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2010年2月27日 (土)

「社外委員会」委員推薦制度が始まります。

本日(2月27日)の日経新聞朝刊記事にありましたように、大阪弁護士会と日本公認会計士協会近畿会は、3月より企業不祥事発覚時や買収防衛策導入時、MBO(マネージメントバイアウト)のTOB賛否表明時等における「第三者委員」候補者を、対象企業に推薦するための名簿作りを開始することとなりました。(会計士協会近畿会会長、大阪弁護士会会長によるリリースがあるまで、ブログでのご紹介は控えておりました。)

私もこの制度の運営責任者でありますが、すでに名簿登録希望者の方々への研修講座も終了し、報道にもありますように、会計士・弁護士合わせて100名近くの名簿登録希望者がいらっしゃいます。(私は運営側の人間ですので、名簿登録はいたしません)ちなみに昨年12月、名簿登録希望者対象の研修講師を務めさせていただきましたが、関西でも企業法務に精通しておられる著名な先生方がたくさんお見えになっておられましたし、すでに何度も社外委員を経験されておられる方もたくさん受講されておりました。したがいまして、(人的な面での)受入体制はほぼ整っております。

完全に独立した「第三者委員会委員」としての要請にも、また社内調査の支援の要請にも応えられるものとして設計しております。不適切な会計処理に関する調査活動、ということであれば、具体的に不正の存否が不明確でな段階でも、その調査活動への派遣ということも可能かと思われます。原則は弁護士・会計士ペア(人数等は事件内容によって検討)ということでありますが、金融庁所管ではない事例、たとえば性能偽装や産地偽装、地方自治体における不正などにつきましては、弁護士だけの派遣ということも考えられます。(逆に会計士委員だけの派遣というのもあるでしょうね)

若干の心配がふたつほどございます。(これはあくまでも、個人的な心配事です)ひとつは、弁護士のスタンスであります。同業者の方からすれば「何をえらそうに言うとんねん」とおしかりを受けそうでありますが、「お金をもらいながら、公正・独立の立場で企業と向き合う」「職業的懐疑心をもって臨む」という経験は、おそらく弁護士には著しく不足しているものと思います。会計士の皆様は、監督官庁のもとで(いろいろと疑問はあるかもしれませんが)独立公正な立場で監査業務を履行しているわけですし(いわゆる「外観的独立性」)、また職業的懐疑心をもって被監査企業と向き合っておられます。また、監査法人内においても、厳しい品質管理というフィルターにもかけられます。おそらく企業経営者との意見対立の場面におけるリスク管理の手法も、これまでの仕事の中から身につけておられることと推察されます。しかし弁護士は企業、経営者の利益のために最善を尽くす・・・という習性が「パブロフの犬」のごとく身にしみついております。「社会正義の実現」というのも、違法行為を勧める場合を除き、依頼者への最大の尽力を通じて寄与するものというのが一般的な認識であります。したがいまして、企業の短期的な利益を超えて、投資者や株主、消費者、地域住民、被害者などのステークホルダーの利益をまず第一に考えるべき「社外委員」としてのスタンスを、どれほど意識できるのか、(私も含めて)不安を感じるところであります。たとえば私自身、性能偽装事件に関する社外委員の経験からすれば、その報告書の中身次第で回収すべき対象製品の範囲が大きく異なるわけでして、大げさではなく、企業の存亡にかかわる場面も想定されます。

そしてもうひとつの心配は、弁護士事務所や監査法人と、委員との関係であります。つまり法律事務所が顧問をしている、監査法人が監査・コンサルタントをしている、という企業からの依頼があった場合(連結グループを含めて)、その法律事務所、監査法人に所属もしくは出身の弁護士・会計士は委員に就任できないか?という点であります。もっというと、過去に多額の報酬をもらったことがある企業への当該法律事務所出身委員の就任をどう考えるべきか、ということであります。(ちなみに法律事務所にはローテーション制度もなく、顧問法律事務所における担当弁護士の交代・・・ということも考えられません)ここで重要なことは、第三者に信頼される報告書意見が書けることでありますから、外観的な独立性については厳格に考えるべきではないか、というのが私見であります。ただ、ここをあまり厳格に考えてしまうと、過去に不正調査や企業価値判断に関与した弁護士の確保が困難となり、企業法務やコンプライアンスに精通した弁護士・会計士の供給源が著しく狭められてしまって、本来の実効性に問題が生じるのではないか、という弊害であります。(このあたりの運用はまた弁護士会、会計士協会のほうで最終決定されるものと思いますが)

さて、こういった不安を払しょくするために、現在日弁連では「第三者委員ガイドライン」の策定が進んでおります。こちらは東京のコンプライアンス法務で有名な先生方が中心となり、弁護士として委員に就任した場合の職務対応のベストプラクティスが描かれているように聞き及んでおります。我々としては、こういったガイドラインに期待しています。アメリカでは第三者委員会報告の信頼性が高く、現実の司法制度のなかでも、認定事実がそのまま活用されるケースもあるようですが、たとえそこまではいかなくても、ステークホルダーや当局に信頼される委員会運営が実現できるよう、制度運営に努めていきたいと思っております。運営上「守秘義務」が絡むため、今後は本ブログで具体的なお話はできませんが、依頼される企業や企業をとりまく利害関係者のための有用な制度として、活用例が増えるように努めていきたいですね。なお、関西の経済団体さんを通して、企業の皆様方にも、こういった制度が開始されることを広報させていただく予定にしております。「うちの会社は無関係」などとおっしゃらずに、クライシス・マネジメントの一環として、法務ご担当者だけでなく、経営トップの方々にもご関心いただけますよう、お願いいたします。

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2010年2月25日 (木)

サンスターMBO高裁決定が確定したようです。

(2月26日未明:追記あります)

サンスター社のMBOの過程で行われました全部取得条項付き株式の公正価格を巡る事件(価格決定申立て事件)におきまして、サンスター側から出ておりました特別抗告を棄却する旨の最高裁決定が出されたようです。(まだ風の噂でありますが・・・)

最近は「旬刊商事法務」さんも、「ビジネス法務」さんも、MBOをとりまく特集記事(論稿)が目白押しであり、多くの学者、法曹実務家の方々は、このサンスター高裁決定を疑問とする意見が強かったように思います。とくにサイバードHD東京地裁決定が出てからは、なおさら高裁決定への批判が強まったように感じました。でも、これが現実であります。

MBOに直面する監査役としましては、行為規範(構造的な利益相反状況のなかにおけるTOB価格賛同のための公正な手続き)と開示規範(株主にTOBに応じるか否か、その結果に自己責任を問いうるだけの情報が開示されているか)が適切に遵守されていることをチェックしなければ、自らの善管注意義務違反を問われかねない時代になってきたといえそうですね。

PS それにしても、商事法務(株式会社)さんの不祥事、ビックリしました。(本当にこんなことってあるんですかね??)「第三者委員会特集号」の不祥事で第三者委員会が立ちあがる・・・って、シャレにもなりませんし、あんまり笑える話ではないですよね。。。

