« 2010年2月 | トップページ | 2010年4月 »

2010年3月29日 (月)

第一生命「不払い隠し」問題と消費者目線による内部告発の取扱い

4月1日にIPOを果たす第一生命さんは、6月下旬の第1回株主総会を幕張メッセで開催されるそうであります。2万人の株主が出席するといわれる株主総会が華々しく開催される予定・・・というこの時期に、あまりにもタイミング悪く(良く?)朝日新聞の日曜日朝刊1面に「第一生命 不払い隠し 2万件超 金融庁に内部告発」との記事が掲載されました。(朝日の記事に追随して、ブルームバーグも掲載されているようです)

「大量の保険金不払いを幹部が隠している」との複数の職員による内部告発が第一生命社内および金融庁になされている、とのこと。内部告発者には保険法に詳しい弁護士の方も代理人として就任されておられるようです。2万件以上、金額ベースでは数十億円分ということで、金融庁も現在調査中と報じられております。金融庁からの調査依頼に基づいて調査を行った際に「隠していた」とのことですから、告発事実が本当であるならばかなり問題かもしれません。

ところで、第一生命さんの件をどうこう申し上げるつもりはございませんが、こういった内部告発が新聞で報じられることは、これまで以上に事業者にとりましてはリーガルリスクのレベルが相当に上がるものと認識しております。ご承知のとおり、昨年9月1日に消費者関連3法が施行され、公益通報者保護法は消費者庁に移管されました。また、たとえば保険商品の説明義務が論じられる金融商品販売法も、金融庁と消費者庁の共管となりました。つまりこれまでは内部告発がなされたとしても、それは金融庁と生命保険会社の間における監督関係のなかで論じられるものでありまして、おそらく金融庁に集約された情報と調査結果によって処分を行えば、その金融庁の処分に不満があっても文句はいえなかったのではないかと思われます。

しかし、消費者安全法上の「消費者事故」(たとえば生命、身体の安全に関わる商品以外で、財産取引に関わるもののうち、「正当な理由なき債務の履行拒否、遅延」が問題となる商品であれば、消費者安全法施行令第3条による第三類型に該当する消費者事故に該当します)に該当する商品の事故が発生した場合には、おそらく消費者庁が商品事故情報を一元的に集約し、かつ分析することになります。したがいまして、こういった保険商品の説明義務違反が問題となるような事例につきましても、金融庁だけでなく消費者庁への情報提供も可能になってくるのではないでしょうか。たとえばトヨタの大規模リコール問題につきましても、本来は国交省の主管ではありますが、早々と消費者庁は国交省と連携して情報集約にあたることを公表しております。

平成20年1月末のマクドナルド事件東京地裁判決が報道されて以来、全国の企業で「名ばかり管理職」に関する内部告発が相次ぎました。新聞報道が内部告発を誘因する典型例でありましたが、たとえばこのたびの第一生命さんのように、大きな会社であれば、全国の職員の方々がこういった内部告発の事実を知るところとなり、しかも監督官庁以外の官庁が情報を集約、分析する可能性があるわけです。これからも消費者庁サイドに全国から告発が集まる・・・という事態になりますと、結構たいへんな状況になってしまうのではないかと。そもそも縦割り行政の弊害を除去するために消費者庁による情報集約機能があるわけですから、金融庁の対応もずいぶんとこれまでとは変わってくるのではないでしょうか。本件が単発の報道で収束に向かうのか、それとも株主総会で話題になるような事態になってしまうのかは、今回の報道に追随する内部告発の有無によって左右されるのではないかと推測いたします。

内部告発といえば、企業の法令遵守と労働者の保護が中心課題であります。しかしながら、今後は消費者行政のための重要情報源のひとつ、という位置づけが確立し、その自由な情報伝達が有為的に阻害されるようなことには、おそらく社会的には大きな批難が集中することになろうかと思われます。いよいよ公益通報者保護法の見直しも1年後に迫ってきましたが、内部告発への対応について、今後真剣に企業が向き合うべき時期が到来しているものと認識しております。

| | コメント (6) | トラックバック (0)

2010年3月26日 (金)

証券市場の健全性確保と弁護士の役割

表記のセミナーが本日(3月25日)大阪弁護士会にて開催されました。(大阪弁護士会と大阪証券取引所の共催事業)1時半から4時半までの長丁場の講演でしたが、幸い120名ほどの会員、関係者の方々が聴講され、なんとか無事終了いたしました。

会員弁護士(証券取引所に出向経験のある方)、大証上席上場管理役の方の講演につきましては、すでに数回の打ち合わせを重ね、この日を迎えておりましたので、講演内容はおそらく我々会員弁護士にとって有益なものだったと考えております。

そして私も含め、聴講者一同が楽しみにしていたのが佐々木清隆氏(金融庁・証券取引等監視委員会総務課長)の講演であります。SESCのWEBサイトを見ましても、まぁいろいろなところでご講演をされておられるので、講演内容につきましても(たいへん失礼ながら)他のところでお話いただいている内容でも十分に盛り上がるのでは?と(講演主催者側としては)考えておりました。

いや、でもホンマにおもしろかったです。。。

といいますか、おそらくこの方はサービス精神が旺盛なのではないかと。。。

詳しい経緯につきましては、ブログでお話することも控えさせていただきますが、まずインサイダー取引関連で申し上げると「デジタル・フォレンジック」についてSESCはさらにパワーアップするみたいであります。(たとえばパソコンや携帯電話の会話内容の復元などが典型的なところですね。最近課徴金審判決定が出ましたが、あのような紛争事例などでも有力な証拠となりそうであります。なぜデジタル・フォレンジックが「パワーアップ」するのか、というあたりはちょっとご勘弁ください・・・ただ、過去の膨大な失敗例を糧としているところが金融庁の強みかと。。。)

そしてもうひとつが「不公正ファイナンス」の絡みで、「最近の新たな手口」であります。これを聞けただけでも今日、聴講させていただいた価値は十分ございました。これって絶対に弁護士が関与してるだろうなぁと思われるものばかりであります(笑)。ライツ・イシューが取引所規則の改正で使いやすくなると、その途端に「悪用の手口」に利用されてしまうんですね・・・・・なるほどなぁ。。。こういったお話を拝聴しますと、「こんなんやったら157条(金商法157条、いわゆるバスケット条項です)つこたらええんとちゃうの?」と思料いたしますが、あくまでも個別条項(たとえば158条)で対応される方針のようであります。(この「個別条項へのこだわり」は、たしか大森事務次長さんの「金融法務事情」の連載でも書かれていたような気がいたしますし、木下氏の2月ころの旬刊商事法務の「最近の証券取引等監視委員会の活動」に関する論文でも触れられていたように記憶しております。)

