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2010年3月 8日 (月)

富士通の情報開示はどこまでFujitsu(不実)なのか?(その1)

週末の企業事件として、富士通社の前社長さんが社長辞任の取消を富士通側に求めたことが連日報じられております。「8人抜きの社長就任」(山本氏)で株価が市場平均よりも4ポイント強も上回り、社長交代が「好感度アップ」だった富士通社にとりましては、まさに「寝耳に水」の出来事が起こったのではないかと。

富士通社は、昨年9月25日付適時開示情報の「代表者異動の理由」について、(東証からの問い合わせに対して)異動理由の記載を訂正すると同時に、このたびのことで前社長さんとの信頼関係が失われたとして、その相談役たる地位をも解任したことを、週末に併せてリリースしております。はっきりとは記載されておりませんが「前社長が、不適切な企業と関係していた」ということですから、いわゆる反社会的勢力との関連性が問題とされているそうであります。(ちなみに、同じ適時開示でも法定開示たる臨時報告書では異動理由の記載は不要ですから、今回は証券取引所ルール上の適時開示との関係での不実記載の有無が今後問題になってくるのでしょうね)

反社会的勢力排除と上場会社の関係といえば、ご承知のとおりスルガコーポレーションの弁護士法違反事件がありました。最近でも2009年10月30日には東証一部の鶴見製作所さんが「不適切な取引に関する結果報告について」において、反社会的勢力と思われる企業との取引をなんとか解消するまでのご苦労を詳細に開示し、また同年11月27日には、東証マザーズのアドバックスさんがある特定の取締役が反社会的勢力に関与している疑いがあったため、弁護士4名によるコンプライアンス委員会を構成して、「コンプライアンス委員会による調査結果のお知らせ」をリリースしておりました。(調査結果は、関係は認められない・・・というものでありました。ただ、この報告書につきましては、いろいろと賛否の議論があったようですが・・・)いずれにしても、反社会的勢力との関係は上場会社にとって命取りになるような事件ですから、その関係が発覚した以上は必死になって、その解消もしくは無関係であることを説明しなければなりません。

本件の富士通社の件につきましては、いまのところダイヤモンドオンラインの特集記事が最も詳細に報じているようであります。ただ新聞記事や、経済雑誌の記事を読んでも論点が非常に多岐にわたるため、なかなかブログでは扱いにくい話題であります。ところで新聞や会社側リリース等を読んでも、ちょっとよくわからない点がいくつかございます。とりあえず、今日は前社長さんが内容証明で富士通側に送付した、とされる内容証明による辞任取消通知に関する疑問であります。

1役員らが迫った辞任とは「代表者」の辞任?「取締役」の辞任?

富士通社側が3月6日(土曜)にリリースした「一部報道について」では、代表取締役の「解職」とか「選定」という言葉が用いられておりますし、文章の後半部分では「代表取締役社長という立場の者の対応」について問題とされておりますので、富士通側の役員(取締役や監査役)の方々は、前社長さんに対して「取締役として残ってもらっていいので、代表者たる地位だけは退いてくれ。そうすれば解職しない。」と要求されたものと思われます。(解任するとしても、役員会では取締役たる地位までは解任できませんので、あくまでも代表取締役たる地位を解任することになるのでしょうね)にもかかわらず、EDNETの臨時報告書をみるかぎり、前社長さんは、取締役たる地位も辞任されております。なぜ、前社長さんはとりあえず代表権は返上して、取締役たる地位に留まらなかったのでしょうか?それとも会社側は「取締役たる地位まで辞任せよ」と迫ったのでしょうか?もし、富士通側の役員の方々が「取締役たる地位も辞任しなさい」と要求したのであれば、3月6日のリリース内容は実態と食い違っているのではないでしょうか?かりに富士通社側が「代表者としては、不適切企業との関係維持はまずいけれども、取締役としてならOK」と考えておられたのであれば、その理由はなぜなのか?という疑問も湧いてきます。

2「辞任」の取消ってできるの?

今回、前社長さんは、「辞任取消通知」を会社側に発したそうであります。ダイヤモンドオンラインの記事では、ある法律家の方が前社長さんの主張する内容が事実であるとすれば、富士通側は前社長さんに対して虚偽の害悪告知を行ったことになるため、詐欺または強迫による意思表示であり、これは取消しうるもの、と回答されております。おそらく前社長さん側の代理人弁護士の方のご意見も同様かと思われます。つまり、辞任の意思表示にも民法上の瑕疵ある意思表示に関する規定が適用される、とのことであります。でも、これって本当にそうなんでしょうか?

取締役はいつでも辞任はできますし、(会社に表示意思が到達すれば)一方的な意思表示で取締役たる地位から解放される、という法律効果を伴うもので、いわゆる「単独行為」であります。この単独行為にも、普通は契約関係で適用されるところの、錯誤や詐欺、強迫といった「後で取消うる意思表示の瑕疵」に関する規定が適用される、とするのが一般的な見解であります。

ただ、取締役の辞任というのは会社関係者にとって多大な影響を与えるものであり、民法上の契約関係から離脱するのとは状況がずいぶんと違います。もちろん、取締役の辞任は登記事項でもあります。また、取締役の選任・解任は株主総会における最も重要な専権事項でありますが、辞任が自由に認められるのはその責務の重大性からであります。ただ、辞任が自由に認められるといっても、辞任の撤回や辞任の取消まで広く認められるとなりますと、株主による経営へのコントロールが及ばなくなるおそれが生じて(会社にとって都合の悪いときに辞任をして、また善管注意義務違反を問われるおそれがなくなれば辞任を撤回するなど)、弊害が生じる可能性が高くなるのではないでしょうか。