(2月26日未明:追記)時事通信ニュースによりますと、サンスター社がこの件につき、リリースを出しておられるようです。風の噂は本当だったようです。

ところで、このサンスター社のリリース内容については素朴な疑問が出てきます。最高裁の司法統計、たとえば平成20年度の統計からみますと、高裁が許可抗告を「許可」したのは、1331件中、わずか57件です。しかも、平成20年度中に最高裁で既済となった54件の許可抗告のうち、破棄差し戻しとなったのはわずか3件です。つまり「重要な法令解釈の統一に関する必要性」が認められたとしても、最高裁で判断が覆るのはほとんどない、という結果が出ております。このような現実があるにもかかわらず、なぜサンスター社は「最高裁で審理されていれば、自らの主張が通ったと確信」できたのか、非常に素朴な疑問を感じます。田原裁判官の補足意見を引用されておられますが、田原裁判官は、破棄差し戻しを予想させるような判断理由を付記されておられるのでしょうか?もし、そのような決定内容であれば教えていただければ幸いです。

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2010年2月24日 (水)

闘うコンプライアンス(しまむらVS加茂市)-その2

昨年12月に闘うコンプライアンス(しまむらVS加茂市)その1でとりあげました話題の続編であります。本件は、あれから読売や朝日でも話題としてニュースになりましたし、本日も毎日新聞ニュースでとりあげられております。(事件の概要はその1または毎日新聞ニュースをご覧ください。なお簡単に申し上げますと、

地元商店街の保護を図るため、しまむら加茂店の売り場面積拡張に「待った」をかけようと、2009年7月、加茂市が臨時議会で条例を改正した。条例違反には行政刑罰が規定されていた。(加茂都市計画地区計画による建築物の制限に関する条例の制定 7.17 原案どおり可決された)、すでにしまむら社は新潟県から拡張に関する許可を得ていたことから、そのまま加茂市の制止を振り切って面積拡張に踏み切ったというもの。これに対して加茂市はしまむら社を刑事告発。2009年に入ってからしまむら社と加茂市とは交渉を繰り返してきたようですので、この7月改正はまさに「しまむら対策」として制定された可能性は高いようである。

これまでの主要なニュースには目を通しているつもりでありますが、いまのところはこう着状態のようで、新潟県加茂市の刑事告発を受理した地元警察もしくは検察庁が動き出した・・・という様子はみられないようであります。

前回のエントリーを読まれた方の印象では、私がしまむら社のほうを応援しているように思われたようですが、私としては、とくにどちらかを応援しているつもりはございません。加茂市側は、地方自治体として住民の生活を守るために、企業の財産権を制限してでも積極的に権力行使に出たのであり、「なかなか大胆やなぁ」と感心しております。いっぽう、しまむら社につきましては、(たとえ刑事処分の内容が、わずか罰金50万円だとしましても)上場企業のコンプライアンス経営として、罪を犯しながらも、そのまま営業を続けていいのだろうか?という「罰金どころでは済まされない企業の社会的責任」問題に直面するわけでして、譲ることのできない「企業風土」に関わる問題に直面するわけであります。同社の今後の反応を含め、事の成り行きを見守りたいところであります。もし、ここでしまむら社が黙って刑事処分に甘んじてしまえば、今回の加茂市の手法はおそらく(他の地方自治体による称賛のもとで)全国の自治体のモデルになりそうな予感がいたします。

朝日や読売の報道では、主に条例による「上乗せ規制」の是非が、(行政法に詳しい大学の先生方のコメントとともに)掲載されていたように記憶しておりますが、私的には今回の毎日新聞ニュースの報道内容が一番しっくりきました。たしかに条例自体の違憲性(違法性)を真正面から議論するのであれば、果たして県条例と同一目的で制定された市の条例が、県条例以上に厳しい規制を私人に課すことが許されるのか?という点を問題にするべきかもしれません。しかし、私は今回の加茂市の条例の問題は「狙い撃ち条例」「後だしジャンケン的条例」の点だと思います。狙い撃ちかどうか、後だしジャンケンかどうかは、立法事実に関わるものであり、どこかで線を引かねばならないような実質的な判断が必要だと思いますが、今回の加茂市としまむら社との事前交渉の経過や、しまむら社が県の条例について適正な手続きを経てきた事情など、報道されている内容からみますと、やはり加茂市としては、しまむらの営業権だけを制限する目的で、今回の条例制定に至ったものと認識できそうであります。

私もあまり行政法に詳しくはありませんが、加茂市としましてはいきなり刑事罰とせずに、その前に行政行為を介在させる、という手法は無理だったのでしょうか?刑事告発をするくらいですから、条例制定から実際の工事までは時間的な余裕があったと思われます。そうであるならば、工事続行禁止命令のような行政命令を先行させる、という方法はとれなかったのでしょうか。(手法としては緩やかでも、むしろ行政行為のほうが会社に対するダメージが大きいと判断されたのでしょうか?それとも行政手続法によるプロセスを経るだけの時間的余裕がなかったのでしょうかね?)たしか条例制定に刑事罰を設ける場合には、地元の地方検察庁との協議が必要ですが、その際には立法事実も含めて検討されるでしょうから、県や検察も「この条例は憲法違反ではない」と考えて制定されたものだと思うのでありますが「問題なし」と判断されたのでしょうか?

先の毎日新聞ニュースでは、地元の声も賛否両論とありますが、個人的な意見としましては、かなり問題を含んだ条例ではないか・・・と考えております。もちろん行政刑罰を必要とする場面もあるかとは思いますが、①本件では本当に刑罰をもってしなければ行政目的を実現できないと言えるのか(ほかに選択できる緩やかな手段はなかったのか)、②刑罰をもってしてまでも行政目的を実現すべきものだったのか、③しまむら社だけを「狙い撃ち」にするという実質に鑑みれば、刑罰の遡及的活用となり罪刑法定主義に反することはないのか、という点でどうも疑問がありそうな気がいたします。条例の「制定」における上乗せ規制的な手法自体は合憲と考えて、ただ今回のしまむら社への「適用」自体を問題とする・・・というあたりがバランス的にもよろしいのではないか、と思うのですが、ちょっと安易でしょうか?(行政法に詳しい方がいらっしゃいましたら、ご教示いただければ幸いです。)

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2010年2月22日 (月)

個別株主通知と株式価格決定申立事件における訴訟要件

東証マザーズにかつて上場しておりましたメディアエクスチェンジ社は、昨年フリービット社の友好的TOBを受けて完全子会社化されましたが(ニュースはこちら)、完全子会社化されるにあたり、TOB価格があまりにも低いとして(子会社化に)反対を表明していた一般株主の方々の株式価格決定事件について、東京高裁の判断が分かれているようであります。

「公正な価格」の中身に関する判断が分かれている、というものではなく、「個別株主通知」に基づく対抗要件をいつまでに具備しておく必要があるか、という点で、東京高裁第○民事部では、裁判所へ価格決定申立を行う時点まで(つまり株主総会の20日後まで)に具備することが必要との決定を出し、別の東京高裁第○民事部では、かならずしも申立事件までに対抗要件を具備する必要はなくて、審理終了時点までに追完されれば足りる(破棄差し戻し)、との判断を行ったようであります。(決定は2010年2月15日ころですね)これは全部取得条項付き種類株式を会社が取得する際の価格決定(会社法172条1項)に関するものでありまして、たとえば企業再編に反対する株主の買取請求権行使などとは別に検討しなければならないものですが、現在でもMBO場面などでも少数株主を実質的に締め出すことを目的として活用されることが多いスキームですので、個人株主の方々にとりましては、結構重要な問題かと思われます。(弁護士が支援するような場合でしたら、あまり想定されませんけど、個人で価格決定申立を行いたいと考えておられるケースでは手続きを失念していた、という場面も想起されるところであります。このあたりはどこまでの一般株主の方々が救済されるのか、という点にも影響するでしょうね)

