日本IBM社の繁栄とニイウスコー社の経済的役割について
2007年2月末、大阪のアイ・エックス・アイ社(大証ヘラ)の架空循環取引に絡み、日本IBM社は強制捜査を受けましたので、ちょうど3年ぶりの強制捜査、ということであります。今回は、ニイウスコー社の架空取引に絡むものだそうで、取引におけるIBM社の役割みたいなものが、前回よりも明確になるのかもしれません。
つい先日、日本IBMの営業マンご出身の方と食事を共にする機会がございました。日本IBMの営業マンというのは、たいへん優秀な方が多く、転職後も大きな企業の経営者として活躍される方もいらっしゃるようです。なぜ優秀かといいますと、日本IBMの営業方針というのは、米国親会社の方針により、値段交渉はしない、納期は明確にしない、ということが基本だそうであります。(今はどうかわかりませんが、1990年代のお話です)IT業界で値引きしない、納期を示さない、という営業だと、それこそ自社商品の良さを徹底的に知りぬいていないといけませんし、またクライアント企業を熟知したうえで、システム導入を提言できないと他社に負けてしまうわけであります。そんな状況で会社やクライアント社長に叩かれて、それでもしぶとくIBMの営業部隊として残る人達は、どこへ行っても通用するような目利きになるそうで、転職後はそれまでの知識と経験を生かして、様々な業界で活躍される方が多いとか。ただ、その優秀さゆえに、良い方向へ走っていって成功される方もいらっしゃれば、そうでない方向でお金儲けに走って成功される(?)方もいらっしゃるそうであります。
ただ、いつまでも好景気が続くわけでもなく、たとえ日本IBM社が高品質な製品を販売していたとしても、値引きしない、納期を示さない、といういわば「大名商売」のような商法にもひずみが生じてきます。在庫は滞留することになるわけですが、それでも親会社の意向に反するような値引き商売はできない。そこで、IBM商法のバッファ(緩衝装置)として、滞留した在庫商品を引き取りながら、クライアントの希望には価格の面でも納期の面でもできるだけ応えられるような役割の会社が必要になってきたようであります。そこで日本IBMが中心となり、野村総研さんと共同出資のもと設立されたのがニイウスコー(当時のニイウス社)だった、ということではないかと。(かなり大雑把な推論でして、関係者の方々からお叱りを受けるかもしれませんが、まぁ本質はこんなところではないでしょうか・・・)
こういった経済的な要因から設立されたニイウスコー社は、ニーズがあるところで営業していたわけですから、当初は大もうけをしていたものと推測いたします。しかし次第に世の中の流れと、その経済的な役割とが合わなくなり、そのあたりから粉飾に走っていったのではないかと思われます。なんせ、架空循環取引は「循環取引御殿が建つ」と言われるほど、旨みのある取引。しかも取引参加者の誰かが破たんしない限りはグルグル回っているだけで発覚することはない、というものであります。しかし30社も絡むような循環取引は、どこかが信用を供与しなければできないわけでして、そのあたりの循環取引における機能とIBM社の関与がはたして結びつくものなのかどうか、ニイウスコー社の粉飾決算事件において注目される一つの論点ではないでしょうか。コンプライアンス問題ではいつも思うところでありますが、不正を実行する者にとっての「不正を実行しなければならなくなった要因・背景」をきちんとチェックしておかなければ、本当のリスク管理はできないものと考えております。(文中の推論に至る部分は、すべて管理人自身の独断に基づくところであります。)
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コメント
この頃は、談合紛いの取引きが多いように思います。競争相手と共同で提案するようなことが多くなりました。競争相手と共同なので価格が充分に下がらないことになり、価格競争になっていません。
投稿: MT | 2010年3月 6日 (土) 17時17分
> IBM商法のバッファ(緩衝装置)として
大変本質的なご指摘で、目から鱗でした。
投稿: 通りすがり | 2010年3月 7日 (日) 18時15分
ずいぶんとひどい偏見かと思います。1980年代、90年代に日本IBMでSEやっていましたが、値引き交渉はしないのではなく、他のお客と不公平になるから価格は一定だったのです。今でも多くの外資系はそうです。そもそもお客別に営業の勢いだけで値引きするっていうほうが、おかしくないですか?値引きされなかったお客が後から聞いたらどう思うでしょうか?弁護士ともあろう人がそんなこともわからないのでしょうか。
納期ははっきりしないじゃなく、人気機種はできなかったのです。当時のコンピュータは、ほとんど手作りに近い形でした。今のようにラインで流れ作業で作れるもんじゃなかったんです。
それを「大名商法」というのなら、弁護士のように依頼人のいうとおりに法律を扱う仕事は「良心をおきざりにした商売」といってもいいのでしょうか?違うでしょう。日本IBMはどうせ反論しないから、と著しく公平性を欠く表現はいかがなものでしょうか?