ただ弁護士が第三者委員として公正独立の立場で業務を遂行する論拠として「社長個人からではなく、会社から報酬をもらうということであれば、ステークホルダー自体の利益擁護という視点から職務を考えられないか」、「弁護士会が品質管理として弁護士の業務を監督できないか」というお考えにつきましては、会計士協会と弁護士会とではその立ち位置に大きな差があるものと認識しておりますので、まだまだ議論が必要な点ではないかなぁと(少なくとも私は)考えております。効果的な市場監視におけるリスク・アプローチとして、市場での弁護士の関わりをとらえるには、まだまだ課題が山積しているように思います。

「本日、聴講されていらっしゃる弁護士さんのなかに私どもがマークしている方がおられないことを祈りつつ・・・」(あちゃ。。。(^^; )

たいへんなご準備をいただいた2名の講師の方々、そして総務課長さま、本日はどうもありがとうございました。m(__)mおかげさまで、業務改革委員会の副委員長として、今年度最後のお仕事を無事終えることができました。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2010年3月24日 (水)

「役員報酬の個別開示」反対論の説得力

金融庁のWEBサイトで3月31日公布予定の改正開示府令が公表されております。連日報道されております上場会社役員報酬の個別開示問題ですが、従来パブリックコメントに付されておりました案と同様、有価証券報告書への各役員の報酬について個別開示が義務付けられたようであります。(ただし賞与やストック・オプション等含め総額1億円以上の報酬を受け取る役員のみに限ることができます)個別開示を支持するコメントも10件あったそうですが、報道されるのは多くの経済団体からのコメントであり、私も会員にさせていただいております日本取締役協会もWEBサイトにて反対の意見書を提出したことが発表されています。なお、パブコメの内容やこれに対する金融庁の考え方については3月31日に公表する、とのこと。(これが一番読みたかったのに・・・・残念)

役員報酬の個別開示問題につきましては、個人的にどちらかの意見に賛同するつもりはございませんが、どうも経済団体の反対説をお聞きしていて「ちょっと議論がかみ合っていないのではないか」と素朴に感じているところであり、効果的な反対論が展開できていないように思えますが、皆様はどう思われるでしょうか?

まず「役員報酬は総額が開示されており、総会で承認されているのだから、それ以上の規制は二重規制ではないか?規制する意味がわからない」との反論が展開されております。しかし総額規制はいわゆる会社法による規制であります。「お手盛り防止」のために、株主の総会承認による議決権行使にかからせるものであり、金融商品取引法による開示規制とは趣旨が異なります。金商法の場合はガバナンス改革の一環としての個別報酬開示ですから、こっちは取締役の選解任のコントロールと株式売却によるコントロールであります。会社法上では株主は直接「その報酬はダメ」と言える権利ですが、金商法は「説明」が介在することで株主の意思が決まるわけで、とくにダメと言える権利ではありません。ですから、制度趣旨が異なる以上、二重規制にはならないと思いますので、ちょっと適切な反論とはいえないようであります。

つぎに「個人情報保護の趣旨に反する」「プライバシー権の侵害である」との反論が展開されております。たしかにこれはもっともな話であります。「上場会社の役員は報酬を開示すべき社会的責任がある」との賛成論者の意見もあります。しかし法人とは別に、「個人としての社会的責任」という概念が「1億円」という明確な開示基準と融合すべき合理的な根拠がないために、あまり説得力があるようには思われません。しかし、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなど欧米の主要国ではいずれも役員報酬の個別開示が認められているなかで、なにゆえ日本だけがプライバシー権侵害という理由での開示拒否がまかり通るのか、そのあたりは反対論者の方々はどのように説明されるのでしょうか?セキュリティ問題も反対論者の根拠とされておりますが、我が国よりも高額の報酬が個別開示されている欧米諸国と比較しても、なおセキュリティが問題とされなければならないような合理的な理由は日本には存在するのでしょうか?私はこのあたりを一生懸命考えておりますが、どうもこの合理的な理由が思い浮かびません。(どなたか有力は反論をお持ちの方はどうかご教示いただきたいのですが)

「欧米は欧米、日本は日本」と割り切ってしまえばよいのではないか・・・とも思えるのでありますが、個別開示に反対される方々は、「そもそも日本は欧米と比較しても報酬は低水準である。批判されるような高額報酬をもらっているわけではない。」と主張され、都合のよいところだけは結局欧米との比較問題を有利に援用しておられるわけでして、このあたりがまた説得力を喪失させてしまっているように思われます。このあたりは要は欧米と比較しても、役員報酬はかなり低額なのだから、短期利益獲得に向けてのインセンティブは働かない、と主張されておられるのかもしれません。しかし、短期利益獲得に向けたインセンティブを日本と欧米諸国における報酬額の高低で比較することはナンセンスであり、そもそも我が国のなかでの「他人との比較」のほうがはるかに説得力があるはずであります。(同年代の年収を比べて、香港のビジネスマンとの3億円の年収の差よりも、隣の課の同期との10万円の年収の差のほうがはるかに嫉妬心が湧くように思いますが)

「日本の経営に過度の透明性は求めるな」という反論も、当っているようで実は論点がずれているように思われます。そもそも1億円以上の報酬をもらっている役員についての個別開示は、議論の端緒にすぎません。株主のなかには、多額の報酬をもらっている意味を知りたい人がたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。たとえば全役員の報酬のうち、ひとりが3分の2の報酬をもらっていることに賛成する人もいれば反対する人もいますし、短期の利益獲得を目的とする株主ならばインセンティブとして高額報酬をもらうことを推進するかもしれませんし、ストックオプション付与の条件にも賛同するかもしれません。つまり、報酬の個別開示は、各役員の活動を「ガラス張り」にするものではなく、むしろ役員の報酬のとり方が気になった株主が質問をしてその理由を聞き出すための「端緒」なのであります。そこには株主の積極的な行動がなければガラス張りにはならないのであります。(だからこそ、金融庁の幹部の方々は「株主への説明責任」なる言葉を使いたがるのではないでしょうか)つまり役員と株主との対話の距離を縮めたにすぎず、その「端緒」としてちょうどいい金額が(日本の場合には)1億円という数字にすぎないのではないか・・・と考えております。ですから、この個別開示に反論をすべきなのは、そもそもガバナンス改革の手法として、役員と株主との距離感を縮めること自体が必要なのか不要なのか、というところであり、そこに焦点を絞らないと議論がかみ合わず、結局のところ行政当局の思うつぼ・・ということになってしまっているのではないか、と思われるのでありますが、いかがなものでしょうか?「なぜ役員報酬1億円以上」で区切ったのか・・・・・、そのあたりをもう一度、昨年6月17日に公表されました金融庁スタディグループ報告書の該当箇所を読み込んで検討しなおすことが必要なのではないかな・・・・と考えている次第であります。

| | コメント (12) | トラックバック (0)

2010年3月19日 (金)

「無煙タバコ」への対応は結果無価値か?行為無価値か?

