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2010年1月21日 (木)

第三者割当増資に対する監査役「有利発行適法性意見」制度

本日(1月20日)は、日本監査役協会九州支部でセミナーの講師を務めさせていただきました。九州支部設立1周年(オバマ大統領の就任式の日に設立されたとのこと)という日に講演をさせていただき、たいへん光栄でした。

そういえば今週の月曜日(18日)の日経朝刊(法務インサイド)で第三者割当増資の規制強化に関する特集記事が掲載されておりまして、監査役の一言で新株予約権の(価格の公正性に関する)第三者評価書面を取締役会でとりつけなければならなくなった上場会社のお話で出ておりました。レックスHD事件では、会社の情報開示に関する監査役の責任が追及されておりますし、ライブドア一般投資家訴訟では、開示規制違反の民事賠償責任が監査役に認められる事態にもなっておりますので、監査役が企業の情報開示の在り方に口を出す時代になったのも、首肯しうるところであります。(アーバンコーポレーションの問題でも監査役さんは株主から訴訟を提起されているのですね・・・)

新聞記事では上場会社法制に精通されているお二人の法律家の方々が「監査役も株主から責任を問われる可能性がある」と指摘しておられるとおり、このたびの第三者割当増資に関する監査役の有利発行適法性意見制度のインパクトもまた、こういった監査役の積極的な対応に拍車をかけるものであります。証券取引所ルールに続いて、金融庁の開示府令の改正(2月1日施行)により、監査役が第三者割当の際に、その適法性に関する意見を表明する機会が増えることが予想されます。新株発行ということでしたら、まだなんとなく適法性に関する意見も出しやすいように思われますが、「有利発行の条件や価格が問題となる新株予約権の発行」ということになりますと、あまり裁判例もなく、またプレミアム価格算定の根拠にもなじみがない、ということで、はたして(金融工学について素人である)監査役さんに、このような公正な価格を算定する職責を負わせることが妥当なのかどうか、といった疑問もわいてこようかと思われます。

第三者割当増資と監査役の役割につきましては、例の有識者懇談会報告書を受けて、日本監査役協会が検討チームを設立し、鋭意とりまとめを行っておられるものとお聞きしておりますが、今回の証券取引所ルール改訂や開示府令の改正を踏まえて、監査役協会内の法規委員会の協力を得ながら、近々このあたりの指針をとりまとめられるようであります。ここで実際に、監査役として有利発行適法性意見の出し方に関するガイドラインのようなものが作成されるものと思いますが、おそらく監査役にプロの評価算定技術のようなものが求められることになるのではなく、取締役らの価格決定に至ったプロセスを開示させたり、発行価格や発行条件の妥当性について、株主が自己責任によって判断(場合によっては差止を求めるなど)できる程度の情報開示の十分性についての意見表明などが中心となるのではないでしょうか?割当の相手方たる「第三者」と取締役らとの関係次第では、価格算定の公正性を担保するために、ひょっとすると評価機関による価値算定書をとりつけるよう求める場面も出てくるかもしれませんし、その必要がない場合も出てくるかもしれません。要は既存株主の利益保護のため、監査役に一定の役割が期待されるわけでありますが、私は決して監査役の能力を超えたところで責任が加重されることにはならず、あくまでも本来の「取締役の職務執行の適法性を監視し検証する」範囲での職責が問われることになるものと考えております。

ただ金商法193条の3(財務書類の証明業務に従事する公認会計士又は監査法人による法令等違反事実届出制度)に登場する監査役と同様、監査役さんにとっての有事の場面がまたひとつ増えたことは間違いなさそうであります。

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コメント

商事法務(NO10886)に掲載されている内容も山口先生と同様の意見のようですね。
方向性はわかりますが、監査役に対し具体的に何を求められているか微妙にはっきりしない中ですので、先生のご意見、非常に参考になります。
監査役が持つべき要件に金融工学の知識が必須でない以上、監査役の立場としては現実的には決定プロセスが精一杯で、それ以上は無理なものを求められても・・となりますよね。

最近、自主規制等のルールも改正されたりと、監視強化に走っているようですね。あれもこれもとてんこ盛りになっていますが、形式に走りすぎ、いつの間にか実質を見失ってしまいはしないかと危惧します。
監視強化=監視者を増やせばいいというほど単純なものではなく、増やしただけ逆に役割や棲み分けが微妙になり、逆にリスクを発生させることもあるのでは?と思いますが。。

投稿: ママ監査役 | 2010年1月26日 (火) 14時41分

相変わらずスルドイご意見、ありがとうございます。ご指摘の商事法務論文は日本監査役協会の法規委員会の専門委員の先生がお書きになっておられるものですので、おそらく監査役協会の指針(3月下旬リリース?)にも反映されるのではないでしょうか。
わたしも形式論に流されず、本当に監査役の業務監査、会計監査はどうあるべきか、きちんと冷静に考えていきたいと自戒しております。いわゆる新たな「法制度リスク」ってありそうですよね?

投稿: toshi | 2010年1月27日 (水) 02時15分

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