KDDIのJCOM出資手法の適法性と公開買付規制の解釈
1月28日の日経新聞にKDDIのJCOM(ジュピターテレコム)株式の相対取得の是非に関する記事が掲載されております。JCOM社の約38%の株式をKDDIが取得することで資本参加をめざす、ということでありますが、その取得方法については、JCOM社の実質的な大株主から相対で取得(ただし、直接取得するのは大株主の中間持株会社の持ち分)するにあたり、金商法上の公開買付規制に違反しているのではないか、との疑念が持ち上がっている、ということのようであります。(なお、毎度申し上げるところではございますが、私はとくにM&Aに詳しい法律専門家でもございませんので、意見にわたるところは普通の弁護士のつぶやき程度にお読みいただけますと幸いです)
実はこの問題は、1月27日東京の某会議室にて開催されました例の「ふしぎな開示研究会」第2回会議でも話題になっておりました。(参加されていた15名程度の方々は、「あぁ、あれね?」と思って記事を読んでおられたのでは・・・)私は、その会議で初めてこの話題を知りましたが、村上ファンド事件やライブドア事件の裁判所の解釈手法を例にあげて、ロイターの記事で上村先生(早大教授)がコメントされていらっしゃるのとほぼ同様の意見を述べさせていただきました。
たしかに買付対象会社は有価証券報告書提出会社ではありませんし、KDDIが直接JCOM株式を買い付けるわけでもなく、さらに(KDDIの開示情報を読んだかぎりでは明確ではありませんが)中間持株会社が「このために設立されたもの」でもないようであり、公開買付規制(33%以上の株式を取得する場合には公開買付によらなければならない)には抵触しないようにも思われます。しかしながら、刑事罰による適用場面の明確化(罪刑法定主義)の要請が強いインサイダー規制、有価証券報告書虚偽記載においてさえ、金融商品取引法があれだけ実質的な解釈がなされるわけで、同様に刑事罰が適用される公開買付規制についても実質的な解釈の要請が働かないと軽々には言えないのではないでしょうか。もちろん「このために中間持ち株会社が設立されたわけではない」ということも「実質的な解釈」の余地があるからこそ出される理由のひとつであることは承知しておりますが、だからといってとくに公開買付け手続きを排除すべき必要性は認められず、またその必要性を買付希望者をして予測困難にさせるほどの経済的合理性があるようにも思われません。公表されているスキームを拝見しますと、中間持株会社の持ち分はすべてKDDIが取得して100%子会社化するようですので、支配権についてはすべて移動するわけですし、また100%子会社ということであれば、KDDIの意向によっていつでも再編手続によって自ら直接JCOMの株式を保有することは可能ですから、むしろ「実質的には」買付対象会社は有価証券報告書提出会社であり、直接買い付けるのと同様である、と解釈することも可能なように思われます。
ただ、ひとつ疑問に思いますのは、公開買付規制の条文のなかに、そもそも3分の1ルールに関する潜脱行為自体を個別に規定する条文が存在することであります。(金商法27条の2第1項3号、同4号)つまり市場内取引を組み合わせて、脱法的な態様の取引によって3分の1を超える「急速な」株式取得は公開買付によらなければならない、と定められております。また、トストネット等の取引所市場内取引により潜脱行為が図られることを防止するための規定も存在します。それだったら、そもそも脱法的な行為は個別に規定している場合にかぎり、金商法は違反行為とする趣旨ではないのか?そもそも公開買付規制に関する規制文言は実質的に解釈すべきではない、ということではないか?という疑問であります。このあたりはかなり難しい問題ではないかと思いますが、結局のところ投資者保護のための公開買付制度ではありますが、一方においては企業再編を円滑に行うための必要性もありますので、そのあたりのバランスをどのへんで保つべきか、というところでの判断となるのでしょうね。要は本件のような事案については、その解決を法の認識(解釈)によるべきか、法の創造(立法)によるべきか、整理すべき点があるのではないか、と思います。いずれにしましても、公開買付け規制違反は刑事罰とともに課徴金制度の対象にもなりましたので、金融庁の事前意見照会等でスキームの合法性についての確認作業なども必要となってくるのではないでしょうか。
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