしゃる方らしく、非常に公正な立場で最高裁判決に至るまでの当局の苦難(インサイダー規制への刑事罰適用のむずかしさ)が、わかりやすく描かれております。(立派な裁判官にたいへん苦労する解釈をしていただき申し訳ない・・・とのこと 笑)なるほど、「建付けが悪い」という意味が、この大森さんの解説を拝読して、私なりにやっと理解できたような気がいたします。また個別の条項をもってインサイダーを取り締まる場合と、バスケット条項を用いて取り締まる場合との長所・短所につきましても、なんとなく理解できてきましたので、このあたりはまた次の機会に私見として述べてみたいと思います。

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2010年1月25日 (月)

IFRS(国際会計基準)適用後の内部統制監査と不正発見機能

旬刊商事法務新年号(1887号)では「国際会計基準が企業法務に与える影響」と題する新春座談会が始まりまして、まだ(上)しか読んでおりませんが、法律家、会計専門職、企業実務家の間で、それぞれの認識や課題の差異が浮き彫りになり、たいへん興味深いものであります。いよいよ今年は法務の分野におきましても、本格的にIFRSが採り上げられる場面が増えそうな予感がいたします。

やはり関心のひとつは、国際会計基準に違反した会計処理を行い、これが虚偽記載とされる場合の司法上のエンフォースメントの在り方ですね。たしかにIFRSの解釈権はIFRIC(国際財務報告解釈指針)のみが独占しているわけでありますが、国内法上で粉飾決算事件や違法配当事件が問題となる場合、最終的には日本の裁判所がIFRSの適用状況を判断するわけですから、いくらIFRICが解釈権を独占しているといっても、日本では裁判所が解釈権を持っていると言わざるを得ないのではないか、との疑問。(つまり、会計監査や会計方針の決定時点で「正しい会計方針による処理」と判断していても、最終的に裁判所において違法な会計処理とされるリスクは残る、ということ)また、IFRSに従った会計処理だけが唯一の公正なる会計慣行ではなく、IFRSに従わない会計処理を行ったとしても、併存する公正なる会計慣行にあたる、という考え方も成り立ちうる、ということも課題となりそうであります。(つまり、IFRSに従わなくても財務諸表に違法な点はない、という結論が導かれること)すでに当ブログで2回ほど述べましたように、私見は若干異なりますが、「法律家から見たIFRS」ということであれば、このような疑問もしくは主張が出されても何ら不思議ではないところでありまして、もしこのような問題が「どこかおかしいのでは?」と違和感を覚えるのであれば、これは正当な根拠をもって否定(反論)していかなければならないと思われます。この座談会で弥永先生が指摘されているように、たとえば「負ののれん」について、会社法計算規則が改正され、コンバージェンスに歩み寄るような場面もみられるわけでありますが、今後は歩み寄りが困難な部分もいろいろと表面化してくるはずであります。

それと、もうひとつ上記座談会記事を読んでの感想でありますが、IFRSの適用と同時に内部統制報告制度も併せて施行される、ということになりますと、おそらく適用会社の社内で作成されるアカウンティングポリシー(会計処理方針)の可否について、その適用の妥当性が審査されることになると思われます。そうなると、取引実態にまで踏み込んでルール適用の妥当性が判断されるものとなり、いわば会計監査は「内部統制報告制度を通じて」その企業の取引実態まで十分に認識しなければ監査ができなくなるのではないかという疑問が生じてきます。(財務諸表監査と内部統制監査の一体的実施を前提として、ということでありますが)しかし、そうであるならば、現在会計監査人の監査見逃し責任を肯定する裁判所の論理からしますと、「情報監査が主であり、実態監査は副次的なもの」とすることから、不正発見義務のレベルも限定的でありますが、プリンシプルベースによるIFRSを前提とする会計監査が実態監査に近いものということになりますと、「取引の実態に近づく会計士による不正発見は容易になる」ということから、これまで以上に会計不正の発見義務がより広く認められるようになるのではないでしょうか?新聞等のIFRS解説では、「IFRS適用により会計不正事件は減る」と予想されておりますが、私自身はそんな甘いものではないと考えております。今後も会計不正が発生する、ということになりますと、外部監査人の不正発見義務についての課題も、真剣に検討しておく必要があるものと思います。上場会社の全てに内部統制報告制度とIFRSが同時に適応されるのは日本だけでしょうし、(米国は未だ7割の上場会社にはSOX法が適用されておりません)日本固有の問題点についても検討すべきではないでしょうか。

この座談会記事(上)の最後のところで若干ふれられておりますが、IFRS時代において、監査リスクを適正に分配するためには、今後、取締役会や監査役に対して、早期に監査リスク分配の仕組み作りを要望していかなければ、外部監査人だけに過度の負担が発生するか、もしくは過度の監査報酬として企業自身が負担するようなことになってしまいそうな予感がいたします。

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2010年1月21日 (木)

第三者割当増資に対する監査役「有利発行適法性意見」制度

本日(1月20日)は、日本監査役協会九州支部でセミナーの講師を務めさせていただきました。九州支部設立1周年(オバマ大統領の就任式の日に設立されたとのこと)という日に講演をさせていただき、たいへん光栄でした。