たしかに法172条による価格決定申立自体を「少数株主権行使の一態様」と考えるならば、個別株主通知は単なる対抗要件ではなく、訴訟のための立証要件でもある、として株主総会後20日以内に通知手続きを済ませて置かなければ申立は却下される、との結論が導かれそうであります。しかし、株券電子化に関する立案担当者の方々のご意見は、訴訟要件を満たすために個別株主通知をする必要はない、とされておりますし(「株券電子化開始後の解釈上の諸問題」商事法務1873号53頁)、組織再編時における株式買取請求権を行使するべき期間についての取り扱いが平成17年改正会社法の前後において変更されたことを前提として、全部取得条項付き種類株式の会社による取得の場合とを比較しましても、私は審理終了時までに対抗要件を具備すれば足りる(つまり、反対株主を広く救済できる方向)と考えるのでありますが、いかがなものでしょうか。要するに、社債株式振替法と会社法を厳格に解釈しなければならないほどの会社側の弊害が、個別株主通知の追完を認めてしまうと発生してしまうような事情があるかどうか、というところがポイントかと。そういった弊害がなければ、実質的にみても個別株主通知を申立要件とまでみる必要性はないと思うのですが。会社の組織改編にあたり、少数株主保護のために認められた権利ということでは同じでも、形成権たる株式買取請求権とは少し法的性格が異なる全部取得条項付き種類株式の会社取得の場面をどのように取り扱うべきか、思い悩むところであります。

いずれにしましても、メディアエクスチェンジの事例につきましては、形式的な訴訟要件(非訟事件なので申立要件?)の問題だけでなく、公正な価格を判断するにあたっても、なかなか興味ある内容が含まれておりますので、今後の裁判の展開が注目されるところです。

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2010年2月19日 (金)

社外取締役には株主総会への出席義務があるのか?

今朝(2月18日)の日経新聞のベタ記事で見つけましたが、2月24日に開かれる法制審議会に会社法制の見直しが諮問されるようであります。企業統治のあり方や親子会社に関するルールなどが検討課題となるそうでありますが、これって民主党が制定に意欲を持っておられる「公開会社法(仮称)」に関する諮問ということなんでしょうね。でも、周囲のいろんな方々とお話していても、新法が制定される現実味がないですよね。結局この記事にありますように会社法の一部改正、金商法と会社法の交通整理、あたりで十分有意義な審議ができそうですし、とくに公開会社法なる新しい法律の制定が審議の対象にはならないものと思われます。(あくまでも個人的な推測でありますが)

ただ昨年の企業統治研究会や金融庁スタディグループあたりの報告書提言を基に、今度は会社法マターで企業統治のあり方が議論され、法制度への落とし込みが検討されるものと思われます。おそらくまた注目されるのが「社外取締役制度導入論」だと予想されます。ZAITENあたりでも特集が組まれております「社外取締役」でありますが、著名人の社外取締役の方々は、何社も掛け持ちされているために、おそらく定時株主総会にも欠席がちになってしまう方もいらっしゃるものと聞き及んでおります。そこで本日は「はたして取締役には株主総会へ出席する法的義務はあるのだろうか?」というお話であります。

ちなみに法律・会計関連の某大手出版社が毎年発行していらっしゃる「平成22年版 株主総会の準備・・・」には、<社外取締役の欠席>に関する想定問答が掲載されておりまして、株主様が

「社外取締役の○○さんは大事な株主総会だというのに欠席しているではないか。総会にも顔を出さないような○○さんを選任したこと自体、問題ではないか?」

との質問をぶつけますと、社長さんが

「○○さんは取締役会には全回出席しておられ、またいつも貴重なご意見をいただいております。たしかに総会は大切ですが、総会への出席を条件として選任しますと、候補となる人が限定されてしまい、優秀な人材を確保することができません。また総会では私たち社内の者で説明は十分できると思いますので、どうかご理解のほどお願いいたします。」

との模範回答。(概ね、こんな感じの回答例でした)

たしかに回答例としては模範的なものだとは思うのでありますが、ちょっと気になりましたのが、(おそらくその本の監修をされていらっしゃる著名な法律事務所のご見解ですが・・・)総会は貴重な場ではあるが、法律上は取締役・監査役全員の出席が義務付けられているわけではない、との解説であります。この「取締役・監査役全員の出席」というのは、株主総会という機関における決議の効力要件からみたイメージであるならば、たしかにその通りだと思います。しかし、上の想定問答で問題となるのは個々の取締役にとって、果たして株主総会に出席すべき法律上の義務があるのか(ないのか)ということであります。そうだとしますと、社外取締役も含めて、会社の役員さんには株主総会での目的事項に関する説明義務が会社法上は規定されておりますので(法314条)、この条文からしますと取締役さん(監査役さんも同様)には株主総会への出席義務は法的にも認められるものだと思われます。「新会社法概説(大隅・今井)」や「逐条解説会社法第4巻(浜田解説)」も、当然に取締役には総会への出席義務あり、とされております。

ということは、たしかに多忙であることは承知しておりますが、社外取締役が株主総会に欠席されるのは、法的には義務違反(任務懈怠)に該当することになります。ところで、株主に対する説明義務というのは、とくに担当の取締役がされなくても、たとえば執行役員を履行補助者として説明させても構わないわけですので、とくに当日は出席せずとも説明義務違反にも該当しないのではないか(したがって出席義務はないのでは?)、という理屈も考えられそうであります。しかし、出席している株主様からは、目的事項に関してどのような質問が出るのかは当日になってみないとわからないのですから、やはり出席義務を否定する根拠とはなりえないものと考えます。

とりわけ報告事項も「株主総会における目的事項」であり、事業報告には社外役員の状況についての記載があります。また、そもそも社外取締役は一般株主の利益保護を目的として選任されており、社内取締役よりも株主に近い立場にあるのが通常の感覚でしょうから、そのような立場にある取締役が総会に欠席する、ということは、法的な義務違反といわれても仕方ないように思います。(ただ、欠席したことが決議の効力に影響を与えるとか、直ちに解任事由に該当する、ということではありません。)社外取締役にはお忙しい方が多いと思いますし、相変わらず総会集中日というものがありますので、やむをえない場合もあり、想定問答としては上記のあたりが無難かとは思いますが、ただ決して「総会に出席する義務はないのだ」などと開き直ることだけは回避されたほうがよろしいのではないかと。

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2010年2月16日 (火)

JR東海道新幹線事故にみる「情報と伝達」の重要性

(本日はとくにムズカシイ内容ではございませんので、どうか気楽にお読みください)

今日の日経ニュースによりますと、1月29日に発生したJR東海道新幹線の架線切断事故につきまして、社長さんが「初歩的なミスだった」と謝罪の会見をされたそうです。(日経ニュースはこちらです)たしかパンタグラフのボルトの締め忘れが原因だったようですが、12号車のパンタグラフにだけ「確認シール」を貼っていなかったために、比較的早期に事故原因が判明したもののように記憶しています。

これはブログに書くべきか迷っていたのですが、実はこの日、私は日本監査役協会中部支部の講演がありまして、終了後、大混乱の名古屋駅で2時間ほど新幹線を待っておりました。そして「のぞみ33号」博多行きに乗車してヘトヘトになって大阪まで帰ってきました。(15時15分発ののぞみ33号が名古屋駅に到着したのが19時10分ですから、私などまだマシで、東京から乗車してきた人は本当にお疲れさんだったと思います)車内は本当に「修羅場」でした。