3月4日に「受動喫煙防止措置は法令遵守かCSRか?」というエントリーをアップいたしましたところ、また議論の対象になりそうなニュースが登場しております。JTが5月から、首都圏を中心に「無煙タバコ」なるスグレモノを発売されるとか。(ニュースはこちらです)喫煙者である私としましては、非常に興味をそそられる一品であり、いまから入手するのを楽しみにしておりますが、興味をそそられるのは、無煙タバコそのものだけではなさそうであります。

神奈川県受動喫煙防止条例によりますと、この無煙タバコは規制の対象外ということですので、おそらく法律(条例)上は不特定多数の人が集まる場所でも喫煙が可能ということになりそうです。ということは、神奈川県だけでなく、厚生労働省の通知による全国自治体の規制におきましても、とりあえず分煙や禁煙の地域においても、この無煙タバコはセーフ、ということになるのでしょうね。もちろん、愛煙家にとって、どれほど受け入れられるかは微妙でありますが、ともかく分煙や禁煙のマークのあるところでも、タバコを吸いたいという意識をお持ちの方にとってはありがたいタバコということになるのではないでしょうか?

ただ今朝(3月18日)の日経新聞によりますと、大手外食チェーンのS社は、「無煙タバコを店内でOKとするかは思案中。とりあえず現物を確認してから・・・」とありました。たしかに無煙タバコですから、「受動喫煙」という実害は生じないようです。現在いろいろと分煙や禁煙活動が進められている根拠が、「他人に害を与えない」という受動喫煙に関する医学的な見地からですので、その医学的な実害がないかぎりは、どこでも無煙タバコはOKではないかと思われます。ただ、それは「実害」という見地からのものであり、「他人のタバコを吸う姿を近くで見たくない」という、いわゆる「行為」からの見地ではありません。日経新聞にも記載されておりましたように、おそらくタバコを吸わない方々にとっては、(これだけ分煙や禁煙が進んでいる社会におきまして)店内のあちこちで「ぷかぷか」とタバコを吸う姿をみるだけでも不快感を抱くことは間違いないところであります。なかには、「たとえ煙を吸わなくても、吐く息にはニコチンが含まれているのだから、受動喫煙と同じではないか」とおっしゃる方も出てくるかもしれません。(現に、毎日新聞ニュースによりますと、わずかながら、吐き出すときにタバコのニオイがするそうであります)また、ひょっとしたら喫煙者も「ここはタバコを吸ってもいいんだ」と錯覚をして、「オネエサン、灰皿!」と、普通のタバコに火をつける方も出てくるかもしれません。さて、そういうことになりますと、外食産業としましては、この「タバコを吸わない人の不快感」を尊重して無煙タバコも一切禁止する、という選択肢も当然出てくるのではないでしょうか。

「実害」を重視して無煙タバコを「禁煙から除外」するのか、それとも「タバコを吸う行動」を重視して、無煙タバコも「禁煙措置に含む」とするのか、これからいろいろな場所で、この選択が迫られるものと思います。たとえば新幹線の禁煙車両ではどうなるのでしょうか?(フジサンケイ・ビジネスアイのニュースでは「新幹線や飛行機で吸える可能性のある・・・」とぼやかした表現が用いられています。)たぶん、隣に座ったオバサンとか、絶対に嫌な顔するでしょうね?(笑)小さな居酒屋さんなどでは、商売に影響することですから、除外という選択に走るものと思いますが、いわゆる上場会社たる外食産業チェーンなどは、これからどういった選択をされるのか、どちらへ集約されていくのか、そのプロセスに関心が寄せられるのではないでしょうか。(もっと思い切って、CSRの観点から「そもそも喫煙者自身の健康増進に寄与するため、そして将来の医療費削減に寄与するため、当店は無煙を含めすべて禁煙といたします」とする考え方もあるかもしれません。まぁ、あくまでも「無煙タバコ」が普及すれば・・・のお話でありまして、見向きもされなければとくに大きな問題にもなりませんが・・・)

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2010年3月17日 (水)

紛争コスト低減のための社内弁護士・社内会計士の活用

01   大阪弁護士会の業務改革委員会第3部会というところがございまして、ここは組織内弁護士の方々がたくさん所属しておられます。(組織内弁護士というのは、企業内弁護士と自治体所属弁護士を含む概念です)この部会は私が担当副委員長ということで、日頃から関西のいろいろな企業に在籍していらっしゃる弁護士の方と意見交換をさせていただいております。この組織内弁護士の方々が中心になって、企業や弁護士、会計士、そして司法修習生、ロースクール生等に「組織内弁護士とは何か」を知っていただく一環としまして、「組織内弁護士キャラバン」が大阪にて開催される運びとなりました。(日弁連主催、関経連、大阪商工会議所後援)ちなみに、元ドイツ銀行の企業内弁護士で、東京の大手法律事務所でご活躍の「とも先生」もこちらの中心メンバーでいらっしゃいます。(そういえば、今日ひさしぶりにブログを更新していらっしゃいましたね(^^; )←コメントによりますと「総合司会」をされるそうです。

基調講演はスズキとバイエル薬品の社内弁護士の方々、その後はチラシをご覧いただければおわかりのとおり、関西で活躍中の若手社内弁護士の方々によるシンポジウムという構成です。(司会はあのNHKの梅田さんですね)今年2月時点では、全国で430名あまり、大阪では26名ほどの企業内弁護士の方がいらっしゃいますが、その存在意義は、企業側にとっても、また我々弁護士や司法修習生にもよく知られていないと思います。4月26日という、GW直前の時期ではございますが、大阪弁護士会2階の大ホールで開催いたしますので、社内弁護士の採用を考えていらっしゃる企業関係者の方にはぜひ、多数ご参集いただきますよう、よろしくお願いいたします。

ここ2年ほどですが、企業内弁護士の方々と同じ部会で活動をしておりますが、私なりに企業内弁護士の有用性を申し上げるならば、「紛争コストの低減」であります。ご承知のとおり弁護士は急増しており、これまた当然のことながら、お金のある相手をターゲットにしなければ食べていけません。「過払い金返還訴訟の次は労務コンプライアンス、つまり未払い賃金請求」というのも自然な流れかと思われます。これに対抗するための弁護士費用も急増します。今後ますます「紛争コスト」が企業の管理費用として増えることは間違いないところであります。

「ということで『企業内弁護士』が必要です」・・・・・といった単純なことを申し上げるつもりはございません。法律の知識や法解釈に長けている専門家が必要、ということでしたら、なにも弁護士でなくても、司法研修所を卒業して、弁護士会に登録しない、いわゆる「法曹資格者」として採用すれば足りると思います。私が申し上げたいのは単なる「法律屋」ではない「法務プロフェッション」を採用することが「紛争コストを低減」することにつながる、ということであります。「法律屋」には二通りあると思います。ひとつは社の決定を絶対のものとして、その決定に法律的なお墨付きを考える人であり、もうひとつはいわゆる「法律オタク」と呼ばれる人たち、つまり営業や総務がちょっとムズカシイことを持ち込むと「ダメなものはダメ」とつっ返し、取り付く島もない人であります。おそらく前者では紛争コストは減りませんし、後者であればビジネスチャンスを失う結果となってしまいます。要は独立公正な立場で物事を判断しつつも、社の経営判断に最大限配慮できるようなバランス感覚をもった人こそ「法務プロフェッション」であり、そこには社内弁護士であっても高い法曹倫理と問題発見能力、問題解決能力を持った方が必要、ということであります。