そういえば今週の月曜日(18日)の日経朝刊(法務インサイド)で第三者割当増資の規制強化に関する特集記事が掲載されておりまして、監査役の一言で新株予約権の(価格の公正性に関する)第三者評価書面を取締役会でとりつけなければならなくなった上場会社のお話で出ておりました。レックスHD事件では、会社の情報開示に関する監査役の責任が追及されておりますし、ライブドア一般投資家訴訟では、開示規制違反の民事賠償責任が監査役に認められる事態にもなっておりますので、監査役が企業の情報開示の在り方に口を出す時代になったのも、首肯しうるところであります。(アーバンコーポレーションの問題でも監査役さんは株主から訴訟を提起されているのですね・・・)

新聞記事では上場会社法制に精通されているお二人の法律家の方々が「監査役も株主から責任を問われる可能性がある」と指摘しておられるとおり、このたびの第三者割当増資に関する監査役の有利発行適法性意見制度のインパクトもまた、こういった監査役の積極的な対応に拍車をかけるものであります。証券取引所ルールに続いて、金融庁の開示府令の改正(2月1日施行)により、監査役が第三者割当の際に、その適法性に関する意見を表明する機会が増えることが予想されます。新株発行ということでしたら、まだなんとなく適法性に関する意見も出しやすいように思われますが、「有利発行の条件や価格が問題となる新株予約権の発行」ということになりますと、あまり裁判例もなく、またプレミアム価格算定の根拠にもなじみがない、ということで、はたして(金融工学について素人である)監査役さんに、このような公正な価格を算定する職責を負わせることが妥当なのかどうか、といった疑問もわいてこようかと思われます。

第三者割当増資と監査役の役割につきましては、例の有識者懇談会報告書を受けて、日本監査役協会が検討チームを設立し、鋭意とりまとめを行っておられるものとお聞きしておりますが、今回の証券取引所ルール改訂や開示府令の改正を踏まえて、監査役協会内の法規委員会の協力を得ながら、近々このあたりの指針をとりまとめられるようであります。ここで実際に、監査役として有利発行適法性意見の出し方に関するガイドラインのようなものが作成されるものと思いますが、おそらく監査役にプロの評価算定技術のようなものが求められることになるのではなく、取締役らの価格決定に至ったプロセスを開示させたり、発行価格や発行条件の妥当性について、株主が自己責任によって判断(場合によっては差止を求めるなど)できる程度の情報開示の十分性についての意見表明などが中心となるのではないでしょうか?割当の相手方たる「第三者」と取締役らとの関係次第では、価格算定の公正性を担保するために、ひょっとすると評価機関による価値算定書をとりつけるよう求める場面も出てくるかもしれませんし、その必要がない場合も出てくるかもしれません。要は既存株主の利益保護のため、監査役に一定の役割が期待されるわけでありますが、私は決して監査役の能力を超えたところで責任が加重されることにはならず、あくまでも本来の「取締役の職務執行の適法性を監視し検証する」範囲での職責が問われることになるものと考えております。

ただ金商法193条の3(財務書類の証明業務に従事する公認会計士又は監査法人による法令等違反事実届出制度)に登場する監査役と同様、監査役さんにとっての有事の場面がまたひとつ増えたことは間違いなさそうであります。

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2010年1月18日 (月)

1月26日の「ビジネス法務の部屋」セミナーに関するお知らせ(一部訂正)

さて、先日お知らせいたしました来週26日の「ビジネス法務の部屋を巡る諸問題」セミナーですが、おかげさまで、会場一杯(収容人数108名)の参加申し込みをいただき、お申込みを停止させていただいております。(ご参加いただける方は、長机に2人掛けでお座りいただくようですので、とくに窮屈な感じではない、と主催者側より聞いております。)

主催者側の情報によりますと、180センチの長机に3名お座りいただくことになるので、若干窮屈になるかも・・、ということでありました。訂正してお詫び申し上げます。

本当にどうもありがとうございます。m(__)m「忙しい時間を割いて、来てよかった」と思っていただけるよう、レジメも準備しておりますので、皆様方とお会いできるのを楽しみにしております。

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オリンパス内部通報判決に思う内部通報(外部窓口)の重要性

当ブログでも昨年2月にご紹介したオリンパス内部通報事件(内部通報制度はむずかしいその2)でありますが、1月15日に東京地裁で会社側勝訴の判決が出されたようであります。(代表的なニュースはこちら)オリンパス社のH社員からは配転処分の無効確認及び損害賠償を求めておられたようですが、地裁はいずれも請求を棄却した、とのこと。裁判所は会社側には(公益通報者保護法が適用されないことを前提として、さらに)「人事権の濫用」はなかったとしているようですが、最大の争点はH社員がオリンパス社に対して行った通報は、いわゆる公益通報者保護法上の通報事実には該当しない、というところだったと思われます。

ニュースからの拾い出しにすぎませんが、裁判所がH社員の通報を、公益通報者保護法上の「通報対象事実」ではないとしたのは①内容が抽象的、②業務と人間関係両側面の正常化が(配置転換の)目的だったとオリンパス社は認識していた、③オリンパス社は社員引き抜きの違法性を認識していなかった、とあります。ちなみに取引先から機密情報を知る社員を引き抜くことにつきましては、不正競争防止法上の営業秘密侵害罪に該当する可能性がありますので、おそらくきちんとした手続の上での通報であれば公益通報者保護法上の通報対象事実に該当するものと思われます。