ボルトの締め忘れも初歩的なミスであり、二度と同じミスを繰り返してほしくないのは当然です。ただ私と同じようにJR名古屋駅で復旧を待っていた人たちにとって、もうひとつの大きなミスに遭遇しましたのは(忘れもしない)駅のアナウンスでありました。

大混乱の名古屋駅のアナウンスはこのようなものでした。

「たいへんご迷惑をおかけしております。ただいま新横浜・小田原間におきまして、沿線火災のために架線が切断され、現在復旧工事を行っております。列車が遅れておりますのでもうしばらくお待ちください。」

おそらく私を含め、名古屋駅で駅員に詰め寄りかけていた人たちは、このアナウンスを聞いて「もらい事故」だからしかたがない・・・といった気持ちになっていたと思います。しかし自宅に帰ってニュースを見ましたら、なんと名古屋駅のアナウンスは大嘘でして、皆様ご存知のとおり、切断された架線が沿線の野原に落ちて、焦げた架線から火災が発生した、というものでありました。これは架空の話ではなく実話でありまして、おそらく名古屋駅にあのとき待機していた大勢の方がアナウンスを記憶しているはずです。

「この大嘘野郎!」と一瞬思いましたが、本当のところはあのアナウンス駅員には悪意はなかったのではないか、と冷静に考えるようになりました。人間は有事になると自分に都合のいいようにしか考えない、というコンプライアンスの原則がまさに適合する場面だったのではないでしょうか。おそらく本部から名古屋駅への連絡では、ほぼニュースと同じような情報が第一報として入ってきていたのではないかと推測いたします。しかしながら、あのように乗客に詰め寄られた状況のなか、本能的に自分に都合のよいように真実を取り違えてしまうのですね。いくつかの情報伝達経路を経るうちに架線事故→沿線火災、という順番が沿線火災→架線切断というように変わってしまい、それが真実であると信じ込んでしまったのではないでしょうか。(本当に悪意で虚偽の説明をした・・・ということでしたら、大問題でしょうけど)

今回は「笑い話」(でもないか?)で済むようなものでしたが、情報が混乱するために大きな企業不祥事につながるケースも出てきます。いまリコール問題が大きくクローズアップされていますが、法律上のリコールに該当するかどうかはむずかしい事実調査が必要ですよね。情報の伝達に不手際があり、調査に時間がかかりますと、せっかく事実調査が終了しても、そのころにはマスコミがすでに報道していたりして、「マスコミが騒いだので、やっと重い腰を上げた」といわれることになります。一方、事実調査が早期に終了しますと、世間で問題になる以前にリコールを公表することになりますので、かえって会社の信用が高まることにもなります。つまり「情報と伝達」は、企業の社会的信用が毀損されるのか、維持されるのか、を分ける大きなモノサシになりかねません。

「情報と伝達」の関わる内部統制については、平時から訓練は可能だと思いますし、けっこう小さなトラブルの解決でもトレーニングになります。この名古屋駅のアナウンス事件のような例は、探してみるといろんなところで見つかるかもしれませんね。

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2010年2月15日 (月)

金融庁・公開買付け追加Q&A出てますね(例の件も・・・)

住友商事のTOBでまたまたJCOMの支配権問題が浮上しておりますが、先日のKDDIによるリバティグループ会社の持ち分取得についてTOB規制にひっかかるのか?という問題、本日金融庁からリリースされた「TOB規制に関するQ&A」(案)でズバリ出てますね。MBOに関する対象会社の役員問題などにも言及されており、合計27問(意見公募)については検討すべき点があるように思われます。

ここのところ、大手の法律事務所さんが編集しているTOB関連の解説書が相次いで出版されておりますが、この時期に詳細なQ&Aが出るのもタイミング悪いですよね。(執務中なので、速報版ということで失礼いたします・・・・・)

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ニイウスコー架空循環取引と監査法人による監査の限界

年初(1月4日)のエントリーにおきまして、ニイウスコー社の架空循環取引の原因を再考する機会到来か?と書きましたが、先週旧経営陣の方々が証券取引法違反(有価証券報告書虚偽記載の疑い)で逮捕されたことが報じられておりました。ニイウスコー社の粉飾決算問題が発覚して以来、すでに1年以上が経過しておりますので、こういった事件につきましてはやはり刑事事件として立件するためには相当の時間と労力が必要であることが理解できるところであります。新聞報道では、経営陣が社員に架空取引の方法を指示した証拠なども出てきている、ということですから、「経営陣が指示をしたことを示すメモ」など、それなりに確証があって今回の強制捜査に至ったものと思われます。

なかでも毎日新聞ニュースによりますと、仕掛品や棚卸資産、販売商品等について、内容が空っぽのCD-ROMが使われていたようです。しかし監査法人による監査の際には中身の入ったCD-ROMを示していた、とのこと。システム開発会社による架空循環取引に「空のCD-ROM」が使用されることは、おそらく当時の常とう手段だったものと思われますが、これは在庫商品の価値が10億なのか100円なのか外からはわからないからであります。報道によると、たしかに監査法人による監査の際には中身の入ったCD-ROMを示していた、とありますが、たとえ中身が入っていたとしても、普通の会計監査では中身の価値がどれほどかはわかりませんし、また、2005年から2007年当時、そこまで会計監査で調査することはなかったものと推測されます。(おそらく通常の実査では、CD-ROMの中身をパソコン画面上で確認して、全く空っぽというわけではないことまでの確認でOKだったのではないかと思われます)そもそもシステム開発といっても、一から完成まで、すべての過程を当該開発会社で制作するわけではなく、たとえば95%まで完成させて、あとの5%は別のソフトハウスに委託もしくは販売して完成品(ユーザー提供品)に至るケースもあります。その場合、たとえ監査法人さんがシステム監査専門部隊を連れてきて、在庫商品の価値を調べようとしましても、それが「95%の完成度」かどうかはなかなか判明しないのが現実であります。(もちろん、監査報酬が著しく高額であれば可能だと思いますが、通常の監査報酬において、そこまでの実査手続きは困難ではないかと。。。)

さらに、強制捜査の対象となっている2006年当時といえば、監査法人さんとシステム開発会社における関心の的は、ソフト開発会社の売上計上基準に関する「会計基準の改正問題」ではなかったかと推測されます。つまり、純額主義か総額主義か、という問題であり、システム開発会社が販売する商品について、本当にその会社が付加価値を付けて販売しているのか、それとも商社的取引によって販売実績を上げているのか、という問題であります。ソフト開発会社にとっては売上至上主義のようなところがありますので、監査法人さんとしても、流通におかれている商品について、当該システム開発会社がどれだけの付加価値を付けて販売していたのか、という点に最も注意を払って監査をしていたのであり(リスク・アプローチ)、それ以上に、架空循環取引が行われていた可能性までは(よほど、明白な証拠でもないかぎりは)認識していなかったのではないかと思われます。

