役員報酬の個別開示(金商法・内閣府令改正)と会社法の役割
(12日午後6時;追記あります)
毎年この時期になりますと、6月総会準備に向けたマニュアル本が次々と出版され、また企業法務に精通された法律家の方々によるセミナーが多数開催されるわけでありますが、今年は証券取引所のルール改正だけでなく、まだこれから金商法上の政省令の改正がある・・・ということで、ちょっと総会ご担当者の方もたいへんですよね。たとえばニュースにもありましたが、金融商品取引法関連の内閣府令の改正が近々予定されていて、いちおう3月決算会社から施行される・・・ということらしいので、有価証券報告書の早期提出も考えますと事業報告関連のネタと同時に6月総会にも影響が出てきそうであります。
本日(2月11日)、株式持合いや議決権行使結果(発行会社による)の開示と併せて、役員報酬の個別開示が義務付けられる、といったニュースが報じられております。そういえば昨年5月23日にリリースされておりました野村証券金融経済研究所の個人株主1000名アンケートの結果によりますと、ネットで議決権を行使すると回答した方々の4割が「役員報酬の決定」いついては反対の議決権を行使する・・・とのことですので、個別開示は開示規制における趨勢になりつつあるのかもしれません。もちろん使用人兼務取締役の場合の「使用人」部分の給与については開示の対象にはならないものと思いますが、それでもおおよその役員報酬は個別に明らかになりそうですね。「誰がいくら」という、平面的な関心よりも、むしろ複数年を比較して、各役員の個別報酬がどのように変化しているか、ということに興味が湧くところであります。バランスが悪い場合には、個別報酬額を一任されている取締役会や代表取締役の説明を求めるシーンなども想定されてくるのでしょうね。
ところで上場会社の場合、(経済団体からの反対が強く、まだ制度の詳細については流動的、ということだそうでありますが)役員報酬の個別開示が義務付けられ、また役員選任に関する議決権行使結果が開示される、ということになりますと、先のアンケート結果からみましても、総会の時点で、つまり事業報告の時点で役員報酬の個別開示を求めたくなりますよね。(可決選任されることは明白であったとしても、報酬額に不満を持つ株主の否決票が集まることで「抗議をしたい」という強いインセンティブが働くのではないでしょうか。実務的には役員選任議案は一括上程されますが、役員報酬の個別開示制度と議決権行使状況の開示制度が導入されるとなりますと、各候補者別の議決権行使を求める株主のご意見も無視できないようにも思われます。)しかし会社法上の事業報告では役員報酬の個別開示までは義務付けられていませんので、原則として取締役会もしくは代表者が個別報酬について説明義務を負うものではありません。有価証券報告書を早期に任意提出される会社であればとくに問題はないでしょうが、そうでない会社の場合、株主総会で個別開示を求められるケースにはどのように対応されるのか、とても興味の湧くところであります。(とくにインサイダー情報ではありませんから、株主の要望に応じて任意に説明することもできそうな気もしますが・・・)このあたりにも会社法と金商法の狭間の問題が存在するのでしょうか。ほとんど思いつきの疑問ですので、どっかで基本的な誤りがございましたら指摘していただけますと幸いです。
(追記)金融庁HPにて、改正開示府令案が公開されております。意見は3月15日まで、ということだそうです。
| 固定リンク
コメント
役員報酬の個別開示ですが、実は、その前段階として、連結ベースでの役員報酬開示が不可欠かと思います。
最近上場した上場会社であれば、親会社役員が子会社から役員報酬を受領することは上場時に証券取引所から指導されて禁止され、役員報酬は全て親会社から受領、子会社兼任の場合は親子会社間の出向調整金等で処理をする、ということになっています。
しかし、古い上場会社で上記の対応を行っていない場合、結局親子会社兼任、親会社役員報酬を抑えて子会社役員報酬を多額に受領すれば、簡単に潜脱できます。特に、純粋持株会社の場合は親子会社役員の兼任が普通ですから、不自然ではないでしょう。
会社法も金商法も連結ベースの開示なのに、役員報酬の開示が単体ベースであり連結ベースではないのは、とても不自然に思えます。
投稿: Kazu | 2010年2月12日 (金) 10時43分
>役員報酬の個別開示制度と議決権行使状況の開示制度が導入されるとなりますと、各候補者別の議決権行使を求める株主のご意見も無視できないようにも思われます。
先生が以前書かれていた「OB株主」さん辺りが、「A専務はOKだが、B常務なんてそんな能力はないはずだ。俺はBの上司を10年やったんだ。だからB常務は高すぎる」とかそういった議論が総会でなされるのか? なんて連想してしまいました。
金融庁の趣旨と現場の議論のギャップが不謹慎ですが、苦笑してしまいそうでした。
投稿: katsu | 2010年2月12日 (金) 14時02分
神田先生の教科書を読みますと,「取締役は株主総会が選任するわけであるから報酬も選任のいわば条件として総会が決定すると考えるべき」とあります(11版だと211頁)。
取締役の選任は個人別になされますから,その選任条件である報酬も個別に決定していくべきではないでしょうか。で,開示も当然に個別になされると。
投稿: とーりすがり | 2010年2月12日 (金) 21時06分
制度の詳細については流動的でしょうが、金融庁の案には
「役員(報酬等の額が1億円以上である者に限ることができる。)ごとの報酬等」
と1億円未満の場合は対象にしなくてよいことになっており、経済団体からの反対はあるでしょうが、一般投資家や庶民からすれば、この方向を支持すると思います。もしかしたら、従業員が一番支持したりして。
現実には、ストックオプションが入るとは言え、一人で1億円以上の報酬を受領している役員は、少ないと私は思うのですが。
投稿: ある経営コンサルタント | 2010年2月12日 (金) 21時29分
皆様、コメントありがとうございます。