結局のところ、本件では昨年2月の当ブログのエントリーでも触れておりますとおり、「内部通報(ヘルプライン)で処理すべき案件」なのか、「公益通報者保護法」上で処理すべき案件なのか、通報者や会社内で明確な仕訳ができていなかったのではないでしょうか?たとえば私も外部窓口として経験がありますが、内部通報制度で処理するのであれば、企業倫理違反やセクハラ問題など、広く受け付けますし、また匿名でも通報は受け付けます。しかし公益通報者保護法上の通報となりますと、匿名では不可ですし、また対象事実も限定(現在のところ431本の法令違反事実)されます。ただ、匿名不可といいましても、手続上通報者が特定されますと、今後は公益通報者保護法上で保護される通報ということになりますので、たとえばヘルプライン上で通報を処理していたところ、途中から公益通報者保護法上の処理に変更しなければならないような事態に発展します。(この場合ですと、公益通報者保護法3条により、会社側にそれほど大きなミスがない場合でも社員の外部通報も保護の対象になる可能性も出てきます)

内部通報(ヘルプライン)として受理したものと思っていた会社側は、社内のヘルプライン規程にしたがった処理を行えば足りると思いますので、たとえ窓口で受理した通報内容が抽象的であっても、また「相談」に近いものであってもそのまま処理しますし、社内処分や犯罪事実の調査・公表よりも、業務の適正や人間関係の修復のための社内対応を優先することになるのかもしれません。しかし、H社員の通報を、当初から公益通報者保護法上の通報事実の申告と理解していた場合には、窓口の時点で(窓口に限定されませんので、たとえば上司に通報した時点でもかまいませんが)犯罪事実又はこれが発生するおそれを示す事実の具体的な内容を詳細に求めますし、その処理についても社内での対応が真剣に検討されたのではないかと推測いたします。先の判決理由の「オリンパス社は社員引き抜きの違法性を認識していなかった」なる文言からみますと、どうもH社員から通報があった時点では、とくに公益通報者保護法の適用を意識していなかったのではないかと推測されますし、どうも重大な認識上の齟齬が発生していたように思えます。内部通報制度は不正発見のための内部統制構築の重要な要素でありますので、本件のように通報したことが公益通報者保護法の対象にならないといったことになりますと、その責任がどちらにあったのかはとても関心があるところです。

この事件では原告側より著名な某大学教授による意見書が東京地裁に提出されております。(意見書には引き抜きの対象となった社員の会社名まで出ていますね)その意見書によりますと、H社員が通報した時期において、オリンパス社にもきちんとしたヘルプライン規程が存在していたそうであります。ただH社員の行動からみて、どうも外部の弁護士事務所等の窓口は存在しなかったように読めます。(そのあたりは明確には記載されておりません。実際には、コンプライアンス室へ正式通報されたようです)そこでもし、本件のH社員の通報がヘルプラインに従って弁護士事務所のような外部窓口に対して行われていたとしたら、果たして同じ結果になっていたでしょうか?おそらく先に述べたような仕訳がきちんとされたでしょうし、事実調査や通報者への回答なども期限通りに行われたはずであり、結果は違っていたのではないかと思われます。(また会社側としても、社内における対応によって、マスコミに大きく報じられるようなことにも発展することはなかったものと思われます)←でもやっぱり、あんまり張り切る外部窓口っていうのも、「第三者委員会委員」と同じで会社側からは嫌われるんでしょうね(^^;

いずれにしましても、現行の公益通報者保護法は通報者を保護することを目的としておりますが、たいへん使い勝手の悪いものであります。来年4月には見直しが予定されておりますが(附則第2条)、通報濫用を防止することはもちろん必要ではあるものの、本当にコンプライアンス経営に資する形で活用されるための施策を検討しなければ、結局「正直者がばかをみる」とか「パワハラの温床」と言われ続け、誰もまともに通報する社員はいなくなってしまうのではないかと危惧しております。昨年、不正競争防止法が改正され、営業秘密侵害罪の適用要件が緩和されたこともあり、益々公益通報への委縮効果が高まっているのが現実であります。さらに内部通報制度(ヘルプライン)の運用にあたり、公益通報者保護法上の通報対象事実の取扱についても、社内で検討しておく必要があろうかと思われます。

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2010年1月15日 (金)

日航の上場問題と「空飛ぶ簿外債務」

日航の事業再建問題につきましては、かなり政治色の強いお話になっておりましたので、あまり当ブログでは触れませんでしたが、100%減資もありうる、という段階にまで至っておりますので、ふと思いついたことを備忘録として書きとめておきたいと思います。

もう少し話題になってもいいのではないか?と思い、いろんなブログを巡回しておりましたが、あまり細野祐二さんの「空飛ぶ簿外債務」および「疑惑の翼」はブログ等では採り上げられていないようであります。(現在進行形で解説されていらっしゃるZAITENの論稿のほうはよく引用されているようですが)2006年8月と同年12月に有償会員向けに細野さんが書かれた財務分析に関するエッセイですが、これが2008年6月に「法廷会計学VS粉飾決算」という単行本でまとめられた際に、私もたいへん興味深く拝読させていただきました。(日航の反論と、それに対する再反論という構成もまたたいへんオモシロイものです)現在のように日航の経営危機があまりマスコミなどでも採り上げられていなかった時期に、あえてこのような財務分析を行い、株主や投資家に警鐘を鳴らしておられたことにつき、誠に卓見であることを認めざるをえないと思います。(ご本人さんは、こんなこと、他のところでもすでに分析している人はいるのに、誰も騒がないのはなぜか?と書かれておりますが)

