「社外委員会」委員推薦制度が始まります。
本日(2月27日)の日経新聞朝刊記事にありましたように、大阪弁護士会と日本公認会計士協会近畿会は、3月より企業不祥事発覚時や買収防衛策導入時、MBO(マネージメントバイアウト)のTOB賛否表明時等における「第三者委員」候補者を、対象企業に推薦するための名簿作りを開始することとなりました。(会計士協会近畿会会長、大阪弁護士会会長によるリリースがあるまで、ブログでのご紹介は控えておりました。)
私もこの制度の運営責任者でありますが、すでに名簿登録希望者の方々への研修講座も終了し、報道にもありますように、会計士・弁護士合わせて100名近くの名簿登録希望者がいらっしゃいます。(私は運営側の人間ですので、名簿登録はいたしません)ちなみに昨年12月、名簿登録希望者対象の研修講師を務めさせていただきましたが、関西でも企業法務に精通しておられる著名な先生方がたくさんお見えになっておられましたし、すでに何度も社外委員を経験されておられる方もたくさん受講されておりました。したがいまして、(人的な面での)受入体制はほぼ整っております。
完全に独立した「第三者委員会委員」としての要請にも、また社内調査の支援の要請にも応えられるものとして設計しております。不適切な会計処理に関する調査活動、ということであれば、具体的に不正の存否が不明確でな段階でも、その調査活動への派遣ということも可能かと思われます。原則は弁護士・会計士ペア(人数等は事件内容によって検討)ということでありますが、金融庁所管ではない事例、たとえば性能偽装や産地偽装、地方自治体における不正などにつきましては、弁護士だけの派遣ということも考えられます。(逆に会計士委員だけの派遣というのもあるでしょうね)
若干の心配がふたつほどございます。(これはあくまでも、個人的な心配事です)ひとつは、弁護士のスタンスであります。同業者の方からすれば「何をえらそうに言うとんねん」とおしかりを受けそうでありますが、「お金をもらいながら、公正・独立の立場で企業と向き合う」「職業的懐疑心をもって臨む」という経験は、おそらく弁護士には著しく不足しているものと思います。会計士の皆様は、監督官庁のもとで(いろいろと疑問はあるかもしれませんが)独立公正な立場で監査業務を履行しているわけですし(いわゆる「外観的独立性」)、また職業的懐疑心をもって被監査企業と向き合っておられます。また、監査法人内においても、厳しい品質管理というフィルターにもかけられます。おそらく企業経営者との意見対立の場面におけるリスク管理の手法も、これまでの仕事の中から身につけておられることと推察されます。しかし弁護士は企業、経営者の利益のために最善を尽くす・・・という習性が「パブロフの犬」のごとく身にしみついております。「社会正義の実現」というのも、違法行為を勧める場合を除き、依頼者への最大の尽力を通じて寄与するものというのが一般的な認識であります。したがいまして、企業の短期的な利益を超えて、投資者や株主、消費者、地域住民、被害者などのステークホルダーの利益をまず第一に考えるべき「社外委員」としてのスタンスを、どれほど意識できるのか、(私も含めて)不安を感じるところであります。たとえば私自身、性能偽装事件に関する社外委員の経験からすれば、その報告書の中身次第で回収すべき対象製品の範囲が大きく異なるわけでして、大げさではなく、企業の存亡にかかわる場面も想定されます。
そしてもうひとつの心配は、弁護士事務所や監査法人と、委員との関係であります。つまり法律事務所が顧問をしている、監査法人が監査・コンサルタントをしている、という企業からの依頼があった場合(連結グループを含めて)、その法律事務所、監査法人に所属もしくは出身の弁護士・会計士は委員に就任できないか?という点であります。もっというと、過去に多額の報酬をもらったことがある企業への当該法律事務所出身委員の就任をどう考えるべきか、ということであります。(ちなみに法律事務所にはローテーション制度もなく、顧問法律事務所における担当弁護士の交代・・・ということも考えられません)ここで重要なことは、第三者に信頼される報告書意見が書けることでありますから、外観的な独立性については厳格に考えるべきではないか、というのが私見であります。ただ、ここをあまり厳格に考えてしまうと、過去に不正調査や企業価値判断に関与した弁護士の確保が困難となり、企業法務やコンプライアンスに精通した弁護士・会計士の供給源が著しく狭められてしまって、本来の実効性に問題が生じるのではないか、という弊害であります。(このあたりの運用はまた弁護士会、会計士協会のほうで最終決定されるものと思いますが)
さて、こういった不安を払しょくするために、現在日弁連では「第三者委員ガイドライン」の策定が進んでおります。こちらは東京のコンプライアンス法務で有名な先生方が中心となり、弁護士として委員に就任した場合の職務対応のベストプラクティスが描かれているように聞き及んでおります。我々としては、こういったガイドラインに期待しています。アメリカでは第三者委員会報告の信頼性が高く、現実の司法制度のなかでも、認定事実がそのまま活用されるケースもあるようですが、たとえそこまではいかなくても、ステークホルダーや当局に信頼される委員会運営が実現できるよう、制度運営に努めていきたいと思っております。運営上「守秘義務」が絡むため、今後は本ブログで具体的なお話はできませんが、依頼される企業や企業をとりまく利害関係者のための有用な制度として、活用例が増えるように努めていきたいですね。なお、関西の経済団体さんを通して、企業の皆様方にも、こういった制度が開始されることを広報させていただく予定にしております。「うちの会社は無関係」などとおっしゃらずに、クライシス・マネジメントの一環として、法務ご担当者だけでなく、経営トップの方々にもご関心いただけますよう、お願いいたします。
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