ただ、残念ながら、弁護士になったからといって、すぐにそういったバランス感覚を体得できるというものではありません。おそらく社内弁護士の方であれば、法律以外のいろんな体験を社内で積んで、やっとビジネスリスクを体得できるようになるのでありましょうし、また法曹としての高度な倫理感覚は、おそらく弁護士の義務である公益活動や委員会活動によってしか養うことは無理だと思われます。ご自身で磨かねばならないのは

「ちょっと待てよ。これって・・・」

といった、「迷い」の部分だけでよいのです。この「迷い」が生じれば、あとは弁護士会の人脈や同期弁護士に相談をして、「社外の感覚」から最終的な結論を導くことで、相当のリスクを低減できます。しかし、この「迷い」が生じなければ、以前当ブログでご紹介した企業内弁護士の方のように、残念な事件に巻き込まれ、行政処分の対象になってしまう・・・という事態に陥ってしまいます。また、企業側の勝ち負けに関わらず、労働審判や訴訟を通じて、「そもそも訴訟を提起されるリスク自体をどう減らすか」という点では、おそらく社内事情に精通した社内弁護士だけがノウハウを持ち得るはずであり、どんなに有能な顧問弁護士でも太刀打ちできない世界があると思われます。

最近、公認会計士試験の改正議論が盛り上がっており、企業内会計士を増やすインセンティブなども検討されておりますが、ここでも「会計屋」ではなく「会計プロフェッション」が増えるからこそ意味があると思います。「会計がわかる人」ではなく、「会計監査人と同じ認識をもった人」がいるからこそ、社内に会計専門家が存在する強みがあるものと思います。(この人が作成してるんだから、粉飾はないよね・・・という感覚を会計監査人が持つことは、リスク・アプローチの面からみて、ずいぶんとコストの面でも違うのではないでしょうか?)

先の第3部会には、大幸薬品の社内弁護士の方も出席されております。彼が委員会にやってくると、本当に正露丸のニオイがします。(誇張ではなく、本当の話です。○○先生、ゴメン、ブログネタにして・・・m(__)m)おそらく彼は、弁護士といえども、デスクワークはそこそこに、工場のすみずみまで歩きまわっていろんなことに従事しているものと思います。守秘義務に反しない範囲で、疑問に思ったことは、我々一般の弁護士や、他の社内弁護士に相談を持ちかけます。おそらくこうやって、「一流の法務プロフェッションとしての社内弁護士」へ成長していかれるのでしょうね。

上記キャラバンの詳細、お申し込みはこちらの日弁連HPより、よろしくお願いいたします。

| | コメント (6) | トラックバック (0)

2010年3月15日 (月)

東証・大証「独立役員」制度に挑戦する上場企業の対応

(3月15日午前;追記あり)

このところ、監査役の方々や、取締役の方そして証券市場に近い弁護士の方など、けっこう多くの方より情報をいただいているのが「うちの会社の独立役員の選任は取引所の独立役員制度の趣旨に反しているように思えるのだが、本当に大丈夫か?」といったお話であります。私自身も、先日独立役員に選任されましたので、この問題にはたいへん関心を持っております。どうも著名な法律実務家の方が「証券取引所のルールを厳格に考える必要はないし、自社の判断で株主と利益相反にはないことを説明できればOK」とおっしゃっておられるようですので、大手の上場会社でも、メインバンク(当該会社の主要取引先)から来られている社外取締役の方を独立役員として届け出る(事前相談のうえ)ことを決めておられるところもあるようです。選任状況の届出をしないことについては(来年からですが)上場契約違約金など、実効性を確保する制度が施行されることになりますが、この制度の実効性担保は、結局のところ「独立役員」の開示(説明責任の履行)によって、株主(選任の議決権行使)や、投資家からのガバナンスに関する判断に依拠するところであります。したがいまして、外観的な独立性の高い役員が社内で選任されることを期待している取引所の立場とは裏腹に、株主や投資家から了解を得られれば、外観的な独立性には若干問題があっても、上場会社の経営陣と一般株主との間に利益相反状況が生じうる局面でも自信を持って公正独立の立場で行動できる、というにふさわしい方に、「独立役員」として就任していただく、という上場会社の対応も出てくるわけであります。

開示実務として、今後どのように定着していくのかは私にもわかりませんが、「独立役員」に選任された方々が、今後企業の重要な局面における「身の処し方」によって、独立役員であるがゆえに生じるリスクの有無については、こういったブログなどを通じて検討しておくことも有益かもしれません。わかりやすいのは、「投資家や株主からみて、選解任のコントロールや株式売却などの開示制度に伴うガバナンス」による実効性担保の問題と、独立役員であるがゆえに、その法的責任が発生する事後規制による実効性担保の問題に分けて検討するべきではないかと思います。たしかに後者につきましては、取引所の説明によりますと、たとえ独立役員に就任したとしても、基本的には社外取締役や社外監査役と、その法的な地位や責任の範囲に変わるところはなく、その職務内容や権限、選任方法、任期等については、会社法の範囲で上場会社の任意で定めることができる、とされております。このように説明しなければ、誰も独立役員なんかに就任する人がいなくなりますので(笑)、基本的には取引所(たとえば東証)の説明のとおりだと思います。しかし取引所ルールが説明できるのは、あくまでも会社法上での一般的な職責に関わるところであり、独立役員たる地位が任務懈怠の問題とどのように関係するのかは、最終的には裁判所が決定することであって、具体的な事情をみないと何とも言えないところがあるのではないでしょうか。たとえば、同じ社外監査役といっても、弁護士や会計士の社外監査役だけが任務懈怠を問われることは十分ありうる話ですし、(一般的な注意義務は同じでも、ある局面においてだけは高度な注意義務が課される、ということ)、有名な大和銀行株主代表訴訟では、ニューヨークに往査に出かけた社外監査役だけが(会計監査人の監査の相当性を確認できる立場にあったとして)任務懈怠に問われております。したがいまして、ある局面、たとえば高度に経営陣と一般株主との利益が相反するような場面において、独立役員であるがゆえに、他の社外役員とは異なる行為規範が求められたり、異なる注意義務が認定されることは考えられるのではないでしょうか。