ところで、日航の株式は6円とか10円とか、ちょっとマネーゲームの様子となりましたが、どうも上場廃止の方向へ向かっているようで、そのうえ100%減資ということになりますと、いよいよ株式の価値はなくなってしまうわけであります。(株券電子化の時代に「紙くずになる」という表現はちょっと違和感がありますね)そして、これまでの粉飾決算の歴史のなかで、現経営者や旧経営陣そして監査法人の責任が問われやすくなるのは、一般的に会社が法的整理手続きに入った後・・・ということになります。(私が会社役員の代理人を務めております某IT関連企業も、個人の賠償責任や刑事責任を問われるようになったのは民事再生の申立て以降のことであります)もはやこれ以上株主に迷惑をかけることもなくなりましたので、金融庁も債権者も、そして管財人も粉飾や粉飾見逃し責任を追及しやすくなるのでしょうね。

しかも今回は日航OBの方々も、約束していた企業年金が減額されることになってしまうわけでして、「会社が約束を反故にするのだったら、我々も墓場まで持っていこうと思っていた会社との約束を反故にしてやろう」という方も出てくるのではないでしょうか。(ちょっと性悪説的な発想ではありますが)つまり退職後も高い年金を受領できるからと思って、会社の嫌なとこも全部呑み込んで胸にしまって退職された方も多いと思います。しかしこのたびの減額(もちろん自主的に応じた方もたくさんいらっしゃるでしょうが)により、ずいぶんと仁義もなくなってしまったのではないでしょうか。ということで、今後は日航におけるコンプライアンス問題(とくに粉飾決算問題)が会社の内外から浮上してくるでしょうし、とりわけ担当されていらっしゃった監査法人さんも、ちょっと他人事ではなくなってきたように思います。(ちなみに、細野さんは「空飛ぶ簿外債務」のほうでは、なんとか会計処理の幅に収まっているものと考え、継続企業としての注記のみを問題とされておられたようですが、「疑惑の翼」のほうでは粉飾決算であると断定され、これにお墨付きを与えていた監査法人の今後の動向が注目される、と書いておられました。まだ5年以内の決算に関する問題ですし。。。

最近たくさんの第三者委員会報告書を精読したことは前にもふれましたが、やはりセール・アンド・リースバック方式を用いた粉飾決算事件もいくつか存在しておりました。再建スキームは未だはっきりとはしておりませんが、1380億円もの公募増資を行う直前の有価証券報告書提出に深く関わっておられた方もいらっしゃるでしょうし、今後日航という日本を代表する会社のコンプライアンス問題が少しずつ表面化してくるように予想しております。

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2010年1月12日 (火)

投信運用会社による議決権行使状況の開示義務付け

今年の株主総会に関連する話題でありますが、投信運用会社が投資先企業への株主議決権の行使状況を各社が個別に開示するように(投資信託協会が)義務付けるそうであります。(日経ニュースはこちら。今年5月、6月総会の集中期から導入とのこと)上場会社が総会における議決結果(賛否の結果)を開示することにつきましては、取引所の要請がありましたが(たとえば東証「株主総会議案の議決結果の公表についてのお願い」)、こちらは機関投資家(および運用会社)の受託者責任の履行という観点から、ガバナンスの強化を図る、ということのようであります。

私もよくは知りませんでしたが、これまではこちらにあるように投資信託協会が、まとめて行使状況を開示しておられたのですね。ちなみに、このあたりの問題点は金融審議会「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」の第19回(平成21年2月10日)議事録(金融庁HPより閲覧可能)が参考になるかと思います。私などは、そこで展開されている(推進派でいらっしゃる)岩原教授のご意見が、まことに正論のように思うのでありますが、運用会社のなかには、金融機関のグループ会社が含まれておりますので、議決権の行使状況を開示すると、「発行会社にご迷惑をおかけしたり、無用に発行会社や、そのエージェントから圧力がかかったりして無用にコストがかかる」ということで、かなり反対意見も強かったのではないかと思われます。(実際、こういった事務手続の増加は手数料に影響してくるのでしょうかね?)ちなみに三菱UFJ投信さんなどは行使状況を開示されておられるようですが、この程度であればとくに発行会社に迷惑をかけたり、圧力をかけられる・・・というほどでもないように思うのでありますが。。。

これが果たして個別の企業のガバナンス強化につながるのかどうかはわかりませんが、議決権行使状況を各社で比較できたり、議決権行使ガイドラインの変更だけでなく、行使状況の変遷自体もわかるようになるため、おそらく各運用会社における説明事項は増えるものと思いますので、市場による(全体での)ガバナンス強化へのインセンティブは高まるのではないでしょうか。

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2010年1月 7日 (木)

「公開会社法」時代の監査役制度の在り方について

昨日の「公開会社法法制化とソフトロー」につきましては、多くのアクセスをいただき、ありがとうございました。また貴重なコメントも順次拝見し、今後の意見形成の参考とさせていただきます。せっかくですから、もうひとつ、公開会社法で話題になっております監査役制度改革について一言だけ追加でエントリーいたします。