斜め読みしかしておりませんが、連結の点については府令のなかでフォローされているようですね>KAZUさん
とーりすがりさんがご指摘の点については神田先生のほかにも、いくつか説があるようですね(倉沢先生や弥永先生の見解等)証券取引所ルール(要望事項でしたっけ?)では、(議決権行使結果の開示について)かならずしも役員選任は個別議案として上程しなければならないとはされておりませんでしたので、どうなるかと思っておりましたが、内閣府令では個別議案として上程することが前提になっているようですね。
投稿: toshi | 2010年2月13日 (土) 00時33分
府令案を読みましたが、1億円の算定の際に主要な連結子会社の報酬が含まれることは解りましたが、役職毎の開示については、明記されていないので、一貫していないような気がします。
金商法関連政省令の改正なのに、株主総会対応が大変になるなんて、会社法と金商法の相互の影響が強く出てしまう改正ですね。6月に向けて大変そうです。
投稿: Kazu | 2010年2月13日 (土) 16時53分
私も府令案を読みました。「役員報酬の決定方針の内容」は定性的な上、記載に気を使う点ではないでしょうか。「業績等を総合的に勘案し…」では、足りないのでしょうね。これから「方針」を決める会社もあるのではないでしょうか。金融庁も痛いところ突きますね。もう少し早く公表して戴ければ、ありがたいです。
投稿: はん | 2010年2月14日 (日) 22時25分
Kazuさん、はんさん、コメントありがとうございました。
ご指摘のとおり中途半端な点はありますが、これまでになかった開示制度なので、スタートとしてはこの程度なのかもしれませんね。おそらくまた見直しもあると思います。(ちなみに、新聞報道では、とりあえず経済団体はとくに反対していないようですね)
総会関連では、証券取引所ルールが変わり、そのうえ府令も改正ということで、かなり気を遣う部分が多いと思っております。
投稿: toshi | 2010年2月17日 (水) 01時39分
いつも楽しく拝見しております。
Kazuさんのご指摘は仰るとおりで、1億円以上の対象者のみ「連結ベース」で開示が求められるのは一貫性を欠くような気がしております。一方で、監査役(会)設置会社の場合、取締役・監査役の総額報酬上限(いわゆる報酬枠)は単体ベースの定款または株主総会決議で定められていますので、「連結ベース」での開示は報酬枠との整合性を整理しないと却って混乱を招く可能性があると思料しています。
そもそも、報酬枠があるのに個別開示が必要かという議論はあってしかるべきで(米国等は株主による執行役員-Officer-の報酬の監視がないかわりに<"Say on Pay"が導入されても拘束力はないですし>)、報酬額の透明性が求められているという考え方もできますし、ここは単に「開示すればよい」というのは少し違うのではないかと、えーと、愚考しております。
個人的な感覚値ですが、総額報酬が1億円を超えるのは概ね200名~250名くらいではないかと思っています。
金融庁に問い合わせをしたら、上記の「連結ベース」の開示と報酬枠の記載との整合性などまだじゅうぶんに煮詰まっていない印象を受けました。「ぜひパブコメをお願いします」ということでしたので、ちょっと出してみようかななんて考えております。ちなみに、若い方でしたが対応はよかったです。
投稿: kazemachiroman | 2010年2月21日 (日) 19時08分
なるほど、ご教示ありがとうございます。問題点についてはナットクいたしました。>kazemachiromanさん
おそらく同様のご疑問をお持ちの方も多いと思いますし、ぜひパブコメをお願いします。私も金融庁の回答が知りたいです。
しかし200名から250名って、上場会社のなかでも、そんなにいらっしゃるのですか?最近、元○○○の営業マン出身の社長さんが「循環取引御殿」を建てておられる・・・という話をうかがって、顔が引きつりましたが、やはりIT関連なのかなぁ?
投稿: toshi | 2010年2月25日 (木) 01時09分
こんばんは。
>ぜひパブコメをお願いします
ばたばたしておりますが、3月15日までですので何とか出そうと考えております。
>しかし200名から250名って、上場会社のなかでも、そんなにいらっしゃるのですか?
具体例を出すのはどうかと思うんですが、例えば三菱商事の事業報告を見ますと(P23)、社外取締役を除く取締役17名、そのうち7名が6月末退任(3か月分)と考えると、実質11.75名で1,551百万円が支給されている、という風に読み取れます。とすれば単純平均で132百万円、フルタイムの10名のうち(役位格差があるとしても)数名が100百万円を超えている、ということになります。
三菱商事「報告書」(09/3期)http://twurl.nl/86ngal
(PDF)
※風街調査では、大手商社は各社2名~5名程度が100百万円を超えていると考えられるので、6社で20名弱となります。
まあ商社は極端な例ですが、オーナー系の中堅企業(特に一族が役員にいるような企業)は報酬水準が高くなっていますし、製薬業界や産業機械なんかも高くなっていますね(特にグローバル企業)。また、連結営業利益の0.2%を賞与ファンドとしている(利益連動給与:上限600百万円)任天堂も数名(専務レベル)が100百万円を超えてくると予想されますし、そういった企業を積み上げていけば、200名という数字はそれなりの現実感があるかと思います。
投稿: kazemachiroman | 2010年2月25日 (木) 02時16分
再度のコメントありがとうございます。
亀井大臣を含め、ずいぶんと話題になっていますね。
商社のお話をお聞きして思ったのですが、役員クラスだとヘッドハンティングで高額報酬をもって招へいするケースもあると思いますが、そんな場合にも影響が出るのではないかな、と思いました。「彼はこの程度の報酬で会社を変えたのか?」などと、あんまり言われたくない気もします。
投稿: toshi | 2010年2月27日 (土) 15時30分