ニイウスコー粉飾決算の原因を再考する機会到来か?
昨年末のニュースで気になっておりましたのが産経WEBの 680億円粉飾で捜査へ 循環取引 売り上げ水増し の記事であります。新経営陣が旧経営陣を(民事上で)提訴したのが平成20年11月ということですし、証券取引等監視委員会が告発に向けて動いているという報道もすでに1年以上前のことなので、「もう刑事責任は問われないのでは」といった噂もありました。由緒正しい東証1部企業だったニイウスコー(民事再生手続き中)における粉飾決算については2008年5月7日に(経済評論家の)勝間和代さんが こちらの論稿を書かれておりますし、私もこの勝間さんの論稿を引用しながら「不正のトライアングルからみた粉飾決算リスク」なるエントリーを記しておりましたので、ご興味のある方はお読みいただければ幸いです。ただし現時点でこのニイウスコーの件を考えてみますと、単に「不正のトライアングル」で原因分析ができるほど単純なものではないように思われます。
もし報道にあるように、ニイウスコー事件の捜査が開始されるとするならば、私的に最も関心を持ちますのは当時の社外調査委員会報告書が指摘したところと、実際の被疑事実(おそらく虚偽記載有価証券報告書提出罪と違法配当罪あたりでしょうが)との関係であります。当時の社外調査委員会は粉飾の手口として実体のないスルー取引やセール&リースバック取引、リース契約を利用した不適切な会計処理、売上の先行計上そして不適切なバーター取引等の5つを指摘しておられました。これら5つの手口のうち、いったい当局はどの部分に光をあてて犯罪事実として立件するのでしょうか。たとえばスルー取引であれば、おそらく猛烈なノルマ主義、成果至上主義による現場での工作ということで、全社的関与ということまでは言えそうにもありませんが、リース契約を利用した会計処理ということになりますと、メディア・リンクス社の事件のような売上を嵩上げする架空循環取引というよりも、金融目的に利用して負債を隠ぺいする手段、ということになりますので、かなり計画性の高いものとなり全社的関与という点が全面に出てくるものと思われます。
そしてもうひとつの興味としましては、当時の社外調査委員会報告書を読んだ感想としましては、数百億という巨額の粉飾決算が過年度にわたって行われていたにもかかわらず、当時の監査役や会計監査人はどうして見抜けなかったのだろうか?といった素朴な疑問であります。ある経済週刊誌では(いまでもこの記事は検索すればすぐに出てきますが)、会計監査人の責任問題が浮上するのでは?といったことも書かれておりますが、たしかにニイウスコー社の場合はあるシンクタンクのアナリストの方が「資産の算定がおかしい」と疑問を投げかけ、その後某経済週刊誌の記者へ複数の社員からの内部告発がなされたことで不正が発覚したはずですから、新経営陣による自浄能力が働いた・・・とまでは言えないように思います。また上記報告書によりますと、平成19年当時において、ニイウスコー社では監査役会が年に2回しか開催されていなかった、ということですから(ちょっとビックリ!)、たしかに我々社外の普通の人間からしても、ちょっと本気で監査していたのだろうか、と疑問に思うところであります。
ところで会計監査人の責任はどうか?ということになりますと、実はこの社外調査委員会報告書というのが、当時の会計監査人とかなり協議を重ね、会計監査人の協力も得ながら作成された、ということが冒頭に記載されております。正確には「また、並行して財務諸表監査を行ってきた監査法人とも歩調を合わせつつ事実関係の調査・確認等を実行してまいりました」と書かれております。ということは、この社外調査委員会報告書では、まちがっても当時の会計監査人に責任が及ぶ可能性のあるようなことについての記載は最初から存在しないのではないかな?との疑問も生じてまいります。(なお、これは時間的な制約のなかで報告書をリリースしなければならない調査委員会の目的からすればやむをえないことかもしれません。念のため)そこで、調査委員会報告書で調査した事実関係と、すでに1年以上経過した時点での金融庁や検察庁が把握している事実関係との間にどのような食い違いがあるのか、という点についても(管理部門がなぜ発見できなかったのか、という疑問を明らかにするためにも)非常に興味が湧いてくるところであります。
架空循環取引による粉飾決算の見分け方、といいますと、総資産回転期間の比較などをもとに、最近は財務分析から(公表された会社の数字から)読み解く方法などが議論されておりますが、社内(もしくは会計監査)のどのような兆候から「疑うについての合理的な根拠」が見出しうるのか、守秘義務を解かれた会計監査人や監査役、内部監査人などによって真剣に検討すべき時期に来ているものと思われます。いまでも結構多くの会社で架空循環取引に近いことが行われているようですし、「管理部門も知っていて放置していたのではないか」と言われても不思議ではない時代になりましたので。(粉飾が右肩上がりの景気回復によって飛んでしまうような状況にないですし。。。)
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