金融機能や保証機能を有する「介在取引」(これは一応経済的合理性のある取引とされておりますが)と、架空循環取引との区別につきましては、どちらも資金もモノも動く取引ですから、外観的にはほとんどわからないと思います。また今回のように30社以上が介在しているような循環取引だと、介在している会社自身もおそらく架空循環取引である、と確信していたところも少ないものと思われます。したがいまして、私は原則として、監査法人さんは架空循環取引について、一般の監査手続きのなかで発見し、これを指摘することは困難ではないかと考えております。(つまり監査の限界事例ではないかと)ただし、その兆候などは会社内でも観察していれば結構発見できるものでして、たとえば先に書いたように、たな卸し商品であるソフトが入っているCD-ROMの中身が10億円の場合と、100円の価値しかない場合とでは、自然とその「管理方法」に差が出てきます。本当に10億円の価値がある、と会社が認識していれば、その無形資産の詰まったCD-ROMについては「社外秘としての管理」が厳格で、またソフトハウスに開発委託している場合でも、知的財産権保護に関する契約の中身が非常に厳しいものになっています。(これは当然ですが・・・)しかし、架空取引の道具として活用しているときは、けっこう平気で普通の倉庫に別の商品と一緒に保管していたり、他社に製品が存在している場合にも、預かりなのか販売なのか、よくわからない状況のままで経営陣が平気でいる、というケースもみられます。これは経営者が関与する架空循環取引を発見する手口のひとつにすぎませんが、こういったことは、人間観察の才能を持つ人による、むしろ「勘」に頼るところなのかもしれません。社内で架空循環取引を発見するケースというのは、こういったあたりからでないと関与者以外には見えてこないものであります。

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2010年2月12日 (金)

役員報酬の個別開示(金商法・内閣府令改正)と会社法の役割

(12日午後6時;追記あります)

毎年この時期になりますと、6月総会準備に向けたマニュアル本が次々と出版され、また企業法務に精通された法律家の方々によるセミナーが多数開催されるわけでありますが、今年は証券取引所のルール改正だけでなく、まだこれから金商法上の政省令の改正がある・・・ということで、ちょっと総会ご担当者の方もたいへんですよね。たとえばニュースにもありましたが、金融商品取引法関連の内閣府令の改正が近々予定されていて、いちおう3月決算会社から施行される・・・ということらしいので、有価証券報告書の早期提出も考えますと事業報告関連のネタと同時に6月総会にも影響が出てきそうであります。

本日(2月11日)、株式持合いや議決権行使結果(発行会社による)の開示と併せて、役員報酬の個別開示が義務付けられる、といったニュースが報じられております。そういえば昨年5月23日にリリースされておりました野村証券金融経済研究所の個人株主1000名アンケートの結果によりますと、ネットで議決権を行使すると回答した方々の4割が「役員報酬の決定」いついては反対の議決権を行使する・・・とのことですので、個別開示は開示規制における趨勢になりつつあるのかもしれません。もちろん使用人兼務取締役の場合の「使用人」部分の給与については開示の対象にはならないものと思いますが、それでもおおよその役員報酬は個別に明らかになりそうですね。「誰がいくら」という、平面的な関心よりも、むしろ複数年を比較して、各役員の個別報酬がどのように変化しているか、ということに興味が湧くところであります。バランスが悪い場合には、個別報酬額を一任されている取締役会や代表取締役の説明を求めるシーンなども想定されてくるのでしょうね。

ところで上場会社の場合、(経済団体からの反対が強く、まだ制度の詳細については流動的、ということだそうでありますが)役員報酬の個別開示が義務付けられ、また役員選任に関する議決権行使結果が開示される、ということになりますと、先のアンケート結果からみましても、総会の時点で、つまり事業報告の時点で役員報酬の個別開示を求めたくなりますよね。(可決選任されることは明白であったとしても、報酬額に不満を持つ株主の否決票が集まることで「抗議をしたい」という強いインセンティブが働くのではないでしょうか。実務的には役員選任議案は一括上程されますが、役員報酬の個別開示制度と議決権行使状況の開示制度が導入されるとなりますと、各候補者別の議決権行使を求める株主のご意見も無視できないようにも思われます。)しかし会社法上の事業報告では役員報酬の個別開示までは義務付けられていませんので、原則として取締役会もしくは代表者が個別報酬について説明義務を負うものではありません。有価証券報告書を早期に任意提出される会社であればとくに問題はないでしょうが、そうでない会社の場合、株主総会で個別開示を求められるケースにはどのように対応されるのか、とても興味の湧くところであります。(とくにインサイダー情報ではありませんから、株主の要望に応じて任意に説明することもできそうな気もしますが・・・)このあたりにも会社法と金商法の狭間の問題が存在するのでしょうか。ほとんど思いつきの疑問ですので、どっかで基本的な誤りがございましたら指摘していただけますと幸いです。

(追記)金融庁HPにて、改正開示府令案が公開されております。意見は3月15日まで、ということだそうです。

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2010年2月10日 (水)

小糸工業社はなぜ調査委員会を設置しなかったのか?

本日はずいぶんと多くの会社の不適切な会計処理に関するリリースが出ておりますが、なかでも内部告発との関連での不祥事に関するリリースが目に留まりました。航空機座席の大手メーカーである小糸工業社(東証2部)の座席強度偽装事件(国交省より業務改善勧告が出た、とのこと)が新聞等で大きくとりあげられており、本日(2月9日)も株価はストップ安となったそうであります。(小糸社のリリースはこちらです。しかし親会社はリコール問題や強度偽装問題でたいへんじゃないでしょうか。)

ところで、今回の不正発覚は、またしても複数の内部告発(社内→当局)によるものであり、おそらく当局も内部告発がなければここまでの調査は困難だったものと思われます。(複数の内部告発で福岡市が食品衛生法違反事実をなんとか突き止めた、あの船場吉兆事件と同じ構図ですね)しかしながら、昨年1月30日の小糸社の不祥事発覚の流れからみて、今回の株価ストップ安の状況を止めることはできたはずであり、なにゆえ1月30日以降に調査委員会を設置しなかったのでしょうか?社内事情を顧みずにあえて申し上げるならば、極めて初歩的なコンプライアンス上のミスがあったのではないかと想像いたします。

2009年1月30日に国土交通省および小糸社がリリースした不祥事の内容は、不正受検の典型的な事例であります。(試験には絶対に1回でパスするために、いわゆる試験用商品を別に用意して、受検後には別の商品を販売する、というもの。)ちなみに、チャートで調べたところ、小糸社における昨年の不祥事リリースは、ほとんど株価には影響しておりません。(1月29日:246円→2月1日:235円。売買高にも影響がなかったみたいですね。)不正受検という不祥事は、たしかにあってはならない不正でありますが、「粗悪品」の販売とは直結しておりません。とくに小糸社のように、ブランドメーカーとしての信用がある企業の場合、現場の事情により不正受検が行われたにすぎず、そもそも試験を受けていなくても「良品」であることには変わりはない、との社会的評価を受けることが多いと思われます。(したがいまして、この時点では株価にはそれほど影響を及ぼさない)ところが、その後不正受検の事実から、実際に安全基準をクリアしていない商品の存在が明るみに出る場合があり、これは企業にとっては(行政法上も民事法上も)極めて重大な問題に発展してしまいます。行政法上では商品の販売中止が長期間にわたって求められることとなり、また民事法上では販売先からも返品や修復、賠償など多くの法的追及を受けるリスクが高まります。

したがいまして、不正受検を行った企業の社会的信用が回復されるのか、それともさらに二次的不祥事へと向かうのか、という分水嶺は、次のステップで分かれることが多いようであります。不正受検→実際に粗悪品発覚、という道をたどるのか、不正受検→原因究明(本件調査および本件外調査)→在庫および流通品調査→再発防止策、という道をたどるのか、というものであります。とくに、不正受検発覚の段階で社外の第三者委員会を立ち上げて、その報告書を当局に提出するというのは、基本中の基本でして、組織ぐるみだったのか、不正受検が粗悪品流通を推定させるものなのか、不正の期間や対象商品の特定などが最低ラインの調査内容であります。(もちろん責任追及や再発防止策の検討も必要ですが、とりあえずまずは「安全・安心」に向けた対策が最重要課題となるはずです)