コメントなどを拝見したり、また他のブログを閲覧しておりましても、監査役制度の仕組みについてのご意見が中心になっておりまして、どうすれば制度が期待されたとおりに運用されるのか?といったところへのご意見はあまりみられないようであります。所詮、役員であれ、従業員であれ、社長に「監査役やってよ」と言われて就任するのがほとんどのケースでしょうし(もちろん法律的には株主総会で選任されるわけですが)、数年後には取締役に横滑りする、ということもよくありますので、いくら仕組みを変えてみても監査役に本来の仕事が期待できるのでしょうか・・・といったご意見も多く聞かれるところであります。

現場に近いところにいる者としては、なかなか反論しにくいところではありますが、ではどうやって監査役制度がより効果的に運用されるのか、という点についても検討する必要があると思っております。実際、平時の監査役さんのお仕事というのは、結構外からは見えにくいものであります。とくに内部統制システムを重視して、予防的監査と言われるようになり、適切に社内のリスク管理をしていらっしゃる監査役さんほど(つまり、監査役監査を受ける社内の雰囲気も良ければ、監査役さん自身の能力も高い、といった会社ほど)とくに目立った問題も発生しないということで、「監査役って、何をしているのだろう、とくにいらないのでは?」という意見も聞こえてくるのかもしれません。しかし実際には適切な監査役制度が運用されているからこそ、という事例もあるわけです。

こういった目に見えない監査役制度の運用では不十分ということになりますと、マスコミに登場するような、やはり「物言う監査役さん」がどれだけ今後出てくるのか、というところに(運用実績については)依拠せざるをえないのかもしれません。何か社内で問題が発生したときに、監査役としてはアクションを起こさないと「任務懈怠」に問われ、損害賠償責任を負担しなければなりませんよ・・・・・といった、いわゆる監査役さんの有事対応を議論するのは、こういった「物言う監査役さん」が登場する(登場せざるをえない?)インセンティブになるのかもしれません。

少し前までは、大和銀行株主代表訴訟判決(平成12年)とか、ダスキン高裁判決(平成18年)あたりが、監査役の任務懈怠責任が認められた裁判例として、けっこうインパクトがあったと思います。その衝撃を現役の監査役さんにお伝えすることで、「そうか、じゃあしっかり監査しないと、とんでもないことになってしまうのか・・・」「いやいや、こうなる前に辞任しちゃったほうがいいかも・・・」という教訓を心に刻むためには大きな意義がありました。しかし、これらの著名な判決は、元々の事件の大きさからみて、監査役さんに任務懈怠が認められても不思議ではない、ということは(感覚としては)言えそうでありますが、法律的には、監査役さんの仕事をどのように進めていけば善管注意義務違反にならないのか、ということへの答え(もしくはヒント)を付与してくれたかどうかはちょっと疑問であります。大和銀行事件では任務懈怠が認められたものの、結局損害との因果関係は否定されましたし、ダスキン事件につきましては、監査役さんの責任は他の取締役さんとの共同不法行為的な任務懈怠として認定されたものですから、いわゆる「監査固有の問題」からは離れているように思われます。

そういった流れで申しますと、平成21年に監査役さんの任務懈怠が(一部ですが)認められたライブドア投資家損害賠償請求訴訟(東京地裁)と、監事さんに関するものではありますが、先日よりご紹介している大原町農協最高裁判決は、それぞれ会計監査、業務監査の領域において、監査役さんがどの程度の仕事をしていれば、(たとえ不正が発覚したとしても)免責されるのか、という点をダイレクトに示したものとして、たいへん意義のある判決だったのではないでしょうか。こういった判例を分析するなかで、監査役さんがどのような状況で、どこまで職責を全うしなければ法的責任を問われるのか、という点を検討し、監査役制度の運用の方向性を示していくべきではないかと考えております。

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2010年1月 6日 (水)

「公開会社法」法制化とソフトローの役割

今朝(1月5日)の日経新聞では、対照的なふたつの記事が掲載されておりました。ひとつは法務大臣が「公開会社法」(仮称)について、2月にも法制審議会に諮問する方針を固めたというものでありまして(本日の法務大臣の記者会見でも確認されたようであります)、もうひとつは特集記事「2010年資本市場~新ルールでどうなる~」で、東証・大証が改訂したガバナンスルールの解説であります。いずれも上場会社法制に関わるものでありますが、公開会社法がハードローの世界、そして上場ルールはソフトローの世界であります。私的には今年、来年あたりの株主総会に大きな影響をもちうるのは東証・大証ルール改訂だと思いますので、後者の方にとても関心が高いのでありますが、多くのブログ等ではすでに「公開会社法」に関する話題が優先しているようであります。なお、この民主党PTによる公開会社法に関する素朴な疑問につきましては、すでに民主党・公開会社法素案に関する素朴な疑問において記したとおりであります。