また、前者の「株主や投資家から独立役員の行動がどう評価されるのか」という問題を検討することも重要かと思われます。たとえば、このたび、富士通社の前社長さんが辞任を撤回した、ということが報道されましたが、辞任に関する交渉は、取締役会ではなく、直前の密室での交渉だったと言われております。この交渉には、いまでも実権を有しておられる会長さんと、別にもうひとり社外取締役の方も同伴されておられた、とのことであります。そこでのお話が「不適切な企業と前社長との関係」だったようですので、取締役会では堂々と審議できなかったこともやむをえないところかもしれません。しかし、たとえば同伴されていた方が、もし「独立役員」たる立場であれば、密室で実質的な審議を行うことの当否はどうだったのでしょうか。(ここでは裁判所による事後規制は問題としませんので、あくまでも株主や投資家の立場からみて、適切な行動だったのか、ということであります)取締役会で重大な事項を審議しなかったことの評価と、情報開示として、「病気療養」としてそれ以上のことを示さなかったことについての評価をどう考えるべきなのでしょうか。「独立役員」としての心構えを持った方がとった行動として、それがふさわしいものなのかどうか。これはいろいろなご意見があっていいと思うのでありますが、少なくとも株主や投資家の方々が、開示情報を通じてその当否を自由に判断できる程度の問題の整理は必要であります。今後、独立役員制度の見直しが行われ、さらに詳細な行動に関するガイドラインが示されることも予定されているようでありますが、その行動が株主や投資家にとってどのように評価されるべきなのか、そのモノサシの当て方にも慣れていかなければならないように思います。

(3月15日午前;追記)本件「独立役員」に関する届出制度は、日本の取引所すべてにおいて重要な課題となっているだけに、「東証ルール」というのはいかがなものか・・・というメールを頂戴いたしました。たしかに、最近のルール改訂は、東証だけでなく大証はじめ、すべての国内市場に上場している会社にも重要な問題であり、誤解を招くおそれがありました。(失礼いたしました)御詫びとともに、関係の記述を訂正いたしました。

また、さっそく本エントリーにつきましてはJFKさんより参考意見をいただいております。そちらもご参考ください。

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2010年3月12日 (金)

名門企業から続々と訂正内部統制報告書が提出されています。

昨年12月21日のエントリーで、「内部統制は有効である」としていた企業が、不適切な会計処理の発覚(その後過年度決算訂正)を機に「内部統制は有効とは言えない」と訂正する、いわゆる実質的な訂正内部統制報告書の提出企業が現れたことを記載いたしました。

その時点では2社でしたが、今年に入って2社増え、さらに本日(3月12日付け)近鉄社とJVC・ケンウッドHD社が「内部統制は有効とはいえない」とする訂正内部統制報告書を提出されております。(ちなみに、実質的な訂正内部統制報告書を提出されたのは、イデア・インターナショナル社、イエローハット社、モジュレ社、東理HD社、そしてご紹介した2社の合計6社)

近鉄さんは、第三者委員会報告書が目を見張るほどのものでありますが、訂正内部統制報告書は割とあっさりとしているようであります。ただ整備面よりも運用面を問題とされているところは、2年目以降の内部統制評価に向けての各社の課題を物語っているように思われます。

内部統制報告書を含め、これまでの報告書のなかで最も(私的に)理想に近いのが、今回ケンウッドHD社より提出された訂正内部統制報告書ですね。自社における内部統制システム向上に向けた取組みが、不祥事発見の原因になっていること(いわゆる自浄能力があること)を明確にしつつも、今後の課題として親会社・子会社に分けてグループとしての管理体制をわかりやすく説明している点など、取組の真剣さが伝わってきて、とても参考になるのではないでしょうか。(また、後でゆっくり読んでみたいと思います。執務中なので、このへんで。)

| | コメント (2) | トラックバック (0)

日航の上場問題と「空飛ぶ簿外債務」-その2

ちょうど2カ月前に「日航の上場問題と『空飛ぶ簿外債務』その1」におきまして、なぜこの方に光があたらないのだろうか?(もっと話題になってもいいのではないか?)と書きましたが、やっと話題の中心に上られたようであります。(民主党がJAL問題で勉強会、過去の粉飾決算の疑いなど検証」ロイター記事より)民主党の第1回目の勉強会で細野祐二氏が講師に招かれ、旧経営陣および監査法人が刑事責任を追及される可能性がある、とのお話をされたそうであります。すでに4年も前から細野氏が警鐘を鳴らしておられたところだと思いますが、細野氏の「法廷会計学VS粉飾決算」を読みますと、会計について素人である私でも「何が問題なのか」よく理解できるところでありました。細野氏の財務分析の思考でたいへん勉強になりますのは、「Aという数字、だからBが推認される」という単純なものではなく、「Aという数字、だから本来ならばCにならないとおかしい。でも、実際にはBという数字に変わっている。なぜ?推認されるのは・・・」という時間軸も含めた推論の進め方であります。やっぱり「後だしジャンケン」ではなく、現在進行形で「おかしい」と言い続けておられた方のご意見というのは、研究に値するものではないかと思います。まだムズカシイ立場にいらっしゃいますが、どうか頑張っていただきたいです。

そしてもうひとつ、上記エントリーで予想しておりましたのが「OB従業員の方々の乱」でありますが、サンケイビズのニュースによりますと、3月2日JALに弁護士、会計士5名によるコンプライアンス委員会が設置され、期間限定ではありますが、元従業員や取引先からの内部通報を受け付ける窓口を設置するそうであります。(サンケイビジネスアイはこちら)年金減額という「大騒動」がありましたので、私の予想では、もうすでにいろいろと(皆様、墓場まで持っていこうと決めておられた)過去の不祥事につきまして、持っていくだけの義理を果たす必要もなくなったことから、たぶん出てきているのではないかと勝手に推測しております。(これって人間の自然な感情だと思います)

ただ、私の外部窓口の経験からしますと、(わずか1カ月余り、といった)期間限定窓口というのは失敗するケースが多いです。重要な内部告発や内部通報ほど、一回の通報で不祥事の全体が把握できる可能性が低いからであります。今回のJALの連絡窓口は、あくまでも情報をそのまま吸収するだけのものかもしれませんが、通常は内部通報の情報を、社内調査のために整理する必要があります。この整理がメールや電話ですぐにできるかというと、まったく困難でありまして、何度も聞きとりをして、やっと受理できる情報になる・・・というのが正直なところです。(なかには通報制度の濫用という場合もありますので、かなり慎重な聞き取りが必要です)したがって受付期限を設けてしまいますと、その期間内に事実を整理することができず、そのままアウト・・・ということも考えられます。とくにこういった窓口への通報は匿名のものが多いので、匿名性を保証しながら、となりますとそのあたりはかなり厳しいのではないかと。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年3月10日 (水)

スティール・パートナーズの委任状勧誘ブログ

月曜、火曜と日本監査役協会にて講演をさせていただきました。先週分を合わせて合計3回、東京での講演でしたが、延べ2200名以上の監査役の方(全国の支部の分も合わせますと3600名ほど)にお越しいただき、本当にありがとうございました。アンケート結果をすこしばかり事務局の方からお聞きしましたが、海外子会社に対する調査権の問題など、若干違和感があった、とご指摘を受けたところもございましたが、概ね好意的に受け止めていただけたようで安心いたしました。とりあえず、全国を回る合計7回の講演をなんとか無事終了し、少しホッとしております。辛口のご意見でも結構ですので、またコメントやメールでお寄せいただきますと幸いです。