小糸社の場合、2009年4月に代表者が異動しておりますが、この時期にせめて社内調査委員会だけでもきちんと立ち上げられていれば、内部告発の情報は「内部通報」として社内で吸収できたかもしれません。また、真摯に調査委員会報告書を国土交通省に提出していれば、(もちろんプロセスチェックがきちんとなされたものであることが条件ですが)会社内の自浄能力に対して期待がもてるものとして、度重なる内部告発による行政調査はなされず、このたびの業務改善勧告までには至らなかったのかもしれません。とりわけ「不正受検」のみの不祥事の場合には、検定を行う当局側にも(長年の信頼関係からか)ひょっとすると「検査上の落ち度」が認められる可能性もありますので、厳しいツッコミをいれず、自主的な対応にマルをつけてくれることも考えられます。しかし今回最も問題とされているのは、小糸社が「安全基準に満たない製品」の存在を知りつつ、当局を騙した行為であります。実際に在庫品や流通に置かれた製品に安全基準を満たさない製品があることを自ら認識したのであれば、自主的に公表して、その検査対象や回収製品の範囲を合理的な理由をもって限定すれば(これがなかなかむずかしいところでありますが)ブランドイメージの毀損は最小限度に抑えることが可能なはずであります。

このたびは、組織ぐるみであったことを社長ご自身が認めておられるようなので、そもそも第三者委員会など設置しようものなら、すべてが明るみになってしまうので「そんなことできるものか」といった社内事情だったのかもしれません。しかし、ダスキン事件判決でもおなじみのとおり、「不祥事が発覚する」リスクについては、近年内部告発や、性能偽装事件への行政調査の厳格さなどからみて極めて高いものと予想されますし、そもそも「不正受検があったのに、自社ではなにも調査しないのか?」といった行政の憤懣が、かえって調査への意欲を高めることになるのは、あの船場吉兆事件でも証明済みであります。納期が間に合わないから安全基準違反に目をつぶる、という意識は、おそらく法的には通用しない経営判断でしょうし、「全社的なコンプライアンス経営意識の欠如」と言われてもいたしかたないようにも思われます。上場会社である以上は、いまからでも、自浄能力のあるところを社会的に示す必要があるのではないでしょうか。(HPを閲覧しましても、あまりそのあたりの意識がうかがわれないように思うのですが・・・・)

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2010年2月 9日 (火)

KDDIのJCOM出資方法の適法性と公開買付け規制の解釈(その2)

(2月9日夜:追記)

先週、KDDIのJCOM出資方法の適法性と公開買付け(TOB)規制の解釈というエントリーをアップして、「KDDIがリバティグループの子会社持ち分を取得する方法で、実質的にはJCOM株式の37.8%を取得することが、はたしてTOB規制に違反するか?」といった問題についてご紹介いたしました。そしてすでにご承知の方も多いかとは思いますが、本件について金融庁が調査に乗り出し、違法の可能性があるとしてスキームの見直しをKDDI側に求めているそうであります。(なお、もし違法となれば課徴金800億円~900億円が課される可能性もあるとか)そこで、最初は強気だったKDDI側も、スキームを見直す予定である、とニュースでは報じられております。(産経ニュースが詳しく報じております。このニュースでは、金融庁が中間持株会社を「ペーパーカンパニー」と評価している、とのことですが・・・)

ある新聞記者の方もおっしゃっていましたが、「感覚的にはちょっとヤバイのではないか。普通の感覚だと、脱法的なニオイがします」とのことですし、たしかに中間持ち株会社が十分に機能していない状況であれば、やはり潜脱行為の可能性が高いようにも思います。(つまりJCOM社の一般株主の方々が不満を募らせるのもナットクできるところであります)ただ、前回のエントリーでコメントいただいた辰のお年ごさんが疑問を呈しておられるように、買付会社が「限られた資源」をもって限られた範囲で(つまり50%以下の議決権を獲得する目的で)出資したいと考えているケースにおいて、当局が公認する代替手法も不明なままに、市場外取引ができずに常にTOBによらなければならない、ということになりますと、かなりM&Aを断念せざるをえない結果になるのではないか、とも思われます。とりわけ課徴金制度がTOB規制に導入されましたので、その法的な性格が「不当利得のはく奪」にあるにせよ、現実には相当な萎縮的効果を発揮することは間違いないでしょうね。(ちなみに、ニュースが報じるところでは、JCOM株式の3分の1を超える部分については、KDDIとしては第三者に持ち分を移転することで、リバティグループの要請と法の要請を同時に満足させる方針とのことですが、そもそもこの「第三者」がKDDIの実質的な支配関係にあるならば、また新たに潜脱行為ではないか、との疑問も残りそうな気もしますが・・・)

前回のエントリー以降、いくつかの文献等を読みましたが、このTOB規制に関する法律や金商法施行令の解釈方法については、いくつかの議論があるようです。(たとえば種類株式発行会社における種類株式・普通株式へのTOBについての限定説、非限定説、また限定説に立つ場合の形式的解釈説、実質的解釈説など)このあたりの問題点の認識につきましては、財団法人日本証券経済研究所・金融商品取引法研究会「公開買付け制度」の著名な教授のご報告とその討論部分がたいへん有益だと思いました。同時に、なかなか軽々には論じ得ないほどに金商法と会社法の役割分担の問題を含む困難な問題を抱えていることも理解できました。以前、日経「法務インサイド」でもとりあげられていましたカネボウ事件東京高裁判決の課題についても、このご報告で、わずかではありますが理解できたような気がいたします。

ところで、いろいろと解釈に課題のある公開買付規制でありますが、昨年のアデランス株主総会の直前に、ユニゾンキャピタル社が条件付きTOBを届け出たはずですが、届出ようとされていたはず(結局中止)ですが、「ユニゾンが推薦する取締役候補が選任されないことを撤回の条件とする」ことは、(仮に開始された場合)TOBを撤回できる金商法上の条件に該当したのでしょうかね?もし、なにかこの件について参考となる文献等ございましたらご教示いただきたいのですが・・・

(追記)2月9日の日経夕刊や読売朝刊の記事によりますと、住友商事社がJCOM株式に対してTOBをかける準備をしている、とのことです。住商とKDDIで経営権争奪の可能性もあるとか。ちょっとマニアックな話題かと思っておりましたが、大きな問題に発展するのかもしれません。

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2010年2月 8日 (月)

サントリーとキリンの統合交渉決裂へ

ちょうど3年前、某上場会社の社外役員として、勝ち負けのはっきりしない企業統合のむずかしさを経験をした者(基本合意→交渉決裂・合意解消→マスコミ・株主からのご批判)からすると、今回の交渉決裂は「予想されたこと」どころか「当然の流れ」ですし、むしろレター・オブ・インテント締結の前にこのような結果になっただけでもよかったですよね。基本合意書を巻く以前に(一方が創業家の資産管理会社が大株主であり、EDNETによれば、そこに個人・法人の株主が多数存在するわけですから)統合比率を検討するのであれば、内容として様々な条件が(たとえば非公開会社の株主対策に関する条件が)盛り込まれるわけですし、労働組合の意向なども当然に聞こえてくるわけですから、次第に現実が見えてくるわけで。

