個別株主通知と株式価格決定申立事件における訴訟要件
東証マザーズにかつて上場しておりましたメディアエクスチェンジ社は、昨年フリービット社の友好的TOBを受けて完全子会社化されましたが(ニュースはこちら)、完全子会社化されるにあたり、TOB価格があまりにも低いとして(子会社化に)反対を表明していた一般株主の方々の株式価格決定事件について、東京高裁の判断が分かれているようであります。
「公正な価格」の中身に関する判断が分かれている、というものではなく、「個別株主通知」に基づく対抗要件をいつまでに具備しておく必要があるか、という点で、東京高裁第○民事部では、裁判所へ価格決定申立を行う時点まで(つまり株主総会の20日後まで)に具備することが必要との決定を出し、別の東京高裁第○民事部では、かならずしも申立事件までに対抗要件を具備する必要はなくて、審理終了時点までに追完されれば足りる(破棄差し戻し)、との判断を行ったようであります。(決定は2010年2月15日ころですね)これは全部取得条項付き種類株式を会社が取得する際の価格決定(会社法172条1項)に関するものでありまして、たとえば企業再編に反対する株主の買取請求権行使などとは別に検討しなければならないものですが、現在でもMBO場面などでも少数株主を実質的に締め出すことを目的として活用されることが多いスキームですので、個人株主の方々にとりましては、結構重要な問題かと思われます。(弁護士が支援するような場合でしたら、あまり想定されませんけど、個人で価格決定申立を行いたいと考えておられるケースでは手続きを失念していた、という場面も想起されるところであります。このあたりはどこまでの一般株主の方々が救済されるのか、という点にも影響するでしょうね)
たしかに法172条による価格決定申立自体を「少数株主権行使の一態様」と考えるならば、個別株主通知は単なる対抗要件ではなく、訴訟のための立証要件でもある、として株主総会後20日以内に通知手続きを済ませて置かなければ申立は却下される、との結論が導かれそうであります。しかし、株券電子化に関する立案担当者の方々のご意見は、訴訟要件を満たすために個別株主通知をする必要はない、とされておりますし(「株券電子化開始後の解釈上の諸問題」商事法務1873号53頁)、組織再編時における株式買取請求権を行使するべき期間についての取り扱いが平成17年改正会社法の前後において変更されたことを前提として、全部取得条項付き種類株式の会社による取得の場合とを比較しましても、私は審理終了時までに対抗要件を具備すれば足りる(つまり、反対株主を広く救済できる方向)と考えるのでありますが、いかがなものでしょうか。要するに、社債株式振替法と会社法を厳格に解釈しなければならないほどの会社側の弊害が、個別株主通知の追完を認めてしまうと発生してしまうような事情があるかどうか、というところがポイントかと。そういった弊害がなければ、実質的にみても個別株主通知を申立要件とまでみる必要性はないと思うのですが。会社の組織改編にあたり、少数株主保護のために認められた権利ということでは同じでも、形成権たる株式買取請求権とは少し法的性格が異なる全部取得条項付き種類株式の会社取得の場面をどのように取り扱うべきか、思い悩むところであります。
いずれにしましても、メディアエクスチェンジの事例につきましては、形式的な訴訟要件(非訟事件なので申立要件?)の問題だけでなく、公正な価格を判断するにあたっても、なかなか興味ある内容が含まれておりますので、今後の裁判の展開が注目されるところです。
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コメント
価格決定自体の申立権を争うとすれば、会社側がやってる事は強盗と変わらない気がします。
どれほどプレミアムを付けても高いところで買った株主からは不満が出るものですが、メディアエクスチェンジの場合は純資産から見ても安すぎるわけですので、不満を持つ株主は多いでしょう。
株主は常識のある一般人だけでなく、怪しげな反社会的団体に所属する人たちもいるわけで、強引過ぎるやり方で大きなトラブルが起きないか心配です。争いの火種を作っているのは会社であるわけですし。
投稿: ターナー | 2010年2月24日 (水) 10時13分
この件について興味のある方はこちらをどうぞ。
ちなみに、2月9日、第十四民事部です。
http://blog.livedoor.jp/advantagehigai/archives/65410368.html
投稿: 山口三尊。 | 2010年2月24日 (水) 14時42分
サンスター社のMBO関連事件に関するリリース、読みました。
ちょっとなぁ・・・とツッコミ入れたくなる内容ですが。
投稿: toshi | 2010年2月26日 (金) 02時08分
金融商事判例の1337号に、本件の決定3件が掲載されています。
そのうち3番目に紹介された案件では、会社に対して、「信義則違反」「権利濫用」と認定されています。この認定さえ珍しいのですが、
その手前でも、「……株式市場はその信用を失い、我が国の経済の維持、発展という公共の福祉を害する結果をもたらす……」「…相手方の態度は、株式市場において相手方株式を購入し、一般株主として相手方を支えてくれたものに対する真偽に反するものである。」とかなり強い調子で会社が批判されています。
裁判所がココまで厳しいトーンで決定書に書くには、何か理由があるのかもしれません。ご一読を。
投稿: Kazu | 2010年3月15日 (月) 21時27分
kazuさん、こんばんは。
さっそく1337号読みました。
この第3判決、ちょっとスゴイです(^^;;
背信的悪意者論ですね。
株券電子化会社が登場したがゆえに
こういった新たな利益衡量の姿もあるのですね。
これは別エントリーで書く必要がありそうです(笑)
投稿: toshi | 2010年3月16日 (火) 01時09分
高裁で申立権自体を否定し決定で却下(棄却決定?)する場合は、非訟事件で裁判所が行いうる判断の限界を超えているといいますか、そもそも決定という簡易な手続で判断してよいものなのでしょうか?
地裁の却下決定は、非訟事件の手続として却下もアリなのですが、抗告審は、申立権の存否自体を争うわけですから、非訟事件の手続の延長で安易に決定によって判断するようなことはマズイと思うのです。却下された非訟事件の抗告審は、本当に非訟事件なのでしょうか?この点、非訟事件の抗告審もまた非訟事件である旨の最高裁判例がありますが、申立権自体が否定された場合の抗告審は非訟事件では無いような気がしています。
まぁ、抗告許可で最高裁に上げてくれるなら問題はそれほど生じないのですが、判例が存在しないケースは、高裁でストップしてきますからね。
投稿: ターナー | 2010年3月17日 (水) 19時12分
ターナーさん、なかなかスルドイご指摘だと思います。
民事訴訟、非訟に関する区別についての基礎知識がないとわかりづらい問題ですね。
申立権の存否に関する判断と価格形成に関する判断とを裁判所は審理するわけですが、価格形成は裁量の問題、申立権の存否はどうなんでしょう。
単純に申立要件の問題と考えるのか、それとも実際上の権利の存否に関する問題と捉えるのか。
いずれにしても、非訟事件と訴訟事件の区別はかなり裁判所法における政策的な振り分けが行われているので、非訟手続のなかで当事者の主張がある程度述べられる機会が保障されていればおっけーというところなんでしょうね。
もう少し明快なお答えを頂戴できる方がいらっしゃいましたら、どうぞお願いします。
投稿: toshi | 2010年3月18日 (木) 13時04分