ところで、スティール・パートナーズ・ジャパンとサッポロHD社の間で、新聞報道のとおり委任状勧誘競争が開始されたようでありますが、磯崎さんも数日前にご紹介されていたように、私のところにも、スティール社の広報担当の方よりメールが届きまして、早速スティール社の株主向けブログ(WEBサイト?)を閲覧してみました。私はサッポロHDの株主でもありませんし、どちらかを応援する資格もございませんが、「議決権行使のしくみ」ということを広く広報されておられるので、これはなかなか一般の株主にも参考になるなぁと思いました。監査役解任議案が上程される臨時株主総会を前に、対象とされる監査役さんが自身の思いをWEB上で綴る・・・ということが先日ございましたし、私自身は監査役の対外的意見表明もありかも・・・と考える立場の人間ですので、こういった形で少数株主が意見表明することも、(委任状勧誘規則に反しないかぎり-株主側なので、あまり想定されることもないとは思いますが)スティールさん以外でも検討されていいのではないか、と考える次第であります。(またサッポロHD社としては、こういったWEB上の株主意見について、適時開示のなかで反論をされるのでしょうか?)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年3月 8日 (月)

富士通の情報開示はどこまでFujitsu(不実)なのか?(その1)

週末の企業事件として、富士通社の前社長さんが社長辞任の取消を富士通側に求めたことが連日報じられております。「8人抜きの社長就任」(山本氏)で株価が市場平均よりも4ポイント強も上回り、社長交代が「好感度アップ」だった富士通社にとりましては、まさに「寝耳に水」の出来事が起こったのではないかと。

富士通社は、昨年9月25日付適時開示情報の「代表者異動の理由」について、(東証からの問い合わせに対して)異動理由の記載を訂正すると同時に、このたびのことで前社長さんとの信頼関係が失われたとして、その相談役たる地位をも解任したことを、週末に併せてリリースしております。はっきりとは記載されておりませんが「前社長が、不適切な企業と関係していた」ということですから、いわゆる反社会的勢力との関連性が問題とされているそうであります。(ちなみに、同じ適時開示でも法定開示たる臨時報告書では異動理由の記載は不要ですから、今回は証券取引所ルール上の適時開示との関係での不実記載の有無が今後問題になってくるのでしょうね)

反社会的勢力排除と上場会社の関係といえば、ご承知のとおりスルガコーポレーションの弁護士法違反事件がありました。最近でも2009年10月30日には東証一部の鶴見製作所さんが「不適切な取引に関する結果報告について」において、反社会的勢力と思われる企業との取引をなんとか解消するまでのご苦労を詳細に開示し、また同年11月27日には、東証マザーズのアドバックスさんがある特定の取締役が反社会的勢力に関与している疑いがあったため、弁護士4名によるコンプライアンス委員会を構成して、「コンプライアンス委員会による調査結果のお知らせ」をリリースしておりました。(調査結果は、関係は認められない・・・というものでありました。ただ、この報告書につきましては、いろいろと賛否の議論があったようですが・・・)いずれにしても、反社会的勢力との関係は上場会社にとって命取りになるような事件ですから、その関係が発覚した以上は必死になって、その解消もしくは無関係であることを説明しなければなりません。

本件の富士通社の件につきましては、いまのところダイヤモンドオンラインの特集記事が最も詳細に報じているようであります。ただ新聞記事や、経済雑誌の記事を読んでも論点が非常に多岐にわたるため、なかなかブログでは扱いにくい話題であります。ところで新聞や会社側リリース等を読んでも、ちょっとよくわからない点がいくつかございます。とりあえず、今日は前社長さんが内容証明で富士通側に送付した、とされる内容証明による辞任取消通知に関する疑問であります。

1役員らが迫った辞任とは「代表者」の辞任?「取締役」の辞任?

富士通社側が3月6日(土曜)にリリースした「一部報道について」では、代表取締役の「解職」とか「選定」という言葉が用いられておりますし、文章の後半部分では「代表取締役社長という立場の者の対応」について問題とされておりますので、富士通側の役員(取締役や監査役)の方々は、前社長さんに対して「取締役として残ってもらっていいので、代表者たる地位だけは退いてくれ。そうすれば解職しない。」と要求されたものと思われます。(解任するとしても、役員会では取締役たる地位までは解任できませんので、あくまでも代表取締役たる地位を解任することになるのでしょうね)にもかかわらず、EDNETの臨時報告書をみるかぎり、前社長さんは、取締役たる地位も辞任されております。なぜ、前社長さんはとりあえず代表権は返上して、取締役たる地位に留まらなかったのでしょうか?それとも会社側は「取締役たる地位まで辞任せよ」と迫ったのでしょうか?もし、富士通側の役員の方々が「取締役たる地位も辞任しなさい」と要求したのであれば、3月6日のリリース内容は実態と食い違っているのではないでしょうか?かりに富士通社側が「代表者としては、不適切企業との関係維持はまずいけれども、取締役としてならOK」と考えておられたのであれば、その理由はなぜなのか?という疑問も湧いてきます。

2「辞任」の取消ってできるの?

今回、前社長さんは、「辞任取消通知」を会社側に発したそうであります。ダイヤモンドオンラインの記事では、ある法律家の方が前社長さんの主張する内容が事実であるとすれば、富士通側は前社長さんに対して虚偽の害悪告知を行ったことになるため、詐欺または強迫による意思表示であり、これは取消しうるもの、と回答されております。おそらく前社長さん側の代理人弁護士の方のご意見も同様かと思われます。つまり、辞任の意思表示にも民法上の瑕疵ある意思表示に関する規定が適用される、とのことであります。でも、これって本当にそうなんでしょうか?

取締役はいつでも辞任はできますし、(会社に表示意思が到達すれば)一方的な意思表示で取締役たる地位から解放される、という法律効果を伴うもので、いわゆる「単独行為」であります。この単独行為にも、普通は契約関係で適用されるところの、錯誤や詐欺、強迫といった「後で取消うる意思表示の瑕疵」に関する規定が適用される、とするのが一般的な見解であります。

ただ、取締役の辞任というのは会社関係者にとって多大な影響を与えるものであり、民法上の契約関係から離脱するのとは状況がずいぶんと違います。もちろん、取締役の辞任は登記事項でもあります。また、取締役の選任・解任は株主総会における最も重要な専権事項でありますが、辞任が自由に認められるのはその責務の重大性からであります。ただ、辞任が自由に認められるといっても、辞任の撤回や辞任の取消まで広く認められるとなりますと、株主による経営へのコントロールが及ばなくなるおそれが生じて(会社にとって都合の悪いときに辞任をして、また善管注意義務違反を問われるおそれがなくなれば辞任を撤回するなど)、弊害が生じる可能性が高くなるのではないでしょうか。

ということで、そもそも取締役の辞任については、錯誤や詐欺、強迫による意思表示に関する民法上の規定は適用されないのではないか、もし一部の役員からの強迫があったとされるのであれば、それは辞任の撤回(取消)ではなく、その役員らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することで対処すべきではないのか、と思うのでありますが、このあたり、いかがなものでしょうか。(また、かりに辞任の取消が認められるとしても、「会社による強迫」なのか「第三者による強迫」なのか、そのあたりも検討される問題ではないかと思います)

反社会的勢力との関係について、富士通社が代表者異動時において適時開示していない点について、いろいろと「虚偽記載ではないか」との議論がありますが、この点についてはまた別の機会にエントリーで自説を述べてみたいと思っております。

| | コメント (6) | トラックバック (1)

2010年3月 6日 (土)

早いものでブログ開設5周年・・・皆様に感謝m(__)m

ドリコムブログ時代とココログ時代を合わせまして、本日ブログ開設からちょうど5周年を迎えました。ここまで続けてこれましたのも、ひとえに当ブログをごひいきにしていただいている皆様方のおかげであります。本当にどうもありがとうございます。

また、この記念すべき日に、

なんと昨日のエントリーが「BLOGOS」で初めて「読まれているブログ」の第一位に輝きました!!(3月6日午前1時現在:アクセスランキング1位)\(-o-)/!