日本の食品産業がグローバル化のなかでスケールメリットを必要とすることは理解できるのですが、その高邁な理想とは裏腹に、勝ち負けのはっきりしない企業同士の統合交渉を進めることは、「会社は従業員のもの」であることの「現実」(法のタテマエとは異なる現実という意味です)を思い知らされる場面だと思います。あまりにも(社内的にも、社外的にも)統合するには無理が多かったですよね。おそらくご異論もあるかとは思いますが、日本を代表する双方の会社に大きな傷を残さないうちに、統合解消を決意したことは(両社の今後のグローバル競争において)たいへん賢明だと思います。

PS 

今、日経新聞夕刊の1面を読みましたが、世界に対抗しうるグローバル企業出現への期待が破られ、非常に落胆の色の濃い内容の記事ですね。(同様のご意見の方も多いと思います)でも、勝ち組の従業員の方々の企業文化へのこだわりはすごいものがありますよ。勝敗がはっきりしている企業の再編や監督官庁(仕切り役)のある業界であればまだしも、「勝ち組どうし」ということになればおそらく「企業価値の毀損」は免れないこと強く肌で感じることと思います。1+1が2にはならず、1.5くらいになることが実感できると思います。統合交渉をしてみて初めてバランスシートには乗らない「無形資産」の重み(企業文化の重み)を再認識するはずです。でもこれは実際に統合交渉をしてみないとわからないですよね。なにせ、勝ち組同士の統合など、ほとんどの企業経営者にとっては、「一生に一度あるかないか」の経験ですから。

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2010年2月 4日 (木)

監査役会が機能しないことが「重要な欠陥」に該当するとされた事例が出ましたね(内部統制報告制度)

いつも拝見している武田先生のブログで知りましたが、2009年10月決算会社までの調査では、3147社が内部統制報告書を初年度に提出し、そのうち重要な欠陥が期末に残り内部統制は有効ではない、と経営者が評価した会社が82社(うち1社は不備が残り、有効ではないとのこと)、意見を表明しない会社が11社ということになったようです。(つまり3%程度の上場会社が内部統制は有効と表明していない、ということになります)

ところで、京王ズホールディングス社(東証マザーズ)の内部統制報告書を拝見しますと、

当社は、監査役会が規定どおりに適時に実施てきていないことが判明いたしました。これは全社的な観点からの内部統制が整備・運用できなかったことに起因するものであります。これは監査人の指摘により発見されたものであり、是正する時間的猶予がなかったことから、事業年度の末日までに是正できませんでした。

とあります。(内部統制監査人は清和監査法人さん)ちなみに有価証券報告書を読みますと、3名の監査役さんについては、とくに期中に変更となったわけではなく、いずれも6年から8年ほどの在任期間でありまして、監査ができない環境にあったとか、期中の会計監査人との連携・協調が困難であった、という事情もみられないようです。招集通知添付書類のほうでは、社外監査役さん方について、取締役会への出席率等の記載はないようですが、決まった監査役会にはすべて出席されていたように記載されております。どのあたりに問題があったのかは、よくわかりませんが、監査役(もしくは監査役会)が機能していない、という「統制環境上の問題」が財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高く、重要な欠陥に該当する、とされた事例はきわめて珍しいのではないでしょうか。この点につき、監査役監査報告のなかでも、なんら触れられていないようです。(株主構成上、とくに質問が出るような雰囲気の総会ではなかったのかも)

ただひとつ気になりましたのは、3名の監査役さんの報酬額がきわめて低額なこと。とくに社外監査役さんは年間60万円(おひとり当り)!?ほんまかいな?月5万でまともな監査はちょっと無理じゃないでしょうかね(^^;; でも監査役報酬がいくら低額でも、問題が発生した場合の「善管注意義務」のレベル感について、報酬の多寡は一切考慮されないでしょうし、ちょっとたいへんかも・・・。(以上、備忘録程度にて失礼いたします)

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金商法上の課徴金と「会社の損害」(ビックカメラ株主代表訴訟へ)

ちょうど1年前の2009年2月2日に「ビックカメラ過年度決算訂正と社外取締役の苦悩」なるエントリーを書きましたが、そのなかでビックカメラ社による長年にわたる不適切な会計処理に関する課徴金処分との関連で、「おそらくビック社は上場廃止にはならないのでは」といった意見を述べておりました。同時に、課徴金処分が課された以上は、ビックカメラの法人に刑事罰が課されることはなく、もし制裁的な意味を必要とするのであれば、それは法人の役員らに対する民事賠償請求に委ねられるのではないか?といった感想も付記しておりました。

ところで朝日新聞だけが報じておりますが、やはりビックカメラ社の一部株主の方が、このたび旧役員9名を被告として、株主代表訴訟を提起することになったようであります。(朝日新聞ニュースはこちら)元会長さんは現在も課徴金処分を争っておられるようですが、法人としてのビックカメラに対する約2億5000万円の課徴金納付命令についてはすでに確定しております。報道によると、この課徴金自体が会社の損害であるとして、利益水増し分に対する過払い課税額20億円と併せて、その賠償を旧役員に求める、という構成のようであります。ちなみに、この旧役員のなかには、監査役さん3名も含まれていると、(噂で)お聞きしておりますので、またまた監査役さんが訴訟で「粉飾見逃し責任」を追及される事件が増えそうであります。すでに裁判になっている三洋電機社の株主代表訴訟につきましても、会計処理に問題があり過年度決算を訂正した事案でありますが、独立委員の方々による報告書では監査役さんの責任もかなり厳しく指摘されておりましたので、最近は監査役さんも「責任の分担」を(当然のこととして)求められる時代になってきたのかもしれません。

さて、ニュースの内容からの感想でありますが、まず課徴金がはたして会社の損害に含まれるのか?といった疑問が生じます。ビックカメラ社による本件報告がなされていた時代の課徴金算定には行政庁に裁量権限が存在しなかったと思いますし、いわゆる不当な利益ははく奪する・・・といった趣旨で課されているものであります。つまり、「会社が不当に得た利益なんだから、返しなさい」ということで納付命令が出ているわけですから、そもそも会社には損害はないのでは?といった疑問であります。これを役員個人に「損害」として会社が請求するとなりますと、それこそ不当な利益分が会社に戻ってくる、という理屈になりそうですね。このあたりから、報道にありますように専門家のなかでは慎重論もある、ということだと思われます。(ただ、以前、大林組の株主代表訴訟が和解で終結した際、和解金の一部は「課徴金による損害」として交付された事実があるようですね)実質的には刑事処分を課す代わりに(早期解決のために)課徴金が賦課される、という実態があるわけですし、また役員の故意・過失を問わずに形式的な法令違反の事実を捉えて法人に課徴金処分を課す、ということですから、課徴金処分がなければ刑事罰を課され、会社の信用もさらに毀損されていた、と考えましたら、少なくとも課徴金相当額を損害とみることもできそうであります。(うーーーん、でもちょっと構成上では苦しいかも・・・)なかなか金商法上の処分として賦課された課徴金相当額を会社の損害とみなすことは、考えてみると難しいもののように思えてきました。

