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2010年2月 4日 (木)

金商法上の課徴金と「会社の損害」(ビックカメラ株主代表訴訟へ)

ちょうど1年前の2009年2月2日に「ビックカメラ過年度決算訂正と社外取締役の苦悩」なるエントリーを書きましたが、そのなかでビックカメラ社による長年にわたる不適切な会計処理に関する課徴金処分との関連で、「おそらくビック社は上場廃止にはならないのでは」といった意見を述べておりました。同時に、課徴金処分が課された以上は、ビックカメラの法人に刑事罰が課されることはなく、もし制裁的な意味を必要とするのであれば、それは法人の役員らに対する民事賠償請求に委ねられるのではないか?といった感想も付記しておりました。

ところで朝日新聞だけが報じておりますが、やはりビックカメラ社の一部株主の方が、このたび旧役員9名を被告として、株主代表訴訟を提起することになったようであります。(朝日新聞ニュースはこちら)元会長さんは現在も課徴金処分を争っておられるようですが、法人としてのビックカメラに対する約2億5000万円の課徴金納付命令についてはすでに確定しております。報道によると、この課徴金自体が会社の損害であるとして、利益水増し分に対する過払い課税額20億円と併せて、その賠償を旧役員に求める、という構成のようであります。ちなみに、この旧役員のなかには、監査役さん3名も含まれていると、(噂で)お聞きしておりますので、またまた監査役さんが訴訟で「粉飾見逃し責任」を追及される事件が増えそうであります。すでに裁判になっている三洋電機社の株主代表訴訟につきましても、会計処理に問題があり過年度決算を訂正した事案でありますが、独立委員の方々による報告書では監査役さんの責任もかなり厳しく指摘されておりましたので、最近は監査役さんも「責任の分担」を(当然のこととして)求められる時代になってきたのかもしれません。

さて、ニュースの内容からの感想でありますが、まず課徴金がはたして会社の損害に含まれるのか?といった疑問が生じます。ビックカメラ社による本件報告がなされていた時代の課徴金算定には行政庁に裁量権限が存在しなかったと思いますし、いわゆる不当な利益ははく奪する・・・といった趣旨で課されているものであります。つまり、「会社が不当に得た利益なんだから、返しなさい」ということで納付命令が出ているわけですから、そもそも会社には損害はないのでは?といった疑問であります。これを役員個人に「損害」として会社が請求するとなりますと、それこそ不当な利益分が会社に戻ってくる、という理屈になりそうですね。このあたりから、報道にありますように専門家のなかでは慎重論もある、ということだと思われます。(ただ、以前、大林組の株主代表訴訟が和解で終結した際、和解金の一部は「課徴金による損害」として交付された事実があるようですね)実質的には刑事処分を課す代わりに(早期解決のために)課徴金が賦課される、という実態があるわけですし、また役員の故意・過失を問わずに形式的な法令違反の事実を捉えて法人に課徴金処分を課す、ということですから、課徴金処分がなければ刑事罰を課され、会社の信用もさらに毀損されていた、と考えましたら、少なくとも課徴金相当額を損害とみることもできそうであります。(うーーーん、でもちょっと構成上では苦しいかも・・・)なかなか金商法上の処分として賦課された課徴金相当額を会社の損害とみなすことは、考えてみると難しいもののように思えてきました。

次の問題は「関連当事者の開示」と不動産の流動化の枠組み、つまり「信託受益権の譲渡に関する会計処理」(売却処理すべきか、金融取引として処理すべきか)が不適切であったことについて、旧役員に善管注意義務違反の事実が認められるのか、という点であります。金融庁による調査の後にこそ「不適切であった」と会社自身が答弁しておられるようですが、そもそも信託受益権処理の適否に関しては、ずいぶんと以前のお話になってしまいますので、「関連当事者の開示」が不適切であったことへの善管注意義務違反が中心的な争点になってくるように思われます。(←あくまでもニュースを読んでの推測ですが・・)ところで、昨年4月にビックカメラ社が東証に提出している「改善報告書」によりますと、「連結の範囲認定のために行う子会社の洗い出しの調査方法についての不備から問題が発生した」「連結の範囲内であり、関連当事者の範囲でもある当社役員等が実質的に支配する会社に関するものが調査対象外になっていた」とあります。そもそもビックカメラ社は、平成20年に東証に上場するわけですが、そのときの上場審査において調査は不十分だった、とのこと。しかし平成18年にはすでにJASDAQには上場していたわけですから、すでに連結範囲に関する調査をする体制は当然に整えるべきであった、ということは言えないでしょうか?(このあたりの構成は三洋電機社の調査委員会報告の例を参考にしているだけですので、あくまでも推論ではありますが)ただ、これは内部統制の構築、という視点から(つまり業務執行)でありますので、取締役の善管注意義務に関するものであり、監査役についてはまた別途考慮すべきではないかと思われます。なお、ライブドア一般投資家損害賠償事件では、監査役の「会計処理に誤りがあることへの指摘」に関しては、会計監査人による第一次判断権を根拠に裁判所が(原告の主張を)一蹴しておりますので、ここでも請求原因の立て方はなかなか難しそうな気もいたします。

いずれにしましても、課徴金事案に対する株主代表訴訟は、今後増えそうな予感がしておりますので、他の事案と同様、今後の経過にたいへん興味を抱くところであります。

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コメント

記事の内容は面白いのに、なんと読みにくい文章か!
段落で切る、箇条書きにするなど

読みやすい文章=伝えたいことを多くの人に。

と言う配慮が全くありません。
こういった文章は、公務員、法律関係者に多いように思います。

結局、頭が高いって事かな。

投稿: カワ トオル | 2010年2月11日 (木) 23時45分

カワ トオルさん、はじめまして。

えらいすんません!m(__)m
頭が高い→頭が固い?

できるだけ多くの人にわかりやすく伝えたい、という気持ちはあるのですが。ご指摘のとおり、法律家特有の「どこからツッコミを入れられても言い訳できる」という習性が文章ににじみ出ているのかもしれません。
今後とも精進いたしますので、どうか温かい目で見守っていただければと。。。

投稿: toshi | 2010年2月12日 (金) 02時39分

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