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2010年1月25日 (月)

IFRS(国際会計基準)適用後の内部統制監査と不正発見機能

旬刊商事法務新年号(1887号)では「国際会計基準が企業法務に与える影響」と題する新春座談会が始まりまして、まだ(上)しか読んでおりませんが、法律家、会計専門職、企業実務家の間で、それぞれの認識や課題の差異が浮き彫りになり、たいへん興味深いものであります。いよいよ今年は法務の分野におきましても、本格的にIFRSが採り上げられる場面が増えそうな予感がいたします。

やはり関心のひとつは、国際会計基準に違反した会計処理を行い、これが虚偽記載とされる場合の司法上のエンフォースメントの在り方ですね。たしかにIFRSの解釈権はIFRIC(国際財務報告解釈指針)のみが独占しているわけでありますが、国内法上で粉飾決算事件や違法配当事件が問題となる場合、最終的には日本の裁判所がIFRSの適用状況を判断するわけですから、いくらIFRICが解釈権を独占しているといっても、日本では裁判所が解釈権を持っていると言わざるを得ないのではないか、との疑問。(つまり、会計監査や会計方針の決定時点で「正しい会計方針による処理」と判断していても、最終的に裁判所において違法な会計処理とされるリスクは残る、ということ)また、IFRSに従った会計処理だけが唯一の公正なる会計慣行ではなく、IFRSに従わない会計処理を行ったとしても、併存する公正なる会計慣行にあたる、という考え方も成り立ちうる、ということも課題となりそうであります。(つまり、IFRSに従わなくても財務諸表に違法な点はない、という結論が導かれること)すでに当ブログで2回ほど述べましたように、私見は若干異なりますが、「法律家から見たIFRS」ということであれば、このような疑問もしくは主張が出されても何ら不思議ではないところでありまして、もしこのような問題が「どこかおかしいのでは?」と違和感を覚えるのであれば、これは正当な根拠をもって否定(反論)していかなければならないと思われます。この座談会で弥永先生が指摘されているように、たとえば「負ののれん」について、会社法計算規則が改正され、コンバージェンスに歩み寄るような場面もみられるわけでありますが、今後は歩み寄りが困難な部分もいろいろと表面化してくるはずであります。

それと、もうひとつ上記座談会記事を読んでの感想でありますが、IFRSの適用と同時に内部統制報告制度も併せて施行される、ということになりますと、おそらく適用会社の社内で作成されるアカウンティングポリシー(会計処理方針)の可否について、その適用の妥当性が審査されることになると思われます。そうなると、取引実態にまで踏み込んでルール適用の妥当性が判断されるものとなり、いわば会計監査は「内部統制報告制度を通じて」その企業の取引実態まで十分に認識しなければ監査ができなくなるのではないかという疑問が生じてきます。(財務諸表監査と内部統制監査の一体的実施を前提として、ということでありますが)しかし、そうであるならば、現在会計監査人の監査見逃し責任を肯定する裁判所の論理からしますと、「情報監査が主であり、実態監査は副次的なもの」とすることから、不正発見義務のレベルも限定的でありますが、プリンシプルベースによるIFRSを前提とする会計監査が実態監査に近いものということになりますと、「取引の実態に近づく会計士による不正発見は容易になる」ということから、これまで以上に会計不正の発見義務がより広く認められるようになるのではないでしょうか?新聞等のIFRS解説では、「IFRS適用により会計不正事件は減る」と予想されておりますが、私自身はそんな甘いものではないと考えております。今後も会計不正が発生する、ということになりますと、外部監査人の不正発見義務についての課題も、真剣に検討しておく必要があるものと思います。上場会社の全てに内部統制報告制度とIFRSが同時に適応されるのは日本だけでしょうし、(米国は未だ7割の上場会社にはSOX法が適用されておりません)日本固有の問題点についても検討すべきではないでしょうか。

この座談会記事(上)の最後のところで若干ふれられておりますが、IFRS時代において、監査リスクを適正に分配するためには、今後、取締役会や監査役に対して、早期に監査リスク分配の仕組み作りを要望していかなければ、外部監査人だけに過度の負担が発生するか、もしくは過度の監査報酬として企業自身が負担するようなことになってしまいそうな予感がいたします。

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コメント

何時も楽しく拝見しています。商事法務の記事を読んでいないため申し上げにくいのですが、IFRSは連結財務諸表にだけ適用され、当該連結財務諸表ではIFRSに則った基準にて作成されることをまず謳います。よって、当該連結財務諸表がIFRSに準拠していないのであれば、「虚偽」となると思われます。つまり、IFRSに準拠すると謳う連結は、「IFRSに従わなくても財務諸表に違法な点はない、という結論が導かれ」ないと言うことになります。
内部統制との関連で言えば、仰るとおり監査人に多大な負荷を世間の目は与える可能性はあると思います。ただし、財務諸表に多大な影響を与える取引であれば、監査人はその統制については今でも把握し、妥当性を判断していると思われますので、一般的な常識を持った監査人であれば問題はないものです。どのような基準の変更時期直後では問題はそれほど発生せず、多くはある程度の「慣れ」が生じる頃に発生するものと思われます。IFRSの導入後、5年ほど経つと問題を内在し、発覚はその更に数年後ではないでしょうか。

投稿: 一会計士 | 2010年1月29日 (金) 07時20分

IFRICの解釈指針は、金融庁告示によりIFRSと同様に「指定国際会計基準」とされ、連結計算書類に限られるとはいえ計算書類規則において認められています。解釈指針として公表されたものは、国内法としても一定の根拠を持っているのではないでしょうか。IFRICの解釈は、すべて指針として公表されるわけではありませんので、解釈指針として公表されるか否かで、裁判所の評価も変わってくる可能性もあるのではないでしょうか。


IASの「離脱規定」は、IFRSにおいても受け継がれていると考えられますから、IFRSに従わなくとも適正である場合があるということは、IFRSの論理からも肯定できると考えられますから、立場の異なる法律の観点からでは、なおさら違法ではないと言い得る場合もあるでしょう。
「離脱規定」で問題となる点は、「離脱できる」という考え方であるのか、それとも「離脱すべき」のどちらであるかです。もし、「離脱すべき」との立場であれば、IFRSに従うことが逆に不適正と評価される場合もありえることになります。
「離脱規定」は、プリンシプル・ベースの根拠となるものですが、任意規定か強行規定かによって、会計・監査実務や法律の解釈に影響を与えるものとなる思われます。

投稿: 迷える会計士 | 2010年1月31日 (日) 19時12分

一会計士さん、迷える会計士さん、コメントありがとうございます。

何度も読み返しておりましたが、やはり一定の議論の整理が必要に思います。たとえば国際法の国内法化、指定国際会計基準と日本法における「公正なる会計慣行」との関係、そして法の解釈とIFRSの解釈指針の関係などですね。とりわけ、国際会計基準の解釈指針について、それがなぜ裁判所の法の解釈(法の認識)に影響を及ぼすのか、という点についてはおそらく法律家は別の意見を述べる人が多いように感じられます。ちょっと大きな問題をコンパクトにまとめすぎたきらいがあるようですので、次回は個別論点をとりあげて議論してみたいと思います。

投稿: toshi | 2010年2月 3日 (水) 02時35分

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