第一生命「不払い隠し」問題と消費者目線による内部告発の取扱い
4月1日にIPOを果たす第一生命さんは、6月下旬の第1回株主総会を幕張メッセで開催されるそうであります。2万人の株主が出席するといわれる株主総会が華々しく開催される予定・・・というこの時期に、あまりにもタイミング悪く(良く?)朝日新聞の日曜日朝刊1面に「第一生命 不払い隠し 2万件超 金融庁に内部告発」との記事が掲載されました。(朝日の記事に追随して、ブルームバーグも掲載されているようです)
「大量の保険金不払いを幹部が隠している」との複数の職員による内部告発が第一生命社内および金融庁になされている、とのこと。内部告発者には保険法に詳しい弁護士の方も代理人として就任されておられるようです。2万件以上、金額ベースでは数十億円分ということで、金融庁も現在調査中と報じられております。金融庁からの調査依頼に基づいて調査を行った際に「隠していた」とのことですから、告発事実が本当であるならばかなり問題かもしれません。
ところで、第一生命さんの件をどうこう申し上げるつもりはございませんが、こういった内部告発が新聞で報じられることは、これまで以上に事業者にとりましてはリーガルリスクのレベルが相当に上がるものと認識しております。ご承知のとおり、昨年9月1日に消費者関連3法が施行され、公益通報者保護法は消費者庁に移管されました。また、たとえば保険商品の説明義務が論じられる金融商品販売法も、金融庁と消費者庁の共管となりました。つまりこれまでは内部告発がなされたとしても、それは金融庁と生命保険会社の間における監督関係のなかで論じられるものでありまして、おそらく金融庁に集約された情報と調査結果によって処分を行えば、その金融庁の処分に不満があっても文句はいえなかったのではないかと思われます。
しかし、消費者安全法上の「消費者事故」(たとえば生命、身体の安全に関わる商品以外で、財産取引に関わるもののうち、「正当な理由なき債務の履行拒否、遅延」が問題となる商品であれば、消費者安全法施行令第3条による第三類型に該当する消費者事故に該当します)に該当する商品の事故が発生した場合には、おそらく消費者庁が商品事故情報を一元的に集約し、かつ分析することになります。したがいまして、こういった保険商品の説明義務違反が問題となるような事例につきましても、金融庁だけでなく消費者庁への情報提供も可能になってくるのではないでしょうか。たとえばトヨタの大規模リコール問題につきましても、本来は国交省の主管ではありますが、早々と消費者庁は国交省と連携して情報集約にあたることを公表しております。
平成20年1月末のマクドナルド事件東京地裁判決が報道されて以来、全国の企業で「名ばかり管理職」に関する内部告発が相次ぎました。新聞報道が内部告発を誘因する典型例でありましたが、たとえばこのたびの第一生命さんのように、大きな会社であれば、全国の職員の方々がこういった内部告発の事実を知るところとなり、しかも監督官庁以外の官庁が情報を集約、分析する可能性があるわけです。これからも消費者庁サイドに全国から告発が集まる・・・という事態になりますと、結構たいへんな状況になってしまうのではないかと。そもそも縦割り行政の弊害を除去するために消費者庁による情報集約機能があるわけですから、金融庁の対応もずいぶんとこれまでとは変わってくるのではないでしょうか。本件が単発の報道で収束に向かうのか、それとも株主総会で話題になるような事態になってしまうのかは、今回の報道に追随する内部告発の有無によって左右されるのではないかと推測いたします。
内部告発といえば、企業の法令遵守と労働者の保護が中心課題であります。しかしながら、今後は消費者行政のための重要情報源のひとつ、という位置づけが確立し、その自由な情報伝達が有為的に阻害されるようなことには、おそらく社会的には大きな批難が集中することになろうかと思われます。いよいよ公益通報者保護法の見直しも1年後に迫ってきましたが、内部告発への対応について、今後真剣に企業が向き合うべき時期が到来しているものと認識しております。
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