循環取引はいまでこそ、悪いようにいわれていますが、外資系の決算が12月。一般企業が3月というルールを悪用した取引は、ほんの数年前まで誰だってやっていました。それも悪いとも思っていなかったのが普通の現場感覚です。
大手企業でまったくそんなものはない、という企業はおそらく嘘つきです。
また、旧ニイウスが野村との合弁で作られたのは、UNIXサーバー、AIXの技術者の供給が追いつかないためでした。発足当時は間違いなく、技術的にもリーディングカンパニーでした。だんだんUNIXが当たり前になり、Linuxなどの出現でサンマイクロやIBMのUNIXサーバーが売れなくなってきてからが問題になったのです。
どんな企業も弁護士先生とは違い、右肩上がりの成長を要求されます。経営者は結果しか評価されません。
それゆえ、ニイウスコーの最後の経営者たちのようなデタラメが行われたに過ぎません。それと日本IBMやニイウスの設立理由は関係ないです。
残念ながら、あなたの伝聞は著しく公平性を欠くし、推論も弁護士が書いたことを疑いたくなるほど、非論理的です。
三文週刊誌にも劣る内容は変更したほうが、知っている人にバカにされずにすみますよ。
投稿: とおりすがり2 | 2010年4月23日 (金) 23時20分
DMORIです。
1) 顧客に応じた値引きをすると、他のお客と不公平になるから、個別の値引きは一切やらない・・・これは一面正しい考え方のように思われます。IBMも昔はそうでした。それが大名商売と言われた理由のひとつです。
しかしコンピューターメーカーからサービス事業の会社になって、IBMも考え方を変えてきています。3年ほど前の幹部研修では、福岡から発展したある美容院チェーンのサービスを題材に取り入れました。その美容院では、いかにお客様の個別のニーズに応えて感動してもらうか、という点をスタッフみんなで徹底的にミーティングして、工夫していくのです。
たとえばあるお客様が、髪のセットのあと結婚式場へ行かなければならないが、時間がぎりぎりだ。そんなお客には、スタッフが大通りまでタクシーをつかまえに行って、店の前でスタンバイさせ、ちょうどセットの終わったお客をタクシーに乗せて、みんなで見送る。こんなサービスを受けた客は感激して、他のお客へ推奨してくれるのです。
他のお客に不公平になるから、一切値引きをしない、といった硬直的な対応でなく、「IBMの提案が気に入ったから、なんとかこれを上申したいが、どうしても今回は予算がこれだけ足りない。なんとかやってもらえないか」、と誠意をもって頼むお客様に対して、いや不公平になるからと1円の値引きもしない営業のやり方は、正しくありません。
よっしゃ、御社のご予算に合せて、やらせていただきましょう。コンピューターの世界であっても、こうした人の気持ちと通じ合った値引きのできるのが、よい会社です。
2) 循環取引や押込み販売の手口は、この業界ではIBMに限らず、大なり小なりやっていたのでしょう。しかし弊社もIBMと取引がありますが、IBMも変わってきたと感じたのは10年ほど前のことです。
年度末が近くなって、IBMから弊社のような取引先各社へ依頼文がきました。「とりあえず製品を納入して、あとで引き取りますといった押込みや不公正な取引を、もし弊社の営業社員がお願いするようなことがありましたら、ご一報ください」といった内容でした。
知らない人が見れば、「なんだIBMの営業は、こんな手口を使っているのか」などと恥をさらすことになりかねません。それでもコンプライアンスを優先して、そうした文書を顧客へ堂々と送るという姿勢は、なかなかできないことです。
時代とともに、よい方向へ変化していくことは、大切なことと思います。
投稿: DMORI | 2010年4月26日 (月) 21時07分
久しぶりに来た、元SEです。とおりすがり2さんの意見は理解します。
が、間違っています。ビジネスの現場で「今度買ってくれる”かも”知れないから、今回は値引きする」という営業がいたら、バカにされて終わりです。
美容院の例は会社全体としてやっているから辻褄があうのです。個別の裁量をどこまで認めるかはコントロールされるべきです。
IBMの幹部研修でやったから正しいなんてことはありません。聞いている連中は現役です。「あー、そうね、そうね、オーナーの一存で決められる中小商店はそうかもね」で終わったことでしょう。
コンプライアンスは大事です。値引きだって海外の上司から問われているのが現実です。机上の空論と現場は違います。
投稿: とおりすがり | 2011年10月12日 (水) 14時29分