日経新聞1面の記事にもあるように、法制審での議論のたたき台になりそうなのは、民主党公開会社法プロジェクトチーム(PT)(座長:鈴木参議院議員)が2009年7月にまとめた公開会社法の素案であります。その公開会社法PT座長でいらっしゃる鈴木克昌議員は、中央経済社ビジネス法務2009年12月号にて、公開会社法への思いを詳細に語っておられます。(同書60頁から62頁)我々法律家からしますと、ちょっと「おや?」っと首をかしげたくなるような誤りもみられますが(たとえば金商法上の「公認会計士」の用語と会社法上の「会計監査人」の用語の使い分けの意味など)そういったことは無視しまして以下、要約いたしますと、

公開会社法には大きく3つのポイントがある。①情報開示の徹底、②内部統制の強化、③企業集団の明確化、ということである。公開会社法はドイツ法に倣っている。ドイツの監査役会は業務執行役員の人事権や重要な経営判断について同意権を持つが、その構成は出資者側と労働者側の半分ずつだ。まずは会社法と金商法の規定を整理しなおし、公開会社法に採り入れて整理することで金商法との二重規定を解消する。社外取締役は義務化し、経営監視を強化する。親会社や大口取引先、株式持ち合い先にある企業の出身者は認めない。社外取締役は構成員の3分の1程度がのぞましい。経済界からは反発があるかもしれないが、嫌なら委員会設置会社にすればいい。監査役会は従業員参加型とする。これにより従業員のインセンティブが高まることが期待される。企業集団規制については、企業集団としての経営の透明性向上や経営者規律の向上を図る。たとえば子会社の重要な意思決定については親会社の株主総会での承認を求める。また子会社の取引先などの債権者が親会社やその取締役に対して損害賠償請求できる制度にする。また持株会社の株主が事業子会社の取締役らに対して株主代表訴訟などを起こせるようにする。

といった内容であります。(なお要約責任は当ブログ管理人にあります)以前の「素朴な疑問」のエントリーでは、民主党素案でも、社外取締役導入義務化はソフトローに委ねるのではないか、と書きましたが、実はそうでもないようですね。つまり法制化のなかに含まれるようであります。

私は日弁連の企業コンプライアンスPT委員としての立場がありますので、ちょっと私見を述べることは差し控えますが、(また、監査役制度の改訂や社外役員の導入問題など、その内容の是非については触れませんが)まず「法制化ありき」で進む前に検討いただきたいのが「ソフトローの活用」の是非であります。

社外役員導入問題については「上場会社への一律適用」がどうしても必要なのか(人数を含めて)、独立性要件についても必要なのか、という点であります。たとえば今回の上場ルール改訂のように、ソフトローとしての証券取引所におけるルール改訂では十分に対応できないのか?という意見も成り立つのではないでしょうか。どうしてもソフトローでは株主主権主義を貫徹できないから・・・ということであれば理解もできそうですが、民主党議員の方はそもそも「会社は株主のもの」という思想には反対されているようですから、そうであればまずソフトロー的な施行で様子をみてから、ハードロー適用の是非を検討する、という手法をとらないのでしょうか。たしかに時事通信ニュースなどによりますと、民主党は東京証券取引所と協力して、ソフトローによる先行実施を働き掛ける・・・という報道もなされておりますが、そうであれば、もうそういったニュースも法制審議会諮問と同時に出てこなければおかしいような気もいたします。

もしステークホルダーの利益まで保護する必要があるのであれば、それは「従業員の目」とか「株主の目」「投資家の目」というソフトローに期待する、という意見もあろうかと思われます。(だからこそ情報開示が必要なのでは?)王子製紙と北越製紙の敵対的買収の際、北越製紙はいち早く「労働組合声明」をとりつけ、いっぽうの王子製紙は「北越製紙従業員の皆様へ」とする声明を発表していましたが、結局M&Aは従業員の方々の協力がなければ成功しないことからあれだけ精力的な協力要請合戦が繰り広げられたものと思います。従業員の方々の「経営判断への関与」は、むしろこういったソフトローでこそ形成していくべきであり、一律に法制化することは、行政手続法同様、「ほら、ちゃんとあなた方の代表者の方々と協議しましたよ」といったアリバイ作りだけのために利用される可能性のほうが高いものと思われます。また、社外役員についても、前回のエントリーでkatsuさんが指摘しておられたように、「社外役員を置かないとか、独立性の要件が甘い会社であれば、売ってしまえばいい、買わなければいいだけの話」ということも言えそうであります。こういった株主の目、投資家の目が怖いからこそ、経営者は「原則」が示されれば、その原則に従うような体制を敷く努力はするでしょうし、どうしてもその原則が気に食わなければ、株主や投資家に対しては「うちの会社はこのような会社だから、現在のガバナンスのほうがパフォーマンスは上がります」とか「うちの会社はピーター・ドラッガーの教えどおり、利益獲得を最優先とするのではなく、顧客獲得を最優先とする方針だから、こうしています」といった各社独特の説明責任を果たせばいいのではないか、とも思われます。(いえ、私がこの意見に賛同している、というわけではなく、こういった意見も成り立ちうるのではないかと?・・・すいません立場上このような表現しかできません・・・)