なんか「ご褒美」をもらったような気分です。150名の著名人の方々のブログのなかで、たとえ一瞬でもランキング1位になれましたこと、素直にうれしいです。また6年目に突入しますが、これからも「法務系ブログ」として、週2日程度は更新していきますので、今後ともよろしくお願いいたします。m(__)mちなみに、いまのところ「つぶやく」ほうは考えておりません(笑)

ということで、本日は某会社の会計帳簿・計算書類等閲覧謄写(謄本交付)請求の仮処分事件で忙しかったので、もう寝ます。。。(-_-)zzz

| | コメント (5) | トラックバック (0)

2010年3月 5日 (金)

日本IBM社の繁栄とニイウスコー社の経済的役割について

2007年2月末、大阪のアイ・エックス・アイ社(大証ヘラ)の架空循環取引に絡み、日本IBM社は強制捜査を受けましたので、ちょうど3年ぶりの強制捜査、ということであります。今回は、ニイウスコー社の架空取引に絡むものだそうで、取引におけるIBM社の役割みたいなものが、前回よりも明確になるのかもしれません。

つい先日、日本IBMの営業マンご出身の方と食事を共にする機会がございました。日本IBMの営業マンというのは、たいへん優秀な方が多く、転職後も大きな企業の経営者として活躍される方もいらっしゃるようです。なぜ優秀かといいますと、日本IBMの営業方針というのは、米国親会社の方針により、値段交渉はしない、納期は明確にしない、ということが基本だそうであります。(今はどうかわかりませんが、1990年代のお話です)IT業界で値引きしない、納期を示さない、という営業だと、それこそ自社商品の良さを徹底的に知りぬいていないといけませんし、またクライアント企業を熟知したうえで、システム導入を提言できないと他社に負けてしまうわけであります。そんな状況で会社やクライアント社長に叩かれて、それでもしぶとくIBMの営業部隊として残る人達は、どこへ行っても通用するような目利きになるそうで、転職後はそれまでの知識と経験を生かして、様々な業界で活躍される方が多いとか。ただ、その優秀さゆえに、良い方向へ走っていって成功される方もいらっしゃれば、そうでない方向でお金儲けに走って成功される(?)方もいらっしゃるそうであります。

ただ、いつまでも好景気が続くわけでもなく、たとえ日本IBM社が高品質な製品を販売していたとしても、値引きしない、納期を示さない、といういわば「大名商売」のような商法にもひずみが生じてきます。在庫は滞留することになるわけですが、それでも親会社の意向に反するような値引き商売はできない。そこで、IBM商法のバッファ(緩衝装置)として、滞留した在庫商品を引き取りながら、クライアントの希望には価格の面でも納期の面でもできるだけ応えられるような役割の会社が必要になってきたようであります。そこで日本IBMが中心となり、野村総研さんと共同出資のもと設立されたのがニイウスコー(当時のニイウス社)だった、ということではないかと。(かなり大雑把な推論でして、関係者の方々からお叱りを受けるかもしれませんが、まぁ本質はこんなところではないでしょうか・・・)

こういった経済的な要因から設立されたニイウスコー社は、ニーズがあるところで営業していたわけですから、当初は大もうけをしていたものと推測いたします。しかし次第に世の中の流れと、その経済的な役割とが合わなくなり、そのあたりから粉飾に走っていったのではないかと思われます。なんせ、架空循環取引は「循環取引御殿が建つ」と言われるほど、旨みのある取引。しかも取引参加者の誰かが破たんしない限りはグルグル回っているだけで発覚することはない、というものであります。しかし30社も絡むような循環取引は、どこかが信用を供与しなければできないわけでして、そのあたりの循環取引における機能とIBM社の関与がはたして結びつくものなのかどうか、ニイウスコー社の粉飾決算事件において注目される一つの論点ではないでしょうか。コンプライアンス問題ではいつも思うところでありますが、不正を実行する者にとっての「不正を実行しなければならなくなった要因・背景」をきちんとチェックしておかなければ、本当のリスク管理はできないものと考えております。(文中の推論に至る部分は、すべて管理人自身の独断に基づくところであります。)

| | コメント (5) | トラックバック (0)

2010年3月 4日 (木)

受動喫煙防止措置は法令遵守かCSRか?

先日の温泉偽装事件につきましては、いろいろとコメントをいただきましてありがとうございました。私の予想どおり、あれから大阪府の立ち入り調査があったそうですが、いままで出ていなかった問題が調査で判明したようで、産経新聞ニュースで報じているようであります。○○菌が混入していたのに報告していなかった・・・というのは、いくら南大阪地域の方々が太っ腹といっても、ちょっと気持ち悪いかも・・・です(^^;。

ところでグローバルダイニング社(東証二部)が本日(3月3日)、事業の中核であるレストラン店舗のすべてについて3月1日より禁煙とした旨リリースされております。健康増進法に基づいて、厚労省が各自治体に「不特定多数の人が利用する場所では原則全面禁煙」とする通知を出したことに対応するものだそうであります。(ちなみにグローバル社が「今後も推進していく」と宣言しておられる健康増進法25条というのは、いわゆる受動喫煙防止をうたった規定です。)神奈川県条例を機に県内全店を全面禁煙としたロイヤルホストさん(ロイヤルHD株式会社)もそうですが、外食産業にとっては、これからきわめて厳しい選択を迫られることになりそうです。

※ 日本がたばこ規制枠組み条約を批准していることで、2007年の約束を履行する期限が迫っていることも、こういった厚労省の通知に影響しているようであります。

上場会社の監査役さん方は、今回の受動喫煙防止についてはどのように考えておられるのでしょうか?健康増進法上の禁煙措置については「努力義務」と言われておりますが、いくら罰則がないからといって、受動喫煙防止措置を何もとらない、というのはやはり法令違反に該当しますよね。かといって、(ネット上で閲覧できますが)テリー伊藤さんとの対談で、ワタミのCEOの方がおっしゃっておられるように、実際に「居酒屋のフロアすべて禁煙」としたところ、宴会予約が全く入らず大赤字になったので、すぐに喫煙OKに戻した・・・という話をお聞きしますと、「やっぱり死活問題かも」と思われます。当分の間、ペナルティがないことに甘えるべきか・・・いや、本当にむずかしい。いずれにしましても、監査役さんとしましては、会社の対応次第では「現在の状況は違法である」と指摘しなければならないのか、それとも企業の社会的責任として経営判断にゆだねるべきなのか、思い悩むところであります。

