闘うコンプライアンス(しまむらVS加茂市)-その2
昨年12月に闘うコンプライアンス(しまむらVS加茂市)その1でとりあげました話題の続編であります。本件は、あれから読売や朝日でも話題としてニュースになりましたし、本日も毎日新聞ニュースでとりあげられております。(事件の概要はその1または毎日新聞ニュースをご覧ください。なお簡単に申し上げますと、
地元商店街の保護を図るため、しまむら加茂店の売り場面積拡張に「待った」をかけようと、2009年7月、加茂市が臨時議会で条例を改正した。条例違反には行政刑罰が規定されていた。(加茂都市計画地区計画による建築物の制限に関する条例の制定 7.17 原案どおり可決された)、すでにしまむら社は新潟県から拡張に関する許可を得ていたことから、そのまま加茂市の制止を振り切って面積拡張に踏み切ったというもの。これに対して加茂市はしまむら社を刑事告発。2009年に入ってからしまむら社と加茂市とは交渉を繰り返してきたようですので、この7月改正はまさに「しまむら対策」として制定された可能性は高いようである。
これまでの主要なニュースには目を通しているつもりでありますが、いまのところはこう着状態のようで、新潟県加茂市の刑事告発を受理した地元警察もしくは検察庁が動き出した・・・という様子はみられないようであります。
前回のエントリーを読まれた方の印象では、私がしまむら社のほうを応援しているように思われたようですが、私としては、とくにどちらかを応援しているつもりはございません。加茂市側は、地方自治体として住民の生活を守るために、企業の財産権を制限してでも積極的に権力行使に出たのであり、「なかなか大胆やなぁ」と感心しております。いっぽう、しまむら社につきましては、(たとえ刑事処分の内容が、わずか罰金50万円だとしましても)上場企業のコンプライアンス経営として、罪を犯しながらも、そのまま営業を続けていいのだろうか?という「罰金どころでは済まされない企業の社会的責任」問題に直面するわけでして、譲ることのできない「企業風土」に関わる問題に直面するわけであります。同社の今後の反応を含め、事の成り行きを見守りたいところであります。もし、ここでしまむら社が黙って刑事処分に甘んじてしまえば、今回の加茂市の手法はおそらく(他の地方自治体による称賛のもとで)全国の自治体のモデルになりそうな予感がいたします。
朝日や読売の報道では、主に条例による「上乗せ規制」の是非が、(行政法に詳しい大学の先生方のコメントとともに)掲載されていたように記憶しておりますが、私的には今回の毎日新聞ニュースの報道内容が一番しっくりきました。たしかに条例自体の違憲性(違法性)を真正面から議論するのであれば、果たして県条例と同一目的で制定された市の条例が、県条例以上に厳しい規制を私人に課すことが許されるのか?という点を問題にするべきかもしれません。しかし、私は今回の加茂市の条例の問題は「狙い撃ち条例」「後だしジャンケン的条例」の点だと思います。狙い撃ちかどうか、後だしジャンケンかどうかは、立法事実に関わるものであり、どこかで線を引かねばならないような実質的な判断が必要だと思いますが、今回の加茂市としまむら社との事前交渉の経過や、しまむら社が県の条例について適正な手続きを経てきた事情など、報道されている内容からみますと、やはり加茂市としては、しまむらの営業権だけを制限する目的で、今回の条例制定に至ったものと認識できそうであります。
私もあまり行政法に詳しくはありませんが、加茂市としましてはいきなり刑事罰とせずに、その前に行政行為を介在させる、という手法は無理だったのでしょうか?刑事告発をするくらいですから、条例制定から実際の工事までは時間的な余裕があったと思われます。そうであるならば、工事続行禁止命令のような行政命令を先行させる、という方法はとれなかったのでしょうか。(手法としては緩やかでも、むしろ行政行為のほうが会社に対するダメージが大きいと判断されたのでしょうか?それとも行政手続法によるプロセスを経るだけの時間的余裕がなかったのでしょうかね?)たしか条例制定に刑事罰を設ける場合には、地元の地方検察庁との協議が必要ですが、その際には立法事実も含めて検討されるでしょうから、県や検察も「この条例は憲法違反ではない」と考えて制定されたものだと思うのでありますが「問題なし」と判断されたのでしょうか?