このあたりは、いろいろなご意見があるとは思いますが、日本取締役会で検討されている公開会社法ではなく、あくまでも今回の民主党PT素案による「公開会社法」の法制化について、私的に共感できる論稿等がございましたので、ご興味のある方はそちらをお読みいただき、意見形成の参考にされてはいかがでしょうか。民主党素案に賛同される方々も、こういった意見を乗り越える必要はあろうかと思っております。ひとつは先に掲げました「ビジネス法務」2010年2月号「2009年企業法務10大事件」のなかで書かれた中村直人弁護士の論稿「民主党政権が始動 企業法制の『揺り戻し』をどう捉えるか」、つぎにプレジデント2009年11月2日号で書かれた神戸大学加護野忠男教授の「こうすれば良い会社統治が行われるという唯一最善のモデルはない」、そして最後は旬刊商事法務1865号(2009年5月1日、15日合併号)東京大学比較法政シンポジウム「上場会社法制のポイント」なる座談会記事における、最後の藤田教授の「総括意見」であります。とりわけ最後の藤田発言は、単に意見を述べる立場ではなく、本当に上場会社法制を変えていく責任(および権力)のある立場の者であれば、こういった見解になるのではないか、と思える非常に共感の持てる意見ではないかと考えております。

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2010年1月 5日 (火)

「ビジネス法務の部屋を巡る諸問題」(セミナー)のお知らせ

さて本日はお知らせでございます。大阪弁護士協同組合と第一法規さんの共催により、書籍「ビジネス法務の部屋」の出版記念セミナー「ビジネス法務の部屋を巡る諸問題」が来る1月26日大阪ヒルトンプラザで開催されます。(第一法規さんのご案内はこちらです。)たいへんありがたいことに、もうすでにお申込みされた方が定員を超えておりまして、厚く御礼申し上げます。m(__)mただ、会場を一杯に使いますと、収容人数に余裕はあるそうですので、もしセミナーのテーマにご興味がございましたら、これからでもお申込みいただき、ぜひお越しいただければ幸いでございます。(企業担当者の方でも、法律や会計のご専門の方でも、どなたでも大歓迎です)

セミナーは第Ⅰ部が「2年目の内部統制報告制度の運用と法律的課題」ということで、たとえば私が現在、日弁連法務財団の内部統制研究会や、日本取締役協会の内部統制研究WGにて検討しております法的課題などを中心としてご報告申し上げることや、過年度決算訂正と関係者の法的責任論(本日も日本ビクター社の半期報告書が提出できない事態が報じられておりますが)の解説、そして日本システム技術最高裁判決や公認会計士の法的責任が認められたライブドア損害賠償事件判決、そして大原町農協最高裁判決などをテーマとしてあらためて会社法上の内部統制との関係などについても、会社実務に沿った形でご報告させていただく予定であります。

また第Ⅱ部は、私の本業に近いテーマ、内部告発・内部通報と企業の適切な対応についてご報告させていただきます。来年見直し予定となっております公益通報者保護法における公益通報との関係や、内部通報「踏みつぶし」リスク、内部通報が社内・社外に届いた際の有事対応(公表、懲戒、再発防止策等)を中心にご報告させていただきます。こちらは本業に近いところのお話なので、どちらかといいますと実務経験に基づくところのお話が多くなるものと思います。労働者派遣法改正に関する話題がこのところ新聞報道でも目立って多くなりましたが、みなさまご承知のとおり、内部通報はその80%程度が労務関連であります。今後「派遣か、請負か」といった問題が企業側においても重大な関心事になるものと思いますし、内部通報や公益通報に対する企業側の対応が、その社会的信用にこれまで以上に影響を及ぼすものとなります。法律実務家の方々にも参考となるお話かと思います。

本当はもうひとつ、当ブログでも過去に何度もエントリーをアップしております「行政法専門弁護士待望論」についてもご報告申し上げたかったのでありますが、これだけでもたぶん多くの時間を要しますので、また別の機会にと考えております。このテーマは意外と企業法務との関係で論じられるセミナーはないようですね。きっと企業法務担当者の方々には有益なお話になると思いますよ。(^^) この元旦より施行されました改正著作権法の問題(違法ダウンロードに処罰規定がないからといって安心していませんか?実はその裏にはいろんな意味が隠されているのでは?風俗等、警察行政と共通した問題が潜んでいるのでしょうね。)といったお話や、先日BLOGOSでアクセスランキング最高5位にまでなったエントリー「しまむらVS加茂市」でみられるように、行政の政策法務によって特定企業が合法的に?狙い撃ちされるお話、最近いよいよビックカメラの粉飾問題で動き出した金融庁課徴金処分への不服申立て、消費者庁移管業務に関する実務、そしてなんといいましても改正独禁法における新しい争訟制度など、「闘う企業コンプライアンス」のためには、行政法に精通した法律実務の在り方が問われる時代になることは必至であります。なんといいましても、相手は許認可権を持つ行政庁やこれに準ずる公共団体でありますので、企業の存続のため、ときには素直に頭を下げ、しかしときには企業コンプライアンスのために闘うことも必要であります。そのあたりのバランス感覚がどうしても行政と対峙する企業には必要なのかなぁと最近よく考えております。これまでも租税法関連では行政と対峙されていらっしゃる行政法専門弁護士の方々はいらっしゃいますが、企業コンプライアンスとの関連で対峙できる専門家・・・という方は、まだまだ東京でも少ないのではないでしょうか。私はこれ以上に手を広げることはしんどくなってきましたので(笑)、ぜひぜひ若手の先生方で、こういった分野に積極的に踏み込んでいかれるのを期待しております。

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2010年1月 4日 (月)

ニイウスコー粉飾決算の原因を再考する機会到来か?