ということで、そもそも取締役の辞任については、錯誤や詐欺、強迫による意思表示に関する民法上の規定は適用されないのではないか、もし一部の役員からの強迫があったとされるのであれば、それは辞任の撤回(取消)ではなく、その役員らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することで対処すべきではないのか、と思うのでありますが、このあたり、いかがなものでしょうか。(また、かりに辞任の取消が認められるとしても、「会社による強迫」なのか「第三者による強迫」なのか、そのあたりも検討される問題ではないかと思います)

反社会的勢力との関係について、富士通社が代表者異動時において適時開示していない点について、いろいろと「虚偽記載ではないか」との議論がありますが、この点についてはまた別の機会にエントリーで自説を述べてみたいと思っております。

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コメント

ダイヤモンドオンラインやYahooの株式掲示板などの書き込みを
見ますと、前社長の性急な改革に歯止めをかけたい勢力が無理やり辞めさせたというのがストーリーとして見えてきますね。(事実はわかりませんが)
もし前社長が反社会的勢力となんらかの関係があり、それが辞めさせる事実であるならば、取締役会で証拠を提示して辞任を要求するというのが
筋のように思えますね。
会議室に呼んで退任を迫るというやり方は、よくあるリストラの手口と
非常に似ているような気がします。

投稿: 元システム監査人 | 2010年3月 8日 (月) 10時27分

取締役が恣意的に辞任・辞任取消権を行使できるのであれば弊害もあるでしょうけれども、詐欺・強迫の要件を満たさなければ取消は認められませんから、会社にとって都合の悪いときに辞任をして、また善管注意義務違反を問われるおそれがなくなれば辞任を撤回するなどという事態は想定しにくいのではないでしょうか。

また、辞任取消が認められたとしても、その者を株主総会で解任できなくなることはないので、株主による経営へのコントロールが及ばなくなるおそれというのも杞憂ではないかと思います。

そもそも取締役に自由な辞任権を与えているので、株主によるコントロールははなから完璧なものではありません。取締役の員数の下限を定めて対処すればよいことかと思います。


投稿: Josei | 2010年3月 9日 (火) 11時23分

joseiさんと同意見です。
会社と取締役との関係が委任の規定に従うとされ、一方的辞任が認められ、それが意思表示である以上、詐欺・強迫等の意思表示に関する規定は当然に適用があるはずです。
このことと、撤回が自由にできるかという問題は別ですから、濫用的な辞任撤回などという事態は考えにくいと思います。
つまり、辞任届の提出等により辞任の効力発生してしまえば、撤回はできませんので、意思表示の瑕疵がない限り、辞任の効力を覆すことはできないと思われます。
株主とて、取締役と会社との間の委任契約をコントロールする権限まで有するわけではないと考えます。たしかに、役員関係は登記事項です。しかし、この種の登記は地位を創設するようなものではなく実体を反映させるだけのものです。だとすれば、辞任の意思表示に瑕疵があり辞任が取り消されれば、抹消登記請求の対象となるにすぎないのであって、登記事項であることと取消の可否とはあまり関係が無いように思います。
個人的には、意思表示の原則を修正するほどの不都合は見当たりません。

投稿: JFK | 2010年3月 9日 (火) 21時34分

委任契約の本旨(民法651条1項、2項)からすると、会社と取締役との関係においては、取締役は辞任にあたって、会社に不利益が発生すればその損害賠償を負担しなければならないはずです。でも、自由に辞任ができる、と会社法上規定されているのは、そもそも委任契約の本旨からは外れているわけです。つまり、政策的な意味(取締役や監査役は善管注意義務という重大な責務を負担しているので、そこから自由に解放されるべきである、という政策的な理由)から辞任は自由にできる、とされているのであって、委任契約の本旨から当然に辞任に意思表示に関する民法上の原則が適用されるわけではないと思います。
また、会社と取締役との関係における委任契約は、有償性が原則であって、無償契約が原則の民法上の委任契約とは別途検討する合理的な理由もありそうですね。ですから、集団的な組織法的発想を必要とする会社法上の「辞任」という単独行為については、民法上の意思表示原則は適用されない、と考えるのもあながち間違いではないと思いますし、結論的にも妥当かなぁと思います。

投稿: gabacho | 2010年3月 9日 (火) 22時53分

もとより「委任の本旨」から演繹したつもりはございませんが、委任の本旨はそもそもアプリオリに存在するものではないので、自由に辞任ができることが委任の本旨から外れるとおっしゃる趣旨はわかりかねます。

辞任が単独行為である点に異論がないならば、その法律行為はどのように行うのでしょうか?「意思表示」にほかならないと思います。
結局、会社法は取締役と会社の関係を委任契約関係として、法律関係を民法にゆだねているのですから、意思表示の原則が妥当するというところからスタートするのが大前提で、これを曲げるに足りる組織法的発想があるのかどうか、その具体的中身がまさに問題なのではないでしょうか。

投稿: JFK | 2010年3月 9日 (火) 23時29分

皆様、ご意見ありがとうございます。とくに辞任の意思表示に関するご異論については、理屈の面でも、また政策的な面でも説得的なものであり、再度検討してみたいと思います。ただ、意思表示の原則が妥当するとしても、エントリーにも少し書きましたが、これって第三者による詐欺、強迫と捉えるのでしょうか?それとも辞任の意思を伝えた相手方による詐欺もしくは強迫と捉えるのでしょうか?(「名誉の回復」が本旨だとすれば、あまり真剣に考える実益もないのかもしれませんが・・)

反社会的勢力と開示のあり方の関連について、自説を書こうと思いましたが、ずいぶんと早く東証の処分内容が出てしまいましたね。。。

投稿: toshi | 2010年3月10日 (水) 02時18分

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