先の毎日新聞ニュースでは、地元の声も賛否両論とありますが、個人的な意見としましては、かなり問題を含んだ条例ではないか・・・と考えております。もちろん行政刑罰を必要とする場面もあるかとは思いますが、①本件では本当に刑罰をもってしなければ行政目的を実現できないと言えるのか(ほかに選択できる緩やかな手段はなかったのか)、②刑罰をもってしてまでも行政目的を実現すべきものだったのか、③しまむら社だけを「狙い撃ち」にするという実質に鑑みれば、刑罰の遡及的活用となり罪刑法定主義に反することはないのか、という点でどうも疑問がありそうな気がいたします。条例の「制定」における上乗せ規制的な手法自体は合憲と考えて、ただ今回のしまむら社への「適用」自体を問題とする・・・というあたりがバランス的にもよろしいのではないか、と思うのですが、ちょっと安易でしょうか?(行政法に詳しい方がいらっしゃいましたら、ご教示いただければ幸いです。)
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コメント
ずいぶん昔に習った大学の講義程度の知識しかありませんが
新聞記事等で挙がっている上乗せ規制問題のほかにも多々瑕疵があるのではないかと推察します。
同市には例規集が存在せず、内容をチェックすることもできません。
人目に触れることにより慎重さが担保されるものですが、そういう土壌が存在しないのです。検察等がどのように関与したかは知りませんが、法的問題を精査したうえで作られたのだろうと見るのは若干買いかぶり過ぎではないでしょうか。
なにより、条例制定の目的があやしいと思うのです(立法事実が乏しい)。
こんなことを言ったらまたおこられるかもしれませんが、しまむらさんの店舗は大した規模ではありません。南紀白浜に旅行した際、ちらほらみかけて立ち寄りましたが、そこらのスーパーと規模は変わりません。グーグルマップで見てもやはり現物の規模は大したものではありません。また、取り扱う商品はアパレル中心で雑貨が少し有る程度です。
立地の面では、加茂市街地から少し離れた郊外に位置し、田園地帯との際に存在しています。田園を超えた先には比較的大きな三条市、燕市があり、車でそう遠くない距離ですから、そちら方面からの来客も見込めます(方や、地元商店にはそこまでの集客力はないでしょう)。
ならば、必ずしも地元の商店と客を奪い合う関係にあるとは言えません。
一部の客が動くことは当然で、商店側も努力すればよいだけのことです。
現に公費を使った商店街近代化をやっておられるのですから。
toshi先生は「住民の生活」を対置されますが、この件は地元商店街の保護、すなわち経済vs経済の問題です。この場合、一方を保護し他方を制約する大義名分が必要でしょう。
たとえば、総合ショッピングモールであれば、商品面、立地面、客層面いずれからも、地元商店の客を奪う可能性が高いといえるでしょう。
しかし、しまむらのケースでは難しいと思います。
加茂市側の論理は、「規制しなければ大店舗が乱立し需給バランスが崩れ、商店街が敗北する」という盲信を前提としています。しかし、潜在需要が乏しい加茂市に大店舗が乱立するはずもなく、公費による商店支援がせいぜいの均衡点ではないかと思います。
さらに「狙い撃ち」「あとだし」「比例原則違反」「上乗せ問題」があるのですから、商工会と議会が結託ししまむらを狙い撃ちしたものだという疑念を払拭し、条例に瑕疵はないという結末にもっていくのは至難だと思います。
適用違憲という落としどころは卓見だと思います。そうなるとしたら、警察が動かない限り問題は生じないということになりますでしょうか。
加茂市は、原状回復しないならば民事訴訟も辞さない姿勢のようですが、本件で民事訴訟を観念できるのかも疑問です。
投稿: JFK | 2010年2月25日 (木) 00時14分
ブログ開設5周年おめでとうございます。
さて、しまむらと加茂市の件ですが、詳しい事情を知りませんが、
toshi先生や、JFKさんのおっしゃることに説得力はあります。
しかし、都市部に住んでいる方はわからないかもしれせんが、
地方経済の落ち込みは大変厳しい状況です。
地方活性化のため、どうすれば地方住民の生活がよくなるのかの観点で
判断すべきかと思え、その場合に、経済的自由の規制も、時として
認められるべきようにも思えます。
