日航の上場問題と「空飛ぶ簿外債務」
日航の事業再建問題につきましては、かなり政治色の強いお話になっておりましたので、あまり当ブログでは触れませんでしたが、100%減資もありうる、という段階にまで至っておりますので、ふと思いついたことを備忘録として書きとめておきたいと思います。
もう少し話題になってもいいのではないか?と思い、いろんなブログを巡回しておりましたが、あまり細野祐二さんの「空飛ぶ簿外債務」および「疑惑の翼」はブログ等では採り上げられていないようであります。(現在進行形で解説されていらっしゃるZAITENの論稿のほうはよく引用されているようですが)2006年8月と同年12月に有償会員向けに細野さんが書かれた財務分析に関するエッセイですが、これが2008年6月に「法廷会計学VS粉飾決算」という単行本でまとめられた際に、私もたいへん興味深く拝読させていただきました。(日航の反論と、それに対する再反論という構成もまたたいへんオモシロイものです)現在のように日航の経営危機があまりマスコミなどでも採り上げられていなかった時期に、あえてこのような財務分析を行い、株主や投資家に警鐘を鳴らしておられたことにつき、誠に卓見であることを認めざるをえないと思います。(ご本人さんは、こんなこと、他のところでもすでに分析している人はいるのに、誰も騒がないのはなぜか?と書かれておりますが)
ところで、日航の株式は6円とか10円とか、ちょっとマネーゲームの様子となりましたが、どうも上場廃止の方向へ向かっているようで、そのうえ100%減資ということになりますと、いよいよ株式の価値はなくなってしまうわけであります。(株券電子化の時代に「紙くずになる」という表現はちょっと違和感がありますね)そして、これまでの粉飾決算の歴史のなかで、現経営者や旧経営陣そして監査法人の責任が問われやすくなるのは、一般的に会社が法的整理手続きに入った後・・・ということになります。(私が会社役員の代理人を務めております某IT関連企業も、個人の賠償責任や刑事責任を問われるようになったのは民事再生の申立て以降のことであります)もはやこれ以上株主に迷惑をかけることもなくなりましたので、金融庁も債権者も、そして管財人も粉飾や粉飾見逃し責任を追及しやすくなるのでしょうね。
しかも今回は日航OBの方々も、約束していた企業年金が減額されることになってしまうわけでして、「会社が約束を反故にするのだったら、我々も墓場まで持っていこうと思っていた会社との約束を反故にしてやろう」という方も出てくるのではないでしょうか。(ちょっと性悪説的な発想ではありますが)つまり退職後も高い年金を受領できるからと思って、会社の嫌なとこも全部呑み込んで胸にしまって退職された方も多いと思います。しかしこのたびの減額(もちろん自主的に応じた方もたくさんいらっしゃるでしょうが)により、ずいぶんと仁義もなくなってしまったのではないでしょうか。ということで、今後は日航におけるコンプライアンス問題(とくに粉飾決算問題)が会社の内外から浮上してくるでしょうし、とりわけ担当されていらっしゃった監査法人さんも、ちょっと他人事ではなくなってきたように思います。(ちなみに、細野さんは「空飛ぶ簿外債務」のほうでは、なんとか会計処理の幅に収まっているものと考え、継続企業としての注記のみを問題とされておられたようですが、「疑惑の翼」のほうでは粉飾決算であると断定され、これにお墨付きを与えていた監査法人の今後の動向が注目される、と書いておられました。まだ5年以内の決算に関する問題ですし。。。
最近たくさんの第三者委員会報告書を精読したことは前にもふれましたが、やはりセール・アンド・リースバック方式を用いた粉飾決算事件もいくつか存在しておりました。再建スキームは未だはっきりとはしておりませんが、1380億円もの公募増資を行う直前の有価証券報告書提出に深く関わっておられた方もいらっしゃるでしょうし、今後日航という日本を代表する会社のコンプライアンス問題が少しずつ表面化してくるように予想しております。
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コメント
日航問題も、今後第2幕、3幕と続いていくのでしょうね。
その中で、浮かんでくることがあるとして、それが日航だけの問題なのか、全日空にもあてはまるのか、また他の多くの会社も参考になることも多いのか、よく考えてみたいと思います。
投稿: ある経営コンサルタント | 2010年1月15日 (金) 11時10分
ご指摘のとおりで、すでにマスコミの方々はOBのところへ通っていますよ。なんといっても海外旅行という「利益供与」はたまらない魅力ですから。。。
投稿: unknown | 2010年1月15日 (金) 14時07分
>株券電子化の時代に「紙くずになる」という表現はちょっと違和感がありますね
先に書かれてしまいました。
違和感といえば「レコード大賞」も
投稿: To-Do | 2010年1月15日 (金) 17時58分
故佐藤栄作氏の密約文書も出てきましたので、この際全てをあからさまにして、再出発をしてくれることを願います。
問題先送りといいますか、くさいものにふたをする日本の悪い文化をいっそうして欲しいですね。そんな期待を抱きます。
抽象的ですが、実現は難しいものの正しいものに信頼が置ける社会といいますか、「やっぱりごまかせないんだ」という印象を持ちたいものです。
そういえば某幹事長の件も一種の「粉飾決算」ですね。
投稿: katsu | 2010年1月16日 (土) 02時48分