次の問題は「関連当事者の開示」と不動産の流動化の枠組み、つまり「信託受益権の譲渡に関する会計処理」(売却処理すべきか、金融取引として処理すべきか)が不適切であったことについて、旧役員に善管注意義務違反の事実が認められるのか、という点であります。金融庁による調査の後にこそ「不適切であった」と会社自身が答弁しておられるようですが、そもそも信託受益権処理の適否に関しては、ずいぶんと以前のお話になってしまいますので、「関連当事者の開示」が不適切であったことへの善管注意義務違反が中心的な争点になってくるように思われます。(←あくまでもニュースを読んでの推測ですが・・)ところで、昨年4月にビックカメラ社が東証に提出している「改善報告書」によりますと、「連結の範囲認定のために行う子会社の洗い出しの調査方法についての不備から問題が発生した」「連結の範囲内であり、関連当事者の範囲でもある当社役員等が実質的に支配する会社に関するものが調査対象外になっていた」とあります。そもそもビックカメラ社は、平成20年に東証に上場するわけですが、そのときの上場審査において調査は不十分だった、とのこと。しかし平成18年にはすでにJASDAQには上場していたわけですから、すでに連結範囲に関する調査をする体制は当然に整えるべきであった、ということは言えないでしょうか?(このあたりの構成は三洋電機社の調査委員会報告の例を参考にしているだけですので、あくまでも推論ではありますが)ただ、これは内部統制の構築、という視点から(つまり業務執行)でありますので、取締役の善管注意義務に関するものであり、監査役についてはまた別途考慮すべきではないかと思われます。なお、ライブドア一般投資家損害賠償事件では、監査役の「会計処理に誤りがあることへの指摘」に関しては、会計監査人による第一次判断権を根拠に裁判所が(原告の主張を)一蹴しておりますので、ここでも請求原因の立て方はなかなか難しそうな気もいたします。

いずれにしましても、課徴金事案に対する株主代表訴訟は、今後増えそうな予感がしておりますので、他の事案と同様、今後の経過にたいへん興味を抱くところであります。

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2010年2月 3日 (水)

ビジネス弁護士から指定弁護士(検察官役弁護士)へ

もうすでにご承知の方も多いかとは思いますが、明石歩道橋事件における検察審査会の起訴相当なる判断を受けて、日本で初めて現役の弁護士が検察官役(指定弁護士)として、公訴提起に携わることになります。(私はJR西日本の事件のほうで先に指定されるのかと思っておりましたが、明石歩道橋事件のほうが先だったのですね。)昨年12月7日のエントリー「指定弁護士-いったい誰が選任されるのだろうか」にて、我々同業者のなかでも、日本で最初の検察官役弁護士に誰がなるのか、たいへん関心を抱いていると書きましたが、今朝の新聞を見てちょっと驚きました。中川先生が兵庫県弁護士会より推薦を受けておられるようであります。もちろん、裁判所から正式に指定されるまでは決定とは言えませんが、おそらくこのまま正式に指定弁護士の第1号として難題に立ち向かわれることになるものと思います。(日経ニュースはこちらです

ちょうど2年ほど前、中川先生をお誘いして、第一法規さんのセミナーを開催させていただきましたし、たいへん多くの法務部門の方々にお集まりいただきましたので、ご記憶されておられる方もいらっしゃるかと思います。またその後はIPO(新規株式公開)に関連するお仕事をご一緒させていただいたこともあります。そもそも中川先生は最高裁判事を務められた方の名門事務所(神戸市内)に在籍しておられ、近畿財務局に出向して金融検査官のお仕事をされておられましたので、私はビジネス弁護士としての顔しか存じ上げません。弁護士として優秀なのはIPO関連の仕事をご一緒して証明済みでありますが、なんといいましても、私が共同セミナーにお誘いしたのは、彼の誠実な人柄からであります。また、コンプライアンスを説く人に不可欠な「現実と理想との間のバランス感覚」も兼ね備え、おそらく企業人の方々にはウケるだろう・・・と考えたからであります。(実際、IPO支援先の社長さんからはたいへん信頼をされておりました)「東京の大きな法律事務所に入所されていたら、もっと能力を発揮する機会に恵まれて、もっと大きな仕事をされていただろうになぁ・・・」などと、(ご本人からすれば「要らぬお節介」ですが)感じたこともありました。

若手ビジネス弁護士として期待しておりました中川先生が、こういった検察官役弁護士として大役を果たされることに敬意を表したいと思います。犯罪被害者支援NPOの理事をされておられたり、弁護士会の関連委員会の副委員長をされていたり、という立場も考慮されてのことだとは思いますが、兵庫県弁護士会の推薦も、彼の人柄やバランス感覚が最も考慮されてのことではないかと推測いたします。これこそマニュアルのない世界ですし、司法改革の一貫として制度化された「起訴議決制度」を担うため、様々なプレッシャーがかかるものとは思いますが、どうかその優秀な法律家としての能力と誠実な人柄、そしてなんといっても「前向きの使命感」により、この難題に立ち向かっていただきたいと願っております。長丁場になるかとは思いますが、どうか頑張ってください。

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2010年2月 2日 (火)

競争法コンプライアンス体制と違法行為の発見的手法

今年に入って、またパワハラ関連の内部通報が増えてきました。手書きのメモを正式な通報受理書面に書き換え、これをチェックするのに深夜までかかり、なかなかブログを更新する時間も採れないのが現状であります。

1月29日に経済産業省HPにて、競争法コンプライアンス体制に関する研究会報告書がリリースされております。内容は主に副題にありますように、国際的な競争法執行強化を踏まえた企業・事業者団体のカルテルに係る対応策が中心でありますが、一般の不正リスク低減のためのコンプライアンス体制整備においても参考となりそうであります。とりわけ、報告書では予防、問題発見、問題発生時の対応に分けて、ヒアリング対象企業の参考例なども掲載されており、コンプライアンス体制向上のための自社の取組みに応用できる点もありそうですね。

私自身がもっとも関心を持っておりますのは、やはり「違法行為の発見」に関する部分(報告書89ページ以下)であります。公認不正検査士(CFE)の業務は、主に不適切な会計処理の発見、調査といったあたりでありますが、ここでは内部監査、内部通報、社内リーニエンシーが効果的な手法として掲げられております。営業部門に対する内部調査・・・という手法は、たいへん骨の折れる作業かとは思います。PCのメール調査という手法も、基本的には調査手続きに関する規約と一般的な承諾に関する規約があり、またPC自体もすべて会社保有のもの、ということでしたら調査は可能かと思いますが、結構たいへんな作業でありまして、人的資源に限界のあるところではなかなか進展しない可能性が高いように思います。(つまり定例的なメール調査というのは限界があり、ほかに疑わしい点が確認されたうえでの非定例的な調査手法、というのが一般的ではないでしょうか?)また、このあたりは営業担当者のほうが心得ていて、(いちおう禁止されているかどうかは別として)最近は同業他社の営業マンどうしの連絡は携帯メールを使用するところもありますよね。

毎度、セミナーでは申し上げるところですが、予防や発見後の対応については、それなりにお金を出せば質の高い体制が整備できるところでありますが、この「違法行為の発見」についてはどんなにお金を出しても質の高いものを作ることは困難であります。発見機能については、基本的に個人の才能や資質に頼るところが多く、そのような資質や才能を持った個人がいない企業においては、ひたすら地道な社員研修やトレーニングの積み重ねによって発見的能力を磨いていくしか方法がないものと思われます。(もちろん、その際にはトップのコミットメントは不可欠であります)たとえば定例の内部監査によってどのような情報を定期的に集めれば、先に述べたような「疑わしい点」を察知する(推論することができるのか(「疑わしい点」が察知されたら、そこから深度ある調査に移行することになります)、その「情報と伝達」体制の整備から始めていかねばならないものと解されます。

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