昨年末のニュースで気になっておりましたのが産経WEBの 680億円粉飾で捜査へ 循環取引 売り上げ水増し の記事であります。新経営陣が旧経営陣を(民事上で)提訴したのが平成20年11月ということですし、証券取引等監視委員会が告発に向けて動いているという報道もすでに1年以上前のことなので、「もう刑事責任は問われないのでは」といった噂もありました。由緒正しい東証1部企業だったニイウスコー(民事再生手続き中)における粉飾決算については2008年5月7日に(経済評論家の)勝間和代さんが こちらの論稿を書かれておりますし、私もこの勝間さんの論稿を引用しながら「不正のトライアングルからみた粉飾決算リスク」なるエントリーを記しておりましたので、ご興味のある方はお読みいただければ幸いです。ただし現時点でこのニイウスコーの件を考えてみますと、単に「不正のトライアングル」で原因分析ができるほど単純なものではないように思われます。

もし報道にあるように、ニイウスコー事件の捜査が開始されるとするならば、私的に最も関心を持ちますのは当時の社外調査委員会報告書が指摘したところと、実際の被疑事実(おそらく虚偽記載有価証券報告書提出罪と違法配当罪あたりでしょうが)との関係であります。当時の社外調査委員会は粉飾の手口として実体のないスルー取引やセール&リースバック取引、リース契約を利用した不適切な会計処理、売上の先行計上そして不適切なバーター取引等の5つを指摘しておられました。これら5つの手口のうち、いったい当局はどの部分に光をあてて犯罪事実として立件するのでしょうか。たとえばスルー取引であれば、おそらく猛烈なノルマ主義、成果至上主義による現場での工作ということで、全社的関与ということまでは言えそうにもありませんが、リース契約を利用した会計処理ということになりますと、メディア・リンクス社の事件のような売上を嵩上げする架空循環取引というよりも、金融目的に利用して負債を隠ぺいする手段、ということになりますので、かなり計画性の高いものとなり全社的関与という点が全面に出てくるものと思われます。

そしてもうひとつの興味としましては、当時の社外調査委員会報告書を読んだ感想としましては、数百億という巨額の粉飾決算が過年度にわたって行われていたにもかかわらず、当時の監査役や会計監査人はどうして見抜けなかったのだろうか?といった素朴な疑問であります。ある経済週刊誌では(いまでもこの記事は検索すればすぐに出てきますが)、会計監査人の責任問題が浮上するのでは?といったことも書かれておりますが、たしかにニイウスコー社の場合はあるシンクタンクのアナリストの方が「資産の算定がおかしい」と疑問を投げかけ、その後某経済週刊誌の記者へ複数の社員からの内部告発がなされたことで不正が発覚したはずですから、新経営陣による自浄能力が働いた・・・とまでは言えないように思います。また上記報告書によりますと、平成19年当時において、ニイウスコー社では監査役会が年に2回しか開催されていなかった、ということですから(ちょっとビックリ!)、たしかに我々社外の普通の人間からしても、ちょっと本気で監査していたのだろうか、と疑問に思うところであります。

ところで会計監査人の責任はどうか?ということになりますと、実はこの社外調査委員会報告書というのが、当時の会計監査人とかなり協議を重ね、会計監査人の協力も得ながら作成された、ということが冒頭に記載されております。正確には「また、並行して財務諸表監査を行ってきた監査法人とも歩調を合わせつつ事実関係の調査・確認等を実行してまいりました」と書かれております。ということは、この社外調査委員会報告書では、まちがっても当時の会計監査人に責任が及ぶ可能性のあるようなことについての記載は最初から存在しないのではないかな?との疑問も生じてまいります。(なお、これは時間的な制約のなかで報告書をリリースしなければならない調査委員会の目的からすればやむをえないことかもしれません。念のため)そこで、調査委員会報告書で調査した事実関係と、すでに1年以上経過した時点での金融庁や検察庁が把握している事実関係との間にどのような食い違いがあるのか、という点についても(管理部門がなぜ発見できなかったのか、という疑問を明らかにするためにも)非常に興味が湧いてくるところであります。

架空循環取引による粉飾決算の見分け方、といいますと、総資産回転期間の比較などをもとに、最近は財務分析から(公表された会社の数字から)読み解く方法などが議論されておりますが、社内(もしくは会計監査)のどのような兆候から「疑うについての合理的な根拠」が見出しうるのか、守秘義務を解かれた会計監査人や監査役、内部監査人などによって真剣に検討すべき時期に来ているものと思われます。いまでも結構多くの会社で架空循環取引に近いことが行われているようですし、「管理部門も知っていて放置していたのではないか」と言われても不思議ではない時代になりましたので。(粉飾が右肩上がりの景気回復によって飛んでしまうような状況にないですし。。。)

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2010年1月 1日 (金)

謹賀新年(今年もよろしく!)

新年、あけましておめでとうございます。本年もどうぞ当ブログを宜しくお願いいたします。

しかし我々の世代にとって、今回の紅白歌合戦の午後11時ころのサプライズ、たまりませんでしたね。歌詞間違ったって、そんなことどうでもいいって感じでした。今年は紅白じっくり視て良かったです。

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