今回は外食産業や官公庁の方々が頭を悩ますところでありますが、次に控えている労働安全衛生法の改正については、「努力義務」などとは言っておられない状況になります。これは職場を原則禁煙とするもので、罰則がありますので、すべての会社にとって、従業員の職務の適正を確保するための体制の整備に該当するわけで、まさに内部統制システムの構築に関する問題であります。とりわけ私が監査役をしている外食産業の場合、従業員の受動喫煙が問題とされているのですから、緩和措置のある店舗(床面積100平米未満) が予想される店舗以外はすべて禁煙とする必要がありますね。いや、緩和措置があっても、従業員による受動喫煙の被害をなくすために全店禁煙とすべきでしょう。喫煙されたい方は、各店舗の外に喫煙所を設けて対応するしか方法がないと思いますが、いかがでしょう。

※ 100平米未満の床面積の店舗に緩和措置がとられているのは神奈川県条例でした。失礼いたしました。訂正いたします。

たしかに、さきほどのワタミさんの例でもありますように、宴会幹事の方からすれば、現実問題として全面禁煙の居酒屋をチョイスするのはちょっと気が引けますね。(なんて気の利かないやつなんだ、お前は?)と言われそうな気もします。8人くらいのグループでしたら、やっぱり2人くらいは喫煙者が混じっていると思いますし。おそらく禁煙を推進する飲食店は売上が落ちることは間違いないと思われます。ただ、お客様や従業員の健康被害を防止することは、もはや避けられない社会の流れですし、改正労働安全衛生法が施行されて「法令遵守」などと後ろ向きなことを言わないうちに、ここはCSRの一環として全面禁煙に転換していくべきではないでしょうか。全面禁煙のお店なら、きっとお酒も食事もおいしいですよ。どうしてもタバコが吸いたくなったら、とりあえず店舗の外で一服するとか。そのほうが監査役さんもいろいろと悩む必要もなくなりますし。

日本は成人男性の36%程度が喫煙者らしいですが、実は私も未だそっちのほうに入っている者ですから、余計にこの話題についてはナーバスになっております。喫煙されない方々にとっては、あまり関心がない話題なのでしょうかね?(笑)そういえば昔は普通に電車の中でタバコを吸っていましたが(考えられないですよね)、そのうち「昔は普通に電車の中で携帯の電源入れて画面見ていた時代があったよな」なんて時代が来るのかもしれませんね。

| | コメント (12) | トラックバック (0)

2010年3月 1日 (月)

所詮コンプライアンスとはこんなもの?(温泉偽装事件)

トヨタ社のリコール問題やプリンスホテル社の消費期限切れケーキ販売など、コンプライアンスを考える材料には事欠かない今日この頃であります。「消費者を裏切る対応ではないか?」とマスコミが大きく採り上げ、経営トップが謝罪する様子がテレビで毎日のように流されています。コンプライアンスとは「法令遵守」だけでなく、社会からどのように信用ある企業として受け止められるのか、これを日々考えることこそ重要である、と言われております。

そのようなことを真剣に考えていた週末、私の家から車で30分ほどの「いよやかの郷」という温泉施設の不祥事が産経、朝日で報じられました。とくに27日土曜日の産経新聞社会面では大きく「温泉偽装事件」として採り上げられておりました。(ちなみに朝日ニュースはこちら)岸和田市の指定管理者である施設運営会社は、この温泉に近くの「川の水」を混ぜて使用していたとのこと。その川の水は、普段温泉施設のトイレ用に使用していた、とのことであります。また一時は成分調整のために塩を混ぜていたこともあるといったことも報道されておりました。私もお気に入りの温泉レジャー施設(宿泊も可)でありまして、毎年1回は必ず家族で利用しておりますが、何時行ってもたいへん人気の施設であります。3月1日より大阪府の立ち入り調査が入る、とのことですので、私の経験からすれば、この立ち入り調査で新たな不祥事が発見された場合には大きな事件に発展することになりますし、温泉法違反事実以外になにも出てこなければ、ほとんど人々からは忘れ去られる不祥事、ということで大きな問題には発展しないものと推測いたします。なぜかよくわからないのですが、行政調査の内容はマスコミに筒抜けになるので、ここでまた別の不祥事が発見されるリスクが生じるわけであります。(いわゆる「やぶへびコンプライアンス」)

それはさておき、実はこの「いよやかの郷」の不祥事、テレビニュースでも報じられておりましたが、これが実に興味深いニュースであります。わずか1分ほどのニュースでありますが、朝日放送の女性キャスターが、この「いよやかの郷」の不祥事を、きわめて重大な事件のように紹介します。

「たいへんです!岸和田市の温泉施設が、温泉に『川の水』を混入していました!井戸水のポンプが故障した期間、近所の川の水を引いて温泉に混入させていたそうです!」

(ここで、現場の利用客のインタビューとなる。さぞや利用客が怒り心頭でインタビューに答えるかと思いきや・・・)

(夫婦で来られた方のご主人曰く)「え~!?ホンマですか?そんなん聞いたら、わて、ガックリ!笑(最後のフレーズは吉本新喜劇のギャグ風に・・・)」

(また別の夫婦の奥様曰く)「そんなん、あんまり気にならへん!笑

(ご主人曰く)「そやそや、たいしたことあらへん。そんなん、どこでもやっとるで

うーーん、すごい!さすがわが町、南大阪の利用客の皆様は太っ腹であります。この朝日放送のキャスターやレポーターの方々が、「とんでもないことが起こった!」と盛り上げていらっしゃるのに、ステークホルダーである地元利用客のこのリアクション。おまけに温泉に入っている利用客はクルーに手を上げて温泉の気持ちよさをアピールする始末(^^;すごいギャップであります。朝日放送のクルーの方々も、「これはひどい!即刻営業停止だ!」とか「我々利用客を裏切る行為だ。許せない!」といった利用客の声をひろえるかと思って期待したにもかかわらず、放映されるのがこのような発言なので、おそらく他も推して知るべし・・・でありまして、放送局の方々も落胆しながら帰路についていたことが推察されます。

ちなみにこのニュースはこちらの動画でご覧になれます。(ご休憩時間にでもどうぞ)

よくクライシス・マネジメントのコンサルタントの方々が、「マスコミに謝罪するときは、その後ろに1000万人の生活者がいることを忘れてはいけない」とおっしゃられます。しかし、その中には、わが町南大阪の人々も含まれているのでしょうか??いや~、コンプライアンスって奥が深いですね(^^;;

| | コメント (10) | トラックバック (0)

« 2010年2月 | トップページ | 2010年4月 »