財産権といえども公共の福祉?による制限もありえるとも思えます。
(加茂市は行政の透明度が低いという話もありますし、このケースに
該当してよいかは、私としては単純に判断できませんが。)
また、「実業界3月号」によると、
「新潟県の審査会で、「なお、地元と協議されたい」との付帯意見が付されていた。」
「関係者によると、しまむら加茂店の売り場面積はもとから千百二十六・四平方メートルあったという。ところが、この面積では大店法の規制に抵触するので、パーテーションで仕切るという小細工をして、一千平方メートルを超えないギリギリの売り場面積を確保していた。これには、地元の不信感も少なくないようだ。」
と記されいます。
これが事実かどうかわかりませんが、実際の判断も難しいように思えます。
投稿: YAMAYA | 2010年3月 8日 (月) 20時15分
yamayaさん、どうもありがとうございます。また、本件に関する情報もありがとうございました。
とりあえず「実業界」3月号、読んでみたいですね。具体的な事情については、もうすこし一般のマスコミ報道の取材内容とかも知りたいです。
投稿: toshi | 2010年3月10日 (水) 02時39分
建物を設計するときは柔軟性を持たせます。
将来店舗を分割する事を考えて広めに作ったんでしょう。
それの何が問題なのか理解できないのですが?
条例が変わるたびに立て直せ、とでも言うのでしょうか?
今回の件で加茂市は有名になりました。もちろん悪い意味で。
なにしろ常識はずれの刑事訴訟ですから。
地域の活性化を阻害しているのは『役人』そのものではないでしょうか。
投稿: onihei | 2010年3月28日 (日) 13時00分
oniheiさん、こんにちは。
あれから時々、グーグルニュースをチェックしているのですが、しまむらVS加茂市の続編ニュースは出ておりませんね。とても関心があるのですが。
また、なにか新しい情報がございましたらよろしくお願いいたします。
投稿: toshi | 2010年3月29日 (月) 11時46分
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110117-OYT1T00014.htm?from=main6
今更という感じですが読売新聞のサイトにこの件に関する新たな
ニュースが出てました。
条例自体に瑕疵があり、後だし的、狙い撃ち等の今回の件で重要だと
思われていた争点とはあまり関係ないのところの問題で立件は困難だと
県警が判断したみたいです。市側の対応が注目ですね。
投稿: Lex | 2011年1月17日 (月) 09時11分
結果が出ましたね。
条例自体に矛盾があるとの結論みたいです。
そりゃそうだ。
議会の実力者が洋品店のオーナーでない事を信じたいですが…
投稿: kane | 2011年1月17日 (月) 09時39分
結果的に・・・
大型店舗に来てほしくない加茂市としては、目的がかなったのでは。
こんな理不尽な条例を作ってしまう市に進出するのは危険が伴いますからね。
その一方で市民の利便性は損なわれたでしょうから、誰のための政治をしているのやら。
投稿: 地方公務員 | 2011年1月17日 (月) 12時53分
>しまむら社だけを「狙い撃ち」にするという実質に鑑みれば、刑罰の遡及的活用となり罪刑法定主義に反することはないのか
①・②、特に③については、小生が別記事で指摘した昭53.6.16最判(余目町トルコ風呂)での判旨のとおりと思料されますので引用します。
なお判示とするところは、風俗営業に反対する周辺住民を無視した形で業者が営業を始めたため、後から公園を作りこの公園の存在を根拠に風営法で逮捕した、という事例です。最高裁は行政の裁量権の行使を逸脱したものと認定しました。
http://www.hiraoka.rose.ne.jp/C/780616S2.htm
投稿: もこ | 2011年1月18日 (火) 19時45分
ご指摘ありがとうございます。
まだ調べておりませんが、この余目町事件最高裁判決につきまして、次回エントリーの際に参考にさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
投稿: toshi | 2011年1月18